悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す

悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す【92話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。 ネタバレ...

 




 

92話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 壊れた神殿

裁判長が厳かに告げる。

「被告人リリカ。最後に何か言い残すことはありますか?」

「……は」

リリカはもう弁明しようとはしなかった。どうして、こんな惨めなことになったのだろう。彼女は今日の裁判に向け、完璧な準備をしてきたはずだった。こう言われたらこう返す、この場面では美しく涙を流し、ここでは神殿の黙秘権を使う――そんなふうに綿密に計画していたのに、それが全部、ユリアの手によって粉々に崩れ去った。

いつからだろう。ユリアという存在によって、果てしなく底のない奈落へ落ちていくような感覚を覚え始めたのは。

「もう終わりだ、ここが絶望の底だ……」と思うたび、ユリアは必ず、さらにその下に深い地獄があることを見せつけてきた。

「これからは上手くいくかもしれない」と淡い希望を抱けば、一番期待した最高の瞬間に、必ず首をへし折るようにして打ち砕かれた。

(でも……だからって、ただ大人しくやられてあげるわけがないでしょう……?)

だが、リリカも素直に絶望に震えるだけの性格ではなかった。先ほど爪を噛みちぎって血を流した時なら、周囲は「ついに偽聖女が取り乱した」と思っただろう。だが、今の彼女の目の奥に灯ったのは、純粋な狂気だった。

(むしろ、こっちの方が都合がいいかもしれないわ)

リリカは以前、皇帝暗殺を企てた時に地下に描いた、あの禁忌の魔法陣の術式を思い出していた。なぜかギルバートだけは繋がりを感じなかったが、他の、法廷の裏に囚われている紅河の一族たちとは……今も確かに、血の繋がりを媒介にした不気味な感覚が残っていた。

「……ふふ」

リリカは、自分の指を誰もが見ている前で、深く深く噛み切った。今度は誰の目にも明らかなほど、鮮血が床へとぽたぽたと激しく滴り落ちる。肉体の痛みなど、精神的な憎悪に飲み込まれてほとんど感じなかった。周囲の人々は、ただリリカが精神に異常をきたして指を噛んでいるだけだと思っていた。まさかその血で、今この瞬間に恐ろしい術を編み上げているとは想像すらしていなかった。

「……え?」

隣にいた弁護士が、恐怖に小さく声を漏らした。先ほどから法廷内に漂っていた鉄臭い匂いが、異常なほど濃くなっていることに気づいたのだ。

リリカは目が合った弁護士に、ぞっとするほど冷え切った笑みを浮かべた。そしてゆっくりと、証人席のギルバート、そして傍聴席の公爵へと視線を向けた。震えていた身体がぴたりと止まり、彼女の瞳が妖しく真紅に輝いた。

「なのに、どうしてそこは黙っているの? フリムローズ公爵の実の娘でもない私を、あの詐欺師みたいな母親ごとお前たちがこの家に送り込んだってことをさあ!」

「な、何を言っているんだ貴様は!?」

ギルバートが初めて顔をこわばらせる。

「私は、お前たち紅河の一族が総出で作った“偽物の公爵令嬢”でしょう!?」

リリカは狂気じみた高笑いを漏らしながら、さらに爪を噛み砕いた。

「プリムローズ公爵みたいに、生まれつき“赤い瞳”で生まれた時点で、私の使い道をとっくに決めていたくせに、どうして今さら被害者のふりをして隠そうとするのよ!」

あまりにも生々しく具体的な大暴露に、法廷にいた誰もがリリカの言葉の真意を理解してしまった。そして同時に、全員が恐怖で凍りついた。今耳にした話が、本当に現実なのか信じられなかった。

「り、リリカお嬢様が……本当の娘じゃない……!? 公爵の隠し子ですらなかったってことか!?」

「あの赤い髪と赤い瞳は、偶然の一致か、あるいは呪術による偽装だったってことか!?」

「公爵家に代々伝わる祝福が偽物だったうえに、公爵は……実の娘でもない他人の子を……!」

人々はもはや取り繕う余裕もなく、口々に騒ぎ立てた。裁判長が激しく木槌を叩いて静粛を命じても、この帝国の根幹を揺るがす衝撃的な事実の前では、混乱は一切収まらない。

「な、なんだと……? お前、何を言って……」

そして、この場で最も凄惨な衝撃を受けていたのは、他ならぬプリムローズ公爵本人だった。リリカは幼い頃から、ずっと自分の最愛の娘として育ててきたのだから。実に十五年もの間、家門のすべてを投資して、最高の令嬢として生かしてきたのだ。

『たとえ公爵夫人の娘ではなくても、私はお父様のお人形です』と言ったこと。

『誰よりもお父様を愛しています』と健気に訴えたこと。

『私はフリムローズの血を継ぐ誇り高き娘です』と胸を張ったこと――。

リリカはこれまで、実の娘でなければ決して口にできないような甘い言葉を、幾度となく並べて自分を支配してきた。それなのに、自分が本当の娘ではないと最初から知ったうえで、自分を心底嘲笑いながらそんなことを言っていたというのか。

実の娘でもない子どもを、本妻の胎から生まれなかったことを惜しむほどに盲愛し、家族の間に血の嵐を巻き起こし、周囲の冷たい視線に耐えながら守り続けてきたというのに――。

「お、お前……! 私の娘でもないくせに、今まで平然と私を……我が家門を……!」

「……本当の娘だったとしても、結局はお前の立場が悪くなれば捨てるつもりだったくせに?」

さっき自分を切り捨てようとした公爵の醜い姿は、すでに家門から容赦なく追放した本物の実娘・ユリアへの態度と何も変わらなかった。リリカの吐き捨てるような嘲笑は、それだけでは終わらない。

「それにさ、お前の自慢の実子のジキセン――あの足、一生治らないわよ」

リリカは、先ほどまで自分に向かって偉そうに敵意を向けていたかつての兄を思い返し、酷く歪んだ笑みを浮かべた。もう今さら、何も隠す必要などない。リリカは胸の奥底に溜め込んでいた醜悪な本音を、すべてぶちまけ始めた。

「あの日、魔物討伐の混乱の時……気に入らなかったから、わざわざ転んだあいつのところまで行ってさ、助けるふりをして、ヤコブの力であいつの足を内側から徹底的に壊してやったのよ。まさか一生歩けない不具になるとは思わなかったけど。あはは!」

「おのれ……! ただの娼婦の娘にすぎないお前ごときが、公爵家の正統なる後継者に何をした貴様ぁぁあ!!」

謝罪するどころか、あまりにも残忍に開き直った態度を見せるリリカに、プリムローズ公爵はついに脳の血管が千切れるほどの怒りを爆発させた。

「実の娘でもない魔女に惑わされ、後継者の足を潰され、本物の実の娘は追い出される羽目になったというのに……! 私は、私は一体何のために!!」

「なによ、それ? 父親ですらない無能な男に、都合よく“理想の家族ごっこ”をしてもらっていただけでしょう? 周りの人たちが我慢して見過ごしてくれていたから、お前は平穏でいられたのよ。その、お前が夢見ていた“理想の家庭”を、私がこの手で完膚なきまでに壊してやっただけ」

だが、そんな公爵の狂乱にも、リリカはまるで動じなかった。

「血の繋がりもない泥棒猫を連れてきたせいで、妻と実の娘を追い出し、最愛の息子は二度と治らない障害者になった――ねえ、どんな気分? お父様?」

「き、貴様ぁぁあ!!」

“失望した、殺してやる”と叫び狂う公爵を前にしても、リリカは美しい冷笑を浮かべたままだった。彼女は笑っていた。傷口を抉るたびに滲み出る他者の致命的な苦痛すら、今の彼女には極上の快感だった。

だが、これだけでは終わらない。

リリカは激しい口論で場の空気をさらに極限まで混乱させ、自分が最後に仕掛けようとしている恐るべき狂行へ、誰にも気づかれないよう視線を誘導していたのだ。

(全部失ったわけじゃない。まだ、裏にいる紅河の一族は、私の血の禁制に縛られている……!)

――じわり。

誰一人として気づいていなかった。混乱と罵声が広がる法廷の石床に、時間をかけて静かに、広範囲に描かれていく“血の紋様”に。リリカの指先から流れ落ちた大量の血が、いつの間にか、足元に巨大な魅了の魔法陣を作り上げていたのだ。

(そうよ……認めるしかないわ。私は、もう社会的には終わっている)

あれほど欲しかった権力も、富も、聖女の称号も――結局、何ひとつ手に入れられずに処刑される。これから先の人生など、惨めに閉ざされている。皇帝や皇女を害した罪も完全に暴かれ、今や高位貴族でも聖女でもない、ただの大逆罪人になってしまったのだから。

「お、お前……そんな、そんな怪物理だったのか……」

かつては敬虔な信徒として自分に盲従していた弁護士ですら、今は化け物を見るような軽蔑の目を向けている。それだけで、自分の立場が完全に変わってしまったことを理解できた。

――それでも。

(私をこんな地獄に遭わせておいて……お前だけ幸せになるなんて、絶対に許さない。私を奈落へ突き落としておいて、自分だけ平穏に、勝者として生きようなんて、絶対に認めない……!!)

リリカが本来受け継ぐはずだったフリムローズ公爵家の称号も、持っていたすべての栄光も――この裁判が終われば、すべてユリアのものになる。そんな都合のいい結末を、どうして黙って受け入れられるだろうか。

(ユリア・プリムローズ。私の“偽りの姉”。堕ちるなら、今ここで私と一緒に地獄へ堕ちなさいよ……ねえ!?)

今日、わざわざ最高級のドレスで美しく着飾って法廷へ来たのにも、直感的な理由があった。完全に洗脳することはできなくても、自らの命を代償にすれば、“一瞬だけその場の全員の意識を奪い混乱させる”程度なら確実に可能だと、皇帝暗殺未遂の経験から確信していたからだ。

リリカは自分の命の灯火を削るようにして、全生命力を指先の魔法陣へと振り絞った。さらに、裏で自分と呪いで繋がっている紅河の一族全員の生命力までも、無理やり生贄として引き上げ、限界突破させた。

狙いは、法廷にいる全員を一時的な狂乱状態に陥れること。そして――その隙に、ユリア・フリムローズを確実に殺害することだった。

(できる。前にも成功したじゃない。私のこの力なら……!)

リリカの“魅了の術”は、幼い頃から、他人の心を無意識のうちに狂わせる異常な力を持っていた。だからこそ、人々は簡単にリリカを可愛がり、盲従した。

だが、それだけでは今の絶望的な状況を覆すには足りない。本格的に人を奴隷のように操れるのは、自分に「恋愛感情(好意)」を抱いている相手だけ――それがリリカにとって唯一の歯痒さだった。いっそユリアでも、公爵でも、ジキセンでも、自分に強い性的な執着を向けていれば、もっと確実に最初から味方に引き込めたのに。だが彼らは、リリカをただの“家族”として見ていたために、洗脳の強度が足りず失敗したのだ。

それでもリリカは、この破滅のなかで、“魅了の術”が完全な洗脳のためだけにあるわけではないことを学んでいた。

まず、命を賭した魅了の術の暴発で、法廷の人々を一時的な完全な狂乱状態へ陥れる。その隙に――紅河の一族全員の命を代償として神に捧げ、プリムローズ公爵、あるいはエノク皇太子の精神を強引に数秒だけ乗っ取り、その手でユリアの心臓を貫かせればいい。

(私一人の力だけじゃ足りない。でも……一族全員の命を丸ごと生贄に捧げれば、絶対に成功する……!)

自分一人の力では足りない。だが、自分の生命力と一族の命を代償にすれば――計画は狂いなく成功するはずだった。

(さて、ユリアを殺す役は、どっちにさせようかしら?)

プリムローズ公爵は、リリカにとってはただの利用価値のない他人だった。けれどユリアにとっては、どれほど冷遇されていようとも本当の父親だ。そしてエノク皇太子は、ユリアが魂を寄せている唯一の男。

だからこそ、その二人のどちらかにユリアを殺させれば、彼女にとって人生で最も残酷な裏切りになる。父親と、愛する人。ユリアを失った後、正気に戻って最も凄惨に苦しむのもその二人だろう。それは自分を裏切ったプリムローズ公爵とエノク皇太子への、最高の血の復讐にもなる。

(今頃、自分たちの完全な勝利を確信して、裏で喜んでいるんでしょう? ざまあみろ……!)

ギルバートの証言をあえて否定しなかった時点で、リリカはもうすべてを捨てていた。あれは、純粋に敗北を認めて絶望したわけではなかった。すべては、この一撃を確実に心臓へ突き立てるための、欺瞞の時間だったのだ。

(お前も、想像もしなかった最悪の形で、その足元を完璧に掬われてみなさいよ……!)

自分が手に入れられない栄光なら、お前も手に入れるな。自分が地獄へ堕ちるなら、お前も一緒に肉片となって堕ちろ。

憎悪だけで真っ赤に燃え上がるリリカの瞳が、妖しく閃光を放ったその瞬間――。

「……え?」

法廷にいたすべての者が、一瞬、自分とリリカの目が完全に合ったような強烈な錯覚を覚えた。リリカは被告席に一人しかいない。それなのに、そこにいた数十人、数百人の全員が、同時に彼女と一対一で見つめ合っていると感じたのだ。

そして次の瞬間、法廷全体に、脳を溶かすような甘く痺れる薔薇の香りが立ち込め、全員の意識がぼんやりと霞んでいく。

――リリカの命を賭した狂乱の術式が、ついに発動した。

次は、エノク皇太子の精神を乗っ取る番だった。やはりユリアは、無能な父親に殺されるよりも、最も愛し、心を許したエノク皇太子の手で殺される方が、ずっと深い絶望を味わうだろう。さっきだって、自分が実の娘ではないと知った瞬間、公爵はあっさり切り捨てたではないか。だからこそ――ユリアが一番愛した最高の男を使おう。婚約者に捨てられた痛みに続いて、今度は心を許した最愛の男に肉体を切り裂かれる絶望を、その胸に植え付けてやる……。

「……え?」

だが、その時。

激しい精神の混濁の中にいるはずの、エノク皇太子の姿が、どこを探しても見当たらなかった。

「どこに……どこに行ったの……!?」

リリカは焦ったように紅い視線を巡らせる。しかし彼は、リリカが想像すらしていなかった場所――術式の術理そのものの隙間から、突如として姿を現した。

「クァァァァン――ッ!!」

空間そのものを引き裂くような、凄まじい風の轟音とともに。

次の瞬間、凄まじい速度で飛び出してきたエノク皇太子は、すでにリリカの眼前に立ち塞がっていた。その手には、大気を鋭利に切り裂く激しい一過の風が渦巻いている。

そして彼は一切の躊躇なく、リリカが床に展開した呪いの魔力の奔流に向かって、その圧倒的な力を叩き込んだ。

「クァァァァン――ッ!!」

誰もが耳を塞ぎたくなるような、鼓膜を破らんばかりの衝撃音が法廷中に響き渡る。足元の強固な石床が激しく割れて揺れ、混濁していた人々はその凄まじい振動に立っていられず、次々によろめいて床へ倒れ込んだ。

だが、その圧倒的な破壊の暴風の中心にいたリリカだけは、逃げることも、術を維持することもできず、ただ呆然と目の前の圧倒的な現実を見つめていた。

「これは……一体、何が起きているの……?」

その間にも、エノクの攻撃は休む暇もなく、超高密度で激しく叩き込まれ続けていた。あまりにも速い。しかも一撃ごとに、リリカの練り上げた魔力を根底から粉砕する、ぞっとするほどの神聖な覇気が込められている。

そこで、ようやくリリカは今起きていることの真の恐怖を理解した。

(今、この男……私と紅河の一族の、命の繋がり(パス)を、物理的に力技で断ち切ろうとしているの……!?)

どうやって? そんなことが可能なのか? この呪いの繋がりは、紅河の一族の血を引く者でなければ、感じることも、視認することすらできない絶対の秘術のはずなのに。

しかし、見間違いではなかった。エノク皇太子の冷徹な視線は、確かに、紅河の一族からリリカの足元へと流れ込もうとしていた、不可視の「血の魔力の供給線」へと正確に向けられていた。

「ありえない……ありえないわこんなこと……!!」

リリカの長い水色の髪が、嵐のような衝撃波で四方へ激しく舞い上がった。本来なら、エノク皇太子は彼女の魅了の暴発によって、抵抗する間もなく意識を失って倒れるはずだった。

なのに――。

逆に彼の圧倒的な力の方が、リリカの人生最後の執念の切り札を、影も残さぬほど容赦なく、冷酷に打ち砕いていた。

 



 

 

  • リリカの狂気的な大暴露と最後の足掻き

    裁判で追い詰められたリリカは自身の指を噛み切って鮮血を流し、自身がプリムローズ公爵の実の娘ではなく紅河の一族が送り込んだ偽りの娘であることや、ジキセンの足を壊したことを暴露して法廷を極限の混乱と絶望のどん底に叩き落としました。

  • 一族の命を代償にした血の復讐計画

    全てを失ったリリカは、自身の命と裏にいる紅河の一族全員を生贄にし、命を賭した狂乱の魅了の術で法廷の人間たちの意識を奪った上で、最も愛するエノク皇太子の手でユリアを殺害させようという最悪の復讐劇を目論みます。

  • エノク皇太子による呪いの粉砕

    リリカの思惑通りにエノクは姿を現しますが、魅了の術にかかるどころか、凄まじい風の轟音とともにリリカと紅河の一族を繋ぐ不可視の血の魔力の供給線を力技で断ち切り、彼女の人生最後の執念の切り札を容赦なく打ち砕きました。

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