こんにちは、ちゃむです。
「オオカミ屋敷の愛され花嫁」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

34話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 落馬
ケンドリックは他の護衛騎士に、自分が動けないように命じた。
そして。
彼はエイデンと馬の元へ急いで駆け寄り、状態を確認した。
倒れた軍馬は脚が折れているようで、エイデンは肋骨を痛めたのか呼吸が苦しそうに見えた。
「エイデン、大丈夫か?そこの君、エイデンをしっかり支えてくれ。」
ケンドリックが二人の騎士に合図した。
がっしりした騎士たちがエイデンをまっすぐに寝かせた。
ケンドリックはすぐに騎士たちを下がらせ、エイデンの胸の上に手をかざす。
その瞬間、周囲に黒い影たちがすうっと集まってきた。
その黒い影たちは、苦しみにうめくエイデンの周りを取り囲むと――
「……!」
あっという間にエイデンを呑み込んでしまった。
私は目を見開いたまま、その光景をただ見つめていた。
エイデンの体は黒い影と共に、視界の前から徐々に消えていった。
まるで大地に呑み込まれたかのように。
『エクハルトの能力、恐るべし。』
影を通じて人や物を移動させることができるなんて。
ケンドリックは続けて震える馬に一言ささやくと、エイデンにしたのと同じように馬もまた同じようにした。
重傷を負った軍馬も絵の中に収められ、人々の目を避けるようにひっそりと姿を消した。
通りを大まかに整理したケンドリックは、少女に視線を移した。
薄汚れた服装の少女は、ぶるぶると震えながら地面ばかり見つめていた。
ケンドリックが歩み寄ると、騎士たちが少女を引き寄せ座らせた。
ところが──
「……あっ、ああ!」
少女が口をぱくぱくさせた。
さっき倒れた時、脚をケガでもしたのかもしれない。
私はすぐに駆け寄ろうとしたが、大柄な騎士に制止された。
「いけません、お嬢様。」
大きな狼族の騎士の迫力に押され、私は動けずにいた。
「なぜここに飛び込んだのか?」
ケンドリックが尋ねた。
しかし、痩せて色の悪い少女は、粗末な毛布を抱えたまま震えるばかりだった。
「どうしてここに来たのか聞いている。返答次第で、お前の処遇が決まる。」
ケンドリックの低い声が耳元に落ちてきた。
ほとんど初めて聞く声だった。
「処分。」
私はその言葉を静かに繰り返した。
少女が飛び出したせいでエクハルトの騎士と騎士の軍馬が被害を受けた。
おそらく、そのままでは済まされないだろう。
だが、少女は返答するつもりがまったくないようだった。
「……」
「お前……、喋れないのか?」
何かをもっと言おうとしたケンドリックが、ついに小さくため息をついた。
「……前が見えていないのか。」
前が見えない?
ケンドリックの言葉に私は顔を向け、床にいる少女を見た。
ケンドリックの言うとおり、少女の瞳には焦点がなかった。
宙をさまよう視線が、何の焦点もなく床をさまよっていた。
「はあ……君の両親はどこにいる?」
ケンドリックの問いに、震える少女はゆっくりと首を横に振った。
「両親がいないのか?」
そのときだった。
ケンドリックの言葉に、まるで聞こえていなかったような少女が顔を上げた。
少女の顔には、怯えと涙の跡が残っていた。
「……まま……」
か細い声がかすかに漏れた。
そして、少女の表情が崩れたかと思うと、次の瞬間には泣き崩れ、激しく嗚咽し始めた。
「まま、まま……!」
少女は膝をつき、顔を手で覆いながら泣き叫んだ。
ケンドリックは黙ったまま、その様子を見つめていた。
そしてゆっくりと顎を回して私を見た。
「……え?」
私は茫然と少女を見つめた。
さっきまで前すら見えていなかったように見えたのに。
少女は私の目をしっかりと見つめ返してきた。
そして。
「……黒い、煙?」
真ん中の通りにそのままばったりと倒れ込んだ。
騎士たちが困ったように視線を交わしていた。
私は少女が私の目をじっと見つめながら途中まで口にしていた言葉を反芻してみた。
『……黒い煙?』
ケンドリックの能力のことを言っているのか?
ケンドリックの能力もまた、黒い煙の形をしているのだから。
だけど……。
『あの子、私のほうをまっすぐ見て話していた。』
その瞬間、
頭の中を何かがさっとよぎった。
少し前、大広間で見たあの黒い煙と光の閃き。
そして今。
『まさか……!』
私は遮るように騎士を避け、急いでケンドリックのもとへ駆け寄った。
「お、お嬢様!」
騎士が慌てて私を呼ぶ声が聞こえたが、気にしなかった。
私はしゃがみ込み、少女の手をしっかりと握って言った。
「ケンドリック様、この子はどうなるんですか?」
「……そのまま行かせるしかない。エイデンもそこまでひどいケガじゃなさそうだしな。」
私は自分の手の中にある乾いた手首をそっと撫でた。
やはり痩せていて、骨ばかりが触れた。
私は少女の手をそっと離し、急いでケンドリックのもとへ駆け寄り、彼を見上げた。
「それなら……、先に私のお願いを聞いてくださるっておっしゃいましたよね。」
「うん。」
「それなら、この子を屋敷に連れて行って少し休ませてもらえませんか?転んで足を痛めたみたいなんです。それに、もしかしたら馬と馬車がここに停まっているのを知らずに、私たちが悪いのかもしれませんから……。」
ケンドリックは少し困った顔で私を見下ろした。
私は思わず彼の腕をぎゅっと握った。
そしてもう一度、彼を見上げた。
ケンドリックはまるで私の意図を汲み取ったように、慣れた手つきで腰をかがめ、私に耳を近づけてきた。
私は両手を合わせてケンドリックの耳元に近づけ、そっと囁いた。
「エイデンは私が治します。この子も、いいですか?」
ケンドリックはしばらく考えるような素振りを見せたが、素直に許してくれた。
「いいだろう。ただし、無理はするな。リンシー。」
彼はちらりと私を見た後、手を軽く振った。
すると再び、一瞬のうちに黒い影たちがもこもこと集まり、少女を包み込んだ。
『……よし。』
私は少女が視界から消えるのを見届けてようやく安心した。
『黒い影は演技だったんだな。』
それも、はっきりと私の方を見ながら。
もしかすると、少女は何かを知っているのかもしれないという考えがよぎった。
そのとき。
「うわぁっ!」
ケンドリックが私をひょいと抱き上げた。
「足が気になって歩けないって?」
ケンドリックの言葉で、ようやく自分が羽をだらりと垂らしていたことに気づいた。
この騒ぎの中で、羽を垂らしているなんて気にしている余裕もなかった。
やっと意識がはっきりしてきた。
「そ、それは……」
「入ろう。約束通り君のマントを買わなきゃ。」
「……早く行って治療してもらわないといけないんじゃないですか?」
私はケンドリックの能力を使って移動させた少女とエイデン、そして馬を降ろしながら尋ねた。
私の問いにケンドリックが肩をすくめた。
「邸宅にヘルン先生がいるから大丈夫だよ。心配ならすぐ見てから入ろう。」
「はい……」
私が手綱を引くと、ケンドリックは私をしっかりと抱えて医務室の中へと歩みを進めた。
医務室の扉には、騎士たちに押されて医務室に入っていったかのようなアルセンの痕跡がしっかりと残っていた。
「リンシー!」
「父さんは見えないようだな。」
アルセンが私の名前を呼ぶと、ケンドリックがにっこり笑いながら、アルセンの髪を撫でた。
そのとき、医務室の主のような女性がすっと現れた。
「こんにちは、ケンドリック様。」
彼女は動きやすい作業服を着ていて、その作業服の胸ポケットには紙と大きなペンが挿してあった。
「この医務室の主、クレアと申します。お迎えできて光栄です。」
挨拶を軽く受けたケンドリックは、私を床にそっと下ろして言った。
「今すぐこの子に包帯を巻く必要があります。サイズは少しゆったりしているといいですね。」
ケンドリックがマントをぱっと開いて私の翼を隠した。
私は翼をもう少し詳しく見せるために、そっと背中を向けた。
そして翼を二度広げてみせた。
クレアは私を見て明るく笑い、どこからか包帯がずらりと掛けられた治療台を持ってきた。
「さあ、こちらからお選びいただければ、私が適切にお勧めいたします。」
私は治療台をじっくりと見て回った。
柔らかい素材の包帯が、治療台にきちんとかかっていた。
そのとき、アルセンが薄い青色の糸で刺繍されたマントの一つをさっと手に取った。
「これ、まさに君のだ。」
アルセンはそのマントを私に差し出した。
私はアルセンが差し出したマントを受け取り、じっくりと見つめた。
そして――
「これで作りたいです。」
私はアルセンが選んだマントをそのままクレアに差し出す。
刺繍がきれいで、とても気に入ったのだ。
アルセンは青い糸で刺繍されたマントを、私のものとして選んでくれた。
クレアはにっこり笑いながらマントを持って、どこかへ姿を消した。
彼女の助手たちは、私とアルセンにホットチョコレートを、ケンドリックには温かいお茶とお菓子を差し出した。
私たちはココアをすすりながら、クレアがすべてを終えて出てくるのを待った。
そしてしばらくして、クレアが見事に仕立てたマントを持って現れた。
クレアは私のマントに布を重ねて、翼が完全に隠れるように仕立ててくれた。
私は翼が隠れるようにそのマントをまとい、医務室を出た。
マントには小さなフードがついていて、かぶれば顔まで隠すことができた。
しかしアルセンは、マントが重たく感じたのか、馬車に乗るや否や、ひらりと脱いでしまった。
「じゃあ、デザートだけ買って戻ろうか?」
ケンドリックの言葉に、アルセンは名残惜しそうな表情を浮かべた。
「もう帰るの?」
「用事ができてな。」
ケンドリックが簡潔に答えた。
私はケンドリックの言葉に内心で納得がいかなかった。
『早く戻って、あの子とエイデンを治療しなきゃいけないのに。』
ケンドリックがのんびり戻らなかったらどうしようと、内心心配していたのだ。
けれど、アルセンもまた、早く戻らなければならないことを、どこか名残惜しそうにしていた。
私はアルセンをなだめようと、アルセンの小さな手をしっかり握った。
「また今度来ればいいよ。」
「また今度?」
アルセンの目は「また今度っていつ?」と尋ねているようだった。
「マントも買ってもらったんだし……、また今度連れてきてくれませんか?」
私はわざとケンドリックに聞こえるように大きな声で言った。
するとケンドリックはくすっと笑いながらゆっくりと手綱を引いて答えた。
「そうだな、また今度も連れてきてあげるよ。」
馬車はこの通りで最も有名だというデザート店へと向かった。
アルセンは街の風景を見逃すまいと、窓にぴったりと張りついて外を眺めていた。
外を見るのは、私も同じだった。
『ラニエロで暮らしていたときも、こんなふうに外に出たことなんてなかったから。』
だからこそ、こんなにたくさんの人が集まって暮らしている場所に来るのは、今回が初めてだ。
そのとき、アルセンが慎重に言った。
「デザートのお店って……、デザートが山のように積んであるの?」
「うん、山のように積んであるよ。」
デザートのお店だなんて。
一度も行ったことのない場所だ。
甘いデザートを想像すると、ふと胸がときめいた。
驚きで高鳴っていた胸が、少しだけ落ち着いたようだった。
馬車はキーッという音とともに、デザート店の前で止まった。
御者と騎士たちはまた事故が起きないように周囲をよく確認した後、馬車のドアを開けた。
巨大な2階建ての建物だった。
有名だというだけあり、店の外までお客さんの列が長く続いていた。
ケンドリックは私とアーセンを連れてデザート店の中へと向かった。
店のパティシエが自ら私たちを2階の一番良い席へ案内しようとした。
しかし。
「……あの、ケンドリック様。」
私はケンドリックの袖口をつかんだ。
デザートのお店は本当に不思議で、気分の良い場所だった。
甘い香りが漂っていて、ただそこにいるだけでも心がふわふわした。
でも、それとは別に――
建物の中では、他の狼たちがじっとこちらを見つめながら座っていた。
私は冷や汗をじっとりかきながら、ケンドリックの手を探してつかんだ。
私の様子に気づいたアルセンが、マントの帽子を深くかぶせてくれた。
「包んでください。種類別に全部。」
私の様子を察したケンドリックは、注文表を見ることなくそのまま注文した。
「はい、わかりました。」
私たちは両手いっぱいに包まれたデザートを持って店を出た。
外で待っていた騎士が、ケンドリックが持っていたデザートの箱を受け取る。
私たちは馬車に乗り、再び邸宅へと向かった。









