こんにちは、ちゃむです。
「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
81話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 一生に一度しか訪れない春
結局、カリンは皇宮へ戻ることに。
数日の間、イサベルは自分の心を整理し、落ち着かせることができた。
『距離を取らなきゃいけないのは確かだ。』
これらすべてがカリンの策略や偽りかもしれない。
結局「最終黒幕設定」が消えるわけではないのだから。
この世界では作者の設定というものがとても重要だ。
自分が「試練を克服できないキャラクター」に与えられた運命なのだから。
『でも、設定値は時々変わることもある。』
自分を後継者としか見なかった父が、ただの子として愛してくれるように。
悪女として設定され、あらゆる悪事を働いてきたイサベル自身が、まるで別の人生を生きているかのように。
イサベルはガラスの器に入ったレモネードを一口すすると、口を開いた。
「先生は、どうして私のためにそこまでしてくださったんですか?」
「……何のことですか?」
「ミロテル魔法連盟を裏切ったじゃないですか。それに魔力もすべて失ってしまったし。」
「姫様のためじゃありません。」
カリンもレモネードをひと口飲んだ。
イサベルははっきりと見てしまった。
『カリンの瞳が大きくなった!』
そう、そうだった。
あのエイドはユリお姉さんが手間をかけて作った手作りの青蜜エイドだったのだ!
その瞬間、イサベルの胸の奥に誇らしさが芽生えた。
「じゃあ、何のためにそこまでしたんですか?」
「真実のためです。」
カリンは再び青蜜エイドを口にした。
一口、二口と飲むうちに、杯は空になっていた。
「……」
「……」
イサベルとカリンの間に、気まずい沈黙が流れる。
そのとき、イサベルはカリンをじっと見つめた。
カリンはイサベルの視線からそっと目をそらした。
「私のためじゃないんですか?」
「……」
再び長い沈黙が流れた。
しばらくの間、沈黙を守っていたカリンは、ついに口を開いた。
「……レモネードがとても美味しかったからです。」
「え?」
意味のない言葉だった。
ただ、何かを言わなければと思い、とっさに出てしまった言葉。
本心を明かす前に、慌てて取り繕うように吐き出した言葉だった。
「もしかすると、姫様のためにしたのも正しい気もしますし、違うような気もします。」
「つまり、私のためにしたってことですよね?」
「そうかもしれませんし、違うかもしれません。論理的な判断を下していたようでもありますし、ただそう思いたかっただけかもしれません。」
カリンの頬がわずかに赤く染まっていた。
イサベルが軽く手を振ると、部屋の扉が開き、侍女ルルカが青蜜エイドを二杯持って入ってきた。
ルルカはお盆に載せた青蜜エイドをテーブルの上に置き、優しい声で言った。
「飲みすぎるとお腹を壊しますよ、姫様。」
「わかってるわ。これだけ飲んだらやめるから!」
カリンは注ぎ足された青蜜エイドを手に取り、ゴクリと喉を潤した。
さわやかな甘酸っぱい炭酸が体の中にしみわたり、心地よかった。
イサベルが問いかけた。
「どうして、そこまでされたんですか?」
カリンは魔力回路が壊れ、魔力を失っていた。
魔法使いが魔力を失うというのは、普通の人間が手足を失うのと同じくらい致命的なことだ。
イサベルにはどうしても理解できないことだった。
「私は理解できません。」
カリンは最終黒幕だ。
最終黒幕にどんな陰謀があったとしても、魔力を失えば何もできない。
最終黒幕ノロットも、魔力があってこそ何かができるのだ。
今の状態では、蜂の群れと戦っても負けてしまうだろう。
「先生は本当にたくさんのものを持っていたじゃないですか。これからもっと多くを手に入れるはずです。」
イサベルはカリンの本心を知ろうとした。
感情的に見れば、カリンが不憫で、哀れで、悲しいのは確かだった。
だが、それでも深入りはせずに通り過ぎなければならなかった。
カリンは間違いなく覚醒した最終黒幕であり、そしてその最終黒幕の本心を探ろうと、さっぱりとしたレモネード二杯という手段まで使ったのだから。
『どうしてでも知り出さなきゃ。』
最終黒幕カリンが一体どんな考えを抱いているのか突き止めなければならない。
そうしなければビロティアン王家の滅亡を防ぐことはできないのだから。
「先生がどうしてそんな選択をしたのか気になります。秘密にしますから、私にだけ教えてください。」
――私は無害だ。
――私は無害な生き物だ。
――まるでそこにある小さな人形のように。
イサベルはまるで最後の別れをするかのように、にこりと笑みを浮かべながらカリンを見つめた。
カリンはしばらくその笑顔を見返していた。
「それは……。」
カリンは手にしていた青蜜エイドの杯を撫でた。
杯はまだ心地よいくらいに冷たく、口の中に広がる青蜜の甘酸っぱい香りが切なく染み込んでいた。
それだけで、今日は妙に胸がざわめいて、少しだけ寂しさを感じた。
素直になってもいいような気がした。
もしかすると、少し酔いが回ったのかもしれない。
『ただ、私はレモネードに酔ってしまっただけ。』
レモネードがあまりにも甘くて。
レモネードがあまりにも美味しくて。
レモネードにすっかり酔ってしまって。
だから今日は正直になれそうな気がした。
「私にも春が来たからです。」
「え?」
レモネードがとても甘くて。
レモネードがとても爽やかで。
これはただのレモネードのせい。
けれど、そのレモネードを一緒に楽しんでいる目の前の人が、あまりにも大切だったから。
一生に一度しか訪れない春を、決して手放したくなかった。
イサベルは首をかしげて笑った。
「……今、11月なんですけど?」
しかも今日は冷たい大陸高気圧の影響を強く受けて、気温が平年よりはるかに低い日で……。
だがそこまでは口にしなかった。
イサベルの時間はあっという間に流れていった。
気づけば12月、17歳の年の終わりに差しかかっていた。
その間、イサベルはかなり忙しい日々を過ごしていた。
「皇女様。本日のインタビュー内容は……」
専属記者ユリと共に、各地で数多くのインタビューを行っていた。
「皇女殿下がご訪問くださり光栄です。」
「モーニングギャラリーは皇女殿下のご訪問を歓迎いたします!」
イサベルはビアトンと共に、さまざまな社会活動をこなしていた。
前世では経験したことのない各種の課外活動(?)や対外活動が、とても楽しくて夢中になってしまったのだ。
その様子を見て、ビアトンも満足げだった。
「皇女殿下、とても楽しそうですね。」
「はい、とても楽しいです。先日行った博物館も面白かったですし、今日訪れたギャラリーにも新鮮な作品がたくさんありました。」
「どの作品が一番印象に残りましたか?」
ビアトンの瞳には満足感と共に、ほんの少しの期待も浮かんでいた。
イサベルが今日目にしたものは何だったのか。
かつての時代を彩った芸術家たちの作品の中から何を失い、何を得て感銘を受けたのだろうか。
イサベルの魂に、どんな美しい影響が刻まれたのだろうか。
ビアトンは大いに期待しながら、イサベルの答えを待った。
「筆で点をひとつ描いただけで、三百億ルデンの価値になるという事実です。」
「……え?」
――これは、かなり細やかな神秘ですね。
ビアトンは気を取り直し、再び尋ねた。
「他に印象深かったことはありましたか?」
「描かれてから百年以上経っているのに、絵の状態が驚くほどきれいに保たれていたんです。湿度管理はどうやっていたのでしょう?ギャラリー内には湿度調整装置が設置されていないと聞きました。となると、作品自体に湿度を自動調節する魔法のような仕組みが施されているということですよね。その場合、それを駆動する魔力エネルギーを作品自らが発生させ、微細に水分量を調整しているのだと思います。」
「……そうなんですね。」
ビアトンはにっこりと笑った。
芸術的なインスピレーションを得たわけではないようだが、ビアトンにとってはそれは重要ではなかった。
イサベルが楽しそうであれば、それで十分だったのだ。
「ところで先生、まだ方法は見つかっていないのですか?」
「はい。残念ながら。」
最近イサベルが楽しい日々を送っている一方で、彼女を苦しめている事実が一つあった。
――それは、カリンが魔力をすべて失ってしまったということ。
「ミロテル魔法の実験室で無理をしたせいで、魔力をすべて消耗してしまいました。魔力回復の方法をあれこれ模索しましたが、どうしても見つからないのです。」
「……分かりました。」
「それでも、自分なりに一生懸命調べてみようと思います。」
「ありがとうございます。私も研究してみます。」
しかし、それに関する特別な成果は得られなかった。
時間は早く流れ、いつの間にか12月も終わりを迎えていた。
新年の朝が明けた。
新しい年、1月1日。
朝、目を覚ましたイサベルは窓を開け、冷たい空気を吸い込んだ。
『もう私も十八歳なのね。』
21歳の12月31日、それが彼女の最後の日。
その日まで、残り3年となった。
ルルカがイサベルの枕元を整えてから、口を開いた。
「皇女殿下、おはようございます。ご機嫌がよさそうですね。」
「うん。いい気分だわ。」
冷たい空気を胸いっぱい吸い込んでも、肺が少しも痛くない。
イサベルはぱっと笑い、心地よい朝の日差しを満喫した。
窓の外に広がる庭園も、今日は一段と美しく見えた。
『ん?』
突然、人の顔がひょいと現れた。
「きゃっ!びっくりした!」
「やあ、イサベル?」
第4皇子、ミハエルだ。
ミハエルは新年の朝7時から顔がひどく変わっていた。
夜明けの光の中で白い雪のように清らかな瞳を持ち、遊ぶように現れた姿だったが、顔にあんな真剣な色を帯びているのはどう考えても不思議なことだった。
「ねえ、大丈夫なの?ここ7階よ!」
ここは7階だ。
ミハエルは宙に浮かんでいた。
ちなみに、ミハエルは剣術一筋で、生まれてから一度も浮遊魔法の類を使ったことはない。
「あ、そうだ。」
「万有引力の法則によれば、9.8m/s²の力が常に働いているんだ。落ちるのが当たり前なんだよ!」
「じゃあ、落ちてみるね!」
ミハエルはそのまま地面へと落ちた。
そしてまた立ち上がった。
『うーん、でも 9.8 という数値は地球の質量を基準にして出された値だよね。』
イサベルは幸福な想像の世界にすっかり入り込み、ミハエルのことを完全に忘れてしまった。
新しく思いついた不思議で面白い事実に、すっかり心を奪われたのだ。
『たぶんここは地球よりも大きいのだろうだとすれば重力加速度の値も変わるんじゃない?』
これを自分で計算できるだろうか?
楽しい空想に夢中になっていた。
ビロティアン皇宮に来客が訪れた。
「ご挨拶申し上げます、皇后陛下。陛下にお目にかかれず残念でございます。」
「ラヘル!お久しぶりね、会えて嬉しいわ。長旅で来るのに苦労したでしょう。」
皇帝ロンは大魔物退治のために騎士たちを率いて出征中であった。
そのため、城王ラヘラを迎えたのは皇后セレナだった。
簡単な挨拶を交わした後、ラヘラは本題を切り出した。
「帝国が強力に支援しているテイシャベル移動観光事業のことですが。」
ラヘラは、このテイシャベル移動観光事業が実際には帝国の政治的戦略だと考えていた。
世界に対する影響力を拡大し、軍事・外交的に優位に立つための重要な戦略だということだ。
ラヘラとアルペア王国は、その行動に共に加担していると固く信じていた。
「え?」
もちろんセレナの立場からすると、それは寝耳に水の話だった。
彼女は賢明な皇后であり、テイサベル転移ゲートの拡張がどのように解釈されるかを予想していたが、実際にはこれを足掛かりに世界支配力を強化する意図はなかった。
「国王が少し誤解しているようですね。」
「誤解と申しますと?」
「テイサベル転移ゲートの拡張はイサベル自身が主導しています。私はただ、娘がやりたいことを後ろから支えているだけです。」
「なるほど。」
ラヘルはこれで帝国の立場を明確に理解することができた。
『外交的には一歩引いたスタンスというわけか。』
理解できた。
『もっとも、帝国が前に出て影響力を拡大すれば、魔法連盟や魔塔とさらに激しくぶつかるのは避けられないだろう。少なくとも帝国は』
そして非常に友好的な我らの七王たちまでもが憂慮しているということなのだ。
セレナは小さくうなずいた。
「ええ。母の心で娘を見守っているだけ、ということですね。」
「そうです。城王は私の気持ちを本当によく理解してくださるのですね。」
セレナは、ラヘラが自分の意図を素直に解釈してくれることに感謝した。
「それについては、ジルデルでも大きな関心を示しています。」
ジルデル。
バルキオ・ジルデルが統治する王国だった。
七つの王国の中で最も弱い軍事力しか持たなかったが、地理的に七つの王国の中央に位置する貿易の要衝地。
「ご存知かもしれませんが、現国王バルキオ・ジルデルは私と特に親しい関係にあります。私と彼が話を交わした結果、ジルデル王国でもテイサベル転移ゲートシステムを積極的に導入してみてはどうかという意見が出ました。ジルデルから正式な使節団を送る前に、まず私が訪れて皇后陛下のご意見を伺おうと思ったのです。」
ラヘルラは心の中で確信した。
『当然、受け入れるに決まっている。帝国はテイサベル転移ゲートに命運をかけているのだから。これを基盤に勢力を広げていくはず!』
セレナは「ふむ」と短く唸り、少しの間考え込んだ。
「繰り返しますが、テイサベル転移ゲートは私の技術ではありません。あくまでテイサロン卿とイサベルの共同成果なのです。」
セレナの立場は明らかだった。
『やはり、最初から最後まで徹底しているな。』
まさに温和な君主、セレナその人であった。
その温かな表情と揺るぎない品格の裏に――その鋭い戦略が込められていた。
「皇后陛下がおっしゃるのであれば、私がイサベルと話をしてもよろしいでしょうか?」
「そうなさい。」






