こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

115話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- カリードの苦悩②
カリードはエスターが自分を呼んだと聞いて、非常に期待に胸を膨らませながら庭に入ってきた。
ドロシーの案内で庭に到着した彼はエスターが目に入った。
座って待っているところだった。
「エス……?」
嬉しさに呼びかけようとしたが、鋭い目でにらむジュディとセバスチャンの横を通り過ぎなければならなかった。
「あっ、こんにちは。」
挨拶すらまともに返してもらえず、そっけなく通り過ぎた。
『緊張しないで。』
エスターは、距離が徐々に近づくかリードを見ながら深呼吸をした。
以前は顔を合わせるだけでも震えが来たが、何度か会ったおかげで、前ほど気まずくはなかった。
時間が経って慣れたというより、新しい生活を送りながらトラウマを少しずつ克服していたのだった。
「お嬢様、これジュースです。」
「ありがとう。」
使用人たちはオレンジジュースと果物をテーブルの上に置いて去っていった。
カリードはエスターの顔色をうかがいながら向かい側に慎重に座った。
「やあ。」
「こんにちは。」
エスターの声はやはり乾いていて、抑揚がなかった。
「入れてくれてありがとう。このまま会えずに帰らなきゃいけないかと思ったけど、本当に助かったよ。」
陽の光のようなカリードの金髪が風にやさしく揺れた。
『一体なぜ好きだったんだろう?』
以前はカリードが世界で一番かっこよく見えていたが、今は裕福な人々に慣れてしまったせいか、まったく魅力的に見えなかった。
むしろ見た目だけを比べれば、セバスチャンの方がよく見えるほどだ。
エスターがこんなことを考えているとは、夢にも思わず、カリードはただ嬉しそうに笑っていた。
「本当にいい家だ。さすが公爵家だな?神殿とよく似てる。」
何度も断られても、親しげに会話を続けるカリードを見て、エスターはため息をついた。
「確か会わないって言ってたのに、どうして来たんですか?」
「それが……」
覚悟を決めて来たものの、いざ言葉を切り出すのは難しく、カリードはもじもじしながらジュースを飲んだ。
「実は、休暇で来たわけじゃないんだ。」
ずっとカリードに全く関心がなかったように見えたエスターが、ようやく彼をまっすぐに見た。
淡いピンクの瞳と目が合い、カリードの顔が赤くなる。
彼は咳払いしながら、腰に差していた聖剣をテーブルの上に置いた。
「これ、見える?」
女神エスピトスの目を象徴する赤いルビーがはめ込まれた剣。
何度もその剣で刺されたことのあるエスターが、それを見間違うはずがなかった。
「聖剣ですね。」
「すぐに分かったね?そうだよ。数か月前に聖騎士に任命されたんだ。」
カリードはエスターが一目で聖剣を見抜いたことに少し驚きながらも話を続けた。
「僕より優れた人たちもたくさんいたけど、運が良かったんだと思う。」
「おめでとうございます。」
言葉では祝っていたが、エスターの態度はあまりにも冷たかった。
カリードは気まずそうにしながら、エスターを訪ねてきた理由を正直に話し始めた。
「聖騎士になって初めて与えられた任務が君に関することなんだ。だからテレシアまで来たんだよ。」
黙って話を聞いていたエスターの目が大きく見開かれた。
カリードが来た目的をこうもあっさり打ち明けるとは思っていなかった。
「驚いた?」
「少しだけ。」
カリードはエスターが驚いた理由が、自分が神殿の任務に関わっているからだと思ってため息をついた。
「これ、どう言えばいいかな……」
エスターは汗をかくカリードの態度に神経をとがらせた。
無闇に勘ぐって、後悔するのではと、何も言わずに目だけをぱちくりさせていた。
「実は聖女様が、ここに君の血を持って来いとおっしゃってね。」
カリードはポケットから小さなガラス瓶を取り出した。
瓶はテーブルの上に置かれた聖剣の隣に静かに置かれた。
『私の血?』
エスターは唇を噛みしめた。
ラビエンヌが自分を気にしているという予想が当たったのだ。
特に「血を持ってきて」と言ったなら、疑うまでもなく、すでにある程度確信を持っているに違いない。
エスターの目つきが鋭くなった。
「理由は言っていましたか?」
「いや。言ってたら、僕も悩まずに済んだかもしれないけど、聞いてないよ。」
エスターは、カリードがこうした話を自分に明かしたということを前向きに受け取ることにした。
彼を信じてはいないが、忠誠心の深い彼がこうして口を開いたというだけでも、動揺しているのが感じられた。
まだラビエンヌに完全に取り込まれていないカリードなら、話が通じるかもしれないと思った。
「カリードさんはどう思いますか?」
「……正常とは思えない。」
「はい。血を持ってこいなんて、やっぱりおかしいです。」
「実は僕もすでに神殿を離れたから、君の血がなぜ必要なのか分からない。」
やはりカリードも困惑していたし、エスターはその隙を突いてさらに強く出ることにした。
「でも、その命令に従うんですか?聖女様の命令だから?」
「仕方ないだろう。僕は神殿と聖女様のために存在してるんだから。」
困ったように言うカリードに、エスターはゆっくりと顔を上げて言った。
「違います。カリード様が信じるべきは、神殿でも聖女でもなく、エスピトス様ではないですか。」
胸を突かれたカリードは何が何だか分からない表情で困惑していた。
「はぁ……。僕もまだよく分からない。でも、君の血を少しだけ分けてくれないかな?」
「それはダメです。」
「エスター。」
カリードが優しく呼びかけても、エスターの毅然とした態度は変わらなかった。
「カリードさんのように優れた方なら、その命令がどれだけ非常識なものか、お分かりになるはずです。」
エスターはカリードの目をしっかりと見つめ、感情を抑えていた。
以前なら、こんなことは言おうとも思わなかっただろう。
だが今のエスターは、もはや以前のエスターではなかった。
「長い間修練してきましたよね。エスピトス様の教えの中に、血を使うなんてことは一つもありません。しかも私は今、候補生ですらないんです。」
「……」
「カリードさんは聖女様をお仕えする聖騎士でしょう。聖女様を正しい道へ導くべきだと思います。」
そっと穏やかに話すエスターの声がやわらかくなっていくにつれ、カリードの表情も自然と緩んでいった。
そして神殿に忠誠を尽くすべきだという固定観念から抜け出し、理性的に考えるようになった。
「うん、君の言う通りだ。僕も考えてみたけど、これは違うと思う。」
カリードは歯を食いしばりながらガラス瓶を再びポケットにしまった。
「でも、聖女様の命令だからどうしたらいいか分からない。」
「私は無条件の信仰は良くないと思います。女神様のためにも試してみてください。」
「試すって?」
「別の血を持って行くんです。私の血かどうか、本当に正しいかどうかどうやって分かるんですか?」
「でも、いくらなんでも聖女様に嘘を……。」
聖女に嘘をつかなければならないという言葉に、カリードはひどく戸惑った表情を見せた。
「選択はカリード様がなさってください。でも、どうしても私の血じゃなきゃいけない理由があるなら、それはおかしいですよね。」
神殿への信仰と忠誠心が強いカリードは、簡単に決断を下すことができず戸惑っていた。
しかし最終的に、エスターへの信頼と疑念の間で信頼が勝った。
まだラビエンヌが聖女になって間もないからこそ、できたことだ。
「そうか。君に会ってから考えが整理できたよ。ありがとう。」
答えを出すと、なぜか頭の中がすっきりした。
カリードは混乱から解放されて幸いだと思いながら立ち上がった。
「私はカリードさんが女神様に仕える聖騎士として、常に正しい選択をしてくださると信じています。」
エスターがカリードに送った言葉は、真心のこもった忠告であり警告でもあった。
「これからは聖女様のことをよく見守ってあげてください。そして、しっかりお守りしてくださいね。」
「どういう意味?」
「別に意味はありません。」
エスターはにっこりと笑った。
カリードと向き合ってから初めての笑顔だったので、カリードは一瞬手を止めてエスターを見つめた。
「帰らないんですか?」
「え?あ、帰らないと。」
戸惑ったカリードはぱっと立ち上がって歩き出したが、ふと立ち止まり振り返った。
「これが最後じゃないよね?また会えるかな?」
「カリード様が正しい道を進まれるなら、きっと会えます。」
「わかった。」
エスターとの会話を通じて、カリードは自分が今後どう振る舞うべきかをはっきりと定めた。
瓶の中には、自分の血か動物の血を入れてラビエンヌに渡すことを決心した。
エスターはカリードとのやり取りのあと、気が抜けてテーブルにぐったりと寄りかかった。
「まだ一口しか飲んでないのに。」
もっと簡単に向き合えたらよかったのに、過去の記憶があるせいか、思ったより難しかった。
それでもこれからラビエンヌに対峙するには、もっと強くならなければならないと考え、心を引き締めた。
「啓示の内容は何だったんだろう?」
ラビエンヌが自分の存在に気づいたのであれば、啓示が下りているはず。
だからその内容が気になった。
少し疲れた様子のエスターの隣に、セバスチャンとジュディがそっと近づいてきた。
「彼にひどいことをされたのかい?」
「そうじゃありません。」
ジュディはエスターが気を取り戻せるようにと、大きなテーブルにあったチョコレートを一つむいて口に入れてあげた。
隣にいたエスターはそれを受け取って食べ、気を取り戻した。
甘いものが口に入ると少し気分が落ち着いた。
「霧の谷で見た子よね?神殿から来たって。」
「そうです。」
「またなんで来たの?本当にあなたを神殿に連れ戻しに来たんじゃないの?」
エスターが聖女だと知っているジュディは不安だった。
神殿の人間が周囲に現れるのが嫌だった。
「何言ってるの?エスターがなんでまた神殿に行くの?」
セバスチャンは詳しい事情は知らなかったが、ひどく驚いた。
今でもなかなか会えないのに、神殿に行ってしまえばもっと会えなくなるからだ。
「絶対にそんなことはさせない。エスダー、万が一にも神殿が君を連れて行こうとしたら、僕も助けるよ。」
「本当ですか?」
セバスチャンはエスダーの右手をそっと握って差し出しながら言った。
「うん。いつでも助けるよ。お母さんやお父さんのことなら、僕が動けるかもしれない。」
セバスチャンの家門もやはり四大家門の一つなので、便宜を図ることができるなら心強い。
きっと後にラビエンヌと関わることになった時、必要になるだろう。
「約束ですよ。」
エスダーはセバスチャンが差し出した小指に自分の小指を絡めて、にっこり笑った。
「うわ、手……つないじゃった。」
「どこが手をつないだっていうのよ?小指だけじゃないか。」
ジュディは小指一本が触れただけで喜ぶセバスチャンをからかった。
セバスチャンはそのからかいにもあまり気にしていない様子だった。
エスダーは何も知らないまま、すっと席から立ち上がった。
「では、私は部屋に戻りますね。」
「もう帰るのか?」
エスダーに会いに来ていたセバスチャンは寂しそうな表情を浮かべた。
「はい。部屋で少し休みます。ジュディお兄さんと楽しく過ごしてください。」
エスダーはそのまま部屋に入っていった。
手を握って喜んでいたのはいつのことだったのか、突然短くなったセバスチャンが頭をかしげていると、何かを見つけた。
「ん?これ、さっきまで咲いてたっけ?」
「さっきまではなかった気がするけど。一瞬で全部咲いたね。」
エスダーが座っていた庭の近くに、まだ開花の時期ではないはずの花がぱっと咲いていた。
カリードに会った後、エスダーは自室へ向かうため邸宅に戻った。
階段を上がっていくと、ちょうど2階の書斎から出てくるデニスと鉢合わせた。
眼鏡をかけ、本を7冊も抱えていたので、すぐにそれがデニスだとわかった。
「おお、エスダー。ちょうどよかった。今、君の部屋に行こうとしていたんだ。」
デニスは嬉しそうに手を振って、エスダーに助けてほしいというジェスチャーをした。
「これ、一番上の本を取ってくれないか。」
エスダーはデニスの言うとおりにそっと踏み台を持ち上げて、積まれた本の一番上を手に取った。
「えっ?こんなものが家にあったんですか?」
本のタイトルが古代文字で書かれていた。
それを見て驚いたエスダーの目がぐるぐると揺れた。
通常、古代文字が発見されるとすぐに神殿に回収されるため、このような本はとても貴重だった。
「うん。古い本みたいで、図書館の奥にあったんだ。私にはわからなかったけど、君には役に立つかもしれないと思って。」
内容は不明だが、エスダーなら古代文字を解読できるかもしれないと考えて持ってきたのだった。
「神殿に送らなくてもいいの?」
「ああ。」
本来なら、古代文字を発見したらすぐに神殿に送らなければならなかった。
だが、この家で見つかった本まで神殿が把握しているはずもないので、ひとまず黙っておくことにした。
エスダーは感謝の言葉と共に、デニスが差し出した古びた本を丁寧に受け取った。
同じ頃、皇宮ではノアがレイナ皇女と一緒に部屋で簡単なティータイムを過ごしていた。
ノアが戻ってきたことが嬉しかったレイナは、その日以来、毎日顔を確認しに皇太子宮を訪れていた。
「あなた、昔からそうだったけど……味覚が大人すぎるわ。私なんて、まだ味もよくわからないコーヒーが好きだなんて。」
レイナはノアがそっと差し出したカップの中の黒い液体を見て、恐る恐る口をつけた。
「おいしいけど。」
ノアはそんなレイナをからかうように、優しく微笑んでカップを持ち上げた。
コーヒーは彼が一番好きな飲み物だった。
「でも、なんでそんなに元気ないの?皇太子の命令が心配なの?」
「いや、大丈夫だよ。」
「本当?」
話そうとしたとき、レイナが腕を組むと、ノアが深いため息をついて慎重に話し始めた。
「この前、庭にいた時に、僕が手紙の返事を書きに行ったの覚えてる?」
「もちろん。」
ノアが好きな女性がいると直接打ち明けたことや、それでドキドキしていたことも、彼女にとっては初めてのことだったので、レイナははっきり覚えていた。
恋愛相談ならレイナが一番好きなテーマだったので、耳はぴくっと動き、目はキラキラ輝いた。
「まだ返事が来ないんだ。」
「え?本当?」
驚いたレイナは手にしていたティーカップを、思わずテーブルに強く置いた。
「うん。そのとき花びらも一緒に添えて送ったのに、私があまりにも気が急いてたの。」
すでにエスダーからは何通か返事が来ていたが、それからしばらく返事がなくなってしまい、ノアは心配になっていた。
しばらくノアの表情が曇っていた理由が手紙のせいだと気づいたレイナは、くすっと笑った。
「まったく、うちのノアをこんなに想ってくれてるのは、どこのお嬢さんなの?」
これまで詳しくは聞いていなかったが、どうやらかなり親しい関係のようだったので、レイナは興味津々で質問した。
「その……お姉さんも前に一度会ったことがあるって言ってた。」
「本当なの?」
皇女であるレイナがこれまでに会った貴族令嬢たちは数えきれないほど多かったが、彼女とノアの両方と接点がありそうな人はごくわずかだ。
頭の中で素早く候補を絞り込んでいたレイナは「まさか」と言いながらパッと声を上げた。
「えっ!大公家から来た令嬢?あなたの友達だって言ってた……エステル?」
エステルの名前を思い出したレイナが驚いたが、ノアは否定せずにただ黙ってうなずいた。
「あなたが私の話を伝えてくれるって言ってたけど、本当だったのね。二人はあの時からもうそんな関係だったのね。」
顔が真っ赤になったレイナは、自分のことのように興奮して足をバタバタさせた。
「どうだったの?」
ノアはエステルを紹介する場面でもないのに、なぜか緊張していた。
口の中はカラカラだった。
「うん……私はすごく気に入ったよ。軽くなくて落ち着いてて真剣だった。心の深さもいろいろあって、他の令嬢たちとはずいぶん違ったよ。」
皇女として育ちながら、幼いころから様々な人と接してきたレイナが誰かを評価するときにはとても冷静だ。
そんなレイナがこう言うということは、エスダーが一度会っただけでもかなり気に入ったということだった。
「そんな気がしてた。」
「二人の縁がこんなに深いと分かってたら、もっと親しくなろうとしたのに。王宮に一度招待して。おばあさまもエスダーならきっと気に入るわ。」
すべてを話し終えた後、照れくさくなったノアはすでに空になったコーヒーを持ち上げるふりをした。
「でも、どうして返事が来ないんだろう?」
「うーん……途中で手紙がなくなっちゃったとか? 鳩が事故に遭ったかもしれないし。」
「えー、まさか。」
「心配ならもう一回送ってみたら?」
「そうしようかな。」
ノアは本当に真剣に、エスダーにもう一度手紙を送ろうか悩んでいた。
その時、ノックの音がした。
「お入りください」と言うと扉が開き、皇帝の秘書官が姿を現した。
表情からしてただならぬ気配が感じられ、ノアも驚いて緊張した。
「何事ですか?」
「皇太子殿下、陛下が至急お呼びです。ついに神殿から代表団が到着しました。」
突然の来訪者に驚いていたレイナがぱっと立ち上がった。
「決定が下ったのね。」
「そうみたいだね。」
神殿では何週間もノアを皇太子にするかどうか決めかねており、保留にしていた。
しかし代表団を直接組んで皇宮にまで来たということは、今日はその返答が聞ける日かもしれなかった。
「心配しないで。きっと良い結果になるわ。」
「ありがとう、姉さん。」
「戻ってきたらエスダーをどうやって招待するか、また話し合おう。」
「うん。」
ノアはレイナの全力の応援を受けて服を整え、落ち着いて皆が待っている会議室へと向かった。





