こんにちは、ちゃむです。
「余命僅かな皇帝の主治医になりました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

32話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 不可解な気持ち④
グリーンウッド城に公爵が到着した。
「お帰りなさいませ、お父様?」
オフィーリアが先に出迎えに来て公爵を迎えたが、公爵は彼女をすれ違いざまに一言だけつぶやいた。
「つまらぬ者に惑わされたものだな。」
「え?」
オフィーリアは無表情で冷たい公爵の反応に苦笑いした。
公爵は彼女をちらりと見ながら冷たく言った。
「セリーナ・ヴィンセントを見た。」
「……」
「今回の狩猟祭にも同行するのだから、気をつけた方がよかろう。」
「申し訳ありません。」
オフィーリアは気落ちした表情で頭を下げる。
それを見た公爵は表情を和らげ、彼女の肩を軽くたたいた。
「お前は誰よりも皇后の座にふさわしい女性だ。生まれた時からそうなるように教育されてきただろう。」
「……。」
「少しふっくらするのがいいな。見たところ、皇帝は痩せた女性が好みではないようだからな。」
「はい、そうします。」
オフィーリアは唇をきつく結び、おとなしく答えた。
グリーンウッド家では公爵の言葉は絶対だった。
以前オフィーリアがうっかり皇帝を怒らせてしまった時も、公爵の命令がなければ謝りに行くことすらできなかった。
むやみに動いて良いことはないと、公爵は自らの手で処理してしまう様子だった。
公爵は彼女の肩をもう一度強く押さえた。
「そうだ。そうでなくてはな。」
そう言ってやわらかく笑うと、オフィーリアの顔がぱっと明るくなった。
長い時間、丹精込めて育ててきた愛おしい存在。
独立心が強い娘がこのように自分の言葉に素直に従う姿を見ると、公爵はもう一度彼女に微笑んで、書斎へと向かった。
書斎にはすでに誰かが来ていた。
淡青色の髪をひとまとめに結った、琥珀色の瞳の青年の秘書官だ。
「来ていたのか。」
「相変わらずですね。約束もなしに急に来いとは。」
「明日、グリーンウッド領へ降りると聞いた。」
「はい。閣下がポータルの使用を許可しなかったそうで、もう馬車で移動するしかありません。」
ノクターンが口を挟むと、公爵は彼を一瞥した。
幼い頃は父に認められたくてそわそわしていた息子は、もうここにはいなかった。
ずっとそばにいて犬のように忠誠を誓っていれば、兄たちを押しのけて公爵の座を奪うこともできただろうに。
公爵は内心残念に思いながらも、彼を非難した。
「情けないやつだ。公爵家の爵位をもらって皇帝の手先になったのか。」
「肩書きは公爵ですが、私にはこれっぽっちの権力もありませんから。」
「心が弱い奴だ。だからお前はそれしかできないのだ。」
ノクターンは公爵の辛辣な批判にも肩をすくめた。
「それで、なぜお呼びになったのですか? ご覧のとおり、旅の準備でやることがたくさんありますが。」
すぐに本題に入らなければ、父に対する礼儀も何もかなぐり捨てて出て行くつもりだった。
すると公爵はサイドテーブルからウイスキーボトルを取り出し、グラスに注ぎながら言った。
「皇宮に行ったときに妙な話を聞いた。オフィーリアが皇帝に送った贈り物を、お前が持っていったそうじゃないか。」
「…ああ。それを今ごろ知ったんですか?」
今になってやっと呼び出された理由がわかったと、ノクターンはにやりと笑った。
オフィーリアの贈り物を取り戻したのは、彼女がアジェイドの許可証を無断で使ったあの日だった。
それを今になって知ったのか。
公爵ももうその席から退かねばならない時期なのだろう。
そのとき、公爵がボトルを「カンッ!」という音を立ててテーブルに置いた。
たちまち周囲が氷の板のように冷たく感じられ、静寂が深く張り詰めた。
公爵が威圧的に口を開いた。
「主人に牙をむく犬はいらんと言ったはずだ。」
「それでも自分の子どもたちは犬のように扱うのですね。さすがは道徳的で名高いグリーンウッド公爵閣下。」
ノクターンはひるむことなく笑いながら答えた。
公爵の眉がぴくりと動いたが、すぐに言葉を継いだ。
「お前がそうしたのには理由があるのだろう。」
「認めてくださるんですか?今さら?」
ノクターンがクスクスと笑って挑発すると、公爵が言った。
「まさか、私がオフィーリアを使って皇帝を毒殺したとでも?」
「できないことなどないお方ですから。」
「………」
「もちろん閣下がそのような姑息な手を使う方ではないことは承知しています。ただ、確認のために調べただけです。普通の果物の砂糖漬けでしたよ。」
ノクターンの言葉に、公爵は冷ややかに彼を見つめた。
幼い頃はあの目つきがとても恐ろしく感じられたが、今はもう違う。
目線が下がったことで、少しはその威圧感から逃れられるようになった。
もちろんまだ完全には抜け出せなかったが、以前よりはマシだった。
「それでなぜ廃棄した?お前の姉が知ったら、きっと大喜びしただろうに。」
「いつ私が好かれていたって言うんですか。ただ道具として使われていただけですよ。」
ノクターンはニヤリと笑いながら表情を隠した。
それを処分した理由は、後になってアジェイドにアレルギーがあることを知ったからだった。
しかしそれを公爵に告げる理由は特になかった。
公爵の様子を見たところ、アジェイドにアレルギーがあることは全く知らないようだった。
手袋の中で手がじっとりと汗ばんだ。
公爵と対峙する時はいつも手が痺れるようだった。
「もうお話はすべて終わりましたか? そろそろ失礼したいのですが。」
「待て。」
「どうぞ、お話ください。」
「最近、皇帝の側近の一人がお前について探っているようだ。」
ノクターンは思わぬ名前に笑みを引っ込め、公爵を見つめた。
「まさか、セリーナ・ヴィンセント嬢のことをおっしゃっているのですか?」
「そうだ。あの女だ。」
公爵は意図的に彼女を「嬢」ではなく「女」と呼んだ。
ノクターンはそれが自分を試しているのだと分かり、不快だったがぐっとこらえて次の言葉を続けた。
公爵がその情報を得るのは朝飯前だっただろう。
自分が公爵邸に根を下ろすように、公爵もまたそうしていたに違いない。
「目つきが良いな。引き続き注視しておけ。」
「他人が聞けば、私が閣下の命令を受けて彼女に接近していると思うでしょう。」
「将来の王妃なら、あの美貌で誘惑するのも悪くはないな。ああいう女は一度恋に落ちると、火に油を注ぐようなものだからな。」
公爵はにやりと笑いながらウイスキーをひと口飲んだ。
「適当にしろ。」
ノクターンは同意を示そうと口元を動かした。
彼は公爵がすべての人間を政治の道具として扱うたびに、嫌悪感で息苦しくなった。
「捨てるところを見ると、お前も一応の情はあるようだな。」
「さあ。」
「お前があの女に手を回したんだな。」
「何のことかわかりませんね。」
「とぼけるな。」
公爵は満足そうにウイスキーを飲み干し、グラスをテーブルに置いた。
「今回は一度だけ見逃してやろう。よく考えろ。お前の首の縄を握っているのが誰なのかを。」
公爵が薄く笑みを浮かべながら言うと、ノクターンは奥歯をぎゅっと噛みしめた。
子に首輪をつけて調教するやり方は相変わらずだ。
何よりも腹立たしいのは、無力な自分自身だった。
数回、公爵に一方的にやられたトラウマがまだ残っているノクターンは、彼の首を絞めることができなかった。
もちろん、絞める準備を怠っていたわけではないが、公爵が手を引いた。
「これくらいで十分だ。」
「はい、では。」
ノクターンは軽く頭を下げ、そのまま静かに口角を引き上げた。
そして書斎を出るや否や、素早く階段を下りていった。
いつの間にかノクターンの表情には冷たい怒りが浮かんでいた。
『あんな老いぼれが相手だとはな。』
ノクターンは口の中の柔らかい肉を噛みながら馬車に乗り込んだ。










