こんにちは、ちゃむです。
「あなたの主治医はもう辞めます!」を紹介させていただきます。
今回は92話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
92話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 神託
イシドール男爵が私を訪ねてきたのは建国祭の最後の日だった。
彼の領地と首都はかなり距離があったので、事態把握をした後、熱心に走ってきて時間を合わせたに違いない。
私は自分の前に座っているイシドール男爵の顔を見て嬉しそうに笑った。
「こんにちは。セルイヤーズ公爵城でお会いしたことがありますね」
「そう、私のお姉さんがあなたに本当によくしてくれた」
彼は適当に答え、いらいらした目で看板を見る。
誰でも見られるように大きく立てておいた看板には、いくつかの濃縮試薬の価格が書かれていた。
腹痛に効くチカリフル濃縮試薬、39.9ゴールド
こんな風に。
もちろん一番上には一番高い濃縮試薬が位置している。
お肌にやさしいアモリ花濃縮試薬、30万ゴールド
正直に言うと、とんでもない値段だ。
時々、看板を見ていたお客さんが、そんなに肌に良い試薬なのかと尋ねる時があった。
私は良心的に「率直に言ってコストパフォーマンスは良くなく、ただ個人収集用です」と答えている。
そのため、市中にあるアモリの花をすべて総なめして作った濃縮試薬は、1本も売れていない状態だ。
「ところで、あのアモリの花濃縮試薬のことだが」
「はい」
「お前がフェレルマンの商団を利用してアモリの花を買い入れたそうだが」
「はい。色がとてもきれいではないですか?」
私は相変わらず演技に自信がないので咳をしながら平凡な紫色の試薬を持ち上げて見せた。
「収集用です」
もちろん、イシドール男爵は正気ではなかったためか、私のぎこちない台詞の処理はあまり気にしていないようだ。
息子の失踪のために普段と違って彼の目はボサボサに充血しており、髪の毛もパサパサしていた。
「濃縮試薬なので、全部集めても5本しか出ませんでした」
「150万ゴールド?普段のアモリの花の相場に比べて話にならない。それだけの価値があると思うか?」
「まあ・・・」
私は肩をすくめた。
「売る人の心ですね、それは。売れなくても私は構いません」
イシドール男爵が眉間にしわを寄せながら何か言おうとしたところだった。
横で腕を組んで歯ぎしりをしていたセイリン卿がぶっきらぼうに割り込んでくる。
「後ろで待っている人が見えないの?用件だけ言って。買うの、買わないの?」
「セイリン卿」
イシドール男爵が唖然とした顔でセイリン卿を眺めた。
「いくら社会性のない改次班だとしても、今私にため口をきくのか?」
イシドール男爵はセイリン卿よりずっと年上だ。
しかし私が見るには今セイリン卿は自分の腹に剣を突っ込まなかっただけで我慢していた。
「セイリン卿の言う通りです。早く決めてください。この濃縮試薬に興味をお持ちのようですが、ああ、でもイザベル夫人との絆を考えて」
その言葉に、イシドール男爵の青がかった顔が少し沈んだ。
注意をそらした私は、しっかりと話す。
「五本全部買ったら、10ゴールド安くしてあげます」
「え? 10ゴールド? 150万ゴールドの中で10ゴールド?」
「嫌ならいいですよ。10ゴールドで一週間過ごせる平民もいますから」
私は平然と語り、あごをつないだ。
今のイシダドール男爵の頭の中が分かったような気がした。
メーリス公国に撒いた化粧品で来たメーリスの貴族たちが大騒ぎになったということはすでに知っているだろう。
その不良化粧品を流通させた人がまさにイシドール男爵だろうから。
メーリス公国は小さいが富裕な国家であり、実際に治療剤を開発して高い価格で売れば100万ゴールド単位で金を稼げることが明らかになった。
ジェンシー公妃も私にお金はいくらでもくれると大言壮語したから。
もともと反乱軍の資金を動員するために作られた計画だ。
私は治療に便利に使えるように濃縮しておいた状態だった。
150万ゴールドを今投資すれば、数倍のお金を稼げると思うだろう。
「わかった」
イシドール男爵はためらい、ついに口を開いた。
「全部買うようにしよう」
「はい。現金でくれますよね?」
「・・・お金は半月後にあげよう」
「それでは駄目です」
私は馬鹿げているように眉をひそめた。
「あなた、私のこと知らないの?あなたがお世話になっているセルイヤーズ公爵の母方の叔父だよ!根も葉もない平民のくせに・・・」
「お世話だなんて」
セイリン卿がテーブルをバタンとたたいて割り込んできた。
「セルイヤーズ公爵がリチェにお世話になっているならまだしも」
彼女は今にも剣を抜き出しそうな勢いで目を光らせた。
私は彼女の手首をつかんで急いで言った。
「申し訳ありませんが、私は根も葉もない平民なので、貴族の信義についてはよく知りません。だから絶対にお金は先にくださらなければなりません」
「・・・今どこかに投資するところがあって現金があまりないんだ」
その時、後ろでうろうろしていたディエルが近づいてきた。
「男爵は貴族じゃないですか」
ディエルはセイリン卿から遠く離れて話す。
「私たちのような平民と違って手形を発行することができませんか?」
「ああ、そうですね」
私は相づちを打って、急いで口をつぐんだ。
やはり私は演技には素質がなかった。
無条件に現金で取り引きをしなければならない平民とは違って、貴族は手形を使うことができる。
「ちょうど首都なので、いくつもない銀行も近くにあるじゃないですか」
ディエルは親切に銀行のある方を指差した。
「手形を使えば、150万ゴールドくらいは出るんじゃないですか?」
「それならいいね」
セイリン卿がぶっきらぼうに横で言った。
「お金がないのに欲しいなら、領地と爵位でも賭けなければならない」
「何度もそんなことを言うと・・・」
イシドール男爵は震えながらセイリン卿をにらみつけた。
「フェレルマン子爵に一言言わせてください」
本当に厚かましい台詞を飛ばした彼は、飛び起きてディエルが指した銀行の方に大股で歩き始めた。
彼が戻ってきたとき、彼の手には150万の金貨がはっきりと書かれていた。
私はそれとなく別の話題の言葉をかける。
「ウェデリック様が行方不明なんですね。私の助手、アーロン・クリルソもいなくなったのに」
「あなたは行方がわからないの?」
「もちろんです。男爵様はアーロンが行けそうな所をご存知ですか?」
私も知らないという話に、彼は私の最後の利用価値が落ちたという表情をして見せた。
「知るもんか」
彼は不器用に手形を投げるようにテーブルの上に置く。
「あんな没落貴族出身なんて気にすることはない。何も持っていないやつをどうして・・・」
イシドール男爵とウェデリックを固い絆で信じて必死にしがみついたアーロンが可哀想になるほどだ。
私はこれ以上聞かずに150万ゴールドの手形を手早く取ってディエルに渡した。
後ろには頭取の名前とイシドール男爵の自筆署名が鮮明に刻まれていた。
「早く持って行ってください」
ディエルが素早くアモリ花の濃縮試薬を持ってきてくれた。
「もうすぐ花火大会が始まりますからね。整えるには時間が少しかかります」
建国祭の最終日、皆が期待していた最大規模の花火大会が開かれる夜だ。
確かに他のブースもいつもより早く後片付けをしている。
イシドール男爵がエルアンにお金を貸してほしいということもできたので、今日は絶対にエルアンが私のブースに立ち寄らないようにした。
それで朝に「花火をする時に会おう、リチェ」という挨拶だけを聞いて出てきたところだ。
人が多いはずなのに、とつぶやくと、私がどこにいようが、自分が何とかして訪ねて行くという自信満々な言葉が返ってきた。
当然、セルイヤーズ公爵はファーストクラスの対象者であるはずだが、彼は私にファーストクラスのチケットをくれなかった。
ジェイド皇太子に招待権をもらったことを知っているのかと思った。
この前彼と一緒に見た首都の夜景は確かに良い思い出として残っていた。
一緒に花火を見てもいいという考えを私も知らないうちにしていた時だった。
突然、街に人ごみだった人たちが二つに分かれ始める。
ずっとぎくしゃくしていたセイリン卿も、口を大きく開けて滑るように近づいてくる一人の女性を眺めていた。
「せ、聖女様?」
最初に反応したのは私の前に立っていたイシドール男爵だった。
20年前にハエルドン皇子に神託を与えたというティシリアの代わりに聖女がゆっくりと歩いてきていた。
神殿に入った瞬間から年を取らないと言っていたティシリアの代わりの女性は、十歳ほどに見える小さな女の子の姿をしている。
20年前もこのような外見だったに違いない。
彼女が歩くたびに白い裾の先の鈴から澄んだ音がした。
子供の姿であるにもかかわらず、ものすごい気運が感じられ、街全体に静寂が流れる。
「け、建国祭で大神様を見ることになるなんて」
今回の建国祭が過ぎれば、これから一生ティシリアの代わりに神女を見ることができなくなるかも知れない。
彼女は自分勝手に現れ、自分勝手に姿をくらますからだ。
珍しい見物にニヤリと笑って彼女を眺めていると、驚くべきことに彼女が近づいてきたところは私たちのブースだった。
「し、神託を降ろすみたいだね」
隣のブースからささやく声が聞こえてきた。
建国祭に参加した人の中から選ばれたたった一人にだけ降るという信託だ。
(「信託」の主人公はフリート侯爵じゃなかったっけ?)
私は慌ててあたりを見回すが、フリート侯爵の姿は見られなかった。
高位貴族の彼は今頃観覧塔の1等席にいるはずなので、ここにいるはずがない。
フリート侯爵が神託の主人公でないなら、きっと回帰前と違う状況の人が主人公だろう。
回帰前は建国祭に出席していなかったが、回帰後に参加した、この辺りの人に。
それで今度はエルアンがもらうかもしれないんじゃないか、とこの前軽く思ったこともあったんだけど・・・。
同じ条件を満たす人が他にもいた。
(私だ!)
私は驚いて起き上がろうとしたが、イシドール男爵の方が早かった。
「聖女様!」
彼はティシリアの代わりに神女の前にひざまずいて切々と叫んだ。
「私に神託を与えるために来られたのですか?」
ティシリアの代わりの女性の黄金色の目は彼を見ることさえしなかったが、イシドール男爵は興奮して叫んだ。
「息子、私の息子がどこにいるか教えてくれますか?え?」
ティシリアの代わりの聖女が彼を通り過ぎると、イシドール男爵は彼女の裾をつかむために腕を振った。
「私に、私にどうか神託を・・・」
驚いたことに、彼が襟をつかもうとするたびに、彼女の襟はまるで生物のように彼の手をあちこち避けていく。
その非現実的な光景に感嘆していた時だった。
彼女のはるかな黄金色の目と私の目が合う。
「知っているんですね」
子供のような小さな唇から老人の声が聞こえてきた。
「私の信託の対象者を」
私はゆっくりと立ち上がり、本能的に丁寧に両手を合わせる。
大勢の人々の視線が私に注がれていた。
信託を受けた人々に対しては全国に噂が広がる。
訳もなくハエルドン皇子が過去の信託の主人公だということを誰もが知っているわけではなかった。
おそらく明日には「建国祭でブースを運営していた平民リチェ・エステルが信託を受けた」という事実を知らない人がいなくなるだろう。
私の前には彼女の小さな体が浮かんでいた。
そして私の耳に当てて彼女がささやく。
「この前の信託は申し訳ないことになりました」
いくら賢い私だったとしても、あまりにも根も葉もない.話なので一つも理解できなかった。
一体何が申し訳ないのか聞く前に話が続く。
「しかし、神託は神の意志であり、私の意志ではないから」
彼女の話し声は私以外の誰にも聞こえないほど小さかった。
「カンシアはすぐにすべてのことを教えてくれるでしょう。あなたはすべての真実を知ることになります。これがあなたのための信託です」
私は驚いて目を丸くする。
カンシアの名前がここから出てくるとは思わなかったのだ。
私は突然彼女が私の回帰をすべて知っていると思った。
(過去の信託を知っている人でもあるから)
前回の信託といえば、ハエルドン皇子に下した信託のことのようだ。
「あなたの利他的な選択が失ったものを探してくれるでしょう」
私が何かを聞く前に彼女の体がまた軽くなった。
そうして来たかのように、とても静かに、その一方であらゆる視線を浴びながら後ろを振り向いて立ち去っていく。
「リチェ、神託の内容は誰にも話差ないようにね」
私がぼんやりした表情をしているのを見て、ディエルは素早くお願いした。
「神が大切にして下した神託を口外すると、不敬罪で呪われるという。聞いたことあるよね?」
「・・・知ってるよ」
当然、ハエルドン皇子も絶対に周辺の人々に神託の内容を言わなかった。
私は夢を見るようにしばらくじっと立っていた。
「と、ところでリチェ・・・君が神託の主人公だなんて・・・」
改めて驚いたようにディエルがぼんやりとつぶやいた。
「あ」
ブースの近くのみんなの視線が私に注がれていた。
「信託を受ける場面がこんなに近くで見られるようになるとは思わなかったが」
セイリン卿も信じられないという表情だ。
「今や全国にリチェ、君の名前を知らない人はいなくなるだろう」
あえて私に信託の内容は聞けず、周辺で信託を受けた気分はどうなのかという質問が殺到した。
私はそれらすべての質問に適当に答えながら、聖女の言葉の曖昧さを振り返る。
人前では淡々とした体でじっと立っていたが、頭の中は複雑極まりなかった。
未来を知っているのですべてを直接コントロール中だと思ったが、私が知らないことがあるということに当惑したのだ。
イシドール男爵まで床に引きずり下ろして挫折させると、私が回帰後に立てた目標が全て叶うわけだった。
これ以上知っておくべきことも、やり遂げなけれはならないこともない。
それにもかかわらず、私が知るべき真実が残っていたのか?
それに私が探すようになった失われたものは何だというのか?
だからといって無駄に思って見過ごしてしまうこともできず、今後答えが出ない問題をずっと考えなければならないような気がした。
質問と感想が殺到し、私を見に来る人たちのせいで私はもっと気が気でない。
私を含めて私の周りの人たちまで皆驚いて慌てたので、私は花火を見に観覧塔に行くのも少し遅れた。
無事にイシドール男爵に購入させることができました。
そしてリチェが受けた信託の意味とは?