公爵邸の囚われ王女様【６７話】ネタバレ

クラリスはこの驚くべき現象に対して、ノアの真意を探ろうと考えた。

（実は、ノアも王子様と友達になりたいから、こうしているんじゃないの？）

理由は分からないが、仮面の下に見えるノアの目が少し動揺したように見えた。

心を読まれた驚きなのか、それとも恥ずかしさなのか。

「もちろん、王子様はノアとも素晴らしい友達になってくれるわよ。」

「・・・必要ありません。」

（みんなで友達になれたらいいのに。楽しいに違いないわ。）

そう考えながら、クラリスは肉を黙々と切って食べた。

対照的に、ノアは何も言わなかった。

そして、次の日の夜明け。

朝早く起きたクラリスは、顔を洗うこともなく、服を適当に羽織り、コートを着たまま両手をぱっと挙げる。

するとすぐに、ベンス卿が彼女の前に現れた。

「遅れるぞ。早く行け。」

ベンス卿はクラリスがどこへ向かっているのか尋ねもしなかった。

今日はノアが早朝に出発するということを知っていたからだ。

普段、ノアはこの邸宅で数日間滞在していくことが多いが、今回は研究が忙しく、たった一日で急いで戻ることになった。

それにも関わらず、クラリスが体調を崩したという話を聞きつけ、わざわざ時間を割いて訪れていたのだ。

「ありがとうございます、卿。」

クラリスは礼儀正しくお辞儀をすると、急いで階段を駆け下りていく。

もちろん中央階段のことだ。

幸いなことに、ノアはまだ出発しておらず、客間にいた。

彼らが荷物を馬車に積む様子を直接見守っていた。

「そのカバンは馬車の中に入れてください。万が一中身が壊れたら困りますから。」

「ノア！」

クラリスは両腕を広げ、彼をぎゅっと抱きしめる。

「あなたが起き上がれないんじゃないかと思っていました。大丈夫ですか？」

「他の日より元気が余っているよ。」

クラリスはノアの助言に従い、邸宅に供給する魔力の量を急激に減らすことにした。

そのおかげで、彼女は普段よりもずっと元気が出たようだ。

「それに、何よりも今日は・・・今日はどうしてもノアに会いたかったんだ。」

「今日、珍しくここに赤い点がついている。」

彼がその部分を指摘すると、クラリスは一瞬驚いた表情を見せながらも、抱きしめた腕をそっと解いた。

「違うの、だから・・・私のせいでここまで来させてしまったのかしら？それなら感謝しないとね！」

「少女は嘘をついている。」

ノアはクラリスが話をそらしていることに気づき、すぐに悟った。

「そ、それは嘘じゃない！」

しかし、クラリスは自分の事情を絶対に明かしてはいけないと思い、固く口を閉ざした。

「まだ少し疑わしいけど、こうして持ってきてくれてありがとう。私も君が素直に受け取ってくれるほうがうれしいよ。」

「でしょ。」

クラリスは満足げに微笑みながら両手を後ろに組んだ。

「ノアにお願いがあるんだけど。」

「言ってください。そろそろ出発しないといけないので、簡単なことであれば。」

「簡単だよ。ただ私を『クラリス』って名前で呼んで、ぎゅっと抱きしめてくれるだけでいいの。」

「・・・どうして、そんなことを。」

「ただ。」

クラリスは特に意味もなさそうに肩を軽くすくめた。

「ノアがそうしてくれたら嬉しいと思っただけ。昨日も言ったけど、私たちは一生の友達じゃない？」

「その抱擁を今日必ずしなければならない理由でもあるの？」

ノアは再び「今日」という言葉について尋ね、クラリスは無意識にそわそわし始めた。

「そ、それは違うの！」

「今日は一体何の日だと思ってるの？」

「な、何の日でも・・・！」

クラリスは硬直した表情で口をつぐんだ。

「何の日でもないよ。絶対に。」

「何か特別な日だと確信している。」

「違うって！いいよもう、ノアが抱きしめなくても。」

「大丈夫だよ。」

近づいてきたノアがクラリスをぎゅっと抱きしめた。

「・・・しなくてもいいのに。」

クラリスは、なんとなく照れながらもノアのローブの襟元をしっかりと握りしめる。

やがてノアは背中を優しく叩き、なぜか安心感を与えるような手つきが心地よかったので、クラリスはふわふわとしたローブの上にそっと顔を預けた。

「今日を楽しく過ごせたならいいけど、クラリス。」

「・・・特に何の日でもないんだけどね。」

彼女は小さくつぶやいた。

「ありがとう、本当に・・・嬉しい。ああ、本当に何の日でもないけどね。」

「うん。」

しばらく考え込んだ後、ノアはクラリスの両肩を軽く押し戻し、再び質問を投げかけた。

「やっぱり、何か特別な日なんだろう？」

「違うから！」

クラリスは大声で叫びながら、冷えたノアを馬車に押し込んだ。

「何の日だっていうんですか？あぁ・・・人を無理やり押し込まないでください！痛い！ええっと、待って！友達には優しくしなさい！それで、今日は一体何の日なの？」

「だから違うってば。さようなら、気を付けて！ドアは閉めておくね！ほら、早く行って！さようなら！来月会おうね！」

クラリスはノアを無理やり馬車に押し込んだ後、直接ドアを閉める親切さを発揮する。

馬車が出発すると、ノアはなんとも言えない疑わしげな視線を投げかけているのを感じた。

しかし、クラリスは微笑んで片手を軽く振るだけだった。