悪役なのに愛されすぎています

悪役なのに愛されすぎています【95話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【悪役なのに愛されすぎています】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介...

 




 

95話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 不思議な感情

「“正式な異議申し立てが来るわけがない。”」

クロードのその言葉は事実だった。

その後、ミドルトン家からの連絡は「再訪問する予定がある」というお知らせだけだった。

しかしメロディは、彼が再び訪ねてきたその日にどうしてそんなふうに行動するのか、聞いてみることにした。

「うん。」

彼女の質問に彼はきっぱりと口を開いた。

ただし、メロディの後ろに座っている家庭教師の存在に気づかれないように、少し声を落として。

「……恥ずかしいから。」

「何がですか?」

「そういうのがあるんだ。」

そう言ったスチュアードが「子どもにそんな……」と途中で言いよどんだことで、メロディは彼の考えを察することができた。

「ごめんなさい。ロニーはたぶん悪意があってそんなことをしたんじゃないんです。悪い人じゃないんですよ。」

メロディが差し出した弁解に、スチュアードは少し驚いた表情をした。

「どうしてそんなことを?」

「え、あなた……知らないの?」

「何を?」

「知らないって?何も?本当に?」

質問のたびに彼の顔にはますます驚きが浮かんでいった。

どうしてそれを知らないなんて言えるんだ、というように。

「……仕方がないじゃないですか。私には誰も教えてくれないんです。」

その言葉がおかしかったのか、彼は腰をかがめてしばらくクスクスと笑った。

「ああ、本当にかわいいな。」

その感嘆はメロディの表情をさらに困惑させた。

それに気づいた彼は手を振って慌てて説明を加えた。

「いや、そうじゃなくて、公女様のことだよ。なるほど、何も聞いてなかったんだな……。」

彼はゆっくりと椅子にもたれかかり、背もたれまでよりかかった。

「まったく、本当に知らなかったんだね。」

それは試験場で彼が彼女に言った言葉と似ていた。

「なぜ、私の言っていることが間違ってるって言うの?」

彼は両目に力を込めていた。反論があるなら何でも言ってみろ、と言わんばかりに。

「間違っていません。」

「は、ようやく認めたな。」

「でも、私が公爵の愛を受けているからといって、あなたが皮肉を言う理由にはなりません。」

彼が何か言い返そうとすると、メロディは少し声を強めて言った。

「何よりあなたが『ミドルトン氏』なら、その家門には何の汚点もないということをご存知のはずです。」

メロディは彼の家門の名に、力強く訴えかけた。

地方の小さな貴族であるミドルトン男爵家は、すでに皇室記録官を三人も輩出した家門だった。

スチュアードが試験に志願したのも、そんな家門の歴史を受け継ぐためだったのだ。

……たとえ不合格だったとしても。

彼は少しメロディをじっと見つめた後、あきれたように椅子の背にもたれかかった。

「……そうだな、誰が通るかよ。最初の試験が筆記だなんて思いもしなかったよ。」

彼は肘をついたまま、不満げにぶつぶつと文句を言った。

「確かに、あれはちょっとひどすぎましたね。」

「でも合格する人はいたし、結局俺が落ちたってことは、俺ができなかったってことだろ。」

彼のため息まじりのぼやきに、メロディは何も答えなかった。

家庭教師が厳しい声だけが静かな部屋に響き渡ると、彼は顔をしかめて尋ねた。

「……普通は誰かが落ち込んでたら、礼儀としてでも『そんなことありません』って言ってくれない?」

「……あ。」

メロディはようやく軽く手を叩き、ようやく彼の望む答えを返した。

「そんなことありません。」

「もういい。」

彼は大きく手を振った。

「こんな子どもと口論するなんて、まったく馬鹿げてる。」

たしかにメロディは彼より六歳も年下だった。

しかも彼とメロディ、そしてボールドウィン公爵との間には良くない出来事もあった。

スチュアード・ミドルトンは、家門の大人たちが最初にこの縁談を提案したとき、必死にやめてほしいと願った。

しかし返ってきたのはただの嘲笑だけ。

「試験にも落ちたくせに、言われた仕事すらこなせないというのか?」

その冷たい言葉に、スチュアードは何も返せなかった。

一応、ミドルトン家では彼が試験に落ちて戻ってきたことに深く失望していた。

しかし、隣にヒギンスの娘がいたという事実にはかなり喜んでいた。

この縁を利用できるのではないかと。

『でも、そうなるにはあまりにも遠くまで来てしまった。』

彼はお茶をすべて飲み干して席を立った。

馬車夫に適当な金を渡し、街で時間をつぶしてから戻ろうと考えていた。

「今日ももう帰られるんですか?」

「うん。君もその方が楽だろう。」

「そ、それは……そうですけど。」

わかってはいるが、という気持ちだった。

彼はできることならメロディの頬をぎゅっとつねってやりたかった。

「じゃあな。」

邸宅に到着し、スチュアート・ミドルトンは丁寧に手を上げ、深く腰を下げた。

それに合わせてメロディもスカートの裾を少し持ち上げて挨拶をした。

「お気をつけてお帰りください。」

形式だけの、心のこもっていない挨拶を交わしたあと、彼は馬車の方へ体を向けた。

だが、彼が馬車に乗る直前、メロディが彼を呼び止めて、手を掴んだ。

「えっと、あの。」

何か思い出したようだった。

「……なに?」

メロディは彼の腕を両手で握ったまま、じっと眉間を見つめた。

何か不適切なことでも言おうとしているかのような、ためらいのある表情だった。

「なに?」

彼のせかしに、メロディの唇がゆっくりと動いた。

「……ありがとう。」

「え?」

突然のお礼の言葉に、彼が問い返すと、メロディは「違うって言うつもりはない」という表情でしっかりと答えた。

「もし、あのことが問題になっていたら、私、とても困っていたと思います……ありがとう。」

スチュアードは少し不思議な気分になった。

ロニーの件について正式に問題としなかったのは、彼自身のためでもあった。

たぶんメロディも、それを察していたのだろう。

『それでもわざわざ「ありがとう」と言うなんて……。』

きっと性格のせいだろう。

それは礼儀正しさの問題ではなかった。

メロディ・ヒギンズは、自分が正しいと思ったことをしっかりと行動に移す頑固な性質を持っているのだ。

『正しいと思うこと……か。』

彼は馬車に乗ろうとした足を止めた。

実は、彼にもメロディに伝えなければならない言葉があった。

前回の試験に落ちたとき、彼は頭に血が上って、そばにいた少女に怒りをぶつけたが、それは本当に自分のせいではなかった。

「なあ。」

だから、メロディにも伝えなければならなかった。

彼女の誠実な感謝の気持ちを――口には出さないように見えても――彼に伝えたように。

「その……」

「……?」

「こ、こないだのことなんだけどさ、俺が君に……」

彼はどうにかして言葉を発しようとしたが、唇は一向に動かなかった。

「もう、ほんとに……。」

彼が無意味に頭をかきながらもじもじしていた時、待ちかねた馬夫が大声で再び呼びかけた。

「うおりゃあ!」

その無遠慮な声に驚いたスチュアードは、慌てて馬車の中へと逃げるように飛び乗った。

席に着いた後、彼は勇気を振り絞って窓の外を見た。

今からでも謝ることができたらいいのに。

だが、そのバカのような唇は最後までまともに動いてくれなかった。

 




 

スチュアード・ミドルトンを見送ったあと、メロディは屋敷の中へと戻った。

彼女が思ったよりも早く帰ってきたため、夕食の時間まで思いがけず余裕のある時間を持つことになった。

『絵でも描いてみようか。』

そうでなくても、彼女の部屋には先週から描き始めた静物画があった。

教養のために習い始めたもので、正直なところ「上手」と言うには難しい。

でも、白い紙にきれいな色を塗るのが楽しくて、メロディは暇な時によく目についたものを描いていた。

『じゃあ、まずは服から着替えよう。』

それでも明るい色のデート向けの服と靴を履いたのはよかったが、正直ちょっと不便だった。

ヒールがきれいだし、外出にはぴったりだったが、こんなにも不便だとは思わなかった。

痛む足先をかばいながら、一歩一歩進もうとしたその時――

ガタン。

階段の上、2階から何かが落ちる音が聞こえた。

驚いたメロディが階段を上がってみると、そこにロニーがいた。

彼はどこかぎこちない姿勢で、まるで凍りついたかのように微動だにせず立っていた。

おそらくメロディに気づかれないようにそっと動こうとしていたが、何かを落としてしまって驚いた様子だ。

「……ロニー?」

小さな声で呼ぶと、彼は慌てて自分の周りに散らばった本を一生懸命拾い始めた。

明らかに逃げようとしているように見えて、メロディはすぐさま階段を駆け上がった。

「はっ。」

メロディが近づいてくるのを見つけたロニーは、一瞬のうちにすべての本を拾い上げて、自分の部屋に向かって走り出した。

「ちょ、ちょっと待って! ロニー!」

メロディが声を上げて追いかけても、彼は振り返りもせず、顔まで本で埋もれたまま、よろよろとした足取りで走っていった。

ドン。

「ロニー!」

必死に呼びかけた声にも、特に変化はなかった。

メロディは少しスカートを持ち上げて、階段を二段ずつ駆け上がり始めた。

しかし、それは良い選択ではなかった。

彼女の不便な靴のせいで、長く引きずっていたドレスの裾をしっかり踏んでしまったのだ。

「きゃっ……!」

メロディはもう少しで泣き出しそうなほど驚いた様子で、階段の上でドサッと転んでしまった。

「うっ……」

細い声が漏れた。

階段の角にぶつけたあちこちが痛んだ。

何よりも恥ずかしかった。

子供でもないのに自分の服を踏んで転ぶなんて……。

階段の上にうずくまったメロディは、両手で自分のスカートを握りしめたまま、肩をぎゅっとすぼめた。

「だ、大丈夫……?」

そのとき、メロディのすぐ目の前でロニーの声が聞こえた。

叱られるときは逃げて、恥ずかしいときはこうして姿を見せる――そんな彼の行動に、メロディはなんとなく心当たりがあった。

メロディは思わず泣きそうになりながらも、髪をとかす手を止めた。

目が合うと、彼はもじもじしながら視線をそらした。

「いや……その……」

「……きらい。」

「えっ。」

その一言がそんなに衝撃的だったのだろうか。

彼は一気に気落ちして、うなだれた。

「……ごめん。」

つぶやくような謝罪に、メロディは両手を下ろしながらも頭を下げた。

しょんぼりしたロニーの肩越しに、数人の使用人たちが見えた。

彼らはメロディが大きなケガをしていないことを確認すると、そっとその場を離れていった。

きっと使用人たちは、彼らがまた口論を始めるのではと心配し、ロニーが部屋に入ってドアをピシャリと閉めてしまうのではないかと懸念していたのだろう。

「俺が悪かったよ。君が慌てるようにしたわけじゃないのに。」

メロディが沈黙を守っているのが怖かったのか、ロニーが再び謝ると、彼女は軽く口を開いた。

「こんな服で走った私も悪かったですよ。」

彼は階段の上でしゃがみ込み、長く伸びたレースの裾を引きずって転んだメロディの高いヒールを一つずつ脱がせた。

「痛いところはない?」

「ここ、すごく痛いです。」

「ちゃんと座ってごらん。できそう?」

彼の促しに、メロディはゆっくりと体を向けた。

なぜかクスクスと笑うような声が聞こえた。

彼は数段階段を降りて、メロディの右足首をそっと握った。

その動きがどこかそっけなくも慎重に接するメロディの様子に、彼は感心した。

「こうしたらどう? 痛い?」

「大丈夫だと思います。」

彼は足と足首の角度を変えながら、繰り返し同じような質問を投げかけた。

「これは?」

「大丈夫です。」

何度も「大丈夫」と言っているのに、彼の顔はどこか心配そうだった。

一方の足首を丁寧に確認したあと、彼は体の位置を変えてもう片方の足の前にしゃがんだ。

「とにかく脱ごう、一度。」

靴を履いたままのメロディにそう言いながら、彼はひもを解いた。

そして今度もまた、反対側と同じように丁寧で慎重な確認手順をとった。

「足首は本当に痛くないんだよね?」

「本当に大丈夫です。」

「それなら本当によかった……あ、ここにあった。」

少し顔をしかめた彼が、メロディの足の方へ目をやった。

実はメロディは足首まである長いドレスを着ていた。

しかし、少し身体をひねって座ったとき、薄い裾がめくれあがり、白いレースの下にある擦りむいた傷がそのまま露わになっていた。

「すごく痛そうだ、これは。」

ロニーはレースの端をつまんで、眉間に深くしわを寄せた。

彼が赤く腫れたところを指先でそっと触れると、メロディは痛みに声を漏らした。

「腫れそうだな。薬、持ってこようか?」

メロディは首を横に振った。

「大丈夫です。時間が経てば引くと思いますから。」

「でもこれは本当に……」

彼は傷の上に少し顔を近づけ、申し訳なさそうにどうしたらよいか戸惑っていた。

「……あの、ありますよ。ロニー。」

彼の行動を気まずく見つめていたメロディは、おそるおそる彼に声をかけた。

「やっぱり、薬を塗ったほうがいいんじゃない?」

彼は依然としてメロディの脚から目を離さずに尋ね、メロディは首を横に振った。

「いえ、それじゃなくて。姿勢が悪いせいだと思います。」

「え?」

彼女の指摘に、ロニーはようやく首を傾げた。

おそらくこれまで、ロニーはメロディの傷に気を取られていて気づかなかったのだろう。

彼の手はメロディの裾の端をつかみ、自然と膝の近くまでまくり上げていた。

だからこそメロディは、ロニーが傷をしっかり確認するために裾を上げたのだとわかっていた。

だが、それは異性間で行うには適切な所作ではなかった。

年頃の男女であるという点からしても。

ロニーはしばらく自分の手とメロディを交互に見つめていた。

どうやらその行動が大げさだったのではないかと戸惑っていたようだった。

「はっ。」

自分の行動がどれだけ不適切だったかを思い知ったロニーは、すぐに手を放した。

「ち、違うんだよ!」

もちろん、メロディはロニーの親しい友人だったので、その機会を逃すはずがなかった。

「そうなんですか?」

からかうように聞いた言葉だったが、慌てたロニーにはそうは聞こえなかったようだった。

その質問を聞いた瞬間、彼の顔が真っ赤に染まった。

「そ……そうだよ。ふっ、やましい気持ちでそんなことしたんじゃないんだ。」

「やましい気持ち」と言ったとき、まだスカートの裾をつかんでいたその手が、かすかに震えていた。

「はっ。」

彼は遅れてメロディの服から手を離し、赤面しながら視線をそらした。

シャツの上から見える首元まで真っ赤に染まっていた。

驚いた人が申し訳なさそうにする時のような様子だった。

「わかってますよ。」

するとメロディは彼の肩を指先で軽くポンポンと叩いた。

「ロニーが私に下心を持つはずないでしょ。」

慰めるような言葉だったが、彼はそれでも赤面したままだった。

まるで自分を責めているように見えたので、メロディはもう少し気を遣うことにした。

「お互いに脚くらい見せ合ったことあるでしょ。私たち小さい頃は、膝までの短パンで育ったじゃない。」

「それとこれは……ちが……うかも……」

彼はもじもじしながら反論しようとしたが、メロディはただ肩をすくめるだけだった。

とにかく、彼が少し前よりは落ち着いたように見えた。

「くくっ。」

「笑うなよ。恥ずかしすぎて死にそうなんだから。」

彼はメロディが座っている場所から三段ほど下の階段に腰を下ろして座った。

両膝に肘をのせ、頭をぐったりと垂らしたまま。

「ロニー。」

メロディは丸まった彼の背中を軽くトントンと叩いた。

「……なに。」

力のない返事が返ってきた。

「ありがとう。」

「え?」

彼は驚いたようにメロディを見て振り返った。

ありがとうって、いったい何が?

最近自分がしたことといえば、すべて事件、事故の類だったのに。

「実はですね。」

メロディは自分の膝の上に両手を揃えて置いた。

「その…以前、ミドルトンさんとよくないことがあったんです。」

「……あ。」

ロニーが小さくつぶやくように答えると、メロディは思わず驚いた。

「知ってたの?!」

「えっ、いや?」

ロニーはすぐに姿勢を正し、目の前の大きな邸宅の外観だけを見つめていた。

「どんなことがあったの?」

メロディは彼の反応がとても怪しいと感じつつも、試験会場でスチュアード・ミドルトンとあった一連の出来事をすべて話して聞かせた。

「……そうだったんです。うん、それとこれは、両親にも言ってません。秘密にしてくれますか?」

「うん。」

ロニーはどこか奇妙な気持ちになったようで、そっけなく返事をした。

「そして、そんなことがあったからこそ、ロニーには感謝してるんです。正直、すっきりしました。」

「そ……そうだったの?」

「はい、そうです。私の目の前でボールドウィン公爵家を侮辱した人に、です!」

メロディが小さな拳をぎゅっと握りしめて語る姿に、ロニーは思わず笑ってしまった。

自分がやらかしたことでメロディが喜んでくれたのも嬉しかったし、公爵家の名誉を大切に思ってくれていることもありがたかった。

ヒギンス家のメロディがそうするのは当然といえば当然なのに。

「君が嬉しかったなら、それで十分だよ。」

「いえ、それどころじゃなかったです。『ちょっとスカッとしました』って言ったほうが近いですね。」

褒め言葉が続くうちに、ロニーはなんだか両肩に力が入っていく気がした。

よく考えてみれば、自分はけっこういい男かもしれない。

メロディの嫌う奴を懲らしめたのだから。

「これからも、誰かにいじめられたら言って。」

「本当に……言ってもいいんですか?」

もちろんロニーはうつむいた。

もしメロディを苦しめるものがあるなら、自分が代わりになりたかった。

「ありがとう。それじゃあ、話すね。」

「ちょ、ちょっと待って。」

何かに気づいたロニーは、話をいったん止めさせた。

「……?」

彼は自分の靴を脱いで、メロディの足元にそっと置いた。

彼女が片方の靴を脱いで階段に座っていたのが気になっていたようだ。

「履いて。」

「ロニーは?」

「ぼくは、別に。」

彼はなんとなく肩をすくめながら、もう片方の靴も彼女の近くに置いた。

メロディは一瞬迷ったが、すぐにその靴に片足ずつ足を滑り込ませた。

わずかに残る温もりがあるその靴は、彼女の足先には少し大きすぎた。

もちろん、背もずっと高かった。

「……大きいですね。」

不思議そうに見つめるメロディに、ロニーがくすくす笑う。

「君が小さいんだよ。」

「前はこんなに差がなかった気がしますけど。」

「最初からこれくらい差があったけど?」

「そうだったんですか。」

「うん、だからさ。」

ロニーはメロディの両足の前に座り直した。

少し前に足首を確認した時のように。

靴ばかり見ていたメロディが顔を上げると、ちょうど同じ高さで目が合った。

「言ってみなよ。誰がまた君をいじめたの?」

その質問に、メロディの目元がわずかに揺れた。

いじめの話をしているのに、どうしてこんなに優しく笑うんだろう。

ロニーが不思議に思っていると――

「ロニー。」

簡潔な返事が返ってきた。

「え?」

「ロニー・ボルドウィンのことです。私の友達なんですが、ご存じですか?」

「………」

「私をすごくいじめるんです。」

普段のロニーなら「いつ俺が!?」とすぐさま反論しただろう。

しかし今日の彼は、メロディに対して後ろめたい気持ちがあったのか、簡単には言い返せなかった。

彼は黙って肩を落としながら尋ねた。

「君を……どうやっていじめてるの?」

「とりあえず、私を見ると逃げるんです。それを追いかけたら階段で派手に転んじゃって。」

それは言い訳のしようもない気まずい出来事で、彼は顔を伏せた。

「……申し訳ありません、親愛なるヒギンス嬢。」

「親愛? あれだけノックしてもドアを開けてくれなかった方が、よくおっしゃいますね?」

「はっ。」

それもまた事実だったので、ロニーの表情はさらに落ち込んでしまった。

「ご本人はいつも、私の部屋にノックもせずドアを開けて入ってきますよね。」

「それは本当に申し訳ありません、親愛なるヒギンス嬢。」

「だから。」

メロディはすっと目を見開いて彼を見つめた。

「ロニーはどんなことで喧嘩をしたんですか?」

「……それは。」

彼は口を閉ざした。

パーティーであの嫌な男が口にした言葉を思い出すと、今でも血が逆流するような気がした。

メロディの努力を見下し、冷酷な人間だと嘲ったのだ。

「言ってくれないんですか?」

「……」

「もしかして、その人がロニーにも無礼なことをしたことが……ないですよね?」

「えぇっ?!」

「もしなければ、それは幸いですけど。」

「は、今お前、俺のこと心配してるのか? あんなやつにちょっと悪口を言われたくらいで、俺が怒るように見えるか?!」

辺境の男爵家の後継者に悪口を言われたとしても、ロニーがそれを根に持っているように見えたとしたら、それは大きな誤解だ。

そんな情熱的で気にしすぎるような言葉では、彼は少しも傷つくことはない。

しかしメロディに関することとなると話は別だった。

……なぜなのかは自分でもわからないが、とにかくそうだった。

「奴が君のことをどう言ったかって思うと……どうしても許せない。」

ロニーはまだ残る怒りを両の拳にぎゅっと握りしめていた。

彼は今でもイサヤと一緒にその宴会に行ったのは天の導きだったと思っていた。

もしそうでなかったら、スチュアートが言った出まかせを誰かがどこかで真に受けて広めていたかもしれない。

だが、あのスチュアート・ミドルトンという見かけ倒しの男が、なんとここまで来てメロディに説教をするだけでなく、花まで持ってきたとは。

その瞬間、ロニーの視界がひっくり返ったのも無理はなかった。

我に返ったときにはすでに彼に飛びかかっていた。

ロニーはその件について、少しも反省していなかった。

「ねえ。」

彼が怒りに燃えながらも表情だけは無表情を保っていたとき、メロディが慎重に話しかけた。

何かを深く考えているような顔つきで。

「以前、ロニーとイサヤが地方の男爵家の後継ぎを殴ったことがあったでしょう。もしかして……」

「……?!」

ロニーの驚いた反応に、メロディはとりあえず視線をそらしながらそれなりの結論を出した。

「きっと、あの人が私のことを何か言ってたんですね。そうですよね?」

「いや、それは……」

「違うんですか?」

素早く追及してくるメロディの言葉に、ロニーは言い訳しようとしていたことも忘れ、うつむいてしまった。

「……違わない。」

「じゃあ、どうして私に教えてくれなかったんですか?」

「それは……」

ロニーは言葉の終わりを引き伸ばしながら、結局口を閉ざした。

「私にも教えてくれていたら、あの日ロニーとあの人にあんなに嫌な思いをさせることはなかったかもしれないのに。」

メロディがその日のことを思い出し、少し申し訳なさそうに話すと、ロニーは慰めるようにこう答えた。

「君は、ひどいことなんてされてなかった。」

「じゃあ、知ってたんですか?」

そう言って少し微笑んだ顔が少しかわいらしくて、ロニーは思わず目をそらした。

顔が熱くなってきた気がしたからだ。

「……あるじゃないですか、ロニー。」

そして少し時間が経ってから、メロディが再び口を開いた。少し落ち着いた声で。

「これからはああやってドアを閉めないで、私に言ってください。」

「……」

「最初はイサヤにも話せるようなことを私にだけ言わなかったのが、本当に寂しかったんです。私はヒギンスですよ。」

「それも……そうだね。」

彼は照れくさそうに笑い、メロディもそれに続いてにっこり微笑んだ。

「そして、ヒギンスのために怒ってくださったことにも改めて感謝します。」

ロニーは「いいんだよ」と答えながら、メロディの表情を慎重に見つめた。求婚者候補がティータイムで彼女の悪口が出たことに、メロディがもし傷ついていたらどうしようかと不安だった。

しかし幸いなことに、そんな様子はまったく見られなかった。

「……よかった。」

「え? 何がですか?」

「親愛なるヒギンス嬢の気分がよさそうで、よかったってことです。」

「落ち込む理由なんてありませんよ。」

メロディは肩をすくめ、ロニーが貸してくれた大きめの紳士用の靴をぶらぶらと揺らした。

「新しい靴を買ったんです。かわいいでしょ?」

「靴を選んでくれたご友人のセンスが素晴らしいですね。」

二人は軽い冗談を交わしながら、思わず声を出して笑い合った。

「そういえば。」

ふと、メロディは何かを思い出して、手を叩いた。

「小さい頃、こうやって階段に座って遊んでると、すごく怒られませんでした?」

「そうだったね。階段は危ないから。お嬢様になっても、こうして転んでケガしたくらいだし。」

「うっ。」

メロディは腫れた足首に手を当てて、少し眉をひそめた。ちょっとまた痛くなってきたようだった。

「あのとき……階段で遊んじゃダメって言われるとき、お父様が何か言ってた気がします。」

「それって! ヒギンス執事が言ってたみたいなやつだよな?」

「はい、それです。階段で遊ぶと――」

彼らはおぼろげな記憶をたどりながら過去のことを思い出し、同時に同じセリフを口にした。

「「幽霊が引っ張ってくるぞ!」」

同時にお互いの顔を見て叫んだあと、なぜかお互いの肩を意識してじっと見つめ合ってしまった。

「あはは。」

メロディは軽く笑いながら、長い髪をくるくると指でいじった。

「……もう、そんなの信じてませんよね?」

どこか不安が混じったような声で尋ねると、ロニーは自信ありげに笑いながら答えた。

「当たり前だろ? あれはただ、俺たちが階段で遊ばないようにって、誰かが作り出した話だよ。」

「そうですね。」

そうして二人は、幼い頃に聞いた大人たちの無理やりな警告なんて、全く気にも留めなかった。

むしろ何となく肩をはたき合って、階段から同時にぴょんと立ち上がった。

でも、それでもずっと階段に座って話し続けるのは、あまり良いことではない気がしたから。

「…あ、そうだ、靴。」

ロニーはメロディの高いヒールを再び彼女の前に置いてあげた。

「履いて歩けそう? それとも持っていこうか?」

「大丈夫です。」

彼は靴を履こうとするメロディの腕を支えてあげた。

万が一、また転ばないように。

「ありがとう。」

ロニーも、メロディが返してくれた靴を履いた。

微妙に残っていた温もりのせいか、少し変な気分だった。

「……あの、じゃあ私は部屋に戻りますね。着替えないといけませんし。それに絵も途中なんです。」

メロディが先に階段を一段降りながらそう言うと、ロニーは黙って彼女の隣について歩き始めた。

「部屋まで送ってあげようか? 一人で行ける?」

彼が腕を差し出してそう言うと、メロディは軽く首を振って答えた。

「もう大丈夫です。」

それでも気遣ってくれてありがとう、とメロディは一人で階段を降りていった。

「……」

ロニーは階段に残って自分の腕を見下ろした。なぜか名残惜しい気持ちがした。

もっとメロディと話したかったし、また……なんだか妙なことを考えてしまいそうだ。

「……何を考えてるんだ、俺。」

ロニーはぶつぶつとつぶやいたあと、くるっと向きを変えて階段を上がっていった。

 



 

 

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