こんにちは、ちゃむです。
「オオカミ屋敷の愛され花嫁」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

41話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 異能の力
「ケンドリック様!」
嬉しく呼びかけると、ケンドリックの硬い口元が合図を送った。
「遅れてごめん。ちょっと用事があって。」
「次からは遅れないでください。」
アルセンがむすっとした表情で言った。
暑い場所で長く座っていたせいか、かなり不機嫌な様子だ。
私とアルセン、そしてケンドリックは今、庭園に出ている。
もともとは図書館で授業を受ける予定だったが……。
『考えてみれば、図書館は少し危ないな。庭園に行った方がいい。』というケンドリックの意見により、庭園に出ることになった。
侍女たちが氷水を持ってきてくれたが、それでも相変わらず暑い。
そしてアルセンはとりわけ暑さに弱いようだった。
『狼族だからかな?』
アルセンは、私のうちわがひらひらと涼しく動くのが気に入ったようで、私の背中に寄りかかっていた。
私は仕方なく、うちわでアルセンを一生懸命あおいであげた。
『子どもを育ててる気分だ。』
的外れではないけど……。
そんなふうに私のうちわであおがれていたアルセンの頬は、ほんのり赤らんでいる。
ケンドリックはアルセンの頬を一度優しくなでたあと、私に手を差し出した。
「まず席から立ちなさい、アルセン。君もだ。」
私はケンドリックの手を取って、ぱっと立ち上がった。
そして、しわくちゃになったワンピースをパンパンとはたいて、しわを伸ばした。
アルセンもまた、私についてぎこちなく立ち上がった。
「まず、異能を使ってみて。リンシー。」
「……誰にですか?」
私は広い庭園を見つめながら言った。
ケンドリックの異能と違って、私の異能は使用する相手に直接合っていないと使用できない。
『ケンドリックに使えってこと?』
私は慎重にケンドリックの手をぎゅっと握った。
するとケンドリックが手袋を外して私の手をを振り払った。
「ただ、使ってみて。目を軽く閉じて。」
「……できるんですか?」
できないはずだけど……。
ラニエロでは一度もそんなふうに能力を使ったことがなかった。
当然だ。
私たちの能力は、相手に直接触れてこそ発動するものだったから。
私はケンドリックを見上げた。
ケンドリックは特に何かをせずに、ただフードをしっかりと被った。
アルセンもまた、好奇心に満ちた表情で私を見ていた。
『もう、わかんないや。』
私は虚空に手をスッと差し出し、虚空に異能を注ぎ込むという気持ちで異能を使った。
だが、やはりうまくいくはずがなかった。
手の先から光の粒が出るかのように、花粉のような粒だけがふわふわと宙を舞った。
私はくるりと振り返ってケンドリックを見た。
「ラニエロの異能はそんなふうには使えません。相手と接触しないと……」
「いや、リンシー。できる。もう一度やってみて」
ケンドリックはきっぱりと言った。
私はゆっくりと手袋を外した。
ケンドリックの言葉に反論する勇気はなかったし、 それに・・・。
『教えてってお願いしたのは私だから……』
この羽根を収めるためにも、どうにか解決策を見つけなければならなかった。
ケンドリックが腰をかがめて私の手首を慎重に掴み、宙に向かって腕をそっと伸ばした。
「さあ、目を閉じてみて。」
「……はい。」
私は素直に目をきゅっと閉じた。
「君の手に皮膚が触れていると想像して。君は今、患者に触れているんだ。」
ケンドリックの抑揚のない声が静かに耳に落ちてきた。
『皮膚に……、触れてる。』
私は指先をもぞもぞ動かし、そっと両手の指を開いた。
「さあ、もう使ってみて。君の目の前に異能を使える相手がいる。」
私は両目をぎゅっと閉じたまま、呪文を唱えるように気持ちを集中させた。
『相手、相手がいる……』
そしてゆっくりと異能を注ぎ込んだ。
手の先から温かな風が吹き始めるのを、かすかに感じた。
できた!
私は目をぱっと開けて、自分の目の前に広がる光景を見つめた。
私の手のひらの上に、淡い薄青色の球体がふわりと浮かんでいた。
「できた!できました!」
「よし、そのまま止めずに続けて。今の感じで。」
ケンドリックがささやいた。
いつの間にかアルセンはすぐ隣にぴったりとくっついて、私が異能を使っているのをじっと見守っていた。
私はゆっくりと目を閉じて、また開き、力を注ぎ続けた。
『おかしい。』
アルセンを治療したときは、ほんの少し使っただけでも体がついていかないほど辛かったのに。
宙に異能を込めてみると、まるで異能が泉のように尽きることなく湧き出してくるようだった。
『前世よりももっと優れてる気がする。』
私は大院老たちとエイデン、その乳母とグレネにまで治療してあげたことを順に思い返した。
どういうわけか、治療していても辛いという考えは全く浮かばなかった。
『前世より、異能が強くなってる。』
私は自分の手のひらの上で、ひたすらエネルギーを吸収していく球体を見つめた。
球体は次第に大きくなって、私の体の二倍ほどの大きさにまで膨れ上がった。
そこでようやくケンドリックが私の手首をつかんだ。
「もう止めてもいいよ。これを芝生にそっと注ぐような感覚で使ってみて。」
「芝生に……どうやってですか?」
私は足踏みしながらケンドリックを見つめた。
このように異能を使ってみたのは初めてだったので、感覚がつかめなかった。
ケンドリックはしばらく考えているようだったが、やがて口を開いた。
「リンシー、アルセンとあそこで花壇を作ったって言ってたよな。」
いきなりその話、なんで?
庭師が余った花壇があると言って、アルセンと一緒に花の種をまいたことがあった。
私は襟を三度つまんで引っ張った。
するとケンドリックが私の手首を優しく握って言った。
「その時みたいに、ジョウロで水をやるって思ってやってみて。」
「……ジョウロですか?」
私は信じられないというようにまた一歩下がる。
「私にいたずらしようとしてるのかな?」という考えすらよぎった。
しかし、ケンドリックの表情はこれ以上ないほど真剣だった。
結局、私は再び目をぎゅっと閉じた。
『水まき……水をあげるイメージで……』
異能が芝生にまんべんなく染み込むように。
考え終えてゆっくり目を開けると、淡い光の球体が空の高さまでふわりと浮かんでいた。
すると――
「……あれ?」
淡い光の球体が妙な動きをし始めて、巨大なじょうろのような形になった。
「……あ、これで合ってますか? なんか変な気がします……ケンドリック様……」
「いや、大丈夫。うまくいってるから続けなさい。」
私は今にも泣きそうな表情で宙に浮かぶ巨大なじょうろを見上げた。
そして思った。
『じょうろが水を与えるって、そういうことか。』
あの巨大な薄緑色のじょうろが芝生にまんべんなく水を注いでいる様子が頭に浮かんだ。
そしてすぐに、もう一度異能を注ぎ込んだ。
ぱやっ——!
じょうろの形をした構造物から薄緑色の光の筋が流れ出し、芝生を濡らした。
しばらく芝生に水をやっていたスプリンクラーのようなものは、やがてふわっと虚空に消えた。
虚空からきらきらと淡い光が落ちて地面に降り注いだ。
私は自分が作り出した光景をぼんやりと眺めながら、ケンドリックに尋ねた。
「これ、合ってるんですか?異能がなんでスプリンクラーの形になったんですか?」
「それは君がスプリンクラーを想像したからだよ、リンシー。」
ラニエロでは、こんなことは学んだことがなかった。
ほかの種族と違って、ラニエロの異能はこうして多様に応用できる異能ではなかったからだ。
ただの治癒。
それだけに使われる異能なのに。









