こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
154話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 血縁関係
四人はソファに集まって腰を下ろしていた。
クラリスとマクシミリアンが並び、その向かい側にはノアとバレンタインが座っている。
偶然の一致なのかは分からないが、バレンタインはマクシミリアンと真正面から向き合うことになったが、耐えがたいほど鋭い視線が絶え間なく向けられており、なぜか顔がひりつくように感じられた。
一方クラリスは、ノアときちんと目を合わせることができず、無意識のうちにマクシミリアンの方へと少し身体を向けて座ってしまった。
気まずい状況ではあったものの、そのおかげで彼らは無駄に時間を費やすことなく、すぐに本題へと入ることができた。
「私は、好きな人たちと一緒に過ごすために、生き延びたいと決めました。」
クラリスは公爵に向かって、そっと頭を下げた。
昨夜、彼女は公爵夫妻が密かに立てていた逃走計画を聞いていたのだ。
「だから、可能であればセフェスに残る方法を探すために、お二人にご協力をお願いしたんです。」
「どうせ今すぐは、ライセンダー殿下の目がセリデンに向いている。遠くへ去るにも適さない時期だ。別の方法を見つけられるなら、その方がいいだろう。」
「申し訳ありません、公爵様……」
クラリスは、公爵夫妻が自分のために用意してくれた周到な計画を、そのまま実行できなかったことが、ひどく胸に引っかかっていた。
「いや。私も、あれはあくまで最後の手段だと考えていたにすぎない。それよりも何よりも、キノの副団長を我々の問題に巻き込んでしまったことのほうが心苦しい」
彼女――公爵夫人は、自ら動き、かつてグレイジェカイアに仕えた貴族や官僚たちに書状を送っていた。
すべては、クラリスの身の安全を確保するためである。
もしクラリスが遠くへ姿を消し、さらに夫人までもが関与していた事実が明るみに出れば、反逆者として扱われかねなかった。
「一番手っ取り早い方法は、陛下があなたを正式に赦免することだ。私も何度かお願いはしてみたのだが……」
マクシミリアンは深く息をつき、ゆっくりと首を横に振った。
そこへ、バレンタインが間髪入れずに、自分の考えを口にする。
「兄上には、俺がゴーレムを持ち込んで……あなたが望む“何であれ”は聞き入れる、そうおっしゃったのでしょう。」
「残念ですが、その“何であれ”の中に、クラリスの助命は含まれていないと思います、王子殿下。」
「……え?」
バレンタインは驚いて問い返し、マクシミリアンは苦しげに額を押さえた。
「彼がクラリスの死を望んでいるのは……どこまでいっても、私への復讐でしかない。」
「復讐……ですか?」
そう尋ねたクラリスは、彼があまりにも辛そうに見えたため、そっと腕を取った。
深い慰めを込めて。
「そうだ。私は王室の重大な秘密を知らないふりをして、セリデンへ逃げた。」
淡々と語られる彼の言葉に、誰一人としてすぐには反応できなかった。
「その秘密が……心の弱いライセンダーをどれほど苦しめるか、想像に難くなかった。」
マクシミリアンは、弟がわざと道化を演じている理由を理解していた。
そうでもしなければ、まともに息をすることすらできないからだ。
「それは、どういう秘密なんですか?」
ノアの問いかけに対し、公爵は答えることなく、本人であるバレンタインへと静かに視線を向けた。
それはまるで、彼に心の準備ができているかどうかを確かめるような眼差しだった。
「公爵は……いえ」
バレンタインは、少し歪んだ笑みを浮かべた。
「兄上は、俺のことを馬鹿だと思っているのでしょう」
バレンタインには、以前から絶えず囁かれてきた噂がある。
――『バレンタイン王子には、双子の兄がいる』。
一度広まった噂は、いくら処刑を重ねようとも消えることはなく、形を変えて、どこかで必ず再び語られる。
バレンタインは一瞬、そっと目を閉じてから、その内に秘めていた意味を、彼はゆっくりとかみ砕いていった。
この世には、捨てられた双子の姫が存在する。
だが、王の血は双子を生まない。
つまり――
「私は、母の不貞によって生まれた存在です。おそらく、弟も同じでしょう。あの人と私は、本質的に大きく違わない。」
ここまで淡々と語れるようになるまで、彼は長い時間、悩み続けてきたのだ。
今では、もう傷つく余地すら残っていないほどに。
公爵は返事の代わりに、小さな刃を取り出して差し出した。
意味を理解したノアが、問いかける。
「この場で、検分なさるおつもりですか?」
「曖昧な推測は、王子……バレンタインの助けにはならないだろう。」
彼は、少し前に自分を「兄」と呼んだことに合わせ、呼び方と口調を改めた。
「……同意するか?」
「最初から、私がお願いしたかったのは――これです」
そう言って、バレンタインもまた、懐から小さな刃物を取り出した。
護身用として常に携えているのだろう、細身で鋭い短剣だった。
二人は互いに腕を重ねる。
それぞれの刃が、まるで契約を交わす儀式のように、相手ではなく自らへと向けられ、引き締まった筋肉の上に、細く赤い線を刻む。
そこに、ためらいの色は一切なかった。
腕を伝って流れ落ちた熱い血が、ぽたりと床へ滴り落ちる。
次は、ノアの番だ。
彼が掌で印を結ぶと、それぞれの血は丸い雫となって宙へと浮かび上がった。
マクシミリアンとバレンタイン、それぞれの頭上へと到達した赤い珠は、やがて細い茎を伸ばしていく。
まるで別々の木の根が伸びていくかのように、その軌跡はまったく異なっていた。
そして、中央で互いに交わろうとするその先端には――ごく細く、かろうじて触れ合うかどうかの、数本の線だけが残されていて……要するに、そういうことだった。
「二人の血は、長い歴史の中で確かに重なり合う部分はあります。」
だが、誰が見ても、同じ父を持つ兄弟ではなかった。
ノアがそれ以上説明しなくとも、あまりにも異なる血の痕跡を見れば、誰にでも分かることだった。
「……最初で最後に、“兄さん”と呼んだことになりそうですね。」
場の空気があまりにも重くなりそうだったため、バレンタインが冗談めかして口にした言葉に、マクシミリアンは真剣な表情で答えた。
「私は、血のつながりで家族を区別しない。」
「……そう。」
その瞬間、バレンタインは、その言葉がクラリスを傷つけてしまったのではないかと不安になった。
しかし、ほどなくして、それが必ずしもそうではないと気づく。
マクシミリアンは、ライセンダーをずっと弟として扱ってきた。
彼と血がつながっていないと知った上で、それでも――。
「助かりました、魔法使い殿」
「いえ。私自身も、確かめたいことがありましたので」
ノアは二人の血を回収し、再び円環を描くように整えた。
そして、再び血が流れ出す。
先ほどと同じ、繊細な木の根のような形ではあるが、どこか――一見すると、血縁を調べる儀式にも見えた。
やがて、バレンタインとマクシミリアンの血は対称を描き、中央で完全に重なり合って、溶け合った。
「今回は、血縁を調べる魔法ではありません。そう見えるように、私が意図的に調整しただけです」
ノアは二人が誤解しないよう、そう付け加えると、血を再び分け、余分な分は携帯していた採取容器に丁寧に収めた。
「私が行うのは、場当たり的なごまかしではありません。このように魔法の純粋性を損なう行為を、軽々しく選んだこともない……ですが……」
ノアは、結局アルステアが王宮にどんな“土産”を持ち込んだ魔法使いだったのかを考えていた。
正直なところ、今に至るまで決定的な答えは見つかっていない。
だが、バレンタインの出生に秘密があると知った瞬間、ふと一つの仮説が頭をよぎった。
「もしかすると王室は、万が一の事態に備えて、血縁検査の魔法を偽装し、真実を覆い隠してくれる協力者を必要としていたのかもしれません。ちょうど魔法使いアストもまた、世界に残された母の魔法を消す方法を探すため、崩壊したゴーレムを開こうとしていた。――利害が一致した、と考えれば筋は通ります。」
「でも……変ね。」
クラリスが慎重に疑問を投げかけた。
「血縁検査って、結局は誰か別の人の血と比べるものよね?一体、誰の血と比べるつもりだったの?公爵様が正当でないことに協力するとも思えないし。」
「だからこそ、比較対象になる血が“残っていた”と考えるのが妥当でしょう。もっとも、今は魔法使いアストの話をする場面ではありませんが。」
ノアは肩をすくめると、再びソファの背にもたれかかった。
「まあ……正直に言えば」
腕に残った血をハンカチで拭いながら、バレンタインは少しのあいだ黙り込み、やがて静かに口を開いた。
「双子の話を初めて聞いた時から、あれをただの作り話だと思ったことは一度もない。どうしても、思い浮かぶ人物が……いたからな。うん」
「……ユジェニ?」
クラリスは、思わずそう口にしていた。
修道院で、あの二人がどこか似ていると感じたことは、何度もあったのだから。
――だが今は、バレンタインが話している最中だった。
自分が割り込んでしまったことに気づき、クラリスは慌てて謝ろうとした。
「やっぱり、お前もそう思っていたんだな?」
けれどバレンタインは、同じ考えを抱いていた者が他にもいたという事実に、むしろ少しだけ、安堵したような表情を浮かべていた。
「……あの子の顔を見るたびに、気分が悪くなった。理由は説明できないけれど、言いようのない違和感があって。」
「……」
「たぶん、あの子も同じだっただろうな。」
考えてみれば、誰に対しても公平なユジェニは、バレンタインの外見についてだけは、珍しく遠慮なく言葉を向けていた。
『二度と向き合いたくない顔です。生理的に受け付けません。』
以前は、それも“友達になっていく過程”なのかもしれない、と考えていた。
とてもよく似ているわけでもなく、かといってまったく違うわけでもない――そんな互いの顔を見たときに生まれる、言葉にしづらい不快感だったのではないか。
「明らかに他人なのに、時折、完全な他人とは言い切れないような居心地の悪さ。あの子と私の間には、確かにそれがあった。」
「私は、ユジェニを初めて見たとき、遠目から見て王子様と見間違えたこともありました。」
「……そこまでじゃない、と思うけど?」
「実は私……王子殿下の髪に、日差しが当たったときの色合いがとても好きなんです。
その……似ているじゃないですか」
――似ている、だなんて。
クラリスがあまりにも真面目な顔でそう言うものだから、バレンタインは嬉しさを隠しきれず、熱を帯びた顔を大きな手で半分ほど覆った。
自分が似ていると言われるのは、当然だと分かってはいた。
それでも、だ。
(なんて無神経な女性なんだ……)
つい先ほど、心を込めた求婚を捧げた相手に向かって、これほど淡々とそんな言葉を口にするとは。
ため息をつくバレンタインの背中を、ノアが軽く、ぽんと叩いた。
なぜ先ほどから、妙に彼を気遣うのかは分からないが。
その短い動揺に気づかぬまま、クラリスの話は続く。
「ユジェニの髪も、ちょうど同じような色でした。それに……何より、お二人が並んで立っているとき――」
言葉は、まだ続こうとしていた。
「雰囲気も、かなり似ていましたしね。」
「まあ、完全に同意できるわけではありませんが、二人に似たところがあるのは事実でしょう。」
ノアもそれに簡単に同意した。
「……その子の名前は?」
二人の会話に耳を傾けていたマクシミリアンが、慎重に問いかけた。
「ユジェニ・マクレドです。」
「マクレド、マクレド……」
マクシミリアンは唇の端で、その聞き覚えのある名を何度も反芻した。
すると、古い記憶の奥から、ぼんやりと誰かの姿が浮かび上がってくる気がした。
「大王妃陛下の騎士の中に、その名を持つ者がいた。実際に関係があるかどうかは分からないが……」
ただ、曖昧な記憶の中で、マクレド卿はやけに王妃との距離が近かった。
その妙な間隔こそが、記憶に残っていた理由なのかもしれない。
そのユジェニ・マクレドという人物が、バレンタインの双子である、という点については、まだ断言はできない。
だが、単なる偶然と言い切るには、重なり合う影が描く輪郭はあまりにもはっきりしすぎていた。
「その子を修道院で見た、というのは……」
マクシミリアンは眉を寄せたまま、静かに問いを重ねる。
「公務試験を受ける準備をしている、ということか?」
「は、はい。ユジェニはとても優秀で……。もしかしたら、首席に近い成績で試験を――あ……」
クラリスは、そこで言葉を失った。
最優秀の成績で試験を突破した者は、新聞に名前と肖像が掲載され、多くの貴族から招きを受けることになる。
身分の壁を越えて、一気に名を上げる存在になるからだ。
だが――『バレンタイン王子には双子の兄がいる』という噂そのものが、アメルダが抱く疑念を裏づける、決定的な材料でもあった。
それにもかかわらず、なぜ彼女は今に至るまで、ユジェニを見捨てるような真似をしてきたのか。
その胸の内は、誰にも知り得なかった。
ただ平民の家に預けられただけで、特別な出来事は起きなかったと信じたかったのかもしれない。
あるいは――何か事情があって、あえて目を向けなかったのか。
いずれにせよ、これまで国と民を一体となって欺いてきたアメルダが、ユジェニのあまりにも輝かしい成功を果たして受け入れるだろうか。
この場にいる誰一人として、そんな楽観的な見方はしていなかった。
彼女はどんな手段を使ってでも、ユジェニを世間の目から隠そうとするはずだ。
たとえそれが、少し残酷な方法であったとしても。
自分自身を守るためなのだと考えれば、それも当然なのかもしれないが。
クラリスは絶望をにじませた目で公爵を見つめ、言った。
「それに……ユジェニは、今年の試験を……もう、見事に突破しています。」
処刑を終えて戻ってきたアメルダの部屋には、すでに幾種類もの書類が山のように積み上がっていた。
最近、ライゼンダーの健康状態がさらに悪化しているせいか、臣下たちはもはや王を経由せず、直接彼女のもとを訪れるようになっている。
普段であれば、こうしたことにもさほど苛立ちは覚えなかっただろう。
だが今日は、あの不快な処刑を直に執行してきたばかりだ。
些細な案件一つ、自分の判断だけでは処理できない息子の有り様に、苛立ちはどうしても募っていく。
――いつまで、あの気弱な子を甘やかし続けねばならないのか。
「陛下」
さらに別の書類を抱えた若い侍従が入ってきて、アメルダは露骨に眉をひそめた。
「今度は、何です?」
「恐れながら、陛下……」
侍従は、すでに机の上に溢れ返っている書類の山を一瞥すると、急いで姿勢を正した。
「以前ご命令なさっていた件かと思いまして、ご多忙と承知のうえでお持ちしました。」
「ええ。」
彼女はようやく、彼が持ってきたものが何なのかを理解し、険しかった表情をわずかに緩めた。
彼女には人材が必要だった。
しかも、どこの勢力にも属していない、純粋で聡明な平民の子であれば、なお望ましい。
そのため、今年の公務試験の結果が正式に発表される前に、高得点を収めた五名の名簿を持ってくるよう命じてあったのだ。
「もう結果が出たのですね。」
「今年は受験者が少なかったため、採点にそれほど時間はかからなかったそうです。ただし、合格者の水準は例年よりも高い。とりわけ今年の首席は、すべての問題において優れた解答を記した十六歳の少女です。将来を嘱望される逸材でしょう。」
侍従は、ひどく誇らしげな表情で、彼女に書類を差し出した。