こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
155話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 似たような想い
【試験が終わりましたので、以前お約束したとおり、北の城壁へ向かいます】
このように記されたユジェニーの手紙が届いたのは、ちょうどクラリスが、ユジェニーのことをマクシミリアンに話していた、その日のことだった。
【この手紙が届く頃には、すでに王都をだいぶ離れているはずです。馬車を借りて向かう予定です】
クラリスは、ユジェニーがいつか北の城壁へ来るだろうとは思っていた。
だが、これほど急いで向かってくるとは思っておらず、少なからず驚かされた。
――まだ、試験の結果すら出ていないというのに。
クラリスとしては安堵したい気持ちもあったが、同時に「もしかして何か起きているのでは」という不安も芽生えた。
[エビントンが答え合わせをしようと言い出して、間違った答えまで正解だと言い張るのに疲れてしまって、もう見ていられませんでした。]
ああ。
クラリスは、彼女が北へ向かってきた理由を即座に理解した。
(やはりベルビル家の血は、まったく変わっていないのね。)
そう呟きながらも、クラリスはどこかで彼に少しだけ感謝していた。
何にせよ、彼が強引に連れ出してくれたおかげで、ユジェニは試験結果を見ることもなく、王都を抜け出すことができたのだから。
彼女の正体が本当にヴァレンタインの双子の妹なのかは断言できない。
だが、あらかじめ彼女の安全を確保できた以上、後悔する理由はなかった。
クラリスがいない間、何事もなく眠れているのだろうか。
そんなことまで、ふと気になってしまう。
ユジェニーは、手紙にはいつも「大丈夫です」としか書いてこない。
それがかえって気がかりだった。
文字にできない別の悩みを抱えているのではないか――とりわけ、父親に関することなど。
(早く会えたらいいのに)
今、ノアとクラリス、そしてバレンタインは、ユジェニーを迎えに行くため、連れ立って移動している最中だった。
王都から北の城壁へ向かう道は、実質一本しかない。
険しい山道を少しでも避け、馬車での移動が可能なように整えられた街道で、北へ向かう旅人は必ずこの道を通る。
だから、ユジェニーと行き違いになる心配はなかった。
もっともマクシミリアンは、クラリスがこの旅に同行することに、実のところ反対していたのだが。
脚の傷が完全に癒えてからまだ間もないのだから、無理に旅をする必要はない――そう言われてはいた。
だが、クラリスの考えは少し違っていた。
ここは人の出入りが多いセリデンであり、彼らの話を直接聞けるのは彼女だけだった。
だからこそ、もし万が一の事態が起きたとき、迅速に状況を把握するためにも自分が同行すべきだと主張したのだ。
(もちろん、ユジェニを連れて行くだけなら、何か起こるはずもないけれど。)
クラリスは膝の上に丸まっているマランを、指先でそっと撫でた。
隣に座るヴァレンタインは、その様子をひどく不思議そうに見つめていた。
クラリスは、ここまで同行する理由を改めて説明し、ヴァレンタインに自分の秘密を打ち明けた。
「ゴーレムって、もともとあんなに……扱いにくいものなの?」
「私もよく分かりません。他のゴーレムを実際に見たことがないので……でも、マランは間違いなく可愛いですよね?」
クラリスはマランを手のひらに乗せ、顔の近くまで持ち上げて、そっと頬を寄せた。
「あなたに、よく似合ってる」
バレンタインの一瞬の感傷に呼応するかのように、クラリスにぴったりと張り付いていたマランが、右腕をぴんと持ち上げた。
「コオ!(翠に十点!)」
「え?いきなり何の話?」
クラリスが問い返すと、マランは再び、ぴょんと膝の上へ跳び降りた。
「コオ」
「……審査?」
マランはこくりと頷き、クラリスの鞄を指さす。
今日は、誰がどこで“別の石”の話を耳にするか分からない。
だからクラリスは、久しぶりに、すべての石を連れてきていた。
もしかすると――同じ袋に収められた鉱石同士で、何かが起きることもあるのかもしれない。
【ババン!私は“シシ”の後援者よ!私と一緒に“シシ”を守る鉱物は、意気込みをきらきら輝かせていらっしゃい!】
とりあえず、一人(?)は明らかに問題なさそうだった。
クラリスは、ずっと以前にノアから渡されていた赤い石を手に取った。
【少女、元来石は派閥判定を行っているわ。】
「コオ!」
【少女は公正よ。短い称賛ひとつで点数を与えるなんて、とても厳格な人だということね!】
「コオ!(赤に50点!)」
【素晴らしい判断ね。やはり外国から来ただけあって、視野が広いわ。】
マランは、赤い石にさらに10点を加えた。
クラリスは次に、もう片方の手にあるヴァレンタインから渡されたブローチを見た。
……と思ったのだが、どうやら今回は違うらしい。
緑色の宝石が、露骨に不機嫌そうに光っていた。
【ずいぶん公正ぶったことを言うのね。ただの称賛大会じゃない。なら――“クラリスは「世紀の美女」だって言ったら、百点くらいあげるの?】
装身具に嵌め込まれた宝石は、それぞれのやり方で主を慕うものだが、バレンタインのブローチは、まるで言葉を真似るかのような口調で、彼への愛情を表していた。
【それ、ただの事実じゃない?】
「コオ。(赤に百点!)」
【それをそんなふうに受け取るの?わあ、ほんとにずるいな】
「コオ。(緑、十点減点!)」
【違うってば。私はただ、クラリスが好きだから言っただけだって!】
「……え?」
不意に聞こえた“石の本音”に、クラリスは驚いて、思わずブローチを落としそうになった。
というのも、それはおそらくバレンタインの気持ちが、少なからず影響してしまった結果だったからだ。
「コオ!(緑の勝ち!)」
マランがそう叫んだ途端、赤い石が抗議するように、再び騒ぎ始めた。
クラリスは、ひとまず石たちをもう一度ポーチにしまった。
どうやら彼らの言い争いは、しばらく収まりそうにない。
……考えてみれば、ユジェニーのことを心配しているヴァレンタイン王子について、きちんと向き合って考える余裕がなかった。
クラリスは、そっと隣に座るヴァレンタインを振り返った。
「どうした?」
いつもと変わらない様子で、どこかとぼけた調子の返事が返ってくると、クラリスは慌てて首を横に振った。
「いえ、何でもありません」
少し妙な気分だった。
『真心はもう、私の中に満ちあふれている。あなたから受け取らなくても、十分なくらいに』
いつも冗談ばかり言っているヴァレンタインの口から、そんな言葉が出てくるとは思ってもいなかったのだ。
――どうすればいいのだろう。
彼が差し出した“真心”が、どれほど美しく、どれほど尊いものなのかは分かっているのに。
だからこそ、クラリスは誰よりもよく分かっていた。
自分自身も、かつて似たような想いを抱いたことがあるから。
(だから、どう考えればいいのか分からない……)
誰かの気持ちを秤にかけるようなことをしている気がして、それがどうにも、落ち着かなかった。
(そのまま、大切にしたい……)
――けれど、それも正しいとは言い切れない。
クラリスが、彼に同じ想いを返せるわけではないのだから。
(ああ、もう……どうしたらいいの……!)
そう思い、両手で顔を覆った、その瞬間――
ガタンッ!
突如、彼女たちの乗る馬車の車輪が何かに引っかかったのか、大きく揺さぶられた。
身体がふわりと浮くほどの衝撃に、このまま前へ倒れ込んでしまいそうになったが、咄嗟にバレンタインが彼女の腕を強く掴み、最悪の事態はどうにか免れた。
それは、確かに幸いなことだった。
その瞬間、彼はふらりと体を傾け、片方の頬がクラリスの肩口あたりに軽くぶつかり、「ぺしっ」と鈍い音を立てて倒れかけた。
「こほっ」
痛かったのだろうか。
ヴァレンタインは咳払いをした。
「……あ」
クラリスはそっと顔を上げた。
心の中では「この人、本当にもう……」と、半ば呆れ、半ば怒りを覚えながら。
「……だ、大丈夫?」
「え?」
「い、いえ、その……わざと強く引いたわけじゃなくて……」
驚いたことに、ヴァレンタインはひどく照れていた。
いつもなら真っ直ぐにクラリスを見つめてくる彼の視線が、今は落ち着きなくあちこちをさまよっている。
「王子様、顔、真っ赤ですよ」
その態度からにじみ出る真剣さが、なぜかクラリスまで恥ずかしくさせてしまった。
――そういえば、距離が少し近すぎないだろうか?
「それと……手は、離してくれると助かる」
彼がどこか唇を引き結ぶようにしてそう言ったので、視線を落としたクラリスは、気づいた。
自分が、何気ないふりをして彼の膝のあたりに手を置いてしまっていることに。
「ご、ごめんなさい!重かったですよね!」
クラリスは慌てて手を引っ込め、彼から少し距離を取った。
「いや、重いとかじゃなくて……ああ、もう」
彼は反対側の壁にそっと頭を預け、大きく息を吐いた。
「……行こう」
「……はい」
これ以上話を続ければ、互いに気まずくなるだけだ。
そう感じたクラリスは、小さく頷き、反対側の窓際へと急いで移動した。
そして、その時になってようやく気づく。
なぜか、同じように馬に乗って並走していたノアが、こちらへと馬を寄せてきていることに。
視線が合った瞬間、彼はびくりと肩を震わせ、慌てて顔を背けてしまった。
なぜかクラリスも、これ以上彼を見ることができず、そっと視線を落として、手にした鞄だけを見つめていた。
馬車が大きな石に乗り上げて大きく揺れた瞬間、ノアは驚いて、反射的に馬車の中を振り返った。
開いた窓の向こうで、比較的体の軽いクラリスが浮き上がるのが見えた。
一瞬、彼の手に魔法が宿る。
だが、それよりも早く、すぐ隣にいたヴァレンタインが動き、彼女はそのまま彼の腕の中へと強く引き寄せられてしまった。
どうしよう。
これは、ただヴァレンタインがクラリスを助けただけだと分かっているのに、それでも抑えようのない屈折した感情が、胸を締めつけるように疼いた。
それが哀しみなのか、怒りなのか――自分でもはっきりとは分からない。
ただ一つ確かなのは、バレンタインは十分に立派な男であり、クラリスにとって、現実的な助けを差し伸べられる立場にあるということだった。
一方で、ノアの持つ力といえば――彼女を、この地から遠くへ連れ去ることができる、ただそれだけ。
愛する人々のそばで生きることを選んだ彼女にとって、その力は、決して大きな助けにはなり得なかった。
(しかも今や……彼女があれほど好意を向けていた“あの石”さえ……)
ノアは、顔を覆っていた仮面がずれ落ちないよう、素早く整えた。
彼らが馬車に揺られ、ほぼ一日を費やして走り続けた末。
[金髪のお嬢さんが乗った馬車が、反対側から来ていますよ、少女。]
ちょうど手の中にあった赤い石が、風に乗せてそんな話を伝えてきた。
「ユジェニかしら?」
[それは分かりません。ただ、今回も確認しておいたほうが良さそうですね。]
彼らは、やがて反対側から来る馬車とすれ違う際、さりげなく挨拶を交わすふりをして、その中にユジェニが乗っていないかを確かめた。
クラリスは、今も馬に乗って走るノアを眺めていた。
かなり疲れているはずなのに、彼は意地を張るように、ヴァレンタインと交代せず馬に乗り続けていた。
――私、そんなに邪魔なのかな。
あれだけ怒ってしまったから、愛想を尽かされてしまったのかもしれない。
……つらい。
クラリスは赤い石にそっと触れた。
ノアの顔にある石に触れたときと、よく似た感触だった。
不謹慎かもしれないが、なぜか――少し、気分が良かった。
自分でも分かるくらい、どこか歪んだ感情だとは思うけれど。
「ノ、ノア」
クラリスは、少し離れた場所で馬に乗っている彼を呼んだ。
距離があるせいで聞こえないのでは、とも思ったが、ノアは一度で気づき、すぐに馬を寄せてきた。
「どうした?」
「風向きが変わったみたい。次にすれ違う馬車に、金髪の女の人が乗ってる」
「……分かった。先に行って、確認してくる」
「待っ――」
止めようとしたが、ノアはすでに馬腹を蹴り、前へと走り出していた。
「また何か問題か?」
「え?」
すぐ後ろから、バレンタインが小さくぼやいた。
「まるで、告白して振られた直後みたいな顔してるぞ」
「……ノアに?」
「他に誰かいる?」
「ううん、ノアはただ……不機嫌なだけだと思います。私が怒っちゃったから」
「じゃあ、君が謝らないといけないな」
「それだけは絶対に嫌です」
クラリスはきっぱりと手を挙げ、そう言って拒んだ。
ノアがしたことに腹を立てているのは、今も変わらない事実だった。
もしあのとき、何かが少しでも違っていたら……クラリスは今ごろ、まったく別の世界で生きていたはずなのに。
「じゃあどうするんだ?このまま気まずくしておくつもりか?」
「どうして急に、王子さまのほうが不機嫌なんですか?」
「君が落ち着かない様子をしてるのが、目に入るからさ」
クラリスが言い返せずにいるのを見て、彼はなぜ彼女を気にしてしまうのかを、あえて言葉にするように、にっと笑って続けた。
「俺、君のことが好きなんだよ。ばかだな、忘れたのか?」
「……っ、ち、違います!」
「よかったな。じゃあ――俺の機嫌が、お前次第だってことを肝に銘じて、全力で俺を喜ばせるようにしろ。いいな?」
……どこかおかしな言い回しだった。
けれど今は、それを深く突っ込んでいる余裕もなく、クラリスはとりあえず「分かりました」とだけ答えた。
そしてちょうど、向かい側から一台の馬車が姿を現した。