乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する【１８６話】ネタバレ

そして2時間後。

ダリアはセドリックと共にコーヒーハウスの端の席に座り、新聞を広げながら、遠くのアドリシャとヒーカンを観察していた。

今回は立ち見ではなく、きちんとした席を確保していた。

というのも、セドリックがここに午後3時ごとに訪れるためだ。

フルールケーキがとても美味しいと言ったせいだった。

そのおかげで彼女はわざわざコーヒーハウスの会員権まで購入した。

向かいに座るセドリックは、今日はいつもより輝いて見えた。

何が変わったのか聞いても、はっきりとした違いはわからなかったが、なんとなく洗練された美しさが増したように思えた。

『ブローチが少し光って見えるせいかも。』

はっきりとした理由はわからなかったが、とにかくセドリックは普段のように美しい微笑を浮かべながら、彼女を見つめていた。

普段なら、その笑顔の裏に隠された何かを探ろうとするダリアだったが、今回はそこまで気を回すことができなかった。

時折、思考が途切れると、すぐにフルールケーキのことを考えてしまった。

そのため、彼女はこれから何が起こるのか、まったく予想もつかなかった。

一方、アドリシャとヒーカンは同じ席に座り、ぎこちない時間を過ごしていた。

アドリシャが紅茶のカップをくるくる回しながらつぶやいた。

「近況の話をしろと言われたけど、別に何もないわ。」

「私もそう思います。」

10分以上続けるべき会話が、わずか10秒で終わってしまった。

二人はそろって時計をちらりと見た。

そして内心焦りながら、必死に会話をつなごうとした。

「ダリアは元気にしていますか？」

「……ええ。」

ヒーカンは片方の目元をこすりながら答えた。

ダリアが明らかに不機嫌そうな態度を見せるのは珍しい。

彼女がそこまで居心地の悪さを感じているなら、なおさら彼は「元気にしてほしい」と思わずにはいられなかった。

彼はアドリシャを見つめた。

正直なところ、申し訳なさと違和感だけがぼんやりと残るが、記憶そのものは戻ってこなかった。

なんとも奇妙な感覚だ。

とはいえ、彼女はダリアの最も親しい友人なのだ。

だから、元気でいてくれなければ困る。

その時、3時を告げる塔の鐘が鳴り響いた。

コーヒーハウスの店員が焼きたてのスフレケーキをテーブルに運んできた。

まるで同じことを思い出したかのように、二人の表情が同時にこわばった。

幸いなことに、アドリシャが先に反応した。

彼女はケーキを受け取るやいなや、素早い動作で正確に半分に切った。

そして、二つのピースの間に適度な距離を空けて皿に置いた。

ようやく二人とも安堵の息をついた。

二人は深く息を吸い込み、ケーキを食べ始めた。

ヒーカンはもともと甘いものが好きではなかったため、仕方なく食べているようだ。

彼は周囲を見渡した。

予想どおり、不穏な人物はおらず、普通の人々だけが行き交っていた。

しかし、彼の視野の端に、ぼんやりと揺らぐ魔法の痕跡が映った。

彼はアドリシャをちらりと見た。

彼女も魔法にはある程度の知識はあるものの、特に専門的な能力を持つわけではないため、その異変には気づいていないようだった。

ヒーカンは、こんな精巧な魔法の結界を張れる者は限られた人物しかいないと確信していた。

あの結界の中には、間違いなく彼の妹であるダリアと、セドリックがいるはずだ。

ダリアが二人を親しくさせようと努力するのは分かるが、わざわざセドリックまで連れてきたのには理由があるのだろう。

「………」

ヒーカンの目が細められた。

『セドリックか。』

彼はそっと結界を探る。

今回の任務は皇帝が下した任務だ。

だが、その背後にはダリアの存在があった。

皇帝が何の見返りもなしに、他人に恩を売るようなことをするだろうか？

絶対にありえない。

『あの純粋なダリアをどうにかして利用して……代償を求めるつもりだな。』

皇帝がダリアに求めるものとは何か？

最も強力な手段はやはり婚約だ。

セドリックはダリアがいなければ、非常に扱いにくい人物だからだ。

そもそも、皇帝が彼の結婚について探りを入れ始めたこと自体、最初から準備を進めている証拠だった。

つまり、先に婚約を進めておけば、ダリアを簡単に奪われることはないと考えているのだろう。

『絶対にそんなことはさせない。』

少しでも目を離せば、ダリアを連れ去られ、王宮の人間にされてしまう。

その考えが頭をよぎるだけで、彼の手の中でフォークが真っ二つに折れた。

彼はアドリシャから渡されたスフレケーキの皿をひっくり返しそうになった。

彼女が少し驚いて彼を見た。

「どうしたんですか？」

「こんなことをしている場合ではありません。」

「え？」

「私たちは本当の敵を忘れていました。」

『本当の敵。』

その言葉に、アドリシャの目の色が変わった。

「セドリック様がダリアを連れて行こうと、毎日策略を練っていると聞きました。」

ヒーカンは険しい表情でフォークを握りしめた。

彼は彼女に向かって、カフェの隅の席を目で示した。

アドリシャはすぐに真実を悟った。

彼女の小さな体には不釣り合いなほどの怒りが全身から湧き上がった。

彼女はそのままヒーカンに身を寄せた。

「こんな時ではありません。私たちも計画を立てましょう。」

「いい考えですね。」

「では、もう一度話し合いましょう。」

「そうですね。」

二人は顔を寄せ合い、セドリックとダリアの婚約を阻止する計画を立て始めた。

『やはり、私の計画は間違っていなかった。』