継母だけど娘が可愛すぎる【３７１話】ネタバレ

何だか奇妙に和やかな雰囲気になった。

緊張がほぐれたのはよかったが、自分に対する好意を明らかにする人がいるという事実は複雑だった。

「外見だけで交渉人を選んだのですか？」

リリーの態度は事務的だった。

以前なら、こうした外見を称賛するユンに感謝の気持ちを抱いていたかもしれない。

しかし今は違う。

ただセイブリアンに会いたいという気持ちだけだった。

美しさが相対的なものであることをよく理解していた。

もしアビゲイルの姿のままであったなら、ユンは自分を交渉人として指名しただろうか？

自分がどんな姿であろうと変わらないのはセイブリアンだけだという確信がある。

リリーが冷たく対応しているのに対し、ユンの態度は依然として穏やかだった。

「外見と……それだけではないさ。君が子どもを治療してくれたとき、色々と考えさせられた。」

彼の口元にかすかな笑みが浮かんだ。

ユンは静かな声で続けた。

「黒い魔力、か。君も色々と苦労しただろうね。隠れて生きるのは容易ではなかっただろう。」

その言葉にリリーの視線が一瞬揺れた。

「美しい」という言葉よりも「苦労しただろう」という言葉が胸に深く刺さった。

平和な時代が訪れて一時忘れていたこと。

魔力の色だけで命を奪われた記憶。

松明を持った兵士たちに追い詰められたあの夜は、決して忘れることができない。

リリーは茶碗を軽く指で触れながら口元に運んだ。

「ええ、少しは苦労しました。」

暖かな菊花茶が口を潤した。

湯気の立つ杯を置いたユンは、再び手に茶托を持ち、静かに口を開いた。

「それで、君に一つ提案がある。」

「どんな提案ですか？」

香り高い花の香りが広がる中、ユンはゆっくりと言葉を続けた。

「ここで、僕と一緒に暮らさないか？」

茶碗を取ろうとしていたリリーの手が止まった。

一緒に暮らす？

なぜそんな結論に至ったのか、彼女には全く理解できなかった。

「なぜそのような提案をされるのかわかりません。そして、龍は一人で暮らしていると聞きましたけど？」

「一人で暮らすか、あるいは仲間や家族と共に暮らすかだね。今まではずっと一人で生きてきたけど……」

ユンの声が、まるで絞り出すような沈んだ響きを帯びていた。

彼は続けてこう言った。

「黒い魔力を持って生きるのは辛かっただろう。君の魔力が何色であれ気にしないし、君を守ってあげることもできる。」

その言葉にリリーは戸惑いを覚える。

黒い魔力が差別されない雰囲気がようやく広がっているのに、ユンはその事実を知らないのだろうか？

ユンは自分の茶碗を満たすと、落ち着いた口調で続けた。

「さらに、君がここで暮らしてくれるなら、等価を作ることも許してあげよう。僕も孤独だったから、お互いにとって良いことだろう。だから、僕の提案を受け入れてくれないか……」

「ちょっと、待ってください！少しだけ！」

話が水のように流れていく中で、リリーが急いで割り込む。

彼女は慌てた様子で言った。

「私には夫がいます！」

「ああ、そうか。それでも構わないよ。気にしないさ。」

構わない？

一体どういう意味で構わないと言うのか。

リリーは全く構わないとは思えなかった。

このような提案をされるだけで侮辱されたような気分だ。

悪い人ではないかもしれない、という考えをリリーは撤回する。

この男は自分が既婚者であることを知りながらも強引な提案をしてくる無礼者だ。

気まずさの中で逃げ出したい気持ちもあるが、ここは交渉の場。

どうにかして納得のいく説得をする必要があった。

リリーは煮えたぎる感情を抑え込み、冷静に思考を整理しながら何とか会話を続けることにした。

「ユンさんが私と一緒に住みたいと思うのは、どうしてなのでしょう？寂しさからそうされているんですか？」

「まあ、そんな理由もある。」

「それなら外に出ればいいのでは？中立地帯では異種族たちも快適に暮らせるはずです。」

その言葉にユンはゆっくりとコップを持ち上げた。

彼の視線は少し色を帯びていた。

まるで純真無垢な子どもを見るような目。

ほんのわずかに動揺と憐れみを含んでいた。

「君は、異なる種族が互いを理解し、交流することが可能だと思うかい？」

皮肉と微笑が混じった声。

しかしなぜか、リリーはその言葉に緊張感を覚えた。

リリーはその緊張感にどう応じればいいかわからないまま、黙り込んでしまった。

その間、ユンはさらに話を続けた。

「私は長い年月を生きてきた。本当に長い年月だ。そしてその長い間に感じたのは……」

彼は一瞬目を閉じてから、ゆっくりと開いた。

白いまつげの間から赤い瞳が覗き、深い洞察をたたえていた。

「異なる種族同士で互いを理解することは不可能だということだった。」

その赤い瞳には、数百年、あるいは数千年の歳月が凝縮されているようだった。

不思議と輝いて見えた。

「人魚と人間が平和に暮らしていた時代もあったが、結局は戦争で終わった。他の種族が互いを理解することは不可能だね。特に強力な力を持つ存在であればなおさらだ。」

月が雲の裏に隠れたのか、窓越しに差し込んでいた月光が一瞬消える。

あるいはユンが放つ殺気に月光までもが逃げたのかもしれない。

リリーも息を少し詰めた。

ユンから漂う雰囲気は単純な異種族だと片づけるにはあまりにも強烈だった。

「私は人間として化け、彼らと暮らそうとした。だが、私が龍であることが知られるとそれ以上はとどまることはできなかったのだ。」

暗闇の中で、彼の目は鋭く光っていた。

数百年、あるいはそれ以上耐えてきたもののような鋭い光。

「人間は強大な力を持つ存在を恐れるだけだ。互いを理解することなどできない。君も知っているだろう？」

ユンの問いに、リリーは思わず息をのんだ。

自分が理解できない竜の気持ちをどうして知ることができるというのだろう？

「私は……よく分かりません。」

「君も黒い魔力を持っているから、似たような経験をしてきただろう？」

その瞬間、ユンの声が少し優しくなった。

ピンと張り詰めていた暗闇が、そよ風に吹かれて静かにほどけていくようだった。

「黒い魔力を持つ者たちは長い間迫害されてきた。私は何度もその光景を目にしてきた。力が強すぎる存在は、常に恐れられ排除される運命にある。そして君の魔力が知られれば、誰もが去るだろう。しかし、私は違う。」

彼は笑みを浮かべることなく、その言葉を発した。

ユンはリリーの手の上に自分の手を重ねる。

それは氷のように冷たい手だった。

「私は君を理解できる。君が抱える孤独を理解できる。そして君も、私を理解できるだろう。君が黒い魔力の持ち主であると知れば、周囲の態度も変わるだろう。」