こんにちは、ちゃむです。
「家族ごっこはもうやめます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

183話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- カミーラ⑦
春が真っ盛りの5月。
カミーラはほぼ毎日、邸宅を出てはそわそわしながら戻ってきた。
ラルクは屋敷から出ることができないので、いつの間にか使用人たちに彼女の行動を尋ねるのが日課のようになっていた。
「彼女は?」
シュレマンが定期報告をしながら答えた。
「カミーラ様は午前中に出かけて、まだ戻っておりません。本日は3時頃に戻るとおっしゃっていました。」
「……そうか。」
彼は特に重要ではない話を聞いたかのように顎を触り、シュレマンに下がるように告げた。
そして寝室に一人きりになるやいなや、眉間をぎゅっとつまんだ。
「一体どこをうろつき回ってるんだ?」
彼は神経質にカーテンを開けて正門を見下ろした。
彼女は無事だった。
彼女に新たにかけた保護魔法は、人間の力では到底破れないレベルだ。
それでも彼は不安で落ち着かなかった。
自分がなぜこんな苛立ちを感じているのか、理解できなかった。
「くそっ。」
屋敷から出られないのがこんなに不便だなんて。
ラルクは神経質に髪をかき上げ、指先で額をなぞった。
視野が正門前に切り替わる。
あそこを出れば何が起こるのか、彼にはあまりにもよくわかっていた。
だから出ていけなかった。
ただ門のすぐ近く、最も近い正門前で、彼女を待つしかなかった。
時間が流れ、彼女が言っていた午後3時頃、何か予感がした。
透明化の魔法を解いた彼女が正門を通って入ってきたのだ。
彼女はラルクを見ると、急いでバタバタと駆け寄ってきた。
「ラルク!ラルク!」
その無鉄砲な行動を見て、ぴんと張り詰めていた神経が少し緩んだ。
今にも誰かを刺しそうな雰囲気も和らいだ。
「私のこと待ってた?」
その言葉を聞くなり、ラルクは眉間をぎゅっとひそめた。
「誰が?」
そっけない返事だったが、カミーラはすべてお見通しのように笑った。
「あなた、私と遊ぶの好きでしょ。」
「狂ったの?」
ラルクは何度も問い詰めた。
それもカミーラには通じなかった。
「ちょうどよかった。これ、あなたへのプレゼント。」
ラルクはずっと困惑した表情のまま、彼女が差し出した箱を受け取った。
カミーラは箱を受け取ったまま開けもせず、ぼんやりと自分を見つめるラルクを見つめ返した。
「開けてみて、早く。」
ラルクは本当に面倒くさい女だと思いながらも、内心では箱の中身が気になり、しぶしぶ開けてみた。
中には黒いマントが入っていた
。一目見ても非常に高級な素材で、かなりの価値がありそうだった。
黒いマントの上には赤いバラが一輪置いてあった。
「どう?」
カミーラが最近ずっと外に出ていたのは、ラルクにプレゼントをあげたくてお金を稼ぐためだった。
そうして一生懸命使用人の仕事をして稼いだお金を少しずつ貯めて宝石を買った。
服を一着ちゃんと仕立ててあげたかったが、ブティックの商品を手に入れるには一年は働かないといけなかった。
ラルクは彼女に尋ねずとも、これまでの外出が何のためだったのか察しがついた。
「……。」
そして彼女は約束通り、5月に咲いた赤いバラを彼にプレゼントした。
胸がぎゅっと締めつけられるような気持ちだった。
深呼吸したい気分だった。
表情を崩したくなかった。
ラルクは一人で考え込んだ。
これは怒っているのか?
それとも喜んでいるのか?
カミーラは「ありがとう」という言葉を言うつもりもなかったのか、呆然と立ち尽くしているラルクの耳にバラの花を挿した。
「きれいだよ、ラルク。」
単なるふざけた冗談のように笑いながら。
「……こんなの、なんで買ったの?どうせ僕は外出もしないのに。」
カミーラは彼に「なぜ外に出ないのか」とは聞かず、代わりにいたずらっぽく微笑んだ。
「黒いマントをまとった公爵なんて、黒い邸宅の主人っぽくていい感じじゃない? 面白そうだから買ったの。」
ただその理由で一ヶ月近く外に出て苦労したっていうのか?
彼は呆れたように皮肉を言った。
「馬鹿だな。」
するとカミーラがすかさず答えた。
「そうよ。私は馬鹿だもん。」
「……。」
馬鹿だと素直に認められると、もう何も言えなかった。
それが腹立たしかった。
『本当に面倒な女だな。』
カミーラはぷっと笑いながら本当の理由を言った。
「あなたが誕生日を教えてくれないから仕方なかったの。誕生日プレゼントをあげたかったんだよ。」
ラルクは再びマントを見つめた。
「……」
やはり「ありがとう」という言葉は死んでも口に出さない。
代わりにマントを取り出して体に羽織った。
「かっこいい!」
カミーラが手をパチパチ叩いて褒めると、ラルクも仕方がないといった様子でくすっと笑ってしまった。
するとすぐに真顔になって言った。
「もともとかっこいいんだ。」
「うん、そんな気がする。」
彼女は悪びれもせずおちゃらけてラルクの手をぱっと握った。
それに驚いたラルクは手をさっと引っ込めた。
「何してるの?」
「いつまでもここにいるわけじゃないでしょ。移動しなきゃ。」
「でもなんで手を……?」
「何よ、冷たく私一人で歩いて邸宅に入れってわけじゃないよね?」
ラルクは何のことかいまいち理解できなかった。
彼は当然カミーラを連れて邸宅の内部に移動するつもりだった。
それにしても、空間移動するのに手をつなぐ必要があるのか?
『あ、まさか?』
そういえば以前彼女を連れて空間移動したとき、自分が彼女を抱きしめていた。
その記憶があるせいで、カミーラは接触しなければ空間移動できないと思い込んでいたのだ。
素人の魔法使いなら確かにターゲットと接触しなければならないが、ラルクは違う。
だからといって、今は接触なしでも移動できると説明するのも変な状況だった。
そうなると「じゃああのときはなぜそうしたの?」と聞かれたら困るからだ。
「……つかめ。」
彼が手を差し出すと、カミーラは待っていたかのようにすぐにつかんだ。
彼女は手のひらで住居を覆いながら、はっきりと唱えた。
「行こう、ラルク!」
ラルクはぬいぐるみをぶるぶると振りながら、無意識に唇をすぼめて手のひらを振った。
視界が彼の寝室に変わった瞬間、突然の揺れが起こった。
「うっ……!」
ラルクは慌ててカミーラの手を放し、よろめく足取りで麻酔薬を入れておいた棚の方へ向かった。
『油断していたな。』
まだ均衡が崩れることが頻繁に起こる時期ではないので、まったく警戒せずにいた。
いや、それすら忘れて生きていた。
自分が普通の人間になったかのように錯覚していた。
本当に鈍かったのは自分だった。
「ラルク!」
カミーラの叫び声が痛切に響いた。
ラルクは「大丈夫だ」と答えてあげたかったが、苦しげなうめき声しか出なかった。
早く、早く薬を飲まなきゃ。
彼は荒い手つきで棚を床に叩きつけるように引き抜き、床に散らばった薬瓶のひとつを慌てて手に取った。
その様子を見ていたカミーラは、全身をぶるぶると震わせた。
(どうして薬がこんなにたくさんあるの?)
ラルクはこれまで一度も具合が悪くなったことがなかった。
持病らしい様子も見えなかった。
そんな人がこんなにたくさんの薬を持っているなんておかしい。
「ラルク……あ、どうしよう……」
ラルクは床に倒れ込んだまま薬を握っていた。
「痛い?すごく痛いの?」
カミーラの声ははっきりと震えていた。
両目にはすでに涙がいっぱい溜まっていた。
その涙はもうすぐぽろぽろとあふれ出しそうだった。
『泣きそうだな。』
ラルクは力なく虚ろな目でカミーラを見上げ、答えることもできずに息を荒げた。
久しぶりに大きな発作が起きたせいで、落ち着くまで時間が必要だった。
「どうしよう……!私、私何をすればいいの?」
何もしなくていい、ただそばにいて。
「ごめんね。ごめん……。」
君は何も悪くないのに謝るのか?
これは俺の問題だ。ほんとに鈍いな。
ラルクはそう叫びたかった。
カミーラはいつも強気に見えていたラルクが答えすらできずにいるのを見て、さらに大きな衝撃を受けた。
顔がどれだけ青ざめたのか、髪の毛と色が区別できないほどだった。
彼女はわんわん泣きながら叫んだ。
「ラルクが倒れました!」
その言葉にラルクは一瞬うろたえた。
あまりの困惑に、震える声で彼女をなだめようとして口を開いた。
「いや……」
(倒れてないけど?)
カミーラは彼が止める暇もなく、まるで悲鳴のように叫びながら外へ飛び出していった。
「マーガレットさん!シュレマンさん!ミネ!ラルクが倒れました!」
ラルクは唖然として目をぱちくりさせながら、彼女の後ろ姿を見送って凍りついていた。
「……バカ。」
まるで正気を失って、目を開いたままの人に言うようにつぶやいた。
ラルクは呆れたような表情でくすっと笑い、やがて肩をすくめた。
彼は手のひらで目元を覆い、さらに大きく笑ってしまった。
『本当に驚かせる女だな。』
やがて笑顔が戻った。
手のひらの隙間から差し込む光の中にバラが見えた。
彼は思わずしゃがみ込み、耳に挿していたバラが床に落ちていた。
もう5月か……。
『時間ってこんなに早く過ぎるものなんだな?』
そう思いながらも、すぐに静けさが終わりそうな予感がした。
「いつまでこうして過ごせるんだろう、カミーラ?」
君の言う通りだよ。
私は君と一緒にいる時間が楽しいんだ。
生まれて初めて、楽しいよ。
まるで普通の人になったような気がする。
これが「幸せ」ってやつなのかな?
彼は目を覆った手にぎゅっと力を込めた。
泣くのをこらえるように喉にこぶしが浮かんだ。
幸せってさ、すごく痛いね。
すごく、苦しいじゃないか……。







