こんにちは、ちゃむです。
「家族ごっこはもうやめます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

188話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- あの時、私たちが家族だったら②
ナビアは床に倒れていた体を起こし、額をぎゅっと押さえた。
まるで酒を一気に飲んだあとみたいに、頭がズキズキと響いた。
「ううっ、頭が……」
ナビアはこっそりと歩きながらも周囲を見渡した。
『ここはお父さんの寝室?』
確信はなかった。
なぜなら、ここは以前見た場所とはまったく違う姿だったからだ。
部屋は豪華な家具も、自分の写真もなくて殺風景だった。
窓をすべて覆ったカーテンの一部がめくれて風に揺れていた。
ナビアは戸惑ったが、そっと冷静に体を起こした。
『あれ?なんだか視界が低い。』
ナビアは目をぱちぱちと開き、思わず自分の体を見下ろした。
「……なにこれ?また子どもになってる!」
しかも八歳の時の背丈でもなかった。
『これってもうほとんど5歳児じゃない!?一体何なのよ、これ!』
ナビアはまず手首から確認した。
数字でも若草模様でもない印が、手首にしっかりと刻まれていた。
『じゃあ転生ではないってことね。』
「カオス様!」
もしかして、と思ってカオスを呼んでみたが、返事はなかった。
ナビアは困惑した表情で、自分の体と周囲を不安げに見回した。
「お父さん!」
明らかにソファで眠っていたはずの父の姿も見当たらない。
一体何が起きたのか、見当もつかなかった。
『とりあえず出てみようか?』
もしかしたらマーガレットとシュレマンがいれば、ここがどこなのか、どういう状況なのか把握できるだろう。
ナビアは1階へ降りて行った。
「家、なんでこんなに豪華なの?」
『自分が初めてエセルレッド公爵邸に入ったときもこれほど場違いな感じはしなかったと思うんだけど。』
理由はわからないが、緊張感が次第に高まった。
そして家を出たとき。
「これ、どういうこと……?」
世界が崩れていた。
すべてがゆがんだ空には、真昼のまぶしい日差しと闇が同時に存在していた。
隙間から漏れ出したかのように黒く不気味な夜が明けてきた。
豚舎もまた様子がおかしかった。
木々は水分をすっかり奪われたようにしおれ、不吉な生臭さを放っていた。
大地も干からび、草一本見つけることすらできなかった。
ああ、この状況を「崩壊している」と表現するのが最も正確だ。
世界が崩壊している。
あるいはもう崩壊してしまったと言うべきかもしれない。
ナビアは混乱を抑えられなかった。
ついさっきまでぼんやりと静かだった世界が、いきなりこの有様に?
これが現実の終わりだというの?
これまで幾度の転生を経験してきても、世界がここまで壊れたことはなかった。
こんなことが起こり得るなんて、これまで思いもしなかった。
ここは、自分が生きていたあの世界ではない。
そうであってほしかった。
そのとき――
ドクン!
全身がビリビリと痺れるほどの激しい苦痛が走った。
その痺れに乗って、強烈な気運が血流を駆け巡った。
抑えられない力だった。
両目をぎゅっと閉じて本能に従った。
小さな手のひらをぱっと広げ、枯れた木に触れた。
クアアアアアアッ!
銀色の髪が宙に舞った。
薄い寝間着も同じように揺れた。
目の前に驚くべき光景が広がった。
木が曲がった幹を持ち上げた。
再び上へ向かって伸びた枝に新しい葉を巻きつけた。
葉が茂った。
手のひらほどの小さな芽は瞬く間に何倍も大きくなり、完全な新緑を生い茂らせた。
ナビアと木を中心に、銀色の渦が円を描きながら領域を広げていった。
ひび割れた土地が割れて養分を吸い上げ、黒くなっていた土は肥沃な土に変わり草が生えた。
死んでいたものが吐き出していた不気味な臭いも消えていった。
世界が蘇りつつあった。
ナビアは目を閉じたまま、心を落ち着けようとした。
『よかった。』
ここは大切な人たちが住む場所。
もしかしたらこの世界が私の居場所なのかもしれない。
そんなふうに安心した表情を浮かべた、その時。
――グワァアアアッ!
突然、凄まじい轟音が鳴り響いた。
背後を見ていなくても、その危機感に全身が緊張した。
木に手を添えて振り返ると、真新しい制服の裾が視界を覆った。
「おかしいな。」
どこか覚えのある冬の香り。
「初めて見る顔だな。」
私を見下ろすその目は、殺意に満ちた真っ赤な瞳。
「妙な力を使っているな。まさか神が遣わした者か?」
「う……」
記憶よりも幼く、鋭さがにじむ顔。
「そうだとしてもこれは人間だ。」
ラルクだった。
間違いなく、この人はラルクだった。
けれども……。
「だから何だ?」
彼の手は粘り気のある黒い気配に包まれていた。
まるで悪魔の手のようだった。
その手がまっすぐこちらに伸びてきた。
「死ねば終わりだ。」
殺意があまりに自然で、感情も感じられない無機質な声に、思わず口がカタカタ震えた。
「おっ、お父さん……」
ピタリ。
たった一歩ぶんの距離を置いて、ラルクの動きが止まった。
その目尻がしばらくの間、ぴくりと震えた。
「まさか……今の、俺に向かって言ったのか?」
こくこくっ。
ナビアは怯えるあまり、膝が崩れそうなほど大きくうなずいた。
驚きすぎてガタガタ震えるその目はウサギのようにうるうるしていて、動きもぎこちなくて、まるで生まれたての子鹿のようだった。
頬はふっくらしていて、ほんのりとした桃のようなピンク色を帯び、ぎゅっと合わせた両手は秋の葉っぱのように小さく、その姿からは今にもミルクの香りがしそうな可愛らしさがあった。
ラルクは、これまでどんな転生を経ても、こんなにも小さくてかよわい子どもを生んだ記憶など一度もなかった。
『化神である私が子どもを産んだところで、すぐに死んでしまうだろう。』
特にこんなに弱ってしまった子どもなら、なおさらすぐ死んでしまうだろう。
特殊な力を使っているようだが、やはり相手を間違えた。
この世界で自分に対抗できる存在などいなかったのだから。
「下手な細工だな。」
あの「お父さん」とは。
不意打ちをしてもどこにも隙がなく、一瞬ひるんだものの、驚きも一瞬だった。
「お父さん、ちょっと待って!」
ナビアは短い腕をぱっと上げて彼を制止した。
「私の話をちょっと聞いてください。これはカオス――」
「なんだ、今のは……!」
「カオス?やはり土着神の使徒か?」
「それは違う……!」
「俺は人間界を皆殺しにしようなんて、夢にも思わなかった。食いつぶすことしか考えてない連中め。」
ラルクは冷笑を浮かべながら手を振り払った。
「お前さえ死ねば、神だって黙ってはいないはずだ。」
土着神であれ、外来の神であれ、この世界をまるで自分の庭のように歩き回れるほど傲慢にしてきたからには、きっとここに現れるはずだ。
人間界を滅ぼして、散々手こずらせてきたのだから。
『なら、いっそ俺を殺してくれないか?』
神の手によって死ねば、完全に消滅できるかもしれない――
確信はなかった。
しかし可能性だけでも、それをする価値は十分あった。
死にたい。
いつかそれ以外に望むものはなかった。
この子さえ死ねば可能かもしれなかった。
だから。
「殺せ。」
ナビアは両目をぎゅっと閉じて叫んだ。
「それなら憎みますからね!」
これがこの状況に合う言葉か自分でも疑問に思ったが、これ以上の言葉は浮かばなかった。
実際、ラルクが向けてくる冷たくて鋭い殺気は身の毛がよだつほど怖かった。
胸がひりひりしてつらかった。
だけど、それ以上に悲しかった。
お父さんが自分を殺そうとするほどに辛そうに見えた。
だからこそ、抑えきれないほど悲しかった。
「私にひどいことをしたら、お父さんを嫌いになるからね!それに、お父さんはどうせ私を殺せないでしょ!」
「はぁ。」
あまりにも的外れなその言葉に、ラルクは思わず鼻で笑った。
一体何を信じて、あんな根拠のないことを言えるのか。
だけど、まったくもって失敗した。
バチッ!
子どもを包んだ魔力が、強力な反発のエネルギーを生み出して、ラルクの手が届かないようにした。
ラルクは歯を食いしばった。
子どもを守る魔法は、単に攻撃を防ぐためだけのものではなく、殺意を込めた相手を一瞬で塵に変えてしまうほどの力を秘めていた。
それでもラルクは、ただ茫然と立ち尽くしていた。
「……これは俺の魔力なんだけど。」
でもそんなはずがないよね?
「これもまた何かの細工か?」
ほんの短時間で荒れ果てた世界に木を蘇らせ、五畝ほどの土地を肥沃にした。
そんな不思議な力を持つ子だから、ラルクの魔力を装った何かの細工を使ったのかもしれない。
それ以外では説明がつかなかった。
「お父さんが私を守ってくれたんです。」
ナビアは少し涙を浮かべ、しっとりした瞳でラルクをまっすぐ見上げた。
何としてでも説得しようとしているようで、切実に感じられた。
「くだらない話は聞きたくないんだが。」
ラルクは反発力をもった保護膜に無理やり引き裂かれた。
バチッ!
スパークが危険そうに飛び散った。
まるで「この子には手を出すな、やめろ、これ以上やれば後悔することになる」とでも言いたげな反発力に威圧感があった。
「もしこれが私の魔力であり、私の魔法なら、主である私を拒むことなんてできないはず。」
バチバチッ!
黒くなった手に赤い傷が現れた。
魔法が壊れ、肉体にも異常が現れ始めたのだ。
焼け焦げるような生臭さまで漂ってきて、ナビアはまるで首を絞められた人のように青ざめた。
「やめてください、お父さん、お願い!手が、手がまた……!」
命の危機に瀕していたのはラルクではなく、ナビアだった。
「ふざけた細工はするなと言っただろ。」
その言葉に、ラルクの手を見た瞬間、思わず衝撃を受けた顔をした。
小さな体がぶるぶる震え、ぱっちりした大きな目に涙が溢れ、唇をぎゅっと噛んだ。
「もうやめてください!バランスが崩れるじゃないですか!」
ラルクはさらに冷酷に魔法を放った。
防御膜がいくら強くても、自分を超えられるものはなかった。
「お願いです、お父さん、やめて!」
しかし泣きじゃくる子どもの姿を見ると、不思議と胸がチクチクするような感覚があった。
手が焼けるような苦しさを感じるわけではないのに、胸が痛んだ。
「お願い……!ひっ、私が悪かったです。やめてください。お父さん、私が悪かったから、やめてください!」
子どもが必死に懇願した。
「私が悪かったです……!」
息を切らしながら、首を絞められたように真っ赤になった顔で哀願した。
《君はいったい何を間違えたっていうんだ?》
《君を殺そうとしてるのは私だ。》
《今、壊れているのは君じゃなくて、私の体なのに。》
『どうして君がそんなに泣くんだ?』
全身の血が冷たくなって体の外に全部抜けていくような感覚なのだろうか?
彼は唇を舐めた。
血の味がした。
こんなもの、知らなくてもよかった。
知りたくもなかった。
死ななきゃいけない。
死にたいなら、この子を殺せ。
これが一体何度目の復活だと思う?
まだ生きたいのか?
こんな嘘のような世界で永遠に蘇って生きたいのか!
この子は私の子どもじゃない。
この子は嘘をついている。
これはたとえ私の魔力であり、私の魔法だとしても、これは嘘だ。
「私が、いっそ私が死ぬのでやめてください!」
だまされるな。
こんな甘い心配が本当に私のものなわけがない。
人間でもない怪物のくせに。
「お父さん!」
だから、もう殺してしまえ。
「くっ……!」
ラルクは身震いしながら手を離した。
魔法をどうにか壊してしまったものの、結局子どもの体に手をかけることはできなかった。
もし子どもに危害を加えてしまうのではと恐れ、殺意を込めた魔法を放った余波が激しく彼を貫いた。
気が狂いそうな頭痛と眩暈に襲われて床に崩れ落ちると、澄んだ青草の香りが広がった。
そして。
とぷっ。
小さくてか弱い手が彼を抱きしめた。
小さくて細い体が彼の懐にすっぽり収まった。
服にはあたたかい涙が染みこんだ。湿ったぬくもりだった。
風が吹いた。
ふわふわと揺れる銀色の髪が空間を優しく撫でるように彼の頬をくすぐった。
そして、荒れ果てた世界を映していたその瞳を銀色の光でいっぱいにした。
太陽のような愛情をたっぷり注がれて育った子どもの優しい、草のような匂いが胸の奥を突き抜けるように感じられた。
気づかぬうちに、子どものように柔らかな気配が私を包んでいた。
痛みが次第に消えていった。
傷がなくなった。
体が癒えていった。
しかし胸はまだチクチクしていた。
どうしても哀しく苦しい気持ちが消えず、頼れるのはあの子しかいないというように、本能的にすがりつくようで。
ラルクは手を上げて子どもの背中を軽く叩こうとして、ふと動きを止めた。
『俺はいったい何をしようとしてたんだ?』
広げた手をぎゅっと握った。
歯が食いしばられた。喉仏が上下するほど、全身が固くこわばった。
そのくらい、さっき自分がしようとしていたことが信じられなかった。







