こんにちは、ちゃむです。
「家族ごっこはもうやめます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

190話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- あの時、私たちが家族だったら④
ラルクはむっつりした顔でリンゴをもいだ。
魔法ではなく、手を使ってひとつひとつ傷つけないように丁寧に。
「それじゃなくて、隣のやつです。お父さんって、熟したリンゴと未熟なリンゴの区別もつかないんですか?」
こいつ、ほんとに一言多いな。
彼がわずかに怒気を帯びると、ナビアはすぐさまおどけて彼にしがみつき、甘えた。
「えへへ、お父さんがいちばん!」
「………」
イライラする。
こんなにも図々しく甘えてきて、さらに口では文句を言いながらリンゴをもいでる自分が一番イライラする。
チクショウ!
ラルクはとうとう自分で作った木のバスケットにリンゴとイチゴをナビアの城にあふれんばかりに詰め込んで持っていった。
壊れてしまったこの世界には、「ルール」など存在しなかった。
それでエセルレッド公爵家の庭園は、季節や気候に合わない花と果物でいっぱいだった。
「わっ、あそこに桃もあります!」
「で、それがどうした?」
「取ってください。」
「これも食べきれないくらい取っておいて、また?欲張りだな?」
ナビアの大きな目が雨に濡れた子犬のようにしょんぼりした。
「お父さんと一緒に食べたいんですけど……ダメですか?」
目に見えてわざとらしい演技に、深くため息をついた。
「……いくつ?」
「二つです。いや、三つ!」
「お前、豚か?」
ナビアはお構いなしに、バスケットに入った野いちごをつかんで彼の口にポンと入れた。
「おいしい?」
にっこり笑って聞いてくるが、何も言い返せない。
ラルクは不満げに口に入れた野いちごをムシャムシャと噛んで飲み込み、口を開いた。
「すっぱい。」
「え?そんなことないですよ。甘かったのに。」
ナビアは困惑した顔でいちごを食べてみると、確かに甘い。
ラルクが眉をひそめたのが不思議だった。
おかしい。
全然すっぱくないのに。
ラルクは、何かを思い出すような表情で、気づかぬうちにほのかに微笑んでいた。
その笑顔を目撃したナビアの目がかすかに潤んだ。
「私のこと、からかったんでしょう?」
「騙されたお前が間抜けなんだ。」
ナビアは怒った顔で唇をぎゅっと閉じた。
お父さんの性格が悪いのは十分わかっていると思っていたのに、また引っかかったの?
「ひどい顔してる。」
「うそです。お父さんは私が一番可愛いって言ったじゃないですか。」
「目がどうかしてるんだろうな。」
「お母さんとお父さんの可愛いところとカッコいいところだけそっくりだって言ってましたよ。」
その言葉にラトゥクは呆れた目でナビアを見た。
「本当に俺の娘なのか?見たところ、似ているところが一つもないんだが。」
「目がそっくりじゃないですか。それに、私が賢いのは、パパに似たからですよ。」
──賢いんじゃなくて、図々しいだけだろう。
『この子を産んだ俺って、どれだけ運がなかったんだ?』
自分がそんな恥ずかしい愚か者の親である可能性を、少しも受け入れられなかった。
いや、生まれたばかりの自分の血を受け継いだ子どもが、こんなにずうずうしく快活になれるなんて、到底信じられなかった。
『俺からどうやって、こんなつるつるした栗みたいな子どもが生まれるんだ?』
やはり自分よりお母さんのほうにずっと似ているのだろうか?
子どもは確かに、どの転生を思い出しても見たことのない顔だった。
子どもの母親は自分が知っている人のはずなのに。
「ふあぁ。」
ナビアはお腹も満たされ、お父さんが隣にいるので気が緩み、眠気がこみ上げてくるのを感じた。
「眠いです。」
ナビアは目をしばたたきながら自然にラトゥクの胸元に潜り込んで抱きつく体勢をとった。
ラトゥクは少し戸惑った表情でぎこちなくしていたが、気が付けば子どもが楽に横になれるように自然と協力していた。
まもなくナビアは寝息を立て始めた。
警戒心などまったく感じられず、巣の中でピヨピヨ鳴くひな鳥のようだった。
「いちばん危険なのは俺だってのに。」
ラルクはあきれた表情で、子どものふっくらした頬をつついた。
「うぅ。」
するとナビアが寝言を言いながら身をよじった。
胸に寄りかかっていた頭が下に落ちそうになった瞬間、ラルクは反射的に受け止めた。
「……もう、なんなんだ。」
放っておくわけにもいかず。
ラルクはあきれたような、困ったような顔で、どうしようもなく子どもを抱きかかえたまま、諦めたように深く息を吐いた。
「俺がどうしてこの子の父親になったんだ?」
維持復元の魔法で黒く曇った自宅で目を覚ましたラトゥクは、うんざりした表情で頭の先まで疲れ切った顔をしていた。
「……これは一体どういう状況だ?」
さっきまで確かに自分の部屋で昼寝していたはずなのに、これは一体どういう状況なのか?
なぜ過去に来てしまったのか、まるで悪夢みたいに思えた。
答えは明らかだった。
「このふざけたカオスのやつが……。」
自分にこんなふざけたことを仕掛ける存在は他にいなかった。
性格は短気だが、今すぐ怒っても意味がないと判断し、状況整理に入った。
まず、ここは「過去」だ。
そして、だからといって自分が「回帰」したわけではない。
『単なる時間の誤差ってことか?』
肉体はどこかに宿ったものではなく、確かに自分のものだった。
つまりここで死ねば目が覚める夢ではなく、本当に死ぬということ。
カオスは一体何のためにこんな無意味なことをしたんだ?
自分を過去に送り込んで、得るものなんてあるのか?
「……ちょっと待て。」
もしここが過去なら、まさか?
「ナビア。」
ラルクは、か細く震えるような声で、娘の名前をつぶやいた。
今が何年なのか、何回目の回帰なのか知る方法はなかった。
「時空を無理やり逆流して入ってきたから、そんなほころびができたんだな。」
おそらく、現在のエセルレッド公爵家に家臣は誰もいないはずだった。
『確かなのは、この家にナビアはいない。』
娘がまだ生まれていない過去か、エセルレッドに来る前の可能性が高かった。
『今は自宅に閉じ込められてるわけでもないし、とりあえず確認だけすればいいか。』
ラトゥクはアグニスへ瞬間移動した。
朝早い時間だったためか、アグニス公爵家は静かだった。
「……」
「………」
そんな沈黙が、やけに重く感じられる場所があった。
アグニス邸宅の2階。
まさにナビアが使っているゲストルームだった。
「どなたですか?」
ナビアは何も知らない純真な表情で、そう尋ねた。
痩せ細った体にだぶだぶの服――それが、子どもであることを一目で物語っていた。
カチッ。
「何回目だ?」
「……?」
「今、何回目の回帰だって?」
ラトゥクは思わず声を少し上げて言った。
するとナビアの肩がびくりと動いた。
「だ、誰ですか?ここは私の部屋ですよ……!」
自分が記憶しているこの年頃のナビアは、ずっとしっかりした瞳を持っていた。
それだけ多くの荒波を経験してきたのだろう。
今のナビアはそれに比べるとプリンのように柔らかい目つきだった。
それでも気は隠せず、赤い瞳がきらきらときれいに輝いていた。
そんな瞳に向けられた明確な恐怖が、かすかにその奥で芽生えているようだった。
ラトゥクは一歩も動かず、深呼吸した後、低い声で冷静に尋ねた。
「ねえ、右手首に何か書いてあるの見える?」
「えっ、何もないです。」
つまりこれは“初回”。
つまり、回帰を開始していない初めてのナビアだった。
何も知らず、痩せ細った体のまま薄汚れた服でよろよろと生きてきた姿が……
『食い物にしてやる。』
そう思ったが、すぐに目が真っ赤に染まりそうになるのをこらえた。
怒りと安堵が混ざった涙がぽろぽろこぼれ、ナビアはぱちぱちと瞬きをした。
大人が泣くのを見るのは初めてだった。
それもこれほどまでに強く見える人が。
『盗人ではないようだ。じゃあ自分を探しに来た人?……なぜ?』
ナビアは自分を見つめるとても悲しそうに泣く男を見て、なぜか心の奥が空にちくちく刺されたように痛んだ。
この人が泣かないでほしいと思った。
だから恥ずかしがりながらも小さな手を伸ばしてラトゥクの涙をぬぐった。
泣かないでと慰めたかった。
「……優しい子だ。」
ナビアは、自分が涙を流したときに誰かが優しく顔をぬぐってくれて、背中を軽くたたいてそう言ってくれることを願った。
優しい子、泣かないで。
私の子。私たちの子。
その言葉を心の奥深くにしまって、大切な宝物の箱にしっかり隠しておいた。
いつか取り出せる日が来ることを願いながら。
ああ、私もついにこの宝物を手に入れたのだな、望むところだ。
『でも、これも悪くない。』
自分が誰かの慰めになることができるなら、それもまた宝石のような言葉だ。
だからこそ、自分の言葉がその人にとって宝石になったのなら嬉しい。ナビアは心からそう願った。
ラルクはいつも抱いていながらも、まるで何もないかのように目を閉じ耳を塞いで無視していた罪悪感と、ついに正面から向き合うこととなった。
「ごめん。」
ナビアは事情もわからないまま謝罪されて戸惑った。
こういうときに何と返せばいいのか、まだ教わっていなかったのだ。
失敗すれば叱られるのでは?
叱られるのは怖い。
でも、それでも最善を尽くして考えた返事を思い出した。
「大丈夫です。」
ラトゥクはぎゅっと目を閉じた。
唇をかみしめ、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
「私は大丈夫です。」
ああ。最初の人生のナビアも、九回目の人生のナビアも、どうしてこれほどまでに同じでいられるのか?
なぜ私にいつも「大丈夫」と言えるのか?
お願いだから、君が大丈夫じゃないことを願った。
君は決して大丈夫な状況じゃないのだから、泣きながら駄々をこねてほしかった。
私がしてあげられることがなくても、そうしてほしかった。
結局は私のエゴなのだろうが、それでも願わずにはいられなかった。








