あなたの主治医はもう辞めます！【６４話】ネタバレ

私たちの周りの人々の間で静寂が流れる。

いつの間にか私のそばに立ったケインズ卿が腕を組んで慎重に2人の負傷者を眺めていた。

「魔力治療は最大限自制し、イリテ試薬で最大限に毒を排出させなければなりません。できるだけ消極的な処方が必要で、意識はすぐに戻ってきますが、完全に回復するには時間がかかりそうです」

「それは・・・」

ハエルドン皇子がゆっくりと私を眺めて口を開く。

「2日以内には完全に回復させる自信がないと？」

「はい、そんな病気ではありません」

私は淡々と答えた。

「まあ、必要であれは他の処方で一時的な効果を出すことはできますが、長期的に見て永久的な臓器毀損がある可能性がありますから」

「ナタリーは2日以内に回復させることができるそうだが？」

「トマソ症候群ならそうでしょうが、たぶん違うでしょう」

私が瞬きもせずにしっかり立ち向かっていると、空気も読めずにジェイド皇太子の声が後ろから聞こえてきた。

「リチェ嬢、私はリチェ嬢を応援しています！」

私は後ろを向いて礼を言い、仕方なく答える。

「応援をして変わったりする結果ではないですが、とにかくありがとうございます」

ハエルドン皇子が不便な気配を隠すことができず、集中しろという意味で拍手を一度した。

「同じ症状を持つ二人の患者をめぐって、ついに二人の意見が分かれましたね。私たちの研究室は2日で治療が可能だと結論を下しました」

今やわいわいと集まった人々が皆彼に視線を向ける。

「2日後には狩猟大会の閉幕式ですよね？今、この2人に1人ずつ患者を割り当てて、その時にこの患者たちの状態を公開することにします」

ナタリーは私を見て情けないと言わんばかりに笑った。

「二日後に完全に回復させる自信がないと、あなたの口で言ったわ。私はできると言ったけど」

私は認めるという意味でうなずく。

もともとヒキガエル科の毒は、慎重かつ保守的に扱わなければならなかった。

早い治療のために無理をすれば、長期的に良くない結果が出るしかないのだから。

「その時、私の患者が完全に治ったなら、当然私が勝つのでしょうね」

「令嬢が処方したヒリカ魔力治療とケシオ試薬で患者が治ったのであれば」

私が全く退くつもりもなく答えると、ハエルドン皇子は頭を上げて大衆の前に宣言した。

「閉会式の時、とても楽しい見物ができるようになりますね」

私の考えもそうだった。

私に割り当てられた患者の名前はエシアン・レイジで、フリリット侯爵家の令息の護衛騎士だと言った。

私が下した処方はかなり単純だ。

水をたくさん飲んで、イリテ試薬を利用して汗と小便で最大限毒を排出すること。

つまり、頻繁に水を飲ませ、時には薬を飲ませた後、だらだら流れる汗を拭いてあげるだけ。

「だからディエル、君がよく見てくれればいいんだよ」

私はにっこり笑ってディエルにタオルを渡す。．

「悲しいことに、明日は私がちょっと忙しいから」

ディエルは渋い表情でタオルを受け取り、熱心にエシアンの汗を拭い始めた。

明日は本当にいろいろなことが起こる予定だ。

「ところでフェレルマン子爵はいらっしゃらないのかな？」

「たぶん、時間を計算すると、明日あたりに到着すると思うんだけど」

私は机の上にある親子検査試薬を少しビーカーに取りながら答えた。

大雑把に原理を説明しても彼は聞き取れるだろう。

「明日、子爵様まで気にする暇があるかどうか分からないから、あなたがちゃんと準備してあげて」

「私も忙しい。患者も見なければならないし、アーロンも監視しなければならないし」

ディエルがぶつぶつ言うと、私はにっこり笑って答えた。

「ああ、明日は監視しなくてもいいよ」

「うん？」

「放してやるの。アーロンも、もう自由を楽しむ時が来たから」

恐らく、彼は嬉しくてたまらないだろう。

公爵領に来て以来、彼は閉じ込められ、単純な仕事を繰り返してきた。

ところが、突然このように開放された場所で自由を得ることができるとは、どれほと喜ばしいことだろうか。

「うん、リチェ。今回は私だけあなたの計画に入っているのではないと思うけど」

正確に言えば、ディエルは今回はめたのではなく、後始末をするために連れてきたのだった。

しかし、あえてそんなことは言わないことにした。

「その指輪、誰と分けてはめたの？」

私の右手の薬指に挟まれた指輪を見て、ディエルは不機嫌そうに尋ねる。

以前、イザベル夫人を傷つけようとした下女を捕まえた時、ディエルと分け合った使い捨て魔法疎通指輪だ。

「分け合った人は公爵様で・・・」

私は親切に答えた。

「ずっと私と一緒にいる人はセイリン卿だよ」

「セ、セイリン卿？」

「あなたもついてくる？」

「いや」

ディエルは直ちに答えた。

セイリン卿が彼に短剣を向けたのはかなりショックのようだった。

「個人的には、フェレルマン子爵が相手にするにはもっといいかな。少なくとも命の脅威は感じないから」

とにかく皆が役割に満足しているようで良かった。

そしてその夜、私はとても久しぶりに夢を見た。

ディエルがフェレルマン子爵の話をしたためか、まもなくフェレルマン子爵が来るということを知っていたためか、彼が出てくる夢だ。

『そのように人が変わったふりをして、要望した表情をしないでください。次に進みません。絶対に許せません』

彼の表情は冷淡極まりなかった。

そして彼の前にいる背の高い男は・・・。

『もう私に真実の姿をあまりにもたくさん見せてくれたんじゃないですか？』

ぼやけていてよく見えなかったが、エルアンのようだった。

『そういえば、大人になってから、公爵様は私が後悔するようなことばかりきちんと積み立てたようですね』

エルアンが何と言っているのか、彼の表情がどうなのかは分からなかった。

『表と裏が違う者の最後でしょう。非常に因果応報の勧善懲悪です』

フェレルマン子爵は鼻を鳴らし、傲慢に腕を組んだ。

「絶対に許せないって何だろう」

夜明けに目が覚めたとき、私は夢を思い出そうと必死になり、すぐに振り払った。

エルアンとフェレルマン子爵の間で起こることが特別なことではないという気がしたためだ。

フェレルマン子爵が誰かと仲が良いはずがなかったし、それは成人になったエルアンとも同じだろう。

それはまあ、私が気にすることではないという考えで、私は気楽に眠りについた。