残された余命を楽しんでいただけなのに

残された余命を楽しんでいただけなのに【76話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【残された余命を楽しんでいただけなのに】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。 ネタバレ満...

 




 

76話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 公開討論会

王室からの書簡を受け取った料理協会側は、王室の提案を拒否しようとした。

しかし現実は彼らの思惑どおりには進まなかった。

北方大公ロベナが魔法連盟を訪問していたからだ。

実際、魔法連盟の意向は料理協会の意向と同じであり、ロベナが魔法連盟に影響力を持っていた。

「それはとても良い考えですね。公開討論会、開催するということでよろしいですか?」

ロベナ大公はビロティアン帝国と交流協約を結ぶと同時に、魔法連邦ミロテルとも非常に深い関係を築いていた。

天空島で教育を受けた多くの魔法使いたちが、ミロテル魔法連邦の高位職に就いている状況だった。

公式の場から姿を消してすでに10年経っていたが、ロベナの影響力はいまだに強大だった。

「我ら天空島は帝国と魔法連邦、両者と非常に良好な外交関係を結んでおりますので、中立的な場所といえるでしょう。天空島で公開討論会を開いてみてはどうでしょう?」

ビロティアン王室は積極的に賛同し、ミロテル魔法連邦も断る理由はなかった。

この情報が広まると、貴族や上流階級の間では大きな話題となった。

「公開討論会を開くそうだ。」

「公開討論会?」

「ナルモロ・コーポレーションの代表ナルモロという人も出てくるし、ラーメンを開発したという王室の侍女ユリも出てくるみたいだぞ?しかも本当にすごいのは、イサベル皇女殿下まで直接お出ましになるらしい。」

「ええ、まさか。皇女殿下が出られるって?討論会に?あり得ないだろ。」

「そのあり得ないことが実際に起きたんだってさ。」

「うまくいけば本領発揮だが、もし失敗すれば責任を問われて大変なことになるんじゃないか?」

皇女イサベルが直接登場するのは、かなり重大な出来事だった。

これは皇女がラーメンの開発と流通に直接関与しているという間接的な証拠になり得るため、万が一ラーメンに問題が発生した際に逃げられない立場になってしまうからだ。

「だからこそだよ。殿下が自ら出てこられるということは、それだけ自信があるってことじゃないかとも思えるんだ。」

「でも料理協会側の人たちは、みんな名の知れた料理名匠たちじゃない。相手になると思う?それに皇女様はまだたったの7歳だよ。」

「それはそうだ。」

「オリンピアードの席を占めるほど卓越した魔法の実力を持っているのは確かだけど……。どうしてそんな討論会に出て、熟練の名匠たちを相手にできるんだ?それに魔法連邦側からも仲裁者の一人として“創成魔法師”が派遣されるって話じゃないか?」

「な、何だって?創成魔法師?本物の創成魔法師様がいらっしゃるのか?なんでまた創成魔法師様まで巻き込むんだ?」

ミロテル魔法連邦を統率する五つの柱。

その者たちを総称して“創成魔法師”と呼ぶ。

その偉大な魔法師の一人であるクリアスが仲裁者として派遣されるという大事件だった。

「だから言ったろう。料理名匠たちに創成魔法師までつくんだ。」

「でもさ、あんな連中の真ん中で幼い皇女殿下がまともに話せると思うか?どうせ皇女殿下がからかわれるだけだろう?」

「確かにそうだろうな。」

ナルモロとユリについては、あまり知られていなかった。

ナルモロについて知られているのは、平民出身だが莫大な財力を持つ新興事業家だということ。

ユリについて知られているのは、驚異的な実力を持つパティシエであり、ラーメンを開発した当人だということぐらいだった。

「それでも自信があるからこそ、皇女殿下が直接出てこられるんだろうな。」

人々の期待と不安の中、ついに公開討論会は始まった。

 



 

場所は天空島。

公開討論会というだけあって、天空島の住民たちに加え、招待を受けた多数の各地の記者たちも参加していた。

それだけでなく、「テイサベル移動門」を通じて移動を希望する帝国民や魔法連邦所属の人々も天空島へ移動し、公開討論会を観覧できるようにしていた。

魔法連邦の創成魔法師であり、今回の公開討論会のVIPの一人であるクリアスは、渋い表情を浮かべた。

『こんな大きな話題になった事件で、テイサベル移動門を使えるようにしたというわけか?』

天空島はヴェールに包まれた秘密の島。

一般人は一生見学すらできない島であり、中にはそれを架空や伝説上の島だと考える者もいた。

『天空島へ行ける方法は極めて限られている。』

けれど、これをテイシャベル移動関門を使って運ぶとしたら……テイシャベル移動関門の有用性を直接証明できることになるだろう。

蒼星魔法士クリアスが言った。

「初めからこんなショーを仕組んだのか?こうしてテイシャベル移動関門の有効性を証明しようとしているのか?」

「ショーだなんて?どういう意味です?」

「相変わらずだな、ビアトン。」

「相変わらずお年を召しましたね、クリアス卿。」

「ロベナ大公のもとで魔法を学んだお前の許可が失われていないことが不思議だ。」

「私の許可は結構しっかりしてますから。」

「テイシャベル移動関門を使うことはビロティアンの意思なのか、大公の意思なのか?」

誰の意思か、それが重要だった。

大公がどちらにより友好的な立場を取っているかを見極める決定的な材料になるのだから。

すると意外な答えが返ってきた。

「皇女様のお考えです。」

クリアスは政治的に解釈した。

『つまり詳しくは言いたくない、ということだな。』

ともあれ大きな話題となった「天空島公開討論会」は、多くの人々がテイサベル移動門を利用して接触するきっかけとなった。

公開討論会に集まった人数はなんと三万余名。

巨大な剣闘競技場を丸ごと使い、公開討論会の会場とした。

司会は天空島側の人物が務め、その進行で討論が始まった。

「ビロティアン帝国のイサベル皇女様と……料理協会を代表する三名の料理名匠が席につかれました。討論は三対三の形式で行われ……」

「それでは最初の発言権をマレセンス料理名匠に差し上げます。」

料理名匠マレセンス。

彼は料理協会を代表する三人の料理名匠の中でも最も有名な料理人だった。

「はい、マレセンスです。私はラーメンが非常に危険で中毒性のある食べ物であり、下手をすれば悪魔化を引き起こすほど恐ろしい発明品であることを明らかにし、広く知らせるためにここに立っています。料理名匠の名誉をかけて申し上げます。」

彼は心の中で考えた。

『有害性を証明する必要はない。』

どうせ扇動は簡単だ。

『“危険だ”という言葉だけで人々を揺さぶることができる。』

『しかし、無害であることを証明するのは難しい。』

討論は本格的に始まった。

それでもなお、マレセントはビロティアン側の三人の鼻をあざ笑うように驚かせることができると思っていた。

マレセントが口を開いた。

「自然界には存在しない奇妙な添加物を発見しました。人工的な化学添加物です。これをご覧ください。魔塔の公証を受けた資料です。」

マレセントは自信に満ちていた。

実際、彼自身もラーメンが「悪魔化」を引き起こす食べ物だとまでは思っていなかった。

だが、このラーメンは無害な食品ではなく、食品と呼ぶことすらできない低劣な物質だという確信は持っていた。

彼が提示した資料には、一つの化学式が記されていた。

C₅H₈NO₂Na

彼の表情は自信に満ちていた。

「これが何か、イサベル皇女殿下はご存知ですか?」

「それは……」

マレセンスはイサベルの表情を観察した。

『やはり当惑しているな。』

当然だ。

実際のところ、これが何なのかマレセンス自身も正確には知らない。

彼は料理研究家であって、魔道工学者や化学者ではないからだ。

「さあ、お答えください。なぜ黙っているのです?」

「そ……マレセンス卿。その資料は確かなものですか?魔塔から提供されたのですか?」

三万人に達する人々の耳目が、イサベルとマレセンスに集中した。

二人の表情の間に映っていたのは、魔道工学の全光板──空の島にしか存在しない、貴重な魔道工学の結晶だった。

「本当に魔塔から受け取ったのですか?」

「その通りです。」

「つまり……ふむ。」

イサベルは少し困ったように、かすかに笑みを浮かべた。

そして横目でユリをちらりと見て、視線を合わせた。

ユリが一度うなずいた。

そのおかげでイサベルは少し勇気を取り戻せた。

「本当に確かなのですね?」

マレセントは自信満々に答えた。

イサベルが時間を稼ごうとしているのは明らかだった。

最初からこれほど苦戦するとは思っていなかったが、いずれにせよ早めにとどめを刺さなければならなかった。

「ですから。イサベル皇女様はこれに確実に答えなければなりませんよ。」

イサベルが困惑しながら言った。

「その化学式、間違っています。」

「……え?」

ユリから紙とペンを受け取ったイサベルは、何かを書きつけた。

C₅H₈NO₄Na

彼女は O₄ の部分を指さして言葉を続けた。

「ここをご覧ください。O₂ ではなく O₄ が正しいんです。とにかく、あれは単なるミスだと思います。自然界に存在しない化学的に危険な物質だと主張されていましたよね?」

「……そうです。」

イサベルは自分が書いた化学式をもう一度見直した。

少し前、ユリが教えてくれたことを思い出した。

『私が偶然スープを発明したわけじゃないんです、皇女様。飴を作りながら気づいたんです。皇女様を喜ばせたいなら、化学を勉強しなければならないんだって。だから一生懸命勉強しました。』

数学の天才だったユリは、実は料理の天才でもあり、さらに化学の天才でもあった。

もしイサベルでなければ、そのまま埋もれてしまったであろうユリの才能は、イサベルと出会ったことで開花したのだ。

そしてユリと共に化学を学んだイサベルは、大いに後悔していた。

『こんなに面白い化学なら、もっと真剣に勉強しておくんだった!』

数学や電気だけが面白かったわけではなかった。

化学の勉強もまた、とても楽しかったのだ。

彼女は生まれながらの理系少女だった。

理系の勉強は楽しかった。

そして、その勉強と経験を共有することはさらに楽しかった。

ましてや今は、大勢の人々の耳目が自分に集中している状況!

『きゃ、ワクワクする。』

イサベルはまたもや実感した。

『私は本当に観衆気質なんだな。』

少し不安にもなった。

『これ大丈夫かな?変人じゃないよね?』

それでもイサベルは、今自分に注がれる注目がたまらなく嬉しかった。

この面白い化学式の話を分かち合いたくて、口元がむずむずしてしまうほどだった。

「この化学式について少し説明させてください。」

あまりにも幸せな出来事に、心から胸が高鳴った。

「ご提示いただいたこれですが、実はグルタミン酸に由来するものなんです。グルタミン酸は非常に一般的な、タンパク質を構成するアミノ酸の一種です。あ、そうそう、このグルタミン酸の化学式は……」

7歳の皇女は、この世で最も無害そうな表情を浮かべて言葉を続けた。

「正しい化学式は C₅H₉NO₄。これです。つまり、先ほど危険だとおっしゃったその化学物質は、実際にはグルタミン酸のナトリウム塩です。だからこれをグルタミン酸ナトリウム、あるいはL-グルタミン酸ナトリウムと呼ぶんです。もっとわかりやすく言えば MonoSodium Glutamate です。私たちは略して MSG と呼ぶことにしました。」

イサベルは話しながらも自分で不思議に思っていた。

『ただの思いつきを言っただけなのに、どうして現代とまったく同じMSGが誕生するんだ?現代のMSGもMonoSodium Glutamateだよな?わあ、本当にすごく面白い!』

料理名匠マレセンスは口をつぐんだ。

『い、一体何を言っているんだ?』

彼はまさか皇女の口からそんな言葉が出るとは思わず、声を失ってしまった。

しかし皇女の中には、いかなる悪意も見出せなかった。

きらきらした目で、よくわからない事柄を楽しそうに説明している。

その様子があまりに幸福そうで、逆に不思議に思えるほどだった。

「Monoは“一つ”、Sodiumはナトリウムですから、簡単に言えば“グルタミン酸にナトリウムが一つ結合した”という意味なんです。もっとわかりやすく言えば、“タンパク質に塩がくっついたもの”なんですよ。」

「……」

イサベルは輝くような目で、そして学問への情熱に満ちた目で尋ねた。

「では名匠は、どうしてこれが危険な物質だと何か教えていただけますか?」

本当に、もし自分が間違っていたら謝らなくてはならない。

自尊心のために帝国の民に悪いものを食べさせるわけにはいかないのだから。

イサベルはそう考えていた。

『もし本当に危険なものが含まれているなら、むしろ感謝を伝えなければならない。料理の名匠なら何か知っているかもしれないし。』

イサベルはにっこりと笑って言った。

「教えてください、名匠。」

ある人の目には、無邪気で元気いっぱいの幼い子どもに見え、また別の人の目には、数多の死線をくぐり抜けた百戦錬磨の老練な司令官に映った。

 



 

マレセントは一瞬うろたえたが、すぐに冷静さを取り戻した。

『……結局、ただの子供ではないな。』

皇室側から討論会を先に提案してきた理由が、ようやく理解できた気がした。

三万を超える観衆もまた耳を傾けている状況。

『結局、真実なんて重要じゃない! “危険だ”という認識さえ広めれば、それで十分なのだ。』

それはマレセンスが55年生きながらにして得た世の理であり、彼が敵対者を排除してきた手段だった。

「なるほど、難しい専門用語を並べ立てて、人々を惑わせようとしているのですね。核心をぼかそうとなさっている。」

「これが難しい言葉ですって?7歳の私でも十分理解できることなのに……。」

あまりにも無垢で真っ直ぐなその表情に、マレセンスの顔は思わず赤く染まってしまった。

「ですが、皇女様は幼いころからエリート教育を受けてこられたのでは?」

「平民出身の私の侍女から習ったことですが?」

イサベルがユリを見つめながら問いかけた。

「ユリが教えてくれたことだよね?」

「はい。命を懸けて誓えます。」

マレセントは咳払いをして答えた。

「大衆にとって理解するのが難しい内容であることは間違いありません。」

「でも、マレセント卿には理解できる内容ですよね?」

「………」

マレセントは一瞬、危機感にとらわれた。

「知らない」と言えば、その後にもっと鋭い質問攻めに遭うかもしれない。

かといって「知っている」と言えば、なぜか自分が不利な立場に追い込まれそうだった。

まるで腹の中に虫がうじゃうじゃと入り込むような気分だった。

『7歳の皇女が一体……』

まるで腹の中に30匹ほどの芋虫がうごめいているような感覚。

『これは周到な戦略だ!』

イサベルの胸の内を読み取ることはできなかった。

当然だ。

イサベルはただ少しワクワクしていただけなのだから。

「実験用のネズミで試してみました。MSGを投与されたネズミは一匹残らず死んでしまったのです。」

その言葉に群衆がざわめき始めた。

健康に直結する問題であるため、人々は簡単に動揺してしまったのだ。

すると、今度はユリが手を挙げた。

「どのように投与したのですか?」

「注射器で投与しました。」

「塩水だって注射器で体内に打ち込めば死にますよ。食べ物を注射器に入れて体に注入する人がいますか?」

「ふん、そう言うと思って実験結果も持ってきました。」

マレセントを含む3人の討論者は、MSGを食べさせた実験用ラットが異常反応を示して死んだと主張した。

「その程度の量なら、塩やビタミンを摂取しても死にますよ。」

「………」

そのとき、ナルモロが手を挙げた。

彼もまたまだ若かったが、幼いころから大使館員であり補佐官として育成されてきた人物。

彼はこの瞬間を待っていた。

「人工的な化学添加物だとおっしゃいましたよね?」

アイデアを出したのはイサベルで、開発を行ったのはユリ。

そして大量生産と流通を担っていたのがナルモロだった。

そのため、ナルモロは大量生産の工程においては誰よりも詳しかった。

「これをどうやって作るのか知っていて、そんな主張をしているのですか?まさか……化学実験室で薬のようなものを混ぜて作っていると思っているわけじゃありませんよね?」

「どうやって作るのかについては調査していませんが。」

「それを調べもせず、どうして人工的で不純な化学添加物だと断定できるんですか?まあ、一応申し上げますが、サトウキビの糖液を発酵させて作るんです。それなのに危険だと言うんですか?」

ナルモロは心の中で思った。

『皇女殿下は純粋な真実を堂々と示してください。私が受けるべき批判は私が引き受けます。』

周到に計算されたタイミングで、ついに廷臣がナルモロの代わりに声を張り上げ始めた。

天上島に来る前、ナルモロはイサベルにこう頼んでいた。

「私が皇女様に同意を求めながら何かを申し上げたら、必ず同意してくださらねばなりません。」

「何を言うつもりなの?」

「状況を見てから言う予定です。皇女様はただ同意してくだされば結構です。」

「うーん……」

他の誰かがそんな言い方をすれば、もう少し疑って慎重に考えてみたかもしれない。

だが相手はナルモロだった。

どうせ同じ船に乗った以上、ナルモロが誠心誠意、成功に向かって進んでいくのは間違いないと分かっていた。

「わかった。」

そして現在、討論の場。

ナルモロが口を開いた。

「皇女殿下は、飢えに苦しむ貧しい民を見過ごせなかったため、直接ラーメンの開発を指示されたのです。だからこそこの場に自らお立ちになり、批判を受け止めておられるのです。違いますか?」

「……」

イサベルは一瞬答えることができなかった。

そんな気持ちが全くなかったわけではないが、実のところ最初はただラーメンがとても食べたかっただけだった。

トッポッキにラーメンを入れて食べればラッポッキになる。

イサベルはラッポッキがどうしても食べてみたかったのだ。

実際、それが一番大きな理由だった。

「前世で食べられなかったものを全部食べてやる!」……そんな理由。

「皇女殿下は普段から自分の善行を宣伝したり、誇張したりなさいません。善行は皇族にとって当然の義務であり、それを功績だとはお考えにならないのです。だからこそ、右手がしたことを左手が知らぬように、というのが皇女様の信条なのです。だから今も言葉を控えておられるのです。」

えっ、私が?

そう口に出すことはできず、イサベルはぐっと唇を噛んだ。

「それゆえ、あの有名なゴシップ紙の記者までもが、自分の持てるすべてを投げ打って皇女様のそばに仕える道を選んだのです。私はユリ記者の心の奥底までは分かりませんが、おそらく私と同じ気持ちなのでしょう。参考までに申し上げれば、ユリ記者は王宮から基本的な食事以外の何一つとして支給を受けていません。彼女は純粋な敬愛の心で皇女様のそばにいるのです。私も同じです。私は頭の先から足の先まで、卑しさで満ちた人間ですから。」

実際、彼は貧民街でうろついていた。

そしてイサベルと出会ったのだ。

「実は今もとても怠け者なんです。私はもともと欲望というものがまったくない人間です。目標もなく、ただぶらぶらすることを最高の価値だと考えている人間なんですよ。」

イサベルは思わずむっとした。

嘘つき!

小説の中でも、大陸最高の富豪とまで言われるナルモロ・ロケットが、欲望がまったくない人間だなんて?

設定には“守銭奴”とまで書かれているのに!

それでもナルモロは平然と話を続けた。

「そんな私を変えてくださったのが、皇女殿下の高貴なお心でした。殿下でなければ、私は今も貧民街の路地裏でぶらぶらと日々を浪費していたことでしょう。今も怠けていますが、それでも『もっと気楽に怠けたい』などと考えながら過ごしていたはずです。」

マレセントはわずかに顔をしかめた。

「結局、言いたいことの要点は何だ?」

「イサベル皇女様が何か惜しくてこんな食品、つまりあの高位の協会関係者たちが軽んじるようなラーメンをお作りになったとでも思いますか?一体どんな利益があってこんなことをなさったというのです?どうせうまくいっても残るものなどなく、このように揶揄の種にしかならない。今日のような事態が起きることを予想できなかったはずがありません。すでにテイサベル移動門を通じて数多の難関を乗り越えてこられたお方なのですから。」

「ふん、ナルモロ・コーポレーションがいずれ皇女様のものになるという事実を隠そうとしているのではないか?結局はそれを口実に金儲けを企んでいるのではないか、と勘ぐる者が出ることくらい分からないとでも?」

ナルモロはにやりと笑った。

ラーメン工場を設立したときから、当然そんなことを言われるだろうと覚悟していたのだ。

彼の口から衝撃的な言葉が飛び出した。

「ナルモロ・コーポレーションはラーメンで一ペニーの利益すら得ていません。」

ラーメンの価格をほぼ原価で販売していたのだ。売っても一銭の利益も残らないほどの水準だった。

もともとこれはナルモロの計画だった。

今は事業初期であり、攻撃的な投資を進めるべき時期だと考えていた。

人を集めてこそお金になる。

今は当座の利益よりも、人を集め評判を高めることが優先だと判断したのだ。

どうせアルペア王国の積極的な支援もあるのだから、当座の損失は十分に耐えられると見込んでいた。

「会計帳簿もすべて公開できます。ナルモロ・コーポレーションが一切の利益を取らずにラーメンを販売し流通させていることを!」

『そうだとも、大金を稼ぐからだ!』

ナルモロは絶妙なタイミングで怒りを露わにし、机をバン!と叩きつけた。

「皇女様の美しく高潔なお心を誤解なさらぬよう願います。大衆を相手に金儲けをしたと? 何を根拠にそのようなことをおっしゃるのですか?」

「そ、それは……!」

庶民出身ゆえに多少ぶしつけに見える態度だったが、三万余名の観衆の中でその態度を咎める者はいなかった。

「それに、協会の高名な方々は一体何をしておられるのですか?食べ物を注射して投与すれば危険だと?それならビタミンだって致死量近くを投与すれば危険です。この程度の話は、無理に粗探しをしているだけなのは明白ではありませんか?あまりにも不自然だと思いませんか?」

「そ、そんなことは……」

「なぜですか?あの高級料理に比べてあまりにも劣っているからですか?空腹の子供の一食を簡単に満たすことができるラーメンは“ゴミ”で、名のあるシェフが心を込めて作った料理だけが“食事”なのですか?空腹の子供を見捨てることのできなかった心が、そんなにも卑しく残酷だというのですか?まだわずか7歳の皇女様の美しく高貴な心を、なぜこのように歪めようとするのか、その意図が非常に疑わしいです。結局、高貴な方々にとって重要なのは、貧しい人々が飢えて死んでいく現実よりも、“食事らしさ”なのですね!上品さ!格調!もっと重要なのは、高貴な方々が食べるものだけが料理であり、貧しい人々が食べるものは“ゴミ”だということですか?」

ナルモロ・コーポレーションの首長ナルモロが、3万人余りの観衆の前で痛烈な一撃を放った瞬間だった。

 



 

 

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