こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
76話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 魔法使いの城②
「ノ・・・ア?」
他の誰かであるはずがないと確信していても、ノアを呼ぶクラリスの言葉はどういうわけか疑問形になった。
なぜか少し違って見える気がしたからだ。
(仮面もローブもそのままなのに・・・)
半年前よりも線がさらに洗練された感じがすると言うべきだろうか。
もちろんその時もノアが違って見えて驚いたのだが。
しばらく視線を合わせたノアは片腕でクラリスを抱きしめたまま、灰色のローブの男を見つめていた。
ただじっと視線を送るだけだったのに、魔法使いは顔を赤くしておろおろし始める。
「大変な目に遭われたんですね。」
ノアがその魔法使いに言った。
「助けたことに対して私に感謝する必要はありません。」
「だ、誰があなたのような怪物に感謝すると思って・・・!」
「だから感謝するなと言ったではありませんか?」
これに対し、灰色のローブをまとった魔法使いが声を荒らげた。
「あなたがここにいられるのは、アリステア・アストの恩恵のおかげだということを忘れないでください。どんなに魔力が強くても、あなたは人間ではないのですから!」
その辛辣な言葉にまず反応したのはクラリスだ。
彼女は反論するために口を開いたが、その上からノアが指先を押さえると、反論することすらできなくなる。
その間にも灰色のローブを着た魔法使いの侮辱は続いていた。
「魔法使いの宝石がこんなにも長い間反応しないのも、あなたのせいでしょう。」
とてもじゃないが信じられない言葉だ。
クラリスには魔法使いの宝石が何なのかは分からなかったが、それがノアとは全く関係ないということにはすべてを賭けることができる。
すべての鉱物はノアを愛してはいても、憎むことなどありえなかった。
彼の顔に宿る石にはどんな鉱物も持ちえない、奇妙で心地よい力があったのだから。
クラリスはノアを庇うように声を荒らげようとしたが、こんな酷い言葉に反論できない自分が腹立たしかった。
「・・・私も分かっています。」
「分かっているならさっさと出て行きなさい!その恐ろしい顔を受け入れる場所なんてないでしょうし、私だったらさっさと死んでしまうところですがね。」
その辛辣な言葉を最後に、灰色のローブをまとった魔法使いは言葉を閉じた。
男は体をひるがえし、北側のドアを越えて消えていく。
「・・・」
「・・・」
二人きりになった北の部屋で、クラリスとノアはお互いに沈黙を守っていた。
いや、クラリスの場合は沈黙を守るというよりは、無理やり声を押し殺したという方が正しい。
彼女は不満に満ちた顔でノアをじっと見つめた。
「・・・どうか怒らないで」
怒らないでいられると思ってるの?
クラリスの視線はさらに険しくなった。
死んでしまえと言わんばかりの辛辣な侮辱にも動じなかった彼の両肩が、少しだけ震え始めた。
「いや、それは・・・怖かったということです。」
怖かったって?何が?
クラリスが心の中で問いかけた言葉に、彼はあえてそれを悟ったかのように答えた。
「少女は・・・とても強い。」
彼の冷たい指先が唇の近くまで寄り、そっと触れて過ぎ去った。
「ノア。」
今度は声が出た。
「ごめんなさい。」
彼が再び謝罪したが、クラリスには彼を許す気持ちがなかった。
「私は本当に怒ってるの!どんなに私を守るためだとしても、今回は絶対に許さないから!」
そう声を荒げると、仮面越しに感じる視線が強く意義深く思えた。
「それはどういう意味?」
「・・・え?」
「少女が魔法使い一人を始末できないわけがありません。明らかに彼が困る時まで待って後悔しそうだったので、手加減しただけです。」
何ですって?
クラリスは息が詰まる思いでノアを見つめた。
「それに、少女は言葉だけで人の心を刺すこともできますよ。」
「私がいつ!」
「私がその証人です。魔法使いの城は高水準の能力不足に悩まされていますが、身体も心も傷つく人が出るのは避けられないことです。」
「・・・ひどい。」
「でも、何事も上手くいきませんでしたよね?」
全然そんなことはなかった。
あの悪い魔法使いはノアにあらゆる暴言を浴びせてきたが、クラリスは何もできなかったのだ。
(何よりもノアが傷ついているに違いない。)
何事もないように振る舞っているが、あんなひどい言葉に心が傷つかない人などいるはずがなかった。
「ノア、あの・・・大丈夫?」
「私はいつも大丈夫です。少女は首都の祭りを楽しく過ごしましたか?」
いずれにせよノアは、その不愉快な魔法使いの話題に時間を使いたくないようだ。
すぐにクラリスの話題に切り替える。
「うん。」
クラリスはまだ少し前の出来事が心に引っかかっていたが、なんとかノアに向かって笑った。
「ノアも一緒に遊べたらよかったのに。」
「人が多い場所は好きではありません。」
でも祭りの期間中は仮面をつけて街を歩き回る人もいるので、ノアが目立つことはなかったでしょうね。
クラリスはその話をしようとしたが、思いとどまった。
祭りの人々とは違い、彼は楽しむために仮面をつけているわけではなかったからだ。
「まあ、魔法使いの城に来てくれたことを歓迎します。私が歓迎するかどうかは分かりませんけど。」
「もちろんです。ここにいる代理人たちはみんなノアを好むはずです・・・。」
彼女が石の話題に夢中になり、話を進めようとしたところを、ノアが冷たい手のひらで制した。
「少女。」
「・・・あ、ごめん。」
口をふさがれて初めて、クラリスは自分の失言に気づいた。
彼女が石を操れる魔法使い、ゴーレムマスターであるという事実は、絶対に秘密にしておくべきことだった。
セリデンの平和のためにも、それを守らなければならない。
幸いなことに、彼女の秘密はまだ守られているようだった。
「やっぱりノアの部屋に行ったほうがいい気がする。また失敗したら、大変なことになるから。」
「それはあまり良い考えではないと思います。ここには他にも少女が探検する価値のある場所がたくさんありますので、別の場所を案内しますよ。」
「いったいそれはどういう意味?」
クラリスはノアの腕をつかんで引き止めた。
「ノアは私の部屋で寝るくせに、私には部屋を見せてくれないなんて?不公平だ!」
彼女が声を上げると、遠くを通り過ぎる魔法使いがこちらを振り返って見た。
「何を言っているんですか!それは少なくとも三年前のこと・・・!」
「時間が経てば、あったことがなかったことに変わるの?」
「いや、それは違いますけど・・・。」
「じゃあ、どうして?」
「う・・・。」
ノアは片手で自分の胸元をぎゅっと押さえる。
少し前に言った「クラリスの言葉は心を刺す」という発言を証明するかのようだった。
「ああ、分かりましたよ。どうせ私は少女に勝てるわけがないですから。でも。」
ノアはじっと警戒する視線でクラリスを見つめた。
「腕を・・・ちょっと離してください。」
「どうして?」
クラリスは彼の腕をさらにしっかりと掴んだまま尋ねた。
「それは・・・」
少し戸惑っていた彼が慎重に答えた。
どことなく困惑しているようにも見えた。
「少女は握力が強くて痛いです。」
「痛いって何が痛いのよ!」と言いながら、クラリスは彼の背中を手のひらでパシンと叩いた。
ノアの体が前に揺れる。
「本当に痛いです!心臓が破裂するかと思いました!」
「うそつき。」
クラリスは冷たく答えながらノアの背中を押した。
早く案内するように急かすつもりだった。
「・・・どうしてだんだん無茶苦茶になっていくんですか。友達には優しくしてください!」
ノアはぶつぶつ言いながらも、「床に突起がありますから気を付けてください」と言って、丁寧に彼女を誘導する。
いくつか階段を上がり、ノアの部屋に到着してドアを開けると、柔らかな陽光が彼女の足元まで降り注いだ。
この部屋は2階分の高さがあり、大きな窓から森が見下ろせる作りだった。
「わあ。」
驚いたのも束の間、クラリスはその部屋の中をぐるりと見回した。
ここはまさに「隠れ家の聖地」と呼ぶにふさわしいほどだった。
天井まで届く巨大な本棚には、規則正しく並べられた本がきれいに整理されていた。
また、他の壁にはさまざまなサイズの棚があり、道具や生活用品を安全に収納しているように見えた。
これらを一通り見回したクラリスが最初に抱いた感想はこうだった。
「・・・なんでこんなにきれいなの?」
実はクラリスには一つの偏見があった。
まさに「魔法使いの部屋は汚いはずだ」という偏見だ。
「いつも過ごす場所をきれいに保つのは当然のことだと思いますよ。」
「それはそうだけど。」
これは「きれい」の域を超えていた。
窓辺に置かれた実験道具や器具も、光が当たる中で清潔に消毒されているかのように見えた。
「一人で暮らしていると、こういうことも自分でできるようにならなきゃいけないんだな。」
クラリスは新たな気づきを得て反省した。
自分ではそれなりに多くのことをやっているつもりだったが、それはほんの一部に過ぎなかったのだ。
「少女はこんなことまでしなくてもいいんですよ。公爵家でもそんなことは望まないでしょうし、おそらく未来、大人になってもそうでしょう。」
彼が「未来」という言葉を口にしたとき、クラリスは一瞬身じろぎした。
「まだその話は・・・していないのに。」
ノアは未だにクラリスが数年後に処刑されることを知らない。
何度かそれについて話そうとしたが、結局口を開けることはなかった。
幼い頃はその理由が分からなかったが、今ではなぜか理解できる気がした。
ノアはクラリスに「大人になったら」という言葉をかけてくれる唯一の存在だった。
それが現実に起こることがないと分かっていても、クラリスはそんな家庭がなぜか嫌いではなかった。
実現できなくても、想像するくらいは許されるのではないか。
状況がこうなってしまうと、次第に話せなくなり、その時間が長引いて今日に至った。
もしノアが活発な性格で、公爵家の人々と積極的に対話をしていたら、どこかで真実を知ったかもしれない。
しかし彼はクラリス以外の人々とは必要最低限の会話しか交わさなかったため、噂を耳にすることもなかった。
さらに、新聞では王がグレゼカイアへ孤児への教育を提供するという話が記載されているだけだった。
十数年後に処刑が予定されているという話は、どこにも書かれていなかった。
クラリスは、おそらく王がこの事実を隠してくれたのではないかと考えた。
「処刑」という認識が広まると、クラリスの生活が多くの面で不便になると予想して、そうしたのかもしれない。