こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

111話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 強襲②
一方、週末を控えた夕方。
首都の修道院。
ノアは、先週クラリスがどんな気持ちで『訪問マナー』の本をあんなに一生懸命読んでいたのか、やっと理解できた。
実は先週は「クラリスがマナーを守れなかったとしても、公爵夫人はきっと責めたりしないはずなのに、どうしてあんなに不安そうなんだろう?」と思っていたのが本音だった。
でも今は、その気持ちが分かる。
クラリスは評価や結果とは関係なく、公爵夫人に良い印象を持ってもらいたかっただけなのだ。
ノアも、同じような気持ちを抱き始めていた。
彼もクラリスに良く思われたかったのだ。
たとえその気持ちが……クラリスの友情であったとしても。
裏切りとも言える片思いから始まり、その後この想いは必然的に彼を死へと追いやることになるだろう。
――だけど、どうすればよく見えるだろう?
彼は鏡を見ながら、スルッと仮面を目の下まで下ろしてみた。
「ダメだな。」
彼は自分に言い聞かせるように、そして戒めるように顔をしかめながら再び仮面を被り直した。
『バレンタインだったらこんな心配はしなかっただろうに……』
華やかな金髪の王子は、誰もが惚れるような堂々とした外見をしていた。
やや粗野な性格ではあったが、それでもクラリスの前では随分と大人しくなる方だった。
たぶん……
彼にとってもクラリスはとても特別な存在だったのだろう。
『少女にとっても悪い選択ではないだろう。』
いや、むしろ――最高の選択かもしれない?
彼女がいずれ王宮の職員になれば、「罪人」という立場から抜け出せるかもしれない。
『……その前に罪人が王宮に入れるものなのか?』
ノアは、あとで時間があればサフォーク王宮の規定を一度調べてみようと考えた。
そうしなければクラリスを守れない……。
「……あ。」
その考えをやめ、彼は少し身を縮めて座り込んだ。
彼が思い切ってこんなことを考えたところで、意味があるのかは分からないが。
『……やっぱりこれは嫌だな。』
翌日。
ノアは約束より少し早めにクラリスの部屋を訪ねた。
ノックして少し待つと、すぐ目の前で髪を乱したクラリスがぱっと扉を開けてくれた。
「こんにちは、ノア!」
「……」
その後ろではモチが丸い櫛を両手で持っているのが見え、二人でどうにかこの事態を解決しようと努力していたようだった。
ノアはクスクスと笑いながら部屋に入り、モチの手に持たれた丸い櫛を一時的に受け取った。
その後は手慣れた様子でクラリスの前髪に櫛を当て、魔法で少しだけ熱を加えた。
「まるでロザリーみたいだね。」
「熱に反応する髪質の特性を利用しているだけです。」
彼は息を吹きかけて髪に残った熱を冷ました後、慎重に櫛を抜き取った。
櫛目を整えて仕上げた櫛で最後の仕上げをすると、ばらけていた髪がきちんと整えられた。
「よし、できた。もうバッチリ見せて!」
クラリスは鏡を持ち上げて満足そうに眺めた。
「ノアは手先が器用だね。」
「これくらい誰でもできますよ。」
「ううん、それは違うよ。私ももう髪を結ぶのはだいぶ上手になったけど、こんな風に細かい髪を整えるのは全然できないわ。それより持っていく荷物は全部用意した?」
「部屋の前に一度置いてきました。お嬢様は?」
「私は……まあ。」
クラリスは分厚いノートを一冊手に持っていた。
ぱっと見は化学の式をきれいに整理したもののようだ。
「今週末はこれさえ全部覚えれば完璧ね。」
「建築物も必要ですね、うん。」
ノアはクラリスに腕を差し出していいかどうか少し迷った。
昨日調べた本には、「誠実な紳士であれば、自分の腕を敬意をもって差し出し、女性がそれをしっかり持つべき」と書かれていた。
でもいざ腕を出そうとすると、少し恥ずかしかった。
もし振られでもした日には、恥ずかしくてどこかに隠れてしまいたくなるだろうに。
『そ、それでも……。』
ノアは両目をぎゅっと閉じて勇気を出した。
「もう行こうか?」
しかしクラリスは、ノアのその言葉より先にすでに数歩前に進んでいた。
「……」
ノアは顔を真っ赤にしながら、凍った腕を背後でぎゅっと抱えた。
「……コホッ。」
クラリスの肩に隠れていたモチが彼をじっと見つめていた。
どこか残念そうな声であることから、ノアが何をしようとしたのか全部お見通しだったに違いない。
ノアはクラリスが見ていない間に、モチに向かって両手をそっと合わせた。
「どうか、この秘密を守ってね」と。
「はい。」
幸いお願いを聞き入れてくれたようだった。
「ふぅ。」
出発前から少し疲れを感じていた。
ハイデンに到着した彼らは、ブリエルと会う約束をしていた二番目の城壁入口で馬車を停めたまま、彼女を待っていた。
「私たち、ちょっと早く着きすぎたんじゃない?」
窓の外をぼんやり見つめながら、クラリスがぽつりと言った。
ノアはその横で懐中時計を確認した。
「余裕を持って到着できたのはいいことですし、奥様もすぐにいらっしゃると思いますよ。」
「うん、早く会えたらいいのに。」
再び黙り込んで窓の外を見ていると――
「コオ?!(チッ?!)」
モチが突然ブローチの宝石のような声を上げた。
それも普段よりずっと大きな声で。
びっくりしたノアとクラリスが持ちを見ると、ある馬車が彼らのそばを高速で通り過ぎていった。
「コオ!(あれ、あの円形壇のやつだよ!)」
モチが隠れていた馬車は、そのまま城門を通り過ぎ、第一の城門に向かってまっすぐ走っていた。
そして。
空から不穏な音がしたかと思うと、すぐに氷雨が激しく降り始めた。
鋭い刃先のような黒いものが、ロザリーの鼻先に触れそうなほど近づいた。
馬車が少しでも揺れれば、間違いなく大怪我をするところだった。
助けることができる状況なのに、彼女は微動だにせず、御者席の隣にいる男たちを見守るだけだった。
「おばさんは何も持ってないのか?とにかくじっとしてな。そうすればもう1時間は生き延びられるかもしれない。」
「とにかくこの速度を落とせ!この体当たり船みたいな馬車め!」
「……えっ?」
はっきりした口調で返したその言葉に、男は少し戸惑ったようだった。
「速度を落とせって言ってんだ!まさか剣を持ってるのにその使い方も知らない田舎者どもじゃないだろうな?」
「はあ、呆れるな。おばさん、何か護身用の武器くらい持ってきてんだろ?え?」
彼は脅すように剣先をぐるぐると動かしたが、ロザリーは彼を見据えたまま視線を逸らさなかった。
「君たち若い者はよく考えた方がいい。ここにいる方に少しでも危害を加えたら――お前たちはまだ生きているつもりか?」
「おやおや、ご老人、ありがたいお言葉です。」
男は剣を下ろしてしばらくクスクスと笑った。
「だが、どこのイカれた奴が、許可もなく公爵夫人を拉致するんだ?」
「誰だ?どこのとんでもない奴が、うちの奥様をからかってるって言うのか!」
「まったくだ。」
男はしばらく考えるふりをすると、腕を伸ばしてロザリーの肩を強く押しやった。
ドン!という音とともに、彼女の体は馬車の床に倒れ込んだ。
ブリエルは凍りついたようにその場から立ち上がり、彼女をかばうようにして慎重に視線を上げた。
男はにっこりと笑った。
「奥様が静かにしてくださるのは幸いですね。俺たちも下請けで働く哀れな労働者ですから、少し寛大に見逃して、静かに行かせてください。」
そして彼は「パタン」と音を立てるほど強く、馬車の窓を閉めた。
ブリエルは窓を振り返った。
しっかり閉じられたカーテンを開け、もしかしてと思って扉を押してみた。
しかし中から鍵がかかっていたのか、扉は少しも揺れ動かず、決して開くことはなかった。
いつの間にか馬車は人々が住む地域を過ぎ、最初の城壁の外へ出ていた。
事前にどんな約束があったのかはわからないが、王室騎士団の検問も避けて、馬車はさらに速度を上げ、広い草原の上をためらいなく走り続けた。
馬車が止まった場所は、一見しても人影のない森道だった。
御者席にいた男たちがすぐに馬車の扉を開けた。
馬車の天井を容赦なく叩いていた雨粒が風に乗って馬車の中まで吹き込んできた。
男の腕がブリエルに向かって伸びてきた。
しかし、それよりも早くロザリーが小さな体で主人の前に立ちはだかった。
「この野郎ども、奥様には手を出すな!」
「ロザリー……!」
ブリエルが心配して彼女を止めようとしたが、両腕をしっかりと広げた老女はびくともしなかった。
「このクソババアが!」
男がロザリーの首を掴もうとしたところ、ブリエルは凍りついた彼女の腰を抱えて後ろに引き下がらせた。
「ロザリー!」
「やかましい!くそっ、こんな雨の中まで来て殺されるところだったな。」
びしょ濡れの男は馬車の中に腕を伸ばし、ロザリーの白い髪を掴んでぐいと引っ張った。
「だめ、お願い……!」
一瞬ロザリーを手放してしまったブリエルはひどく悔やんだが、男はその残酷な手を止めなかった。







