こんにちは、ちゃむです。
「オオカミ屋敷の愛され花嫁」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

50話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 内部事情
「久しぶりだな、ラモント。」
ケンドリックが私の前に置かれたティーカップを手に取り、蒸気を吹きながら口を開いた。
彼の視線の先には、向かい側に座ってにこやかに微笑んでいる男がいた。
よく整えられた黒銀色の髪、鋭い目元と、きりっと上がった口元が印象的な男。
ライオン一族の首長である黒獅子、ラモント・フェルナンドだった。
「どれくらいぶりなんだ、ケンドリック?お前がライオン領まで来るなんて。」
ラモントが何かを疑うように笑いながら、茶碗を口元に運んだ。
「ちょうど一年ぶりか?もうすぐ祭りの時期だからな。」
「そう、一年ぶりだ。」
ケンドリックは上品にお茶を一口飲んだあと、茶碗を置いた。
「他でもなく、君と話し合いたいことがあってね。」
「話し合いたいことだと?」
「最近、禁制品を使用している集団を見たことがあるか?」
ケンドリックが単刀直入に尋ねた。
その問いに、ラモントの表情が一瞬にして固まった。
「何を言ってるんだ、ケンドリック。禁制を使う一族ならとっくに絶えたんじゃなかったのか?」
「そうだ、その通りだよ……。でも最近、禁制を使う者が現れたって話を聞いてね。」
「そんな話を聞いたって?誰からだ。」
ケンドリックが手を振った。
「誰から聞いたかまでは、知る必要はないさ。」
「狼族の内部で起きたことなのか?」
「内部だけの出来事か、それとももっと大きな問題かを調べるために君のところに来たんだ。」
ラモントが眉間にしわを寄せた。
「今のところ聞いたことはない。情報は確かか?」
「君があの子にいたずらした可能性もあるんじゃないか。」
「……まあ、いたずらとは思えなかったけど。」
ケンドリックはティースプーンを茶碗に入れ、かき混ぜながらリンシーの昼のことを思い出した。
リンシーが嘘をついているようには思えなかった。
それに——
「禁制品を使っているという話が出たその子が、行方不明になったんだ。」
「行方不明?」
「ああ、今日その子の家に行ったんだが、三日前から戻っていないらしい。」
「どこかに出かけただけじゃないか、ケンドリック。君が過敏に考えすぎているのかもしれないよ……」
「もし僕の推測が正しければ、あの子は死んでいる、ラモント。」
ラモントが目を細めて見開いた。
「……リンシーがそうだったのか。昨日突然、自分の禁制が解かれたって言ったのか?」
「リンシー?嫁として入ったあの新しい一族の娘のこと?」
「ああ、あの子が自分の首に禁制がかかっていたって言ってたんだ。」
ラモントがふっと、苦笑を漏らした。
「ケンドリック、その子はたったの七歳だろ。七歳の子どもに何が分かるっていうんだ?『禁制』なんて言葉、どこで聞いたか知らないが、どうせ嘘さ。元々その歳の子は嘘をつくのが好きなんだから。」
「リンシーはエステラが自分に禁制をかけたって言ってたよ。」
ケンドリックが一瞬息を整えてから言った。
「そしてエステルも行方不明になった。私はこの一連の出来事が無関係だとは思っていない。」
「まったく、ケンドリック。君は考えすぎだよ。その子が一体どこで禁制についての話なんて聞いたんだ?ラニエルの子どもたちがそんなことを知ってるとでも?」
「ありえるさ。それに、リンシーは賢い子だ。」
「どれだけ賢くても、まだ七歳なんだぞ。うちのレオと同い年だ……」
バタン。
ラモントの言葉が終わる前に、書斎の扉がバタンと開いた。
ケンドリックとラモントは、どちらが先ともなく顔を上げた。
視線をドアの方に移した。
「パパ!」
バタンと開いたドア。
その前には、腰に両手を当てて得意げに立っている女の子がいた。
くるくるしたオレンジ色の髪を両側に結んだ子だった。
フェルナンド家の末娘。
レオナ・フェルナンドだった。
「まったく、お嬢さま、お客様がいらっしゃったとお伝えしましたよね。こんなことをしてはいけません。」
続いて、子どもの世話係のように見える使用人が一人、駆け寄って子どもを連れて行こうとした。
しかし「パパ!外に遊びに行きたい!」
「……はあ、ケンドリック。少し待ってくれ。」
ラモントがため息をついた。
「レオン、お父さんがお客さんと会っているときは入ってくるなって言っただろ……」
「外に出て遊びたいの!変化球を練習したいの!」
「まったく、パパの言うことが聞けないのか?」
ラモントが眉をひそめた。
レオナは引き止めようとした侍女の手を振り払い、駆け寄ってラモントの膝の上に座り込んだ。
「外に出て遊びたいの、ね?ちゃんと言うこと聞くから……」
「七歳の子どもは、どうにも制御が効かないもんだな。」
ラモントが困ったようにケンドリックを見つめながら、肩をすくめた。
ケンドリックは理解したというようにふっと笑い、残っていたお茶を飲み干した。
「お客様との話が終わったら呼んであげるよ。そのときにたくさん話そう、どうだ?エンリカ!何してるんだ!この子を連れて行かないで!」
「やだ、やだ!今すぐ話して!今!……でもおじさんは……あっ、ケンドリックおじさん!」
レオナはそのときになってようやくケンドリックに気づき、嬉しそうに目を見開いた。
「おじさん、久しぶりです!」
「すっかり大きくなったな、レオナ。」
「うん、わたし大きくなったよ。でもおじさんの息子にはいつ会わせてくれるの?」
レオナはまだアルセンに一度も会ったことがなかった。
ケンドリックとラモントの話の中で聞いたことがあるだけだ。
だからレオナはアルセンにとても興味があった。
「レオナ、そんな無礼なこと言わないで出て行きなさい。」
「アルセン?そうだな……今回の祭りのときに会えるだろう。」
「今回の祭りですか?」
レオナは目をまん丸に見開いた。
「そう、アルセンだけじゃなくて他にも友達ができるさ。だからレオナ、お前が仲良く遊んであげなきゃいけないんだ。」
「他のお友達……? わあ! パパ、2人もお友達に会えるんだって!」
レオナがうきうきと髪飾りをはね上げてラモントを見つめた。
子どもが突然髪飾りを持ち上げたせいで、レオナの頭にそれが当たってしまったラモントは静かにため息をついた。
「……そうか、お友達ができてよかったな。だからもう行ってくれ、レオン。お願いだから。」
「お祭りって、いつでしたっけ?」
「来月末だ。すぐにわかるさ。」
「もう答えなくていいよ、ケンドリック。君が答えるたびに、この子が出ていかないんだから。」
ラモントはとうとう無言で娘の背中を押して追い出した。
ラモントはレオナの腕をつかみ、侍女に引き渡した。
レオナは出たくないと駄々をこねたが、ラモントの力に敵うはずもなかった。
やっと娘を送り出したラモントは疲れた表情で席に戻った。
「ほら、七歳の子どもは言うことを聞かない……ときには嘘もつくし、駄々もこねる。あの子も嘘をついたんだ。君も騙されたんだよ。たった七歳の子どもの言葉を信じて、少し前に消えた集団を追っているなんて。」
「そうだな、君も騙されたな。言うことを聞かない娘に押し負けたあの場面は見ていて実に印象的だった。まるでライオン族の酋長みたいだったよ。」
ラモントの言葉に皮肉を込めたケンドリックは、茶碗をテーブルに勢いよく置いた。
「知らなかったのならそれでいいさ。無駄に遠くまで来てしまったようだ。」
「せっかく来たんだし、食事でも一緒にしていかないか?レオナも喜ぶと思うし。」
ラモントが肩をすくめた。
「次にしよう。どうせもうすぐ祭りだから。」
「そうか……今回はアルセンを連れて来るって?」
ケンドリックはこれまで、どんな公の場にもアルセンと同行したことがなかった。
もちろん、少し前に一族全員にアルセンを紹介し、神殿にも連れて行ったと聞いてはいたが、それは狼族の一族だけに見せたもので、神殿も公に訪れたわけではなかった。
ラモントが好奇心に目を輝かせた。
「新しい一族を嫁にもらったって聞いたけど、本当に見る目があるようだね。」
「ラモント。」
「君がその嫁をひどく嫌ってるという噂と、すごく溺愛してるという噂、両方が流れてきてて……どちらを信じればいいのかわからないよ。」
ラモントが目を細めた。
「可愛いさ。そうとしか言いようがない子なんだ。それで納得の答えになったか?祭りのときに会おう、ラモント・フェルナンド。」
「そうだな、ライオン一族の中でも何か異常が起きたら連絡するよ。」
ラモントは軽く挨拶をした。
ケンドリックはすぐにラモントの書斎を後にした。
書架の前で体を小さく丸めて座っていた少女が、ぱたぱたと走ってきてケンドリックの腰元をぎゅっとつかんだ。
「……レオナ。」
「友達の名前はなんですか? アルセンのことはよく聞いているので……。他のお友達?すぐ会うことになると思うので、あらかじめ名前を覚えておきたいんです。」
ケンドリックはにっこり笑い、レオナの髪をやさしく撫でた。
今回の集まりでも、またトレの子たちに傷つけられたんじゃないかと心配していたのだ。
『きっといい友達になるだろう。』
ケンドリックは目の前にいる、たてがみがふわふわとしたライオン族の少女を見つめながら思った。
「リンシー、鳥一族のリンシーというんだ。」
「“鳥の一族”?」
レオナが目を丸く見開いた。
そのとき、やっとケンドリックが小さくため息をついた。
ライオン一族と鳥の一族は仲が良くないため、レオナもリンシーを避けるようになるだろう。
会わせないほうがいいか――悩んでいたそのときだった。
「リンシー!ありがとう、おじさん!」
レオナは廊下を駆け、挨拶をしてからラモントの書斎へと駆け戻っていった。
ケンドリックはそのままライオン族の邸宅を後にした。
「それでエイデンが君にヘクターを譲ったってこと?」
アルセンが目を丸く見開いた。
「うん、今は魔具室にあるよ。」
「ヘクターの話は聞いたことあるよ。前にギルバートの正面装備を粉々にしたんだって。」
アルセンはあまり重大だとは思っていないようだった。
私はそのときようやく、なぜギルバートがヘクターを見てあんなに驚いていたのかが理解できた。
前回は壊れていた状態で届いたからよかったものの、今回は完全な状態で魔具室に持ち込まれたため、以前に被害を受けたことを思い出したのだろう。
「なるほど……、そりゃあ驚くだろうね。」
「狩りしかしないの?エイデンじゃなきゃ他の人は乗せてもらえないんだ。」
「でも最近はエイデンまでが訊いてくるのよ。エイデンの話では、私が気に入ったからそうなんだって。」
「面白いな、あとで一緒に見に行こう。」
「うん、いいよ。とりあえずケンドリック様が来たらお願いしてみなくちゃ。ヘクターを……育ててもいいかって。」
「ダメな理由なんてある?」
「バカね、私は養女の身だから、こういうことは許可が必要なの。」
アルセンには理解できない様子だった。
「パパが言ってたよ。君と結婚するって。そうしたら君はエクハルトの一員になるんだから。」
「結論じゃなくて、結・婚になるわよ。」
「細かいことばかり指摘しないで。」
「細かいことだから言ってるんだよ。」
アルセンはついに目をそらした。
私はアルセンの両頬を手のひらで包んで、くすぐった。
「それよりもケンドリック様がもうすぐ来る頃だよね……。」
「すぐ来るよ。パパはいつも……、あれ?」
窓の外を見ていたアルセンが目を細めた。
「誰、あれ?」
「どうしたの? 誰なの?」
私もアルセンの後に続いて窓の外を見た。
黒い髪の少女がしくしくと泣いていた。
エイダンと口論しているのが見えた。
「……イヴェリン?」










