乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する【１８７話】ネタバレ

ダリアは、近づいた二人の姿を双眼鏡で観察しながら、安堵のため息をついた。

『お兄さん、ありがとう。』

アドリシャはどうせ気にしていなかっただろうが、ヒーカンは最後まで彼女を困らせるのではないかと心配していた。

しかし、やはりダリアの兄らしく、彼女のために多少の不満はあったものの、それを抑え込んだようだ。

ダリアは微笑みながらセドリックを見た。

しかし、彼はなぜか険しい表情で二人の様子を眺めていた。

「なんだか嫌な予感がする……。」

「え？ 何のこと？」

「いや、何でもない。」

セドリックは明るく微笑んだ。

そして、スフレケーキを一口サイズに切ってダリアに食べさせた。

彼女は幸せそうに素直に食べた。

今日はすべてがうまくいく気がして、とても気分が良かった。

しかし、セドリックの気持ちはそうではなかった。

今、二人がやっていることのせいで彼の心は落ち着かなかった。

その理由の一つはもちろんヒーカンとアドリシャの影響が大きかった。

あの二人が何かして彼とダリアの関係を邪魔するとは思えなかった。

そして、もう一つの理由は……。

『……あいつは手助けするのも細かいんだよな。』

ルウェイン・ブルーポートの策略。

セドリックはひそかに顔をしかめた。

昨日、ダリアとのデートを準備しながら、彼は思いがけずルウェインと顔を合わせた。

2年が過ぎてもルウェインは変わっていなかった。

軍人のように短い髪と深いまなざしのせいで、彼はいつも厳粛で厳格な性格のような雰囲気を醸し出していた。

通りすがりの人がぶつかっても、眉一つ動かさずにそのまま歩いていきそうな人間だった。

しかし、口を開けば何でもしゃべる。

過去に数百回も繰り返して後悔したことも次第に忘れつつあると聞いたが、人の本性というものは簡単には変わらないようだった。

ルウェインが変わらないように、セドリックもまた彼を嫌っていた。

表面上は感情の変化がないくせに、ダリアを見るとすぐに春の雪解けのように微笑んで優しく接するのが気に入らなかった。

それが嫌悪感を抱かせる理由。

それでも2年前、ルウェインは彼の記憶を取り戻す手助けをし、ダリアを助けたことがあった。

そのおかげで恩義を感じたセドリックは、ダリアが彼を褒めるのを黙って聞くしかなかった。

それが彼の「罪」だった。

いずれにせよ、昨日もルウェインは何かを見通していたかのように、まるで路上の占い師のようにセドリックを見た瞬間、ずばりと言い放った。

「顔に険がにじみ出ていますね。」

「たぶんお前に会ったせいじゃないか？」

「ダリア嬢との婚約を準備している最中だとか？」

「……俺が何をしようとお前に何の関係がある？」

少し辛辣に言い返そうとしたが、セドリックはどうにか思いとどまり、言葉を飲み込んだ。ルウェインは相変わらず無表情のままだった。

「関係あります。ダリア嬢は帝国にとっても重要な方ですから。」

「……」

「ですから、私が手助けしましょう。」

「何？」

セドリックは鋭く目を細めた。

ルウェインが何か言う前に、彼は慌てて拒否した。

「いや、頼むからやめてくれ。」

「大丈夫です。お気になさらずに。」

「本当に大丈夫だから、二度と言わないでくれ。」

「皇太子殿下の記憶を取り戻すのに私が大いに貢献したことは、ご存じでしょうが。」

その言葉がセドリックの足を止めた。

彼は深く息を吐き、ルウェインを見つめた。

「そのことはありがたく思ってる。ダリアもあの時、お前がいなかったら、とても大変だったはずだ。」

それでも手伝ってくれなくていい。

そう言って、セドリックはルウェインのそばを通り過ぎた。

今日、セドリックはダリアに婚約指輪を渡すつもりだった。

彼女が最も好きなもので満たされた幸せな一日を作ろうと、いくつもの計画を立てていた。

これまで言えずにいた感謝の気持ちと申し訳なさ、そして何度言っても足りないほどの愛を、より洗練された言葉で伝えたいと思っていた。

その日のために、セドリックは数ヶ月かけて外見を磨いてきた。

ダリアが彼の顔を見て少しでも動揺し、心が乱れたらすぐに軌道修正するつもりだった。

すべては完璧なはずなのに、不安の種が三つもある。

セドリックは何度も繰り返される不吉な予感のせいで気が重かった。

他の誰かならともかく、ルウェインさえいなければ、こんなに神経を使うことはなかったのに。

そして、その不吉な予感がただの気のせいではないかもしれないと、警戒心を強めていた。

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「ダリア。」

ダリアがスフレケーキを食べ終え、口の中の甘さを楽しんでいる時、セドリックが静かな声で彼女を呼んだ。

彼女はお菓子を噛みながらセドリックを見つめた。

彼の様子が少しおかしかった。

普段なら、彼が彼女の名を呼ぶときは、いつも優しい表情で目を合わせるのに、今の彼は奇妙なほど青ざめた顔で、コーヒーハウスの外をじっと見つめていた。

「…え？」

「逃げよう。」

「え？」

ダリアは彼の視線を追おうとしたが、その前にセドリックの手が彼女の目を覆った。

同時に、彼のもう片方の手が、椅子に座るダリアの膝の下へ滑り込んだ。

彼はそのまま彼女を抱え上げた。

ダリアは後ろへ倒れないように、驚いて彼の首に両腕を回し、しがみついた。

「ほ、本当にこんなふうに逃げるの？」

「うん、ごめん。」

セドリックの声は非常に沈んでいた。

依然として彼の片手は彼女の目を覆ったまま。

理由は分からなかったが、彼女は「大丈夫」と伝えるように彼の背中を軽く叩いた。

セドリックのため息がさらに深くなった。

「ルウェインをやっぱり殺しておくべきだった……。」

セドリックはそのままコーヒーハウスを飛び出し、人目につかない狭い路地へと入っていった。

道中、セドリックが魔法を使ったのかどうかは分からなかったが、幸い、二人を注視する者はいなかった。

もし間違えれば、明日の新聞の見出しを飾るところだった。

路地に入ると、彼はダリアを降ろした。

二人の体がギリギリ収まるほど狭い道で、通行人は誰もいなかった。

どこか疲れたようなセドリックは、そのまま壁に寄りかかり、膝を軽く折り、顔を埋めて座り込んだ。

ダリアは、まるで少女時代に戻ったような気分で、彼を見て少し胸が高鳴った。

彼女は慎重にドレスの裾を整え、セドリックの前に膝をついた。

「何があったのですか、セドリック様？」

セドリックは顔をしかめたまま彼女を見つめた。

彼女の姿を目にすると、彼の顔に弱々しい微笑みが浮かんだ。

彼は両手を伸ばし、彼女の後ろ髪を撫でた。

ダリアは素直に彼に従い、そのまま額を彼の胸に押し当て、彼の温もりを感じた。

彼が低く呟いた。

「我がダリア。」

「はい？」

「大変なことになった。」

「何がですか？」

セドリックは沈黙した。

しばらくすると、彼は戸惑うように口を開いた。

「だからね、精神系の魔法は、相手の魔力が強いほど、それに比例して拘束力が増すんだ。」

「はい。」

セドリックが急にこんな話を始めた理由は分からなかったが、ダリアは辛抱強く彼の言葉を待った。

「その中でも、『必ず真実を話させる』種類の魔法がある。厄介だけど、そんな魔法は避ける手段もなく、ただ見つめるだけで影響を受けるんだ。」

「……まさか。」

「俺、さっきその魔法にかかったんだ。これから一日、嘘がつけなくなった。」

「……」

「君までかかると困るから、目を覆ったんだ。」

ダリアは驚き、彼を見下ろした。

彼は深く息を吐き、再び膝の間に顔を埋めた。

彼の丸まった背中の奥、髪の生え際が終わるあたりの首筋がわずかに赤く染まっていた。

「それで今、何を言えなくなったんですか？」

「愛してる。」

「……」

思いがけない告白に、顔が熱くなった。

セドリックは力なく言った。

「こうなるんだよ。」

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「もともと、恋愛はうまくいっているときに邪魔しちゃいけません。うまくいかないときに邪魔するべきなんです。」

哲学的なようで妙な理屈だった。

ヒーカンは彼女の言葉に従うことにした。

どうせ自分よりアドリシャの方がダリアの心の奥深くをよく理解しているのだから。

「私は別に準備している手が一つあるんです。手伝ってくれますよね？」

アドリシャは低く囁くように言った。

しかしヒーカンにはますます疑わしく聞こえた。

「もちろん。」

ちょうどその時、2年間彼女と一言も交わしていなかった過去が思い浮かんだ。

ヒーカンは握っていたコップを持ち直した。

もし言い損ねたらどうしようかと不安だったが、それでも言うべきことだと思った。

「アドリシャ・ベニテレ。」

「はい？」

彼女がヒーカンを見つめた。

「お前も曖昧な記憶を取り戻したのなら、俺に対してはどう思っている？その記憶はあまり良いものではないだろう。」

「………」

アドリシャは肯定も否定もしなかった。

ヒーカンはこめかみを押さえながら言った。

「でも、俺が2年間お前を避けていたのは悪かった。」

「………」

アドリシャはヒーカンを見つめた。

予想外の言葉だった。

正直、他の人ならともかく、一緒に過ごした時間が長いにもかかわらず、一瞬で言葉を飲み込むのは少し戸惑った。

だが、彼がこんなにもあっさり認めて謝罪するとは思わなかった。

ヒーカンは静かに続けた。

「俺は、あの子のことで手一杯でお前に気を配れなかった。それなのに、ずっとダリアの友人でいてくれたこと、感謝してる。」

「それは私の選択ですから。あなたが感謝することではありませんよ。」

「いずれにせよ、そういうことだ。俺たちは同じ目的を持っているはずだろ？」

アドリシャは顎を引いた。

「私も二人の愛を否定するつもりはありません。でも……少しだけタイミングを遅らせたいだけです。」

ヒーカンも顎を引いた。

二人は目を合わせる。

その瞬間、二人の間には確かな同志意識が生まれた。

「今日は諦めて戻りましょう。次の機会を狙います。」

「いいだろう。」

二人は席を立ち、堅い握手を交わした。

そして、何事もなかったかのようにそれぞれの家へと帰る馬車に乗り込んだ。