悪役なのに愛されすぎています

悪役なのに愛されすぎています【120話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【悪役なのに愛されすぎています】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介...

 




 

120話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 奇妙な異動

クロードは机の前に座り、ペンを握ったまま、目の前の男をじっと見つめていた。

やがて、その手が小刻みに震え始め、ペン先についたインクが細かく揺れ、白い紙の上に新しい曲線を描くようにして滲んでいった。

「大丈夫ですか、坊ちゃま。」

驚いた様子で、目の前にいたイサヤが心配そうに近づいてきた。

「だい……じょうぶです。」

「顔色がよくありませんよ。」

「一時的な症状です。」

クロードは気丈に振る舞っていたが、イサヤ・マルンはそんな彼を頭の先から足元まで、じろりと観察した。

几帳面さだけを考えて仕立てられた騎士団の制服を着ているにもかかわらず、彼からはどこか獣のような本能的な気配が漂っていた。

――それも、幼い頃から徹底的に鍛え込まれた野生動物のような。

感情を抑えるのが巧みで、礼儀作法も完璧な――まさに「立派な騎士」……。

「立派な騎士」という言葉を思い出した瞬間、クロードの眉間がぴくりと動いた。

確かにイサヤは優秀な騎士だ。

その証拠に、模擬戦の大会で優勝したこともある。

だが、クロードがその事実を素直に肯定的に受け入れられるかというと――それはまた別の話だった。

「えっと、坊ちゃま……?」

「何でしょうか?見ての通り私はとても忙しいのです。せっかくいらしたのですから、要件を手短にお願いします。」

「坊ちゃまのペン立てが壊れてしまいました。」

その言葉にクロードが視線を落とすと、本当にペン立ての半分がぱっくり割れて、机の上に転がっていた。

「……何か書類で腹を立てるような内容でもあったようですね。」

――腹を立てる原因は、あなたですけどね。

有能な騎士デダが、屋敷の者たちをまとめるその冷静さとは裏腹に、内心では静かにそう呟いていた。

イサヤは周囲でもかなり人気のある人物だった。

――もしかすると、神が不公平であることを証明するために生まれてきた存在なのではないか、とすら思えるほどに。

クロードは生まれてから二度目となる、強烈な敗北感に襲われ、完全に打ちのめされた気分になっていた。

「……ふぅ。」

彼は軽くため息をつきながら、額にかかった髪をかき上げた。

「もう落ち着いたので、話してください。マルン卿、何事ですか?」

「……お母上から、お手紙が届きました。」

クロードは一瞬、動きを止め、すぐに鋭い視線を向けた。

どこか期待を含んだような目つきで。

「そんなに期待していらっしゃるようでしたので、お伝えに来ましたが……」

イサヤは少し気まずそうに視線を逸らし、咳払いをした。

「メルに関する話は一言もありませんでした。お母上には、まだ何も伝わっていないようです。」

「……うむ。」

期待が裏切られたせいだろうか。

クロードの背筋がわずかに震えた。

「はぁ……。」

メロディには、皇帝の寵愛を受けるに値する過去があった。

そのような人物が、イサヤの家に身を寄せるなどあり得ない――クロードはそう考えていた。

それでも、わずかな可能性にすがってここまで探ってきたのだ。

「卿の屋敷にもいなかったとは……。本当にどこで暮らしているのやら。」

クロードは窓の外に目をやった。

彼女の行方を追うつもりはなかったが、時折こうして胸の奥から湧き上がる好奇心と心配を抑えきれなかった。

「メルン卿。」

メロディへの思慕が募りすぎる前に、クロードは視線を戻した。

「知らせてくれて感謝します。」

「……別に。」

イサヤは一瞬、暗い表情を見せながらも、すぐに微笑んで答えた。

「誰よりも、あなたこそが適任だと思いまして。」

「ありがとうございます。しかし……新しい役職というのは、それほどのものなのでしょうか?」

最近、屋敷の中でカンナンコンの花瓶を割って以来、イサヤの役職は突如として変更されることになった。

正確に言えば、ロレッタが彼のために砂糖作りを始めてからというもの、奇妙な“異動”が発令されたのだ。

しかも、かなり骨の折れる仕事である。

「正直に言えば、あまり名誉ある仕事ではありませんが……一応、命じられたことですので。」

イサヤの新しい役職は、クロードの護衛兼随行として、外出時に目立たぬよう後ろに付き従うというものだった。

「……あの、本当に大丈夫なんですか、坊ちゃま?これまで護衛は常に三名体制だったのに、突然わたし一人だけになるなんて……不安ではありませんか?」

イサヤは一人でクロードの護衛全てを任されており、その責任の重さに不安を覚えるのは当然のことだった。

疲労の色が濃い彼を見ても、クロードはただ穏やかに微笑みを返した。

「その代わり、卿には三本もの名剣があるじゃないか。」

「剣を振るえる腕は二本しかありません!」

「大丈夫、私を加えれば四本になる。」

「任官の時、坊ちゃまが直々に戦うとおっしゃるのは聞いたことがありませんでしたが。」

「その時は戦う必要がなかったからですよ。」

イサヤは思わず口をつぐんだ。

“今は戦う必要がある”――彼の言葉は、そう聞こえたからだ。

「……それなら、より多くの護衛をつける方が安全かと存じます。」

「私も、できることならそうしたいのですがね……うむ。」

クロードは軽く顎に手を当て、何かを考え込むように黙り込んだ。

「……卿以外に、信頼できる人間がいないのです。」

「え……そう言いながら、ついさっきまで私のことを怖い目で見ていませんでした?」

「それは……すみません。ちょっと嫉妬してしまいまして。」

彼が軽く目を細めて笑いながら言うものだから、イサヤは一瞬、言葉を失ってしまった。

「坊ちゃまが……私に嫉妬、ですって?!」

役職が変わってからというもの、イサヤにはひとつ実感したことがあった。

――クロード・ボルドウィンの人気が、常軌を逸しているという事実だ!

彼が出かける先々では、花束や贈り物が山のように積み上がる。(しかも、それを運ぶのはイサヤの役目だった。)

馬車を少し停めただけで、必ず誰かがこっそり近寄ってきて、ドアの隙間に手紙を差し込んでくるのだ。

最初の頃、イサヤはてっきり敵襲かと思い、馬車の天井に張りついて緊張していたほどだ。

舞踏会に行けば、あまりの視線の集中ぶりに気が遠くなるくらい――。

その中に不穏なものが混じっていないか確認するのも、イサヤの重要な仕事だった。

そのおかげで、クロードが外出から戻るたびに、イサヤは疲労困憊した顔で迎えることになっていた。

そんなクロードが、イサヤを嫉妬するなんてありえない。

もし嫉妬する側があるとすれば、それはむしろイサヤのほうだ。

何しろクロードは人望が厚く、そのうえ――あのメロディの関心までさらってしまったのだから。

「坊ちゃま、もし私を苦しめたいがために護衛を増やさないのだとしたら……お願いですからやめてください。すでに私は十分すぎるほど苦労しております。」

「苦労」と聞いて、クロードはかすかに愉快そうに笑みを浮かべた。

「誤解ですよ。まさか、あなたのように優れた騎士をわざと苦しめたいなんて思いますか?」

「そうでないなら、この過酷な人員配置の理由が説明できませんね。本当に、卿以外に信頼できる人はいないのです。」

「それって……いったい、どういう種類の“信頼”ですか?」

「それは……」

クロードは一瞬、言葉を切って沈黙した。

「……卿が、私よりも大切に思っている人がいると、私は信じています。」

従者が主君よりも優先される存在がいるなど、本来なら考えられないことだ。

だが、クロードはイサヤのそうした点を非常に高く評価していた。

「もしもの事態に、あなたがどんな選択をするか――それを私は安心して見届けられるでしょう。あなたは私に忠誠を誓っている騎士の中で、唯一、私よりも別の誰かを優先する人だから。」

つまり、最悪の状況になれば、メロディを優先して守ってくれるだろう――という意味だ。

……とはいえ、イサヤとしては少し複雑な気分だった。

なぜだか胸の奥に、釈然としない違和感が芽生える。自然と眉がひそまった。

メロディはごく普通の男爵家の娘だった。

それも公爵の庇護下にある――そんな彼女の命が危険にさらされることなど、ありえるのだろうか?

「知りたいことがたくさんあるんですね、メルン卿。」

「坊ちゃま。」

「そのうちお話ししますよ。旅の道中は、穏やかに会話を交わすにはうってつけです。……お父上もそうおっしゃっていたでしょう?」

その言葉に、イサヤは今朝公爵から受けた命令を思い出した。

「はい。坊ちゃまが地方へ行かれると伺いました。」

「地方、ね。」

クロードは笑いながら肩をすくめた。

「ベルホルドはそんな田舎ではありませんよ。中規模都市といったところです。神殿くらいは建っているでしょう。」

「ま、まさか……その“地方の神殿”まで行かれるおつもりではないですよね?」

イサヤは思わず顔をしかめた。

神殿の前で騒ぎを起こしたあの件が広まって以来、どこへ行っても神官たちの鋭い視線を浴びるようになってしまったのだ。

もともと神殿と公爵家はあまり良好な関係ではなかった。

そこに「公爵の騎士が神殿を侮辱した」という噂が広まれば、神官たちが冷ややかな目を向けてくるのも無理はない。

そのため、気まずさを感じたイサヤが神殿を避けるようになるまで、そう時間はかからなかった。

「実は、神殿に行く予定はなかったのですが……卿がそこまで渋るなら、逆に興味が湧いてきましたね。」

「やっぱり私を困らせたいんですね?!もう、勘弁してください!」

「いや、どうしても行かねばなりません。ベルホルドの神殿で、メロディ嬢の帰還を祈願したいのです。」

「そ、そんな田舎の神殿で祈ったところで、何の効果もありませんって!坊ちゃま、お願いしますから!」

「どうしてです?もしかしたらメロディ嬢が“ぱっと”現れるかもしれませんよ。卿と私の祈りが心からのものであれば、という話ですが。」

クロードが肩をすくめながら軽口を叩くと、イサヤは「そんなはずありません」と眉をひそめた。

 



 

ロレッタは溶かした砂糖を練って作った飴玉を、そっと窓辺に並べていた。

きれいな翡翠色の色粉を混ぜたおかげで、まるで小さな魔法石のようにも見える。

「これ、こうして乾かしておけばいいのね?」

「はい、お嬢様。本当にお上手に作られました。とても素敵な贈り物になると思います。」

ロレッタは、その飴をエバンに渡すところを想像してみた。

――「お嬢様が作られたんですか?本当に?とても……ロレッタもすごく可愛い……』

彼は愛らしい瞳をきらきらと輝かせながら、嬉しそうにそう言ってくれたものだった。

もしかすると、あの砂糖よりもロレッタのほうがずっと綺麗だという褒め言葉も、おまけについていたかもしれない。

エバンはいつも、そんなふうにロレッタを褒めてくれたのだ。

『エバンがそう言ってくれるなら、本当に綺麗なんだろうな……』

ロレッタは、天使のような彼の顔を思い浮かべ、思わずくすっと笑ってしまった。

「そんなに嬉しいんですか?」

「うん。エバンがそれを食べて喜ぶ姿を想像したら、なんだか幸せになっちゃって。勉強で疲れたときに食べてって言ってあげるの。」

彼女がエプロンを直しながら語ると、ハナがそれを聞いて思わず吹き出した。

「マルン卿が……勉強、ですか?」

「うん。」

ロレッタはあまりにも驚いて、しばし口を開けたまま固まってしまったが、すぐに冷静さを取り戻した。

「うん、これは秘密なんだけどね。マルン卿、勉強――」

「本当に……たくさん作ったのね。」

「意外ですね。いつも花瓶を投げたり拾ったりしてばかりだと思ってました。」

「ははっ。」

ロレッタはその言葉を笑顔で受け流し、スカートの裾をつまんで壁際まで歩き、椅子に腰を下ろした。

「じゃあ、私は部屋に戻るわ。注文していたドレスが届いたから、試着しなくちゃ!」

そう言って彼女は軽やかに部屋へ戻っていった。

今日試す予定のドレスは、少し特別なものだった。

というのも――それはロレッタが自分の意志で初めて選び、購入した服だったのだ。

これまで彼女は、クロードやメロディが選んでくれる服を嬉しそうに着るだけで、自分から何かを選ぶことはなかった。

けれど久しぶりにエバンに会うと思うと、なぜかロレッタは少し背筋を伸ばし、洗練された装いをしたいと思ったのだ。

――都の流行に流されすぎず、けれど上品で華やかに。彼に素敵な姿を見せられるように。

侍女たちの手を借りてドレスに着替えたロレッタは、鏡の前に立ち、そっと裾を持ち上げた。

淡い緑が混じった灰色のチュールレースが、足元までふんわりと広がる。

普段は暗い色を選ばないロレッタだったので、似合うかどうか少し心配だった。

だが、このドレスを着た彼女の顔は、いつもよりもずっと明るく、華やかに見えた。

「お嬢様、すっかり大人になられたみたいです。髪型も変えてみましょうか?」

侍女は、いつも両側でまとめて垂らしていたロレッタの髪を長く伸ばしてゆるく整え、ふんわりとしたスタイルに仕上げてくれた。

「わぁ……!」

ロレッタは裾を両手でつまんだまま、鏡の中の自分をじっと見つめた。

「わ、私……まるで立派なお嬢様みたい……!」

これなら、屋敷にやって来るエバンにも胸を張って会える――そう思えるほどだった。

――これなら十分、印象に残るはず。

『もしエバンが私のことを好きになりすぎて、塔に帰りたくなくなったらどうしよう?』

そんなことを考えると、少しでも立派に見えたくなる。

だがロレッタは、結局のところその考えを振り払った。

やっぱりエバンの前では、一番素敵な自分でいたい。

『エバンが塔に帰りたくないって駄々をこねたら、そのときはちゃんと抱きしめてあげなきゃ。誰が何を言っても、絶対にぎゅっと抱きしめてあげるんだから!』

今回もきっと、エバンの胸にはあの翡翠色の魔法がいっぱいに溢れるはず――。

『そうなったら……。』

彼女は小さな手で自分の胸のあたりをぎゅっと押さえた。

魔力の気配は感じられなかったけれど、どこか胸の奥が少し軽くなった気がした。

たぶん、あの緑の魔法はすでに消えてしまったのだろう。

『この寂しさも、少しは消えるはず。うん、きっと大丈夫。』

――きっと、もっと素敵になれる。

エバンに会って、あの綺麗な魔力をたっぷりと、この胸の奥まで満たすことができれば……。

ロレッタは鏡に映る自分に向かって、そっと微笑みかけた。

『だから……もう少しだけ、頑張ろう。ロレッタ・ボルドウィン。』

 



 

 

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