こんにちは、ちゃむです。
「オオカミ屋敷の愛され花嫁」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

45話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 緊急事態
「リンシー様が、リンシー様が消えました!」
アンシアはすぐに宴会場へ駆け込み、切羽詰まった声で叫んだ。
アンシアの声を聞いた貴族たちはざわめいた。
「消えたって?まさか……ご本人が主役の宴会で……」
「やはり新種族の澄んだ血は、どこか浮世離れしているな。まったく……」
貴族たちはすぐにアンシアの言葉に興味を失い、背を向けた。
アンシアは呆れた表情で彼らを見つめた。
「いなくなったんですってば!驚いて飛んで行っちゃって……」
そのとき、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「アンシア、どうしたんだ。」
アンシアはすぐに首をぐるりと回して、ぎょっとしたように叫んだ。
「おじいちゃん!!」
そして震える声で言った。
「リンシー、リンシー様が消えちゃったんです。」
トリスタンは驚いて震える孫娘をしっかりと抱きしめた。
そして、持っていたメモ紙を見て目を大きく見開いた。
「……なんだって?あの子が何を……したって?」
トリスタンの声が怒りでわずかに震えた。
使用人の姿でお嬢様を驚かせただと?
いくら常識がなくても、それはないだろう……。
これはエクハルト家を侮辱し、無視するのと変わらない行為だった。
トリスタンはすぐに立ち上がり、こみ上げる怒りを抑えてアンシアを降ろした。
「まずはお嬢様を探そう。使用人たちに知らせてくれ。お祖父様には、まずケンドリック様にお伝えしてから来るように。」
アンシアは唇をぎゅっと結び、二度うなずいた。
アンシアはまず執事長のエダンにこの事実を伝えた。
「はい?お嬢様がですか?」
「うん、リンシー様を早く探さなきゃ。」
「どうしてそんなことが……。もしかしてどこへ飛んで行ったのか見ましたか?」
「邸宅の近くに行きました。その後は……」
「承知しました。まず邸宅から念入りに探すように指示いたします。」
宴会の雰囲気は一瞬で混乱状態となった。
最初はただ「分別のない新入りのお嬢様」の気まぐれかと思っていた貴族たちも、ようやく事態の深刻さに気づいた。
落ち着いていたのは、イヴェリンと彼女の友人たちだけだ。
使用人たちはすぐにエクハルト邸の中をくまなく探し始めた。
「お嬢様!」
「お嬢様ー!どこにいらっしゃいますか!」
「聞こえていたら返事してください! お嬢様!」
リンシーが変身した姿は体が小さいため、どこかで怪我をする前に早く見つけなければならなかった。
幸いなことに、宴会が午後2時から始まったおかげで、まだ昼間だったのが救いだった。
使用人たちはソファの後ろ、リンシーの部屋、そしてアルセンの部屋まで細かく探し回った。
しかし、リンシーの姿はどこにも見当たらなかった。
「どうしてこんなことが……」
使用人たちは呆然とした表情でリンシーを探して駆け回った。
ベティとクロエ、エダンとロドリー、さらには料理長のアキムや雑用係に至るまでリンシーを探し回った。
エクハルトの使用人たちは皆、リンシーがよく泣くことを知っていた。
そのため、どこかでひとり泣いているのではないかと、使用人たちは皆、心配そうにリンシーを探して駆け回った。
そして――
リンシーがいなくなったという知らせは、部屋で横になっていたアルセンにも知らせが届いた。
「……は?」
アルセンは苛立った表情で勢いよく立ち上がり、言った。
「リンシーが驚いて飛んで行ったって?」
「はい……、でも私たちがすぐ探して……ああ、旦那様!」
アルセンはその言葉が終わる前に、すぐに席を蹴って駆け出した。
そしてリンシーと一緒に行った場所を順にくまなく探した。
それでも成果はなく、リンシーの姿はどこにも見当たらなかった。
アルセンの顔が困惑で固まった。
「リン、リンシー!おい!返事しろってば!」
アルセンは使用人たちとともに屋敷のあちこちを回りながら、リンシーの名前を切実に呼び続けた。
そのとき――
「これは一体どういうことか、はっきり説明しろ。」
ケンドリックが慌ただしく動き回る使用人たちを見て、低く鋭い声で尋ねた。
その隣には、トリスタンが首をうなだれたまま、気まずそうに立っていた。
明らかに怒っているように見えるケンドリックの顔を見て、使用人たちはうつむいた。
「ご主人様……」
「リンシーが消えただと?それも……誰かがあの子を驚かせて?」
は。
ケンドリックは薄く笑みを浮かべた。
凄まじい威圧感に、使用人たちは皆息をのんだ。
「何をしている、すぐ探せ。そして……リンシーを驚かせたという者を連れてこい。」
ケンドリックは冷たく言い放った。
「責任を取らせる。」
少し落ち着いてから、私はあたりをキョロキョロと見回した。
無我夢中で逃げてきた場所は、灯り一つ入らない、漆黒のように暗い場所だった。
正気を失って身を隠すのに夢中で、気づかなかった。
そこは部屋ではなく、物を保管しておく倉庫のようだ。
暗くてはっきり見えなかったが、使わなくなった使用人用の備品が入った箱が積まれていた。
私は目をしかめた。
「早く出よう。」
薄暗い場所に長くいたくなかった。
私はその場からぱっと跳ねて立ち上がった。
バンッ!
聞き覚えのある音とともに、封印が解けて視界が明るくなった。
私はすぐに扉の方へ駆け寄り、ドアノブを手でがっと掴んだ。
ところが。
「……あれ?」
扉が開かなかった。
私はドアノブを握って揺さぶってみたが、固く閉ざされた扉は開く気配がなかった。
その時。
私がこの真っ暗な倉庫にひとり閉じ込められているという事実が、急にずしんと迫ってきた。
暗闇が足元からじわじわと体を這い上ってくるような感覚がした。
ガチャガチャ、ガチャッ!
「す、すみません!開けてください! 誰かー!」
私は扉をバンバン叩いた。
まるで暗闇に呑み込まれるかのような、必死に扉を叩きながら叫んだ。
「助けてください!出して、いやぁ!!」
涙があふれ出てきた。
突然、少し前に自分を食べようとでもしたかのように大口を開けていたオオカミの群れが、また自分を追いかけてくるような気がした。
「出して!」
暗い場所。
息苦しくて狭いところにいると、火に焼かれているような感覚に襲われて……
「助けてください!」
実際には火が出ているわけでもないのに、呼吸器にしみる煙のようなものが込み上げてくる気がした。
煙のせいなのか、涙のせいなのか、視界が一気にぼやけた。
バンバン――!!!
力いっぱい扉を叩いたが、扉は開く気配すら見せなかった。
叩きつけた手のひらの皮が剥けてヒリヒリと痛んだ。
私はその場でポンポン跳ねた。
ポンッ!
薄明かりの煙が立ちのぼり、再び新たな姿に変わった。
「天井、天井には出られる場所がないだろうか?」
せめて換気口でも。
私は素早く天井まで飛び上がって、脱出できそうな場所を探した。
だが、どこにも出口らしきものは見当たらなかった。
どこにも――
涙が止められないほどあふれてきた。
私は扉の前にうずくまり、羽のように体をできるだけ小さく丸め、体を抱えてしくしく泣いた。
そしてその瞬間、
視界が真っ暗になった。
「リンシー!!」
アルセンはリンシーが行きそうな場所をすべて探し回った。
自分の部屋、リンシーの部屋。
よく遊んだ庭園。
噴水のそばまで。
しかし、リンシーはどこにも見つからなかった。
呆然として言葉も出なかった。
「リンシー、どこにいるんだ!」
どこかで倒れてケガでもしているのではないかという不安がこみ上げてきた。
リンシーは唯一の友人だった。
同時にアルセンにとっては、かけがえのない先生であり、医者であり……大切な人だった。
頭の中はリンシーのことでいっぱいで、まともに考えることができなかった。
アルセンは必死にリンシーを探し回った。
さっきまでぐったりとベッドに横たわっていた人物とは、まるで別人のように。
しかし、どこを探してもリンシーを見つけられず、再び気分がどん底に落ちた。
アルセンはその場にぼんやりと立ち尽くした。
そして、リンシーを探すために慌ただしく動き回る使用人たちを見つめた。
そして、まるで他人事のように、こちらをちらちらと見ながら傍観している他の貴族たちを一度見渡した。
怒りで我慢できなかった。
「どうしてこんなことを……」
どうしてこんなことができるの?
使用人たちの社会では必ず守るべき規則がいくつかあった。
そのうちの一つ目がまさに自分より弱い一族だからといって、脅したりいじめたりしてはいけない。
いや、「規則」と呼ぶにはあまりにも当たり前のことだった。
当然のことなのだから。
自分より弱い一族をいじめてはいけないということは、4歳の子どもでも知っていることだった。
しかし……。
アルセンは両の拳をぎゅっと握りしめた。
青い瞳が冷たく沈んでいった。
そしてその瞬間。
パアッ――!
アルセンの指先から黒い光の帯が立ち昇り、アルセンの手を包み込んだ。
かすかではあるが、はっきりとした光だった。
アルセンはおそるおそる自分の手を下ろして見た。
「これは……」
エクハルトの異能。
アルセンは七歳になるまで異能を発現できなかった。
ヘレン先生はアルセンの不安定な身体のせいだと言っていた。
だから、すべてが治れば自然と異能も発現するだろうと。
それで忘れていたのだが――
アルセンが指先をぴくりと動かすと、ぼんやりとした光の粒がアルセンの手の動きに合わせてかすかに揺れた。
さっき発現したばかりだったため、アルセンの異能は不安定だった。
じっとしていられず、絶えず漏れ出る光の筋がその証拠だった。
アルセンは異能を使う方法も、活用する術も学んだことがなかった。
誰もアルセンに直接そう言ったことはなかったが――
『知ってた』
アルセンが体が弱いために異能を発現できるはずがないと思われていることは、本人もわかっていた。
アルセンは拳を軽く握って、開いた。
そして。
「リンシーを、見つけて。」
さっき発現したばかりの自分の異能に語りかけるように願った。
異能の使い方がわからず、どうすることもできなかった。
パアッ—!
アルセンの指先から、ほのかに輝く光の糸が金色の糸のようにすっと伸びた。
伸びた光の糸が木の影を包み込み、ベンチの影を包み込んだ。
そして………
一か所に集まった影たちが一斉に揺れ動き、やがて小さな狼の形を映し出した。
狼の姿をしたぼんやりとした影が、瞬く間にアルセンの指先から飛び出していった。
アルセンはすぐに自分が生み出したその影を追って走り出した。
影を追って走るアルセンの姿に、使用人たちは目を丸くした。
だが、今はそんなことに気を取られている場合ではなかった。
しばらく走っていた影は、邸宅の中で少し迷っているようだったが、やがて地下室へと消えていった。
問題はその後だった。
地下室の内部は真っ暗で、影の姿が次第にぼやけていった。
さらにエクハルト家の地下室は迷路のように入り組んでいて、うっかりすると道に迷う恐れがあった。
アルセンは燃え盛る炎、その隣でぼんやりと揺らめく影を見つめながら、足を進めた。
そのとき――影が扉の前でぴたりと止まった。
アルセンはすぐにドアノブを掴みながら叫んだ。
「リンシー!」
ガチャッ。
アルセンは力いっぱい扉を引っ張ったが、扉は開かなかった。
「鍵がかかってる。」
それも、しっかりと鍵がかかっていて、一人の力では開けられなかった。
「リンシー、リンシー! そこにいるの?」
アルセンは拳をぎゅっと握りしめ、鍵のかかった扉をドンドンと叩いた。
どれほど強く叩いたのか、叩いた部分が赤く腫れ上がった。
しかし、中からは何の返事も聞こえてこなかった。
『大人を呼んでくるべきか?』
だが、そうすると時間がかかりすぎてしまう――。
アルセンが迷っていたそのとき。
「誰かいますか!」
「なんてこと……ご主人様!」
遠くからランプを持った使用人たちが、わっと駆け寄ってきた。
アルセンは突然明るくなった視界に、思わず目を細めた。
『どうやって来たんだ?』
そのとき、アルセンの視界に見慣れた姿が入ってきた。
ランプを持った使用人たちの前で、ケンドリックが訳が分からないという表情で立っていた。
「アルセン、お前がここにどうして……」
戸惑っていたのはケンドリックも同じだった。
異能を使ってリンシーのいる場所を突き止め、すぐに使用人たちを連れて来たのだった。
もちろん少し手間取って、リンシーを見つけるのが遅れてしまったが。
それなのにアルセンがどうして自分より先にここにたどり着いていたのか、理解できなかった。
「……お父さん」
アルセンは今にも泣き出しそうに、声を詰まらせた。
しかし少年はしっかり唇を噛みしめ、袖で涙をさっと拭ってから言った。
「リンシーが、この中にいます。」
「扉を開けろ。」
ケンドリックの命令が下ると、エダンがすぐさま袖の中に入っていた鍵束を手にして前に出た。
そして最も古びた鍵を取り出して、閉ざされた扉を開けた。
カチャリ。
ゆっくりと扉が開いた。
扉の前には、小さなひな鳥が力尽きて倒れているかのように、リンシーがうずくまっていた。
「リンシー!」
アルセンはすぐに駆け寄ってリンシーを抱き上げた。
自分の服が汚れてしまったが、そんなことは気にもならなかった。
呆然としている暇はなかった。
「リンシー、リンシー?」
少年は死んだようにぐったりしている淡い髪の少女をそっと揺さぶった。
ケンドリックはすぐに近づき、リンシーの腹のあたりに手を当てて脈を確かめた。
呼吸は少し不規則だったが、
幸いにも、ちゃんと呼吸はしていた。
リンシーが無事であることを確認したケンドリックは、安堵のため息を漏らした。
「連れて出よう、大丈夫だから。」
ケンドリックとアルセン、エダンとエクハルトの使用人たちは、リンシーを急いで部屋へと運んだ。
宴会はすでに静まり返っていた。
ケンドリックは宴会場の出入りを厳重に制限し、この騒動の犯人を見つけて連れてくるよう命じた。
少しざわつきはあったが、エクハルト家の名のもとにすぐに静けさが戻った。
広いベッドの中央に、小さな小鳥をそっと横たえたアルセンは、ようやく浅い息をついた。
「ヘルンを呼んでこい。」
ケンドリックの命令を受けた二人の使用人が素早く部屋を出ていった。
彼はアルセンの小さな肩に大きな手をそっと置いて言った。
「アルセン、出よう。リンシーが休めるように。」
しかし、アルセンは口をぎゅっと結んだまま動かなかった。
「いやだ、出たくない。」
「お前が出てこそ、リンシーが安心して休めるだろう。」
「出ない、ここにいる。」
アルセンは頑なに言い張って顔をぷいっとそらした。
少年の視線はまるで死んだように横たわっている小さな赤ん坊のようなリンシーに注がれていた。
ケンドリックはため息をついた。
「じゃあ、ここにいなさい。残りの者は出なさい。やるべきことがあるから。」
息子の額に浮かんだ汗を優しく拭ってやりながら、ケンドリックは体を向けて部屋を出ていった。
そして、廊下を通り過ぎながら乾いた声で尋ねた。
濁りのない声が邸宅の廊下に低く響いた。
「どこにいる?」
「執務室にお連れしました。」
ケンドリックはすぐに執務室へと足を向けた。
エクハルトの邸宅でこのようなことが起きたのを、許すわけにはいかなかった。
たとえそれが、かろうじて10歳になった子どものいたずらだったとしてもだ。
していい悪戯と、してはならない悪戯があるというもの。
さらに――リンシーはエクハルトの一員として紹介された存在だ。
その場でこんなことが起きたというのは、
エクハルト家に恥をかかせたも同然の行為だった。









