こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

120話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 偽カップル
「……そんな自己PRが本当に就職に役立つんでしょうか?」
「さあ、わかりませんね。どんな経験でも良い点を強調して自己PRに書け、というのは首都園創設以来、最高の人材と言われる方の助言なんですよ。」
「最高の人材?」
「ええ、その偉大な方を紹介しますと、16歳という若さで公務員試験満点を記録して、各新聞で特集された方です。今はセリデン公爵の補佐官として働いています。」
驚くことに、それはクエンティンの話だったようだ。
「平民の身分で単身、3回目の城壁を超えた破格の成功を収めたその方ですよ。優れた管理職になるだろうと期待されていました。」
「それほどだったんですか?」
「はい。でも、その方の本当に素晴らしい点はその後にあります。」
クラリスは興味津々な顔で襟元を整えた。
「その方は、愛する故郷セリデンに公爵様が領主として赴任されたという知らせを聞きました。公爵様が荒れ果てたセリデンを整備することに力を注いでいると一緒に聞いたそうです。」
「そうなんです。公爵様はセリデンを住みよい場所にしようと、本当に努力されました。」
「その方は王都での安定した成功街道から抜け出し、セリデンへ向かい採用を求めたのです。ああ、その行動力……!」
ベルビルは両手を握りしめたまましばらく黙り込んで、感情にすっかり浸っていた。
「愛する故郷で尊敬する上司と過ごす人生とは、きっと職業満足度が高いことでしょう。」
「うーん……」
クラリスは「早く昼休みが来てのんびりしたいな」と言っていたクエンティンの姿を思い出した。
何にせよ彼はその仕事を気に入っていたようだし、エビントンの言葉が間違っているとも言えなかった。
「首都の令嬢たちは皆、彼に夢中だったという伝説もあります。ふう、そんな知的な人が素敵に見えるのは当然でしょう。」
……それはたぶんクエンティンが自分で作った伝説だろう、と思った。
セリデンなら誰もそんな話を信じなかっただろうに。
とはいえ、彼が勤勉だったのは事実なので、クラリスはそっと眼鏡だけいじっていた。
「クエンティンおじさんはいい人ですよ。私にもいつも親切にしてくれます。」
「おじさん?あの方をおじさんと呼んでいるんですか?」
「あ……はい。」
クラリスは慎重に答えた。
尊敬する人を軽んじるような発言をして、彼が不快に思わないか心配しながら。
「はぁ、本当に心の広い方なんですね。あなたのような人にもあれほど寛大に接してくださるとは。本当に知識人中の知識人です。」
「それはさておき」と言いながら、クラリスはまた襟元を整えた。
「とにかく理解していただけたなら幸いです。それでは、週末には私のガールフレンドとして礼拝堂にお越しください。」
「え?」
「服装は制服をきちんと着てくれば大丈夫です。インクや食べ物をこぼすような恥ずかしいことはなさらないと信じています。」
「え、はい。それはわかりましたけど。」
クラリスは本当に、彼とこんなことをしなければならないのか改めて聞き返したくなった。
せめて他の学生にこの行事に参加する意思があるか聞いてみようかとも思った。
「……付き合って大体2か月くらいだそうです。」
「じゃあ、私が来たとたんベルビルさんと付き合うことになったってことじゃないですか!」
「ええ、あなたを見て一目惚れして告白したことにしてあります。誰だって納得する設定でしょう。」
誰がそんな説得力のない話に納得するっていうの!
クラリスが抗議する間もなく、彼らの恋愛は着々と真実味を増していった。
「まだ手をつないでいるだけの関係です。わかりますか?少なくとも1年は付き合わないとキスはできません。私は段階を飛ばすつもりはありません。」
……恋愛は段階を飛ばしたらダメなのね。
クラリスはしばらく前に読んだ恋愛小説を思い出しながら、無意識に眼鏡を押し上げてしまった。
「呼び方は『ダーリン』が無難そうですね。」
「な、何ですって?!」
「私は“ヨボ(妻・恋人への呼びかけ)”と呼びます。言葉もくだけた調子でお願いします。」
「そ、そんなことどうして……!」
クラリスは思わず大声をあげてしまった。
自習室ではある程度の討論や会話は許されていたが、こうして大声を上げるのは禁じられていたため、クラリスは慌てて口を押さえた。
「絶対にそんなふうに呼べません。」
クラリスが小声に戻して言うと、エビントンは気にする様子もなく、ノートを取り出した。
それは一週間分の彼の勉強スケジュールがぎっしり書かれたノートだった。
「そう言われると思って、練習時間を別に確保しておきました。人間は何でも訓練で克服できますから……ふぅ。」
真剣に話し続けていた彼は、ノートをめくる手を一瞬止めて、軽く襟元を整えた。
「僕が……あなたのような女と手をつながなきゃいけないなんて。」
彼は久しぶりに大きな悪態を心の中で押し殺し、無理に平静を装った表情をした。
「気まずいけど仕方ないですね。当日は手をつないで新郎新婦の後ろを歩かないといけませんから。練習すれば、不快感を隠すのにも少しは慣れるでしょう。」
そう言うと、彼はクラリスのスケジュール帳を勝手に開き、彼女が書き込んでいた勉強の予定を一つ勝手に消して、「ダーリン練習」と書き込んだ。
「わかりましたね?だから練習に遅れないようにしてください。」
言いたいことを言い終えると、彼はすぐに立ち上がり、勉強していた席にさっと戻って行った。
『いや、何でこんなことを断りもなく勝手に決めるの……?』
クラリスはなぜかほんのり熱くなった額を冷やすように机に身を預けた。
よりによってエビントン・ベルビルと恋人ごっこの練習なんて、本当に死ぬほど嫌だった。
『……ほんとに、ほんとに嫌だけど。』
他の受験生に比べてクラリスが時間を比較的自由に使えるというのも確かだった。
『17歳で死ぬ人が、かえって時間に余裕があるなんて、ちょっとおかしいけどね。』
そして何より――クラリスは結婚式をきちんと見たことが一度もなかった。
いつも小説でしか触れられなかったその意味深い儀式を、実際に見てみたいとも思っていた。
証人として、最も近い場所でその特別な瞬間をじかに見守れるというのは、本当に素晴らしい経験なのではないか?
1時間ほどの結婚式で、エビントンと手をつないで歩くのはたった1分ほどのことなのだから、それほど負担でもないだろう。
『もしかしたら悪くないかも。』
ようやくそう結論づけて心を決めたとき――
席に戻ったと思っていたエビントンが、再び彼女の前に戻ってきていた。
何か大事な話を忘れていたかのように、ものすごく真剣な表情で。
「とにかく練習の日はちゃんと手を洗って来てください、グレジェカイアさん。」
そう言いながら、彼は実際に両手をゴシゴシこする仕草まで見せた。
本気でこれくらいはやれというアピールのようだった。
そして帰っていくエビントンの丸い背中……。
クラリスは心の中で「お願いだから一度だけでも思いきりひっぱたかせて」と願わずにいられなかった。
クラリスはエビントンとこんな奇妙な任務を一緒にしていることを誰にも話さなかった。
誰かと恋人ごっこをするなんて、あまりにも恥ずかしかったから。
幸いなことに、その点ではエビントンも同じ気持ちだったようで。
彼は絶対に「クラリスとこんな任務をしているんだ」と言いふらしたりはしなかった。
クラリスは、ノアが魔法使いの城へ行ったことをとても幸運に思った。
他の人はともかく、ノアであればクラリスが他の日と少し違うことに気づき、こんな途方もない事態に巻き込まれたことをすぐに察しただろうからだ。
そして、もしバレンタインに見つかるのではないかと心配したこともあったが、
幸いなことに、彼はクラリスに起こることにまるで関心を持たない性格だったので、特に問題なく過ぎていくだろうと思われた。
そうこうしているうちに数日が過ぎ、クラリスがエビントンと恋人役の練習をする日がやってきた。
彼らは受験生がほとんど来ない礼拝堂で会うことにした。
誰もいない礼拝堂で向かい合った二人は、まず時計を確認した。
お互い望んでいないことであったため、練習時間を長引かせたくはなく、5分以内に必要なすべての任務を済ませることに決めた。
二人は、赤くなりかけた顔をしてぎこちなく手をつなぎ、一瞬でその動作を済ませた。
異性同士で触れ合うことって、こんなに気まずいものだったの?
クラリスは生まれて初めて誰かと手をつなぐことが、こんなにも居心地が悪いものなのかと実感した。
その後は静かに礼拝堂を横切り前に進んだ。
残る課題はあと一つ。
お互いを呼ぶ愛称を口にしてみることだ。
当日、新郎新婦と話すことになった場合は、必ずその愛称で呼び合わなければならないので、練習しないわけにはいかなかった。
二人は向き合った。口元が微かに震えた。
「……ダーリン?」
エビントン・ベルビルが約束した愛称を口にした。
少しだけ優しく聞こえたような気もした。
クラリスは、彼が自己紹介書のためにここまでやることができるという点に少しは敬意を感じた。
「さあ、ハニー。」
一方、クラリスは少し言葉を詰まらせた。
エビントンと比べると、あまりにぎこちなくて悲しくなるほどだったが、彼は決してクラリスの拙さを責めたりはしなかった。
妙なことを指摘して、あの気まずい「ハニー」という呼びかけをもう一度言わせることを恐れているようにも見えた。
とにかく、練習は無事に終わった。
「よかったです。このくらいなら、どうにか実行できそうです。」
エビントンはクラリスの手を放すと、手のひらを自分の乾いた手でぱたぱたと拭った。
「当日も手を清潔に洗ってお越しください。」
「ベルビルさんこそ。」
「私はいつも清潔です。常に首都院の周りでは。落ちて汚れたフォークやナイフをいじるあなたとは違います!」
「フォークはちゃんときれいですよ!」
「ふざけないでください。少なくとも僕の“ダーリン”はそんなことしません!」
「私の“ダーリン”ならフォークが汚いなんて言わないんですけど!」
二人がムキになって一言ずつ応酬していたときだった。
カタン。
礼拝堂の入り口で誰かが本を落とす音が響いた。
人のいない場所で、しかも天井が高いせいで音はさらに大きく響き、クラリスとエビントンは自然にそちらを振り返った。
そこには、目をぱちぱちさせたバレンタインが立っていた。







