こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

116話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 血縁調査②
「どうか誤解……しないでいただきたい。」
「……はい?」
「私は、あなたをとても大切に思っています。」
一文字一文字が深く刻まれるように伝わってくる言葉はぎこちないものの、強く真心が感じられた。
ノアは公爵がなぜ突然こんなことを言い出したのか理解できなかった。
いや、そもそも彼が気にかけていたのはクラリスではなかったのか?
「あなたは10歳のころから私の邸宅に出入りしていました。クラリスはその日をいつも待っていましたよ。」
「………」
「私も待っていました。」
「それは、もちろん……です。崩れたゴーレムの知らせを聞くべきでしたので。」
「それだけではなかったのです。」
その中には先代王と王室の宝物が眠っていた。
しかし年老いた魔法使いアストの優しい手紙とノアの才能を知る前まで、公爵はその内部を詳しく調査しようとしたことはなかった。
理由はわからないがなぜか……。
王妃がそれをそれほど望んでいなかったのかもしれない。
彼女が先王に対して良い感情だけを持っていたわけではないことを考えれば当然のことだ。
ともかくノアとの出会いでマクシミリアンは未解決の宿題のような事に踏み込むことができ、感謝の気持ちを抱いた。
「私の言葉が妙に聞こえるかもしれませんが、ノア・シネット、あなたは私がまったく知らない・・・ただの男の子にすぎなかったのです。」
十歳の魔法使いの少年と二十五歳の公爵。
どう見てもまったく異なる二人の間に、何らかの関係や感情が芽生えることを期待する者など誰もいなかっただろう。
ましてや、二人はもともと口数の多い性格でもなかった。
クラリスを間に挟んで、お互いのことを間接的に耳にするだけだった。
だが、その時間はもうすでに十分だった。
「いつの間にか、私はあなたを“ノア・シネット”という他人ではなく見ていたようです。ひとたび一線を越えてしまえば、その子を愛おしく思うことは、さほど難しいことではありませんでした。」
「……。」
「もし、私の気持ちがあなたを困惑させたなら謝ります。しかし、なぜか少し前の出来事で……傷ついていないか心配でした。」
少し前の出来事とは、彼がノアに向けて、わずかに冷たい眼差しを送ったときのことを指しているようだった。
「実は慌ててどう行動すればいいのかわからなかっただけです。」
「公爵が……慌てたと?」
それはあまりにも似合わない言葉なのでノアが驚いて聞いた。
彼はゆっくりと顎をさすった。
「たぶんクラリスと目が合っても同じ顔をしたと思います。」
つまり公爵の言葉は、相手が特別にノアだからそんな顔をしたのではないと話しているようだった。
「そしてこのままにしておくべきか悩みましたが……一度は話をしなければと思いました、ノア・シネット。」
ノアは息をひそめたまま彼の言葉を待った。
「あなたはクラリスをどう……思いますか?」
「それは……。」
ノアはしばらく悩んでからゆっくりと顎を引いた。
「簡単には答えられない問題です。」
彼女に対して深い感情が芽生えたことを認めたとしても、ノアはそれでもなお、彼女に対して深い友情を感じていた。
この複雑な気持ちを、たった一言で整理することはできなかった。
「彼女は……私にとってはただの少女であり、それを代弁するような立派な言葉も感情も存在しません。」
それは、きっと永遠に存在しないだろう。
ノアはその言葉を呑み込むと、少し震える手で仮面をそっと撫でた。
「それでも、いつかあなたにも……痛みがあると思います。私も……そうなってほしくは……ありませんが。」
公爵がかすかに投げかけた言葉の真意を、ノアは理解できなかった。
深い感情には痛みが伴うという一般論なのか、それとも他の理由があって、ノアの心臓が締め付けられることになるのか。
けれども、どちらにしても、事実として訪れる結果は定まっていた。
クラリスが怪物たちに欲望を向けられることはあり得なかった。
ノア自身もそれを許せなかった。
もちろん、クラリスの前ではこの当然の事実さえ忘れたふりをして、ただ抱きしめてしまったものの話だ。
「それでも、あなたの真心の価値が変わることはないでしょう。」
「……。」
「あなたはとても貴い心を持っています。何ものにも代えがたい相手を見つけることができるというのは、誰にでも与えられるものではありません。」
そして公爵は、じっとノアの涙ぐんだ瞳を見つめながら言った。
「それは祝福されるべき、立派な心です。私は……心からあなたの成長を祝福したい。」
そんなはずがなかった。ただの嫉妬だった。
でも……祝福だなんて。
ノアは心の中では彼の言葉を否定していたが、祝福の言葉を伝える彼の真心までは否定することはできなかった。
「でも、感情が行動にすぐ直結するのは、注意が必要だと思います。」
「………」
「私はあなたが神官として、適切に気持ちを伝えて許可を求める手順を踏んでほしいと思っています。それによってクラリスだけでなく、あなた自身も守ることができるでしょう。」
クラリスだけでなく、自分を守る?
ノアは彼が何を疑っているのか察し、公爵が続けて説明した。
「あなたは少し客観性に欠けているようです。感情に任せて行動を強制し、思うままに振る舞う男は、決して良い存在ではありません。むしろ苦しみ、闇の中に隠れてしまうかもしれません。」
それは……かなり的を射た言葉だった。
ノアは、公爵が自分のことを長い間見守っていたことを、改めて実感した。
「ただ、相手との距離感を測るのは難しいことです。大人でもこれをきちんとできない人が多いのに、経験の少ない10代の少年ならなおさらでしょう。」
「……。」
「もし、いつか混乱が深まってつらくなる日が来たら……信頼できる大人に相談してみるのもいいと思います。」
大人に相談しろだなんて。
ノアが聞くにはとても奇妙な言葉だった。
彼の知る大人たちは大抵、ノアが持つ魔力を削ぎ落とそうとする者たちばかりだったからだ。
誰もが尊敬するアルステアがノアを特別に気にかけていなければ、彼らはノアに何十回と危害を加えていただろう。
「どの大人も、あなたのように優れた少年の相談役として招かれることを大きな名誉と感じるでしょう。」
いや、そうはならないだろうとノアは思った。
ノアは幼い頃のクラリスが何度か「公爵様は密かに“褒め言葉の王”ですね」と話したことを思い出す。
やはり、彼女の言葉が影響していたようだ。
ノアのような人まで褒めるとは驚きだ。
その言葉が絶対に正しいとは思えなかったが、それでもなぜかノアはそっとマントを引き寄せた。
まるで自分を肯定されたような、奇妙な気分を感じながら。
ちょうどクエンティンが急ぎの用件があると言って彼らを呼んだため、会話はそこで終わった。
「嫌な顔ひとつせず愚痴を聞いてくれて、感謝します。」
「……そんなふうに思っていませんでした。」
いや、嫌ではなかった。
ノアは、公爵の深い愛情を感じ取った。
昔、修道士様から受け取ったような――
あの懐かしい感情を再び感じることになるとは、思いもしなかった。
「公爵のお言葉は本当に……励ましになりました。」
しかし、正直な気持ちを口にするのは気恥ずかしかったので、ノアは彼の心に応えるような曖昧な言葉を返した。
もしかしたらそれだけでも十分だったのかもしれない。
いつも無表情だった公爵の顔に、かすかな笑みが浮かんだ。







