こんにちは、ちゃむです。
「捨てたゴミは二度と拾いません」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

6話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- プロローグ⑥
フィレンが戻ってきてから、ウィルリオット公爵家には一日として静かな日がなかった。
「見た?ご主人様とお嬢様が、お互いに敬語を使っているところ。」
「うん、見たよ。突然どうしたんだろう?」
侍女の一人が笑いを含ませながら話を続けた。
「二人とも、これまでずっと気軽に話していたじゃない。」
「もしかして、あの女性のせいじゃない?ご主人様の子どもを持つ女性のこと。」
「私もそのせいだと思う。」
もう一人の侍女が会話に割り込んできた。
「いや、それなら二人が急に距離を感じさせるような敬語を使う理由がないじゃない……。」
窓を拭きながら、あれこれ想像を巡らせている侍女たちだった。
彼らが口を閉ざしたのは、私が登場したからだ。
だからといって、わきまえずに彼らの前に出たいと思ったわけではない。
執務室に行くためには、このホールを通るしかなく、仕方がなかった。
ぎこちない沈黙が流れた。
全員が棒立ちのように口を閉じ、私の様子を伺っていた。
無駄に場の雰囲気をさらに乱すつもりもなかった私は、さっと歩き去った。
「こ、こんにちは、お嬢様。」
そのままホールを通り過ぎようとしたが、侍女の一人が慎重に挨拶を投げかけてきた。
むしろ、挨拶をしない方が良かったのにと思わせるようなぎこちない挨拶だ。
「心にもない挨拶はしなくていいわ。」
冷たく返事するつもりはなかったが、思わずその言葉が出てしまった。
彼女たちの発言を思い出し、私も知らず知らずのうちに冷たい言葉を口にしてしまった。
ここ数日、私の気分がずっと優れなかったのも、一因だったのかもしれない。
「お嬢様、私たちは……!」
「大丈夫よ。」
私はまるで何事もないように、平然と微笑みながら困惑している侍女たちのそばを通り過ぎた。
「ありもしないことを言っているわけでもないし、まあ、そのまま動揺していればいいわ。」
「お、お嬢様!」
私の言葉に侍女たちは慌てて私を呼び止めようとしたが、振り返ることはしなかった。
彼女たちを見る気にもなれなかったからだ。
それが理由ではなかった。
慌てて身に着けていた仮面が外れかけてしまい、歪んだ私の表情を侍女たちに見せたくなかったのが本当の理由だ。
何も持っていない私にとって唯一残されたプライドがそれを許さなかった。
人々の口から私の話題が上るのをこれ以上聞きたくなくて、足早に執務室へ向かった。
ひとりになった後でこそ、無表情な仮面を外すことができた私は、ドアに寄りかかって深くため息をついた。
「はあ。」
すでに一週間が経過していた。
私とフィレンが他の人々の前で丁寧な言葉を使い始めたこと。
誰も見ていないときは砕けた言葉を使うこともあったが、あの日以来、お互いに話す機会はなく、くだけた言葉を使うこともなかった。
いつも互いを「公爵」や「テベサ」と呼び、礼儀を守って接していた。
テベサ令嬢と呼び、敬語を使うようになった。
以前のような冗談を交わしたり、親しい会話をすることもなくなった。
「本当に遠くなった気がする。」
フィレンは6年間戦場に行っていても、こんなに距離を感じることはなかったのに、この数日で一気に距離が広がったように感じられた。
こんなことになるとわかっていたら、敬語を使うことを提案しなければよかったと思う。
「いや、これは必要なことだった。」
むしろ、これまで砕けた言葉を使っていたことのほうが不自然だったのだ。
だから、余計なことは考えないでおこうと思いつつも、ついため息が漏れる。
特に、あの女性に関することを思い出すと、重い石が胸を押し付けるような感覚に襲われた。
ミサが気に入らなかったのは、あの女性がそれほど時間が経たないうちに、ミサを元の場所に戻すことになった。
その代わり、新しく雇った侍女を専属の侍女として使い始めた。
フィレン自身が面接して採用した侍女だ。
それだけにフィレンがその女性を大切に思っていることを意味していた。
もしその関心を少しでも自分に向けてくれたなら、こんなに寂しい気持ちにはならなかっただろう。
それどころか、そうなったらもっと寂しさが増したかもしれない。
あの女性にフィレンの関心を奪われたくないと思いながら、やるせない気持ちを抑えきれなかった。
「……もし、あの女性が息子を産んだら、私はどうなるの?」
その女性に公爵夫人の座を奪われ、潔くウィルリオ公爵家を去らなければならないのだろうか?
突然胸に湧き上がった考えで視界が暗くなるのは、公爵夫人になる以外の道を考えたことがなかったからだ。
フィレンと婚約してから、公爵夫人になるための教育を受け、10年以上にわたり、公爵夫人としての務めや公爵家の仕事を学び続けてきた。
それでもこれまで一度も、自分がウィルリオ公爵夫人になれないのではという疑念を抱いたことはなかった。
しかし、今になって、それが実現しない可能性があると言うのか?
どこの誰とも知れない正体不明の女性にその地位を奪われる可能性があると言うのか?
それならば私はどうすればいいの?
もし公爵夫人になれないのなら、私は……。
視界が暗くなるばかりで、精神的に追い詰められていた。
私はふらつきながらソファに腰を下ろした。
たくさんの書類が私を待っているはずだったが、今はそれを見たくなかった。
見ても頭に入ってこない気がした。
こんな時は少し休むのがいいと思い、心の安定を取り戻すために目を閉じた。
世界がぼんやりと遠ざかるように感じた。
このまま眠れたら楽だと思ったが、それは余計な心配だった。
・
・
・
トントン
目を閉じてからどれくらい経っただろうか、ノックの音が聞こえた。
私はぼんやりとした頭を振り払いながら席を立ち、乱れた髪や服を整えた。
「どうぞ。」
「レイラ。」
仕事の時間なので、当然執事だろうと思ったが――。
考えていたのも束の間、突然扉を開けて入ってきたのはフィレンだった。
彼が邸宅に戻ってから私の書斎に来たのはこれが初めてだ。
私は心配と嬉しさが半々の気持ちを抱きつつ、尋ねた。
「何の用なの?」
視線を感じることもなく、彼は以前のように気軽にタメ口で答えた。
「前に衣装デザイナーを呼んでただろう。」
近々予定されている宴会に出席するため、私は衣装デザイナーとアクセサリー職人を呼び出し、自分とフィレンの服やアクセサリーを整えてくれるように頼んでいた。
「何か問題でもあるの?」
だから私を訪ねてきたのだろうか?それとも――?
もっと遅くなる前にすぐ変更した方がいいのかと思って尋ねたが、フィレンは眉をひそめた。
「何か問題があるのか全く分からないのか?」
「分からないわ。」
「彼女の服を合わせていないんだ。」
……彼女?
「もしかして、あなたが連れてきたあの女性のことを言っているの?」
その女性の名前を知りたかったが、口に出すのをためらって、わざと「あの女性」と呼んだ。
「そうだ。調べてみたら、彼女の服は一着も仕立てられていなかった。どうしてだ?」
今それを私に問い詰めようとしているのか。
私は湧き上がる苛立ちをぐっと抑えながら答えた。
「逆に聞くけど、私がどうしてそうしなきゃいけないの?」
「どうしてって、当然のことだからだよ。」
「何がどうして当然なの?」
私が問い詰め続けると、フィレンは眉間にしわを寄せた。
「君みたいに優秀な子がそんなことを見落とすとは思わなかった。」
「私を賢いと思ってくれるのはありがたいけど、本当に分からないの。だから説明してくれる?」
理解できないのはもちろんだが、無性に腹が立った。
彼が初めて私の執務室に来た理由が、あの女性について詰問するためだなんて。
半分喜びに満たされていた心が消え去り、その場所に苛立ちが満ちていった。
彼と会話を交わすこの時間が、とても窮屈に感じられた。
「シスルは何も持たず、裸一貫でこの邸宅にやって来たんだ。彼女が着ている服が彼女の全財産だ。」
「それがどうしたの?」
「どうしたの、だって?」
フィレンが大きく息をついて言葉を続けた。
「君が少しでも考えを巡らせていたら、彼女のためにもっとまともな服を数着用意してやるべきだった。すぐに生まれるであろう赤ん坊のために、赤ん坊用品も用意するべきだったんだ。」
「どうして私がそんなことをしなきゃいけないの?その女性が自分でやればいいじゃない?」
「彼女は妊娠中なんだよ。もし無理をして流産でもしたらどうするんだ?」
服を用意して、赤ん坊のための用品を準備するのがそんなに大変なことなのか。
「それに、それがこの邸宅の主人の役割じゃないか。」
主人という言葉が、私の理性の糸を完全に切った。
私は口を引き結び、フィレンを睨みつけた。
「私をこの邸宅の主人だと考えているの?」
「もちろんだ。俺が結婚する女性は君なんだから。君以外にこの邸宅の主人が誰だというんだ?」
その言葉に、少なくとも私の地位があの女性に奪われることはないという安心感を覚える自分が嫌だった。
「それでも私にその女性の世話をしろというの?」
「君が何を言いたいのか、さっぱり分からないけど。」
目を大きく見開いた彼の様子から、フィレンは本当に私の言葉の意味を理解していないようだった。
彼が鈍いのは知っていたけど、ここまでとは思わなかった。
どう説明すればいいのか考えていると、フィレンが話を続けた。
「レイラ、君が分かっていないようだから言うけど、この邸宅に来たお客様の世話をするのは主人の役目だ。」
「お客様?」
私は冷たく視線を向けながら問い返した。
ようやく自分がなぜ怒っていたのか理解したようだったが、フィレンは小さく微笑みながら私のすぐ近くまでやってきた。
「レイラ、もう一度言うけど、僕が結婚するのは君だけだ。その女性は一夜の過ちだ。たまたま私の子供を授かっただけだ。」
一夜の過ち。
本当にそうだろうか。
「僕だって子供ができなければ連れてこなかっただろう。でも子供ができた以上、どうしようもなく連れてきたんだ。自分の子供を見捨てる冷酷な男になりたくはなかったからね。」
そう言われて、その女性に対して過剰に寛大な態度を取っているのではないかと問いただしたくなったが、それでは私が嫉妬深く見えると思い、黙って耐えた。
「シスルが子供を産んだら、屋敷から出すつもりだ。」
「子供は君の戸籍に入れるつもりなの?」
「もちろんだ。どうせ私の血筋だから。」
「そうだね、わかったよ。」
心では納得できなかったが、頭では理解した。
父であるテベサ伯爵も同じようにしてきたのだから。
だから自分もテベサ家の令嬢になったのだ。
彼の言葉を十分に理解したつもりだったが、それだけだった。
「そうするよ」という答えは口から出ず、唇をしっかり閉じたままだった。
「私の言葉を理解したのなら、今からでも彼女のドレスを仕立てるようにしなさい。」
そんな私の様子を勝手に解釈し、彼は声を大きくし始めた。
「オーダードレスにするには時間が足りないから、手頃な既製品のドレスにしておけ。」
ちょっと待って。オーダードレスにする時間が足りないって?
その言葉は、まさか……
「……その女性を首都に連れて行くつもり?」
「うん。私たちが出発して彼女を邸宅に一人残すのはかわいそうだから、連れて行くよ。首都の見学もさせてあげたいし。」
一体どこをどう見ても、あの女性を連れてきた人間のする行動だと言えるのだろうか。
本気でその女性を愛していると主張されても、とても信じられない。
フィレンがその女性を首都に連れて行くことを止める術はなかった。
もし夜会に連れて行くのなら、他人の目を意識しろと釘を刺して止めることはできるだろうが、首都に連れて行くこと自体には何の問題もないのだから。
ただし、私の気分が無性に悪いというだけで。
「そうだね、好きなようにして。」
しかし、そう言いながらも彼と争うのは無駄だと悟った。
プライドを張り、必死に抵抗してみても、結局は彼の言葉に従わざるを得ないのだから、最初から彼のやりたいようにさせることにした。
「でも、私にその女性を世話しろとは言わないで。その部分はあなたが自分でやって。」
「まだ僕の言葉を理解していないのか?」
「理解したよ。あなたが何を言っているのか、ちゃんと理解したけれど、それでもこれは違う。」
冷たい視線でフィレンを見据えながら私は言った。
「あなたが本当に私を婚約者として、結婚する相手だと考えているならね。もしそう考えているなら、私にその女性の世話をしろなんて言わないで。」










