悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す

悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す【49話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。 ネタバレ...

 




 

49話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • リリカの力②

一族から話を聞いたリリカは、その足で呪術を授かった少年のもとを訪ねた。

「やあ、久しぶりね、ヤコブ。」

目の前に立つ青年は、幼い頃に見たときよりもずっと背が伸びていた。

だが、痩せこけた肩、鋭く光る瞳、乾いた体つき——どこか荒んだ気配が漂っている。

「誰だよ、寝てる人に声かけるなんて!」

けれどリリカは、むしろその投げやりな言い方が気に入ったようだった。

続いてヤコブが口を開くと、笑顔だったリリカの目元がふっと細まった。

「なんだよ?一族を捨てて公爵家に行った“お嬢様”が、どうしてこんな所に?」

「……そう。やっぱり、あなたは変わらないのね。」

リリカは淡々とした声でそう言った。

怒りでも悲しみでもなく、まるで相手の言葉すべてが取るに足らないとでも言うように。

「おや、反論なさらないのですか?」

男は挑発的に口元を歪めた。

「あなたのような“拾われ者”が、公爵家の名を汚すのではと皆、心配しているのですよ。」

それに対し、リリカはゆっくりと歩み寄った。

ヒールの音が、石畳の上で乾いた音を立てる。

「……その心配、してくれるのね。」

その微笑は柔らかい。

だが、目の奥は凍るように冷たい。

「でも――あなたが今ここにいること自体、私にとっては十分な“答え”よ。」

男は一瞬、意味がわからず眉をひそめた。

次の瞬間、リリカが手にした扇を軽く振ると、空気が微かに震えた。

「私を貶めるために来たのでしょう?なら、その“勇気”だけは褒めてあげる。」

その声には、どこか艶を帯びた響きがあった。

だがそれを聞いた者の心には、理由のない恐怖が走る。

男の口が開きかけた。だが声は出なかった。

代わりに、足元からぞくりと冷気が這い上がってくる。

リリカは微笑んだまま、彼の耳元で囁くように言った。

「次に私の名を口にする時は、跪いてからにして。」

そう言い残し、リリカは優雅に背を向けた。

その後ろ姿に、誰も声をかける者はいなかった。

他の人々は普段、触れられたくない相手の負の面だけを取り上げて、自分が賢いと勘違いするものだ。

リリカもヤコブに会いに来るまでは、正直かなり複雑な気持ちだった。

自分の目立つ容姿が交渉に有利に働くかもしれないとは思っていたが、人は予想外の反応をすることも多い。

──けれど、どうやら思ったよりも話がうまく進みそうだ。

『幼い頃に一度会っただけの私を、こうもあっさり見抜くなんて……?』

一方で、リリカはヤコブの顔も名前もまったく覚えていなかった。

一族から事前に話を聞いていなければ、ヤコブがもたれていた木をただ通り過ぎていただろう。

『……なんだか、あの一族らしくないわね。さっきのあの反応……。』

族長や年長者たちと比べれば……あまりにも簡単ね。

謙遜して感情的に屈するほど、彼らは単純で扱いやすい。

リリカは上がりかけた唇の端に力を込め、微笑を抑えた。

『私がいくらドレス姿とはいえ、こんな場所に来るような貴族令嬢はいないでしょう。少しでも用心深いなら、こんな真似はしないはず。』

一族の話を聞いてすぐに来たという噂も立っていなかったはずだ。

過去の私の境遇と環境を正確に覚えて、次々と皮肉を言うばかりだなんて。

「それで、私みたいな下品で卑しい者をわざわざ見下しに来たのかしら?会ってくれる人もいなかったの?」

「ヤコブ。あんた、どうしてそんなに下品で卑しいの?」

リリカは一度、静かに言い返した。

ヤコブはその姿を見て、まるで上品な貴族の子弟が良い行いをしている典型的な場面のようだと、嘲るように笑った。

「我らが偉大なる族長様から、何か言付けはなかったのですか?」

彼の目が鋭く細められる。

過去に他人の痛みや病を何度も肩代わりさせられた記憶がよぎり、奥歯を噛みしめた。

当然ながら、能力を使うには相手の同意が必要で、その過程も非常に骨が折れる。

自分の力を使うだけでも容易ではないのだ。

──それなのに、自分はただ一族の中で小言を言われ、与えられた役割を黙ってこなすだけの半端者。

もっと力をうまく活かせば充分にやっていけたはずなのに、ただ問題ばかり起こす半人前扱いとは…。

他に力を持った者たちは、どうにかしてうまく立ち回っているというのに——。

何をそんなに慎重に、落ち着けというのか――理解できなかった。

ただ、自分が軽く見られているからだろうとしか思えなかった。

けれど……

「そんな人たちに何が分かるの?私は、あなたの方がずっと賢いと思っているわ。」

揺らぐことのない、堂々とした姿。

ヤコブは、自分の挑発的な言葉にリリカが涙ぐむかと思っていた。

だが、予想外に冷静で、むしろ好奇心を帯びたその言葉に、彼は口を閉ざした。

「……それで、何しに来たんだ?」

「とりあえず座って。足が痛いの。」

リリカは持ってきた椅子を広げ、籠を下ろした。

籠の中には、バターをたっぷり塗って焼いたクッキー、厚切りのハムを挟んだサンドイッチ、そして――缶入りのキャンディが、カラフルな色でキラリと輝いていた。

『……なにこれ?また妙なのが……』

そしてヤコブは、リリカが差し出したサンドイッチを、恐る恐る一口かじった。

こんなにも素朴な野菜とソース……一族の問題児であるヤコブにとって、普段なら到底口にしないタイプの料理だった。

リリカはその様子を見て、まるで野の花が咲くようにふわりと笑った。

「ヤコブは鶏肉より牛肉の方が好きなんだね。」

「だって、いつもは食べにくいじゃないですか!」

ヤコブは、肉というものがこんなにも臭みが少なく、柔らかく噛めるものだとは思ってもいなかったらしく、驚きの表情を浮かべた。

しかも、自分が公爵家の令嬢に差し出された食べ物を口にしているという事実が、ほんの少し気恥ずかしくもあった。

一方のリリカは、そんな様子をただ嬉しそうに見つめていた。

「あなたがおいしそうに食べてくれるから嬉しいわ。何を持って行こうか悩んだけど、持ってきて正解だったみたい。」

「……」

「ほかのものも食べてみて。さあ。」

プライドもかなぐり捨てて、彼は差し出された食べ物を口にした。

そんな場面では、もう抵抗する気も起きなかった……。

「そんなに遠慮しなくても食べますよ。」

「ふふ、ヤコブって話し方が面白いのね。」

リリカが持ってきた料理は、どれも本当においしかった。

すべてが満ち足りていて、文句のつけようがなかった。

『空は青くて……雲も穏やかに流れている。』

秋の初めなのに、腹が満たされたせいか、空気が温かく、心まで穏やかだった。

偽りのない、ただ「良いもの」だけで満ちた時間。

不思議だった。

『……それにしても、なんで俺なんかとこんな可愛い子が一緒にいるんだ?他の連中を差し置いて、なんで俺のところに来たんだ?』

ヤコブは、サンドイッチを上品に食べるリリカの姿をちらちらと盗み見ていたが、目が合いそうになると慌てて視線をそらした。

リリカはそのことを指摘することなく、ふっと柔らかく笑った。

恥ずかしそうにしたヤコブは、少しぶっきらぼうに口を開いた。

「……そろそろ本音を聞かせてくださいよ。なんで俺を探しに来たんです?」

「実は……私も、なんであなたに会いに来たのか、自分でもよく分からないの。」

「それを理由って言うんですか?見かけよりずっと天然なんですね。」

「かもね。」

リリカはあっさりと答え、その声にはどこか水のように澄んだ響きがあった。

「だからなのかな……みんな、私のことが好きじゃないみたい。」

庶子(しょし)だとか、そんなことどうでもいい。

あの日、挑発的な言葉に全く動じず笑っていたリリカが、「愚かだ」という一言にしゅんとするなんて。

ヤコブの目が、初めて大きく揺れた。

彼は気づかれないように、彼女の様子をうかがい始めた。

「私が至らないから……お父様も、おじい様も、兄様たちも、私に興味を持たないんだと思う。」

「……」

「みんなが私を好きじゃない理由も、あるんだと思うけど……。私が馬鹿だからなのかな。なんでかよくわからないの。」

リリカはそれをきっかけに、自分の話を少しずつ語りはじめた。

こんなことを打ち明けるような親しい間柄でもない少女が、突然――。

本来なら戸惑うべき場面なのに、ヤコブは目の前の少女に思わず心を奪われていた。

相手があまりにも綺麗だったからだろうか。

幼い頃に一度会ったきりなのに、ずっと心の片隅にその面影を残していた――そう思えるほどに。

『いや、それもあるけど……』

先ほどまでリリカの頬を染めていたかすかな赤みが、今はすっかり消えていたからかもしれない。

「そうしてるうちに、ふと君のことを思い出したんだ。」

「え……?」

「華やかな舞踏会も、公爵家の令嬢という身分も悪くないけれど……こうして穏やかに草の上に座ってる今のほうが、不思議と落ち着くんだ。」

他人には決して話したことのない気持ちを打ち明けながら、リリカは少し恥ずかしそうにうつむいた。

「急に変なこと言ってごめんね。私、もともとこういうことを言うタイプじゃないの。」

ヤコブにだけ、誰にも話したことのない本音を語ってしまった――そのことが、リリカの胸を少しドキリとさせていた。

そう言ったのか。

まるで自分が「特別な存在」であるかのように。

「私は、この世で一番ずる賢いんですって。育ててくれた恩も知らないって。私は、生まれたくて生まれたわけじゃないのに……公爵家に行きたくて行ったわけでもないのに……」

リリカの瞳が、ほんのりと潤んで見えた。

「笑えるでしょ?同じ公爵の子どもなのに……私は母が“はしたない女”だからって理由で……」

今この瞬間、石畳の上に座るその姿だけで、まるで一枚の絵のようだった。

この世界に生まれ落ちたこと自体が間違いのように、妖精のように儚く光る少女。

どうして、そんなリリカがそんな扱いを受けなければならないのか――ヤコブには理解できなかった。

「どうしてですか!どうしてお嬢様だけが……!」

「……きっと、私に足りないものが多いからだと思うの。」

「そんなはずありません。あいつらには何もわからないんです。ただ見栄と虚勢だけで――」

ヤコブは半ば自分に言い聞かせるように、名前も知らない連中をぶつぶつと罵った。

突然高くなった声に、リリカは一瞬きょとんとしたが、すぐにふっと微笑んだ。

さっきまでヤコブの視線を引いていた彼女の頬の赤みが、またうっすらと戻っては消える。

だが、その表情は先ほどとは少し違っていた。

明るい笑顔の奥に、どこか自然な温かさが宿っている――そんな笑みだった。

「ありがとう。代わりに怒ってくれて。」

「俺、別に大したこと……」

「それより、持ってきた食べ物は美味しかった?」

急に話題を切り替えるリリカに、ヤコブは少しだけ面食らったが、彼女のわずかに照れたような表情を見て、その意図をすぐに理解した。

――恥ずかしさをごまかしているんだ、と。

だが、何かしらの出来事をきっかけに、リリカよりも先に食べ終わっていたヤコブは、彼女に食べ物を勧めるようになった。

「……かなり食べますね。」

ヤコブですら手をつけにくい料理もあったが、成人男性である彼よりも多く食べているように見えるほど、意外にもリリカはよく食べた。

ほとんど同じくらいの量だった。

「お嬢様、意外とたくさん召し上がるんですね。」

華奢な体つきには似合わない光景だった。

食べても太らない体質なのか……と考えていると、リリカが苦笑いを浮かべた。

「別にダイエットしてるわけじゃないけど……居心地が悪い人の前だと、あまり食が進まないものよ。」

真っ赤な嘘だった。

リリカは常に食事制限をしていた。

ほんの少しでも体重が増えると、一日中食を抜くこともあるほどだった。

ヤコブはそんなことも知らず、リリカを気まずくさせてしまっていた。

だが、彼女はそれを察したのか、ふっと微笑んだ。

「喉が渇いちゃった。あんたの飲み物、もうなくなっちゃったみたいね。一口ちょうだい?」

自分を“わざわざ気まずくさせる存在”だとでも思っているのだろうか、とヤコブは内心少しだけ苦笑する。

リリカは彼に渡したカップを取り返し、ヤコブが口をつけたところに自分の唇をそっと重ねた。

「甘いわね。でしょ?」

「え、あ……」

「好きよ」

「えっ、な、何を……?」

リリカの目尻が楽しそうに柔らかくほころぶ。

「このお茶、好きだって言ったの」

ヤコブが呆気にとられている間に、リリカは軽やかに腰を上げた。

「今日は挨拶だけしに来たの。次はまた来るわ。」

ここに来る前、紅河の一族に向かって彼女が言った言葉――それはまさにそのままだった。

『短気なところがあって、感情が揺れると力の制御もうまくいかない――あの言葉は本当だった。』

周囲の人たちから優しさも愛情も受けたことのない子どもをたった一人でも惹きつけることができるなんて……社交界で“氷の令嬢”と呼ばれていたリリカにとって、それは何の不思議もなかった。

「え、あの……!」

リリカは一度も振り返らなかった。

彼が自分を見つめている視線を感じながらも、まだ言葉になりきらない、たどたどしい声を背中で聞きながら――。

 



 

 

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