乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する【１８５話】ネタバレ

翌日、アドリシャは皇帝から新たな任務を受けた。

「……はい、承知しました。」

静かに命令を受け取り、退出した彼女は、誰もいない廊下で小さくため息をついた。

胸の内に溜まった苛立ちを、せめて拳を握りしめることで発散したかった。

実のところ、今回の任務は最初から不可解だった。

不審な人物が一人も見当たらないのに、なぜか彼らのカフェで監視を続けるように指示されていることが理解できない。

さらに、一つの場所に長時間とどまれば、かえって怪しまれるのは明白だった。

そのため、ルウェインと二人で行動し、周囲を監視するよう命じられたのも、理屈に合わない話だった。

それでも彼女は耐えた。

だが、今回の任務は——そんな彼女の忠誠心すら揺るがすほど、異様だった。

なぜか皇帝は、妙な考えを抱いているかのように微笑みながら任務を下す。

それがさらに不審だった。

任務の内容はこうだ。

皇室の敵対勢力が、Aカフェで潜伏しているとの情報がある。

彼らの警戒心は非常に強いため、一人で潜入するのではなく、同行者とともに一般人を装って接触せよ。

その同行者とは——ヒーカン・ペステローズ。

アドリシャはその名前を見た瞬間、眉をぴくりと動かした。

『昔はそこまで仲が悪くはなかったのに……』

しかし、彼の過去の失敗が原因で、二人の関係はぎくしゃくしてしまった。

メルドンのように皮肉を言い合う関係なら、多少気まずくてもいずれ元に戻るものだが、ヒーカンは頑固すぎて、それができなかった。

これまでは気にしないようにしていたが、いざこういう状況に直面すると、気まずい相手と長時間向き合うことにため息が出た。

『昨日みたいに、ただ書類を読んでやり過ごそう……』

しかし、その下に記された任務の詳細を読んだ途端、アドリシャの手が小刻みに震え始めた。

1. 会った後、10分以上世間話をすること。

2. デザートを一つ分け合って食べること。

3. 傍目には親密な恋人のように見えること。

4. 5分以上会話が途切れないようにすること。

彼女は思わず手に力が入り、皇帝から渡された紙を引き裂いてしまった。

同じ時刻、ペステローズ邸。

すでに破り捨てられたその紙は、窓辺に無造作に投げられていた。

ヒーカンは優雅な手つきで、残った紙片をくしゃくしゃに丸め、窓の外へと放り投げた。

冷たい青い瞳は、冷笑すら浮かべることなく淡々としていた。

「なぜ俺がこんなくだらないことに協力しなければならない？」

カップを持つダリアの手が小刻みに震えた。

『……終わった……』

当然、彼がこの計画を気に入らないのは分かっていた。

だが、ここまであっさり拒絶されるとは思わなかった。

彼女が直接説明する前に、すでに計画は崩れ去ろうとしていた。

以前、皇帝にブリーフィングして進めたプロジェクトだ。

もちろん、皇帝は二人が仲良くなることには一切興味がないようだった。

ただ、ヒーカンをからかうのが面白そうだという理由だけで機嫌が良かったように見えた。

「それで、ダリア嬢。私たちのセドリックとの婚約はいつ頃になるのかな？」

こんな話を延々と聞かされることになった。

『……婚約。』

一瞬、彼女の思考がその話題へと切り替わる。

結局、いつも考えていることだ。

実際、ダリアも毎日、セドリックとの結婚生活を想像していた。

朝、目を開けたときに、彼の整った顔が目の前で穏やかに眠っているのを想像するだけで、心がくすぐったくなった。

もちろん、現実的な問題もあった。

セドリックが記憶を取り戻したことで、2年前に計画していた「皇太子の座を奪う」という計画は消え去ったものの、ダリアが考えるに、セドリックが皇帝になる方がこの帝国にとっては最善の道だと思えてならなかった。

問題は、彼女が皇后の座につきたくないということだ。

こうしたことについて、セドリックと話さなければならないことは山ほどあった。

『……でも……』

ダリアの表情が曇った。

セドリックは何も言わない。

いつも彼女を最優先に考えてくれることには感謝しているが、同時に、彼が何かを我慢しているようで申し訳なく思えた。

『進展も……一度止まってしまえば、当然後戻りすることはないと思っていたのに……』

一瞬、顔が赤くなった。

もしかして、セドリックは躊躇しているのだろうか？

結婚するほどではないと考えているのだろうか？

『そんなわけない。』

絶対にそんなことはない。

こういう場面で迷わせないようにしてくれるのが、セドリックの一番の長所だった。

ダリアはすぐに思考を振り払った。

結局のところ、セドリックはいつもダリアを尊重してくれる。

自分はただ笑顔を見せるだけで、何も言わない。

時々そんなことが気になっていた。

『進展も……まあ、時々好きなようにしてもいいはずなんだけど……』

ヒーカンが知ったらどう思うだろうと考えながら、彼女は彼を見つめた。

そうだ。

今、一番大事な問題は婚約ではなかった。

将来的に彼女とセドリックが結婚する日、結婚式の間、ダリアはセドリックと一緒にいるが、その間、ヒーカンは誰と過ごすのか？

よく考えてみると、ヒーカンにはダリア以外の友達がいない。

彼が一人で気まずい時間を過ごさないように、彼女もできる限り助けなければならない。

『だから、早く二人を仲良くさせなきゃ！』

手段はともかく、結果が重要！

ダリアは切実な気持ちで両手を組んだ。そしてヒーカンを見上げた。

「えっと、それでも一度出かけてみるのはどうでしょう？」

ヒーカンは冷ややかに彼女を見つめた。

「嫌だ。」

ダリアの頼みなら、一度は考えてくれると思ったのに——彼は迷いもなく、あっさりと拒絶した。

ダリアは正直に言った。

「でも、お兄様とアドリシャが気まずくて……私も居心地が悪いんです。」

ヒーカンの体がわずかに動いた。

「お兄様って、気まずい人がいるとすぐに席を立つでしょう？私はただ、少しでも楽しく過ごしてほしいだけで……。」

彼女が視線を落とすと、ヒーカンの瞳がかすかに陰った。

彼は悲しげな表情でダリアの髪を優しく撫でた。

そして、低い声で言った。

「……お前が皇帝陛下にこんなことを頼んだのか。」

「うっ……。」

急所を突かれ、彼女は思わず口をつぐんだ。

だが、ヒーカンはすべてを悟ったような目で、じっと彼女を見つめた。

「俺のせいで、そんなに気を遣わせていたとはな……。」

「そ、それは……違うんです……。」

「いや、いい。お前の言いたいことは分かった。」

ヒーカンは一つ息をついて、ゆっくりと背を向けた。

「君がそこまで言うなら、行かないわけにはいかないな。」

「……お兄様！」

ダリアは急いで呼び方を変え、彼の腰にしがみついた。

これは彼女が窮地に陥った時にだけ使う、どんな状況でもヒーカンの心を弱くさせる魔法の言葉だ。

結局、今回もヒーカンは折れた。

彼は小さく笑いながら、彼女の髪をくしゃっと撫でた。

「昔、俺が犯した過ちのせいで、君まで居心地悪くさせてしまってすまない。俺の手の届く範囲では、君に負担をかけないようにするから、安心していい。」

『そんな意味で言ったわけじゃないのに。』

ダリアはなんとなく申し訳ない気持ちになった。