こんにちは、ちゃむです。
「余命僅かな皇帝の主治医になりました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

37話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- グリーンウッド領⑤
アジェイドの口元にゆがんだ笑みが浮かんだ。
なんだか気分が良くなかった。いや、悪かった。いや、最悪だった。
オフィリアは遠慮なく言った。
「ノクターンのパートナーとして来たんですね。最近よく会ってるみたいだし、もう親しくなったんでしょうか?」
『親しい?』
アジェイドの目が揺れた。
オフィリアはそれをじっと見つめながら続けた。
「こうして見ると二人、とてもお似合いですね。陛下、二人を推薦してはいかがですか? 陛下のご命令なら、二人とも従うと思いますよ。」
オフィリアの控えめな言葉がアジェイドの燃える胸にさらに油を注いだ。
彼女はセリーナがノクターンと一緒に来ているのを見て安心した様子だった。
実は前にアジェイドとセリーナがパートナーになったときに、密かに不満を感じていたようだった。
ベッドに横たわる二人を見たときの気持ちときたら──。
しかも皇帝の許しを得ていない状態だったので、さらに衝撃的だった。
嗚咽を漏らしながら訴えようとしていたが、そこへ突然ノクターンがやってきた。
『オフィリア。呆れてずっとそうしてるつもり?』
『放っておいて。あなたに関係ないじゃない。私に呆れたからって何なのよ?』
『この機会に陛下とすっぱり別れるっていうのはどうだ?どうせ陛下はお前に一切関心がない冷酷な男だ。』
『私が諦めるからって、諦められる問題じゃないのよ、ノクターン。これは家門の名誉に関わる問題。家の内情を裏切ったなら、ただ寝て過ごしていられるような事態じゃないわ。どうして私を探してくるの?』
『冷たい態度を見せて、少し笑ってやろうと思ったのに。やっぱり冷たさで勝てる相手じゃないな、オフィリアは。』
彼女は屏風の裏を探し回り、イライラして中をかき回した。
オフィリアはそのことが悔しくて、寝室もきちんと片付け、何事もないかのように過ごしていた。
ノクターンに冷たく見せたかったのだ。
彼女はノクターンが嫌いだった。
側室として公爵家に入ってきたときから気に入らなかった。
父の庶子だということも虫唾が走る思いだった。
父の子どもは自分だけのはずだった。
母は出産時に亡くなったので、父には自分しかいなかったのだ。
ノクターンが来るまでは。
…来たのなら、家門の中で無事に過ごしてくれればよかったのに、
なぜ出て行ってしまうのか。
まるで放棄したかのように見えるのが、なおさら腹立たしかった。
『ノクターンが私に良いことをする日もあるのね。』
オフィリアが苦笑いしながらアゼイドを見ていたところ、その視線に気づいたアゼイドの無表情な目つきに驚いた。
それは冷たくも鋭い視線だった。
「今、私に副官の役目でもやれっていうのか?」
「わっ!そんなつもりじゃなかったんです!」
「他人のことに気を回すくらいなら、自分の婚約者のことに集中しろ。」
アゼイドは刺々しさのある声で言い放ち、くるっと体の向きを変えた。
その視線の先にはセリーナがいた。
彼はセリーナとノクターンの間を交互に見ながら、まるで口パクで何か伝え合っている二人に目を向けた。
愛の合図でも送ったつもりなのか。
アジェイドの目が揺らぎながらも、なんとか表情を保っていた。
セリーナがアジェイドの方をちらりと見た。
彼女は手で合図を送り、すぐに目をそらした。
ほんの一瞬の出来事で、アジェイドだけがそれを見逃さなかった。
『テラスで会いましょう。』
テラスを隠すように視線とドレスのひだの間で動いた指先がその証拠だった。
アジェイドは思わず鼻先をこすった。
パートナーを横に置いて自分をテラスに呼ぶなんて、どういう意味だ?と思いながらも、体は自然とテラスの方へと向かっていた。
「ちょっとテラスで休んでくる。」
「わっ、私も一緒に行きます。」
オフィリアがそそくさとついて行こうとしたところ、アゼイドが手を差し出した。
「大丈夫だ。君は他の人たちと話す方が楽しいだろう。ここに残っていてくれ。」
「でも……」
「そもそも君は狩猟祭では俺のパートナーじゃないか。本当に疲れてるんだ。だから、少しだけでも一人にしておいてくれ。」
「……わかりました。」
オフィリアはそれ以上何も言えず、その場に立ち尽くした。
アゼイドは急ぎの用事でもあるかのように足早にテラスの方へと消えていった。
オフィリアはその背中を未練がましく見つめていた。
「ここにいたんだね、姉さん。」
いつの間にか一人になったノクターンがオフィリアのもとに近づいていた。
普段の軽口とは違い、落ち着いた声だった。
オフィリアはノクターンの突然の登場に驚いて振り返った。
そして彼の隣にセリーナがいないことに気づき、周囲を見回して尋ねた。
「セリーナ嬢は?」
「少し衣装を整えるって席を外したよ。」
ノクターンはくだけた口調でそう言いながら、オフィリアに近づいた。
突然親しげな態度を取るノクターンに、オフィリアは少し身を引きつつも冷静を装った。
しかしノクターンはさらに一歩踏み出し、優雅な動きで提案した。
「せっかく一人みたいだし、久しぶりに僕と踊らない?」
「あなたと踊らなきゃいけない理由はないわ。」
「え?今日の私のダンスの相手は陛下なの?」
オフィリアはひと言も言い返せず、ぴたりと口を閉ざした。
なぜだかむっとしたような表情だった。
だがノクターンは、そんなオフィリアの反応を見てもまるで予想していたかのように言った。
「どうせお互いのパートナーが席にいないのに、何が問題なんだい?」
「……」
「手持ち無沙汰にならないようにしよう、オフィリア。」
ノクターンはにこりと微笑みながら、再び手を差し出した。
オフィリアはしぶしぶその手を取った。
周囲の目もあるので、彼との関係が良くないとは思わせられなかったのだ。
ノクターンは微笑みながら彼女をホールの中央へと導いた。
そしてオーケストラの音楽に合わせて踊り始めたとき、ノクターンがこう言った。
「2部の時、テロがあるはずだ。」
「!!!」
「お前が今日、舞踏会の準備で苦労してるって聞いたから、前もって教えてやるんだ。」
「誰よ、そのバカなことを企んでるのは?」
「ジェイムス。」
ノクターンが答えると、オフィリアは一瞬驚き、無意識に後退した。
ノクターンはそっと彼女の手を取り、さらに腰元に手を添えてぐっと距離を縮めた。
「魔法具で騒ぎを起こすつもりなんだ。」
「……で、あなたがこれを私に話してる理由は何?」
オフィリアは疑わしげな目でノクターンを見つめた。
「そうだ、お前なら家門に害をなす者たちを簡単には放っておかないだろうからな。」
「私が私情でお前の言葉を信じるか、それともジェイムズの言葉を信じるか。」
「少なくとも目に見えるものは信じるさ。」
ちょうど踊りが終わると、ノクターンは彼女の手の甲にキスするふりをしながら、何かを手に握らせた。
オフィリアは手のひらに載せられた魔法具の探知器をじっと見つめた。
「自分で確かめてみろ。あのジェイムズのやつが二部屋目でそれを持っているはずだから。」
「本当に手に負えない奴ね、ノクターン・ヘリス。」
「褒め言葉、ありがとう。オフィリア・グリーンウッド。」
ノクターンは余裕のある笑みを浮かべて席を離れた。
オフィリアはしばらく彼の背中を見送った後、あたりを見回して誰かを探した。
セリーナがノクターンのパートナーとして舞踏会に参加したのは、彼の頼みだった。
そもそも彼女は主賓の身分で来たため、舞踏会に必ず参加する必要はない。
来ても来なくても自由で、パートナーも特に用意していなかった。
だからこそ、ノクターンの頼みをあっさりと引き受けたのだ。
ノクターンは舞踏会でオフィリアと話す用事があるため、アジェイドを遠ざけてほしいと頼んだ。
おそらく、オフィリアの性格からしてアジェイドの隣にぴったりくっついていそうだからという理由だった。
『オフィリアにこの仕事を任せようと思います。』
『彼女、協力してくれるでしょうか?』
『オフィリアは家門に害を及ぼす者は見捨てる性格です。それで十分な答えになりましたか。』
『十分です。他に手伝ってもらうことはありますか?』
『それで大丈夫です。その後は私が何とかします。』
こうしてノクターンと計画を立てて舞踏会に参加し、アジェイドに合図を送ることまでは成功した。
あとはノクターンとオフィリアが会話できるように、アジェイドと時間を過ごさせるだけでよかった。
ところが——
「陛下、なぜそんなふうに見ているんですか?」
「俺が何を?」
「何か言いたげな目で見ながら、一言も言わないから聞いてるんですよ。」
「テラスに呼んだのはお前だろ?なら、お前のほうに言うことがあるんじゃないのか。」
アジェイドの口調は、とげがあってそっけなかった。
このトゲトゲした猫は一体また何なんだか。
セリーナはなぜかじっとアジェイドを見つめた。
少し口元が開きかけている気もした。
じっと見つめる視線がなぜか鋭い。
下手するとレーザーでも撃たれそうだった。
セリーナは彼の肩をトントンと軽く叩いて言った。
「言いたいことはあるんですけど、陛下が聞く準備ができているのか分からなくて。」
「僕はいつでも受け入れる準備はできているよ。」
――まったくできていないように見えるけど?
セリーナはひとまずアジェイドのこじれた気持ちを解いてあげようと決心した。
ここであれこれ頼んでもアジェイドは全部拒否しそうだった。
セリーナは自分を見る彼の視線に身体を向けながら尋ねた。
「陛下、チョコレートをいかがですか?」
「僕が甘いもので喜ぶと思ってるのか?」
アジェイドが文句を言おうとしたそのとき、彼の口に予告なくチョコレートがすっと入ってきた。
セリーナが冷たいチョコレートを押し込んだのだ。
その拍子にセリーナの指先が彼の歯や唇に軽く触れた。
アジェイドは急に熱が上がるような気分になり、口を開いたままセリーナを見つめた。
セリーナはチョコレートを口にくわえたまま、彼の唇をそっと指で閉じながら言った。
「美味しいでしょ?」
甘いものを食べて気分を上げよう。
セリーナは子供のように、アジェイドをなだめるように話しかけ始めた。
「さっきテーブルにあったのを少し食べてみたんですけど、すごく美味しかったですよ。味は私が保証するので、安心して召し上がってください。」
「……。」
「もっと召し上がりたかったらおっしゃってください。ハンカチに少し持ってきたんです。」
セリーナはハンカチを広げて見せながらにっこり笑った。
ハンカチの中には四つの小さなチョコレートが包まれていた。
アジェイドは、セリーナがこんなにも気軽に近づいてくるたびに、どうすればいいのか分からなかった。
彼女の細くてしなやかな指先が触れた唇が、少し熱くなり、口の中が妙に乾くような気がした。
『ちょっと待って、辛い?』
アジェイドはしばし感慨に浸っていたが、ぴくっと動いた。
チョコレートの中に何かが入っていた。
後から強いアルコールの味が口の中にぱっと広がった。
「………」
「美味しいでしょ?これ、私、十個くらい一気に食べたと思います。もともと甘いのってそんなに好きじゃないんですけど、このほろ苦さがすごくいい味なんですよ。」
セリーナはいつもよりおしゃべりで生き生きしていた。
声もいつもより明るく、浮き立っていた。
アジェイドは冷静にセリーナのハンカチを奪い取った。
「もう食べるな。」
「なんですか。欲張って一人で全部食べようっていうんですか?どうせ外にはたくさんあるんですから、分け合いましょうよ。」
セリーナは唇を尖らせて、少し不満げに言った。
アジェイドがハンカチを後ろに隠すと、セリーナの目が潤んできた。
頬がいつの間にか赤らんでいる。
よく見ると目も少しとろんとしている気がした。
『酔ってる。』
アジェイドは心の中で大きくため息をつきながら、ぎゅっとハンカチを握りしめた。
これはウイスキーチョコだ。
お酒好きのためのデザートで、度数がかなり高く、酒に弱い人は5個食べただけで酔ってしまうこともある。
『そんなチョコを10個も食べただと!?』
いや、さっきさらに1個食べたので合計で11個だ。
完全に酔いつぶれるまではいかなくても、かなりふわふわした状態だ。
アジェイドは、初めて見るセリーナの乱れた様子にどうしていいかわからず戸惑った。
そのときセリーナが肩をすくめて言った。
「まぁ、いいですよ。それ食べて気分直してくださいね。いいですか?」
「気分が悪かったことなんてないけど……」
アジェイドはセリーナに気づかれないようにチョコレートをゴミ箱に捨てた。
彼が好きなのはチョコレートではなく、酒ではないのだ。
そもそも酒とチョコレートを混ぜるという発想自体に抵抗があった。
チョコレートはチョコレートとしてすでに完璧な食べ物だった。
アジェイドが一瞬目を離した隙に、セリーナがふらつきながら廊下へと向かった。
アジェイドはふらふらと歩く彼女を見てびっくりして両肩をしっかりつかまえた。
するとセリーナはにっこり笑ってこう言った。
「陛下、地面が揺れてます。地震かもしれません。」
「それはお前の体が揺れてるからだよ、セリーナ。」
「私、ちゃんとまっすぐ立ってますよ?」
「じゃあ、地面が動いてるのかもな。」
アジェイドはセリーナと軽口を交わしながら、彼女を椅子に座らせた。
そして自分もその隣に腰を下ろした。
「お前が食べたそのチョコ、ただのチョコじゃない。」
「そうでしょうね。グリーンウッド家が作ったチョコですから、ただのチョコじゃなくて高級チョコですよね。」
「……俺の言いたいのはそれじゃない。」
「ふう。」
セリーナは深く息をつき、大きく吐き出すと、そのままアジェイドの肩に頭をコトンと預けた。
「頭が痛いです。これ、全部陛下のせいでイライラしてるんです。私が王宮に来てから苦労ばかりで、死にそうです。」
「いや、それはただの二日酔いだ。」
アジェイドは言いたいことが山ほどあったが、ぐっとこらえ、セリーナの肩を押さえながら侍従に水と二日酔いの薬を持ってこさせた。
何か言い返そうとしていたが、もう酔いが回ってしまったようで、話す気力もない様子だった。
しばらくして、侍従が持ってきたものを口に入れようとアジェイドが差し出しながら言った。
「這いまわりたくなければ、とりあえずこれを飲め。」
「私がですか?」
「俺が止めなければ、もう這ってただろ。」
「何よ。」
セリーナは面倒くさそうに解毒剤をトンと押し出した。
アジェイドは諦めずに錠剤を差し出した。
「何ですか、どうしてそんなにしつこく食べさせようとするんですか。」
セリーナはまた断りながら、少し警戒した目つきになった。
自分が薬を飲むときは何ともなかったのに、今回はかなり疑わしげな反応だった。
「いつもお前が俺にやることだろ。さあ、早く飲め。」
アジェイドは淡々と錠剤を持ち上げた。
何度も勧められ、セリーナはじっと彼を睨んだ。
「飲めって言われたら飲まないと思ってるんですか?」
「いいから、ほら、口開けろ……。」
アジェイドが彼女の口元へ薬を差し出した瞬間、セリーナの目がぎらりと光った。
アジェイドが反応する間もなく、彼女は彼の指を「がぶっ」と噛んだ。
「うっ!」
アジェイドはまさか自分の指まで噛まれるとは思っていなかったようで、驚いた声をあげた。
しかしセリーナは放す気などさらさらなさそうだった。
彼女が手を離さないため、アジェイドはたまらず口を開いた。
「……もう、犬になるつもりなのか?」
「ねえ、どうして犬なんて言うの。」
「君のやることを見ていると、犬そのものだ。」
そう、これは一匹の犬だった。
それも言うことを全然聞かない。
「とにかく、これ置いて話して。」
「嫌だよ。仕返ししてやる。」
一体何の仕返しだというのか分からなかった。
薬を飲ませるのがあんなに大変だったから、逆らってるのだろうか?
だとしたら大成功だ。
アジェイドは今、とても苦しい気分だった。
彼はひたすら冷静を装って耐えた。
だが、セリーナが怖がって体を縮こまらせ、手の先が震えているのを見て、さすがに動揺を感じた。
しかも、やたら何かがまとわりついて死にそうな気分だった。
アジェイドはついに我慢できなくなり、歯を食いしばってもう一方の手で彼女をグッと引き寄せた。
「離せってば! 離して……!」
「嫌だ! 離せって言うからもっと嫌になるじゃない!」
セリーナは両手で彼の腕をつかみ、しつこく引き止めた。
彼女が放さないので、アジェイドは気が遠くなるような気分だった。
手の力はやたらと強い。
どこからこんな力が出るのかわからない。
その手の感触がなんとなく自分のものではないように思えた。









