こんにちは、ちゃむです。
「できるメイド様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

250話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 最高の誕生日プレゼント
ラエルとパルゴ島で別れてからすでに1か月が過ぎた。
「1か月後、君の誕生日には必ず来るよ。最高の誕生日を過ごさせてあげるから、楽しみにしてて。」
ラエルは別れ際にそう約束し、1か月の間に急ぎの国事をすべて片付けた後、クレオン王城を訪れると言っていた。
そして今日はその約束の日であり、彼女の誕生日だった。
しかし、ラエルは結局その約束を守ることができなかった。
『仕方がないわね。実際、無理な約束だったもの。』
マリは心の中でそう独り言を言いながら、送られてきた手紙をじっと見つめた。
ラエルが送った手紙には、新たに帝国内で急な問題が発生し、とても身動きが取れない状況であることが記されていた。
申し訳ない、本当に。できるだけ早く仕事を片付けて、君のもとに行けるようにする。
書簡には一緒にいられないことへの申し訳なさと、その裏にある複雑な事情がぎっしりと記されていた。
「はぁ。」
マリは静かにため息をつき、手紙を慎重に折りたたんで机の引き出しにしまった。
仕方のないことだし、当然一緒に過ごすのは難しいだろうと予測していたが、心のどこかでは彼と一緒に誕生日を過ごせる可能性を少し期待していた。
そんな自分に気づくと、なんだか虚しい気持ちが込み上げてきた。
「大丈夫よ。次に一緒に祝えばいいわ。気にしないで。」
マリは自分自身を慰めるようにそう言い聞かせた。
そんな時、彼女のスケジュールを管理する秘書がノックして執務室に入ってきた。
「陛下、お祝いの宴会の準備が完了しました。」
「あ、はい。私も準備するわ。」
今日は彼女の誕生日を祝う宴会が開かれる予定だった。
実際、マリは静かに誕生日を過ごすつもりでいた。
しかし、大臣たちはもちろん、民衆もそれを許さなかった。
王国で誰よりも尊敬され、愛されている国王の誕生日なのだから、みんなで盛大に祝って喜びを分かち合いたいと思っていたのだ。
今は特に王国の再建中ということもあり、こうした華やかな宴や祭りが開かれることの少ない時期だった。
しかし、今日は例外的に盛大な宴会と祝祭が予定されていた。
マリは侍女たちに見守られながら、豪華に着飾り、宴会場へと向かった。
「お供いたします。」
ちょうどその頃、キエルハーンは急な領地での問題のため、自分の領地に向かわざるを得ない状況だった。
そのため、バルハン伯爵が彼女のエスコートを務めることになった。
「おお、今日はとても美しくいらっしゃいますね。」
バルハンは見事な装いのマリを見て、少し顔を赤らめながら礼儀正しく言った。
「お世辞でもありがとう。」
マリは微笑みながらバルハンと共に宴会場へと足を運んだ。
「国王陛下、万歳!」
宴会場に集まった貴族たちが、明るい笑顔で彼女に挨拶を送った。
クローアン王国がここまで回復できたのは、全て彼女の努力の賜物だった。
彼女の尽力がなければ、このような豊かな国の再建という夢を見ることもできなかっただろう。
この場に集まった全員が、彼女の献身を深く理解し、心から彼女の誕生日を祝福し、喜びを分かち合っていた。
「陛下に栄光を!」
「神が陛下を祝福されますように!」
宴会の雰囲気は華やかで温かく、形式的なものではなく、家族の一員としての誕生日を心から祝うようなものであった。
彼女の誕生日を喜ぶのは、貴族や大臣だけではなかった。
一般市民たちも通りで祭りを開き、マリの誕生日を祝っていた。
城の周辺から喜びの声が響き渡り、民衆は王宮前に集まり、彼女を祝う声を高らかに上げた。
「モリナ国王陛下、万歳!」
「お誕生日おめでとうございます!」
自分を呼ぶ声に応え、マリは城壁に登り、手を振って民衆の歓声に応えた。
「わぁ!」
「国王陛下、万歳!」
彼女が姿を現すと、民衆の歓声はさらに大きくなった。
民衆が普段どれだけ彼女を愛しているかがよく分かる光景だった。
「本当に素晴らしいですね。歴史上、これほど民衆に愛された王はいなかったでしょう。」
見守っていた貴族の一人が感嘆の声を上げた。
その言葉にバルハンはこう答えた。
「歴史上、陛下のような国王もまた一人もいなかったでしょう。」
「確かに、その通りです。」
バルハンの言葉に、皆が明るく笑い声を上げた。
こうして祝祭は和やかに締めくくられ、マリは夜が更ける前に自室へと戻った。
「ゆっくりお休みください、陛下。」
「ええ、バルハンもお疲れ様でした。」
部屋に戻ったマリは、そっとため息をついた。
まだ窓の外では、彼女の誕生日を祝う祭りが賑やかに続いていた。
貴族たちが話していた通り、歴史上ここまで真心からの祝福を受けた王が他にいただろうか?
王として最高の誕生日を祝う宴ではなく、国民たちの純粋な祝福が彼女を喜ばせた。
しかし、喜びの中にも虚しさが混じる感情を拭えなかった。
多くの人々から祝福を受けても、彼が側にいないという事実が彼女をさらに寂しくさせた。
『彼が最初から来られないことは分かってた。仕方のないことだから、気にしないようにしよう。』
侍女たちの視線を受けながら楽な服装に着替え、彼女は静かに寝室へと入った。
気持ちは落ち着いたが、大きなベッドを見ると再びラエルのことが頭をよぎった。
『彼の腕の中で眠れたらどれほど良いだろう……』
誕生日だからこそなのか、次々とラエルのことが思い浮かんできた。
しかし、ベッドに横たわろうとしたその時、背後から信じられない声が聞こえた。
「誕生日おめでとう、マリ。」
「……!」
マリはベッドの上で手を組んだまま固まってしまった。
それほどまでに願っていた、けれども絶対に聞けるはずのない声だった。
マリはあまりにも彼を恋しく思うあまり、自分が幻聴を聞いているのだと考えた。
しかし、再び彼の声が聞こえた。
さらに明瞭に、近い距離で、彼女のすぐ後ろから。
「誕生日おめでとう。遅れてごめん。」
マリの目が見開かれると同時に、柔らかい腕が彼女を背後からそっと抱きしめた。
「愛しいマリ。君を愛している。」
「……ラエル!」
信じられないことに、そこに本当にラエルがいた!
マリは振り返り、驚きで彼を凝視した。
天の彫刻のように美しい顔立ちのラエルが、優しい瞳で彼女を見つめていた。
「どうしてここに来たんですか?私、夢を見てるんじゃないですよね?」
マリは目の前の光景が信じられず、震える声で問いかけた。
彼は遠い東帝国にいるはずなのに、どうやってここに来たというのか?
「夢なんかじゃない。」
ラエルは手を伸ばし、彼女の頬に触れた。
彼の手は優しく彼女の頬を包み込み、その手からは以前とは違う温かさが伝わってきた。
マリは目の前にいるのが本当にラエルなのだとようやく理解し始めたが、それでもまだ信じられない気持ちが残っていた。
「神殿からは来られないって……」
そこまで言いかけたマリは言葉を途切らせ、彼を見つめた。
「まさか、私を驚かせるために?」
ラエルはわずかに笑みを浮かべ、彼女の手を優しく握った。
「君にサプライズを届けたかったんだ。」
マリの胸は喜びでいっぱいになった。
今日、彼にどれほど会いたかっただろう?
本当にこれ以上ない贈り物だった。
こうして彼と向かい合えることだけで、マリはあまりにも幸せで目頭が熱くなった。
「でも、あまり無理をして来てくれたんじゃないですか?お仕事もたくさんあるでしょうに……」
彼女が知る限り、ラエルが抱えている仕事は到底一か月やそこらでは片付けられる量ではなかった。
ラエルはしばらく黙ったあと、口を開いた。
「なんとかやった。」
「本当ですか?」
「実は、少しオルンに任せた。全部じゃなくて、ほんの少しだけ。」
「……本当に少しだけですか?」
「そうだ。そして、あいつにはもう少し働いてもらってもいい。」
マリはくすっと笑った。
なぜか「少しだけ」とは思えなかったが、まあどうでもよかった。
ラエルは穏やかな目で彼女を見つめていた。
彼女もまた彼の青い瞳を見返した。
互いに言葉を交わさず、見つめ合うだけで胸がいっぱいになるほど幸福感に包まれた。
「マリ。」
二人の顔がゆっくりと近づき、柔らかなキスが交わされた。
そのキスが終わると、マリの顔は赤く染まっていた。
彼の唇が触れるたびに、いつも胸が高鳴り、切ない感覚が胸に宿った。
ラエルは相変わらず熱い瞳で彼女を見つめていた。
マリは何だか恥ずかしくなり、視線をそらして目の前の彼を見るのをやめた。
「食事は済ませましたか? 食事を用意させましょうか。」
「大丈夫だ。それより、見に行かなければならない場所がある。」
マリは不思議そうな表情を浮かべた。
突然行かなければならない場所とは?
ラエルは微笑みを浮かべて言った。
「今日は君の誕生日だろう? だから、君の誕生日を祝わなければ。」
「いえ、本当に大丈夫です。」
マリは戸惑いながらも控えめに首を横に振った。
すでに彼の顔を見るだけで十分幸せだった。
ほかに何も必要ないと思っていた。
「君が大丈夫でも、僕が大丈夫じゃない。君のためにいくつか準備したんだ。さあ、行こう。」
そう言いながらラエルは続けた。
「今日は君が最高の誕生日を過ごせるようにしよう。」
「えっ?」
マリは驚いた表情で彼について行った。
そのまま外に出たら人々に見つかってしまうのではないかと少し心配しながらも、彼の後を追いかけた。
外には馬車が待機していた。
「出発するように。」
「はい、陛下。」
何の飾りもない馬車だったが、御者はどうやら東帝国の近衛騎士のようだった。
マリは、ラエルが自分の誕生日のために何か特別な準備をしていたことを察した。
『急いで来たと言っていたのに、いつこんな準備を……?』
「どこに行くんですか?」
「行けばわかる。遠くない、すぐに着くよ。」
まるで秘密の贈り物を隠すかのように口を閉ざすラエルを見て、マリはさらに期待と不安で胸が高鳴った。
馬車は祭りで賑わう通りを抜け、カーメン城の区域へと向かった。
そして到着した場所を見て、マリは大きく目を見開いた。
「劇場?」
建物の前には「ヴィンセント劇場」と書かれた看板が掲げられていた。
「降りよう。」
ラエルの手を取って馬車から降りたマリは、疑わしげな声で尋ねた。
「どうしてここに来たんですか?」
「君にこの公演を見せたくて来たんだ。」
「でも……。」
マリの知る限り、このヴィンセント劇場で開かれる重要な公演はない。
むしろ、この場所は名前さえもほとんど知られていない場所だった。
ここで一体どんな公演が行われるというのだろう?
「入ればわかるさ。」
ラエルに促されるまま劇場に入ったマリは、驚きで目を見開いた。
予想もしなかった人物たちがそこにいたのだ。
「皇后陛下、お目にかかります!」
東帝国皇室の楽長、バハンだった。
穏やかで洗練された若き音楽家は、マリの侍女時代から深い縁のある人物だった。
バハンだけではない。
東帝国皇室楽団の主要なメンバー全員が集まり、この特別な公演を準備していたのだ。
マリは驚きの表情でラエルを見つめた。
「皇后の誕生日だ。このくらいはやらないとな。」
ラエルは淡々とした表情でそう言った。
劇場で準備された贈り物は、ただの皇室楽団の公演だけではなかった。
もっと特別な贈り物が用意されていた。
「皇后陛下にお目にかかります。」
幼い声が響いた。
マリは驚いて声の方を見ると、人形のように愛らしい少年、オスカー皇子がいた。
「オスカー殿下!どうしてここに?」
マリは嬉しそうな顔でオスカーの手を取った。
「まさか、私をお祝いしに来てくれたんですか?」
「いや、その……そういうわけではなく、ただ近くに用事があって……。」
「用事?」
オスカーは照れたように顔を赤らめながら視線を逸らした。
隣でラエルが微笑を浮かべた。
「君の誕生日を祝うために行くと言ったら、どうしても一緒に行きたいと言い出したんだ。それで仕方なく連れてきた。」
「兄上……。」
オスカーは困ったような目でラエルを見上げた。
「そ、それは違います……。誤解しないでください。私は……。」
オスカーは自分の気持ちを伝えるのが恥ずかしくて、もじもじしながら言葉を濁した。
しかしその瞬間、マリが思い切ってオスカーを抱きしめた。
「ま、マリ?いや、皇后陛下?」
「ありがとう、殿下。」
思いがけない抱擁に、オスカーの体が硬直した。
その顔はリンゴのように真っ赤に染まった。
「遠いところをわざわざ来るのは大変だったでしょうに、私のためにこんなふうに来てくれて、本当にありがとう。」
「だ、大丈夫……。」
その時、ラエルが低い声で二人の間に割って入った。
「久しぶりに会えて嬉しいのは分かるが、少し喜びすぎではないか?」
不満げな声で、マリはくすくす笑いながら応えた。
「まさかオスカー殿下に嫉妬しているんですか、ラエル?」
以前からの縁のためか、マリはオスカーを実の弟のように感じていた。
実際、ラエルの弟でもある。
しかし、ラエルにとっては血を分けた弟であっても、彼女と抱き合うのは許せないようだった。
「もちろん嫉妬しているさ。君は当然、私のものだから。」
「そ、それは何ですか。オスカー殿下も聞いているんですよ。」
マリは恥ずかしそうに顔を赤らめ、オスカーから少し離れた。
「まあ、どうせ用意したものがあるんだろう。」
マリは公演場の中央に案内されて席に座った。
観客は彼女一人だけだった。
ただ彼女のためだけの特別な公演。
ラエルは彼女の耳元で囁いた。
「今日の最初の贈り物だ。誕生日おめでとう、マリ。」
オーケストラの団員たちは楽器を手に取り、演奏の準備を始めた。
演奏が始まる直前、舞台は静まり返り、観客席に座るマリの心は緊張でいっぱいだった。
「尊敬する皇后陛下のお誕生日をお祝い申し上げます。最初の演奏を始めさせていただきます。これは皇后陛下に捧げる献呈曲です。」
楽団長バハンの合図と共に演奏が始まった。
『何の曲だろう?』
初めて聞く曲だったが、壮大で素晴らしい曲だった。
技巧的に複雑というよりは非常に叙情的で感情が込められたような印象を受けた。
誕生日に相応しく明るくも温かなメロディーが会場全体に響き渡った。
調和のとれた旋律がまるで天使の祝福のように彼女の心を優しく包み込んだ。
マリはその美しい旋律に酔いしれ音楽を堪能していたが、ふとラエルの方を見た。
「もしかしてこの曲、陛下が?」
ラエルは静かに微笑みながら頷いた。
「君を思いながらトントンと作曲してみた。気に入ってくれたら嬉しい。」
マリの瞳が潤んだ。
これだけ自分のために特別な演奏を用意してくれただけでも十分だったのに、さらに曲まで作曲してくれるなんて。
言葉では言い表せない感動が胸の奥から湧き上がった。
「……大変だったでしょうに、どうしてそこまでしてくださったのですか。」
ラエルは温かな眼差しでマリを見つめて答えた。
「君のためのことだ。全然大変じゃなかったさ。」
その時、曲の終わりが訪れ、ステージ上で思いがけない出来事が起きた。
オスカーがバイオリンを手にして舞台に上がったのだ。
「オスカー殿下?」
「君のための演奏があると言って、自分もどうしても演奏したいと言い出してね。まあ、少し未熟なところもあるが、楽しんでくれるだろう。」
オスカーは青い瞳でマリを見つめると、弓を動かし始めた。
優しい音色が空間に広がっていく。
『ああ……』
素晴らしい演奏だった。
年齢が若い分、技術的に多少の未熟さはあったが、それでも非常に美しい音色がバイオリンから流れ出ていた。
天賦の才とでも言うべきか?
ラエルの弟であるオスカーも、音楽の才能に恵まれているのだろう。
『そういえば、以前芸術家になりたいと言っていたな。』
オスカーの演奏に合わせてオーケストラの音が穏やかに続き、音楽は徐々にクライマックスへ向かっていった。
マリは自分でも気づかないうちに胸が高鳴っていた。
まるで彼女だけのために、彼女を祝福するメロディで、感動せずにはいられなかった。
「……ラン。」
マリは震える声で彼を呼んだ。
音楽が終わる瞬間、再び予想もしない出来事が起きた。
隣に座っていたラエルが席を立ったのだ。
「ラン?」
彼は答える代わりに優しい笑みを浮かべ、ステージへ向かって歩き始めた。
『まさか?』
ラエルの意図に気づいたマリは目を大きく見開いた。
彼がステージ中央のピアノの前に座ったのだ!
「最後の曲はセレナーデです。今回は陛下が直接演奏してくださいます。」
ラエルは一瞬マリをじっと見つめた。
言葉を発することはなかったが、その目の輝きだけで彼が伝えたい気持ちを感じ取ることができた。
愛している、と。君を本当に心から愛し、大切に思っている、と。
その気持ちはピアノの旋律にもそのまま表れていた。
愛を告白するセレナーデ。
その柔らかく感動的な旋律がマリの胸に深く響き、最終的には感動の波が彼女の心を埋め尽くした。
彼女は涙を抑えきれず、目頭が熱くなった。
「これは……あまりにも反則だわ。」
マリは心の中でそう呟いた。
これまで聴いてきたどの公演よりも最高の演奏であり、また最高の誕生日プレゼントだった。







