こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

90話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 贈る花
夕方が近づくと、張り詰めていた自習室の雰囲気も少し和らいできた。
夕食をとるために出ていく生徒もいれば、軽く休憩を挟むために別の場所へ移動する者もいた。
しかし、ノアとクラリスは相変わらず並んでその場に留まっていた。
「はぁ、もう倒れそう……。」
ちょうど向かいの席に、バレンタインがやってきた。
クラリスは、分厚い彼の解答ノートを見て、思わず微笑んだ。
なんとなく仲間意識が芽生えたのだ。
「笑ってるのか?」
「ええ。私だけが恥をかくわけじゃないと思うと、ちょっと気が楽になりますから。」
「どうせ他人の成績なんて気にしないだろ?」
しかし、その直後、バレンタインの背後で二人の受験生が彼の成績を話題にして、ひそひそとささやく声が聞こえた。
「王子様とはいえ、成績があまりにも庶民的すぎるよな……。」
どうやら、そこまで悪意のある言葉ではないようだが、それでも気になるものだ。
「問題、全部解き終わりました?」
「いや、死ぬかと思ったよ。君は?」
「あと五問残ってます。」
クラリスが深く息をついた瞬間、バレンタインは「どれどれ」と言いながら、クラリスの持っていた試験用紙と解答用紙をさっと奪い取った。
「えっ……お前、こんなの間違えたのか?どうせ問題を最後まで読まなかったんだろ?正解を探したのか、不正解を探したのかも分からず、適当に答えを書いたんじゃないか?」
「し、試験に慣れてなくて……どうしようもなかったんです。」
「みんなそう言って誤魔化すんだよな。」
それを聞いたクラリスも、彼が持っていたノートと試験用紙を勢いよく奪い返した。
「ちょ、許可もなく……!」
「見たところ、王子も問題はしっかり解いてるのに、選んだ答えがトンチンカンですね。」
ちょうど後ろで、彼を「庶民的」と表現した受験生たちが、腹を抱えて笑い始めた。
「ちょっと、それは時間が足りなくて……!」
バレンタインは真っ赤になりながら、クラリスの試験用紙を奪い返した。
「ほらね。王子でも私でも、結局同じようなものですよ。」
「お前、人を侮辱するにも限度があるだろ。よくもまあ、俺と比べるなんてな?」
「王子様が私のレベルなんですよ。」
「ちょっと黙れ。」
彼は広いテーブル越しに腕を伸ばし、クラリスの頬をつまんだ。
クラリスはすぐに彼の手を叩いたが、バレンタインは「強者に打たれて死ぬ」と言いながら、机に突っ伏して死んだふりをした。
一方、クラリスの隣で魔法書を読んでいたノアは、呆れたようにため息をつきながら、彼らのやり取りをちらりと眺めるだけだった。
何なんだろう、この感じ……。
……なんだかイライラしてきた。
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平日が過ぎ、週末になると、首都は少しひっそりとしていた。
家が近い受験生たちは家族に会いに行き、一部は王都で必要な物を買いに出かけたりしていた。
もちろん、ノアのように首都で静かに過ごすことを好む受験生もいた。
静かに休息を取るか、あるいは不足している勉強を続けるか、それぞれの時間を過ごしていた。
一方、クラリスは週末の朝になると、宮廷から送られる馬車に乗り、バレンタインとともに王都へ戻ることが多かった。
今回の週末も同じだ。
朝になるとクラリスは馬車に乗り込んだ。
約30分ほど走り、第三城壁の手前で馬車が止まったときだった。
「王子様。」
クラリスはバレンタインを呼び止めた。
「なんだ?」
先に馬車を降り、数歩進んでいた彼は、振り返りながら問いかけた。
「王子様の庭に、冬の花は咲いていますか?」
「いや、ないよ。」
「ああ、それなら花屋を探しに行かないといけませんね。」
「花がどうした?」
「それがですね……。」
クラリスは、心の中で立てていた今週末の計画について話し始めた。
公爵夫妻とともに、クノー侯爵夫人を訪ねる予定だと伝え、直接訪問するつもりだと話した。
「他の貴族の家門を訪れるのは初めてなので、都で礼儀作法の本をもう一度見てみたら、酒や花を持参するのが良いと書かれていたんです。」
しかし、この冬に花を購入するのは、クラリスの手持ちの非常金をすべて使い果たさなければならないほどの負担だ。
「だから、俺の庭から花を盗もうってこと?」
「盗むだなんて!」
クラリスは彼のそばへ駆け寄り、慌てて抗議した。
「ただ、少しだけ王子様の優しさに期待してみたかっただけですよ。」
「友達の利用方法がずいぶん計算高いな。」
「計算高かろうが、打算的だろうが、とにかく王子様の庭には花がないじゃないですか。」
ふっとため息をつきながら高貴を回そうとすると、彼がクラリスの手首を掴み、無理やり向き直らせた。
「お前、俺が誰だか分からないのか?」
「……?」
「俺は第三の城壁だけで十年以上過ごしたんだぞ。冬に花一本見つけるくらい朝飯前だ。」
「私が花を摘んでも問題にならない場所なんですか?」
「それなら最初から話しておけばよかったな。ちょうどいい、今見に行くか?」
「え、本当ですか? 場所だけ教えていただければ……」
「お前みたいな罪人が一人で歩き回って、迷子になったらどうするんだ?こういう時こそ、王宮の護衛がそばにいるべきだろう。」
「それはまったく正しいご意見ですね。」
クラリスは感動し、両手を組んで彼を見上げた。
「深く感謝いたします。」
「当然のことだ。私の熱心な友情には、いつか必ず報いてくれよ。」
彼は私の髪をかき上げながら、得意げに振る舞った。
普段なら「王子様、調子に乗らないでください」と言い返すところだったが、今日は真剣に拍手を打ち、彼の友情に敬意を表した。
そして10分後
クラリスは、もし時間を巻き戻せるなら、バレンタインに向けた熱心な賛辞をすべて撤回したいと考えた。
彼女が言い直すべき言葉は、次のようなものだった。
最高の友、 美しい友情、 そして感動的な犠牲。
バレンタインはそんな崇高な言葉とは無縁の人物だった。
「わかった?俺はここで見張りをしているから、お前はあっちで気に入ったのを取ってくればいい。」
今、彼らは王宮で運営されている温室にいた。
それも、使用人たちの目を避けるために小さな裏口からこっそり忍び込んだ状態で、バレンタインはクラリスに急いで花を盗れとせかしていた。
「……王子様?」
「気に入るのがなくても、細かいことは気にせず適当に選べ。」
彼は茂みに身を潜めたまま、首を上げて誰かが近づいてこないか警戒していた。
こうして、彼らは二人一組の花泥棒になったのだった。
「これって犯罪じゃないですか。王宮の温室は単なる美観のために造られた場所ではありません。品種の保護と研究のために税金で維持されているんですよ。」
「関係ないさ。どうせここは王族の男たちが求愛用の花を植えておく、つまらない場所だろ?」
「そんなことを言わないでください。」
「証拠として、兄上だって毎日ここで花を摘んでは、宮中の侍女たちに一本ずつ配っているじゃないか。」
「それは嘘です!王宮ではすでに婚姻が成立しています。なのに、どうして他の女性たちに求愛用の花を贈るなんてことがあるんですか?」
バレンタインが明らかに嘘をついていることは分かっていたため、クラリスは身を翻し、二人が入ってきた小さな扉からもう一度外へ出ようとした。
幸い、その方向にはまだ人影がなく、静かに戻ることができそうだ。
クラリスは、今の自分の身分だけでも罪人同然なのに、ここで花を盗む罪まで加えるわけにはいかないと考えていた。
「……あ。」
しかし、バレンタインは長い腕で彼女のうなじを掴み、後ろへと引き寄せた。
「……?!」
驚いてもがく間に、クラリスは完全に後ろへ引かれ、彼の胸元に背中をぶつけてしまった。
「ふっ。」
低く、抑えた笑いが漏れた。
バレンタインはクラリスをほぼ引きずるようにしながら半身を返し、そのまま草木の反対側へと身を隠した。
無駄のない、慎重かつ素早い動きだった。
クラリスはその時、誰かがこの温室へ入ってきたことに気づいた。
どうやら、彼らが先ほど使用した召使たち用の出入り口を使い、誰かが侵入したようだった。
『誰?』
生い茂る草花に視界を遮られ、はっきりとは見えなかったが、クラリスは相手が一組の男女であることをすぐに察した。
「本当に私がここに入っても大丈夫なんですか?」
周囲を不思議そうに見回す女性は、どうやら男よりも身分が低いように見えた。
「まあ……駄目なわけがない。君が見たいって言うんだから。」
そして振り返った男の声は――
「……!」
クラリスは息を呑み、思わずバレンタインを見上げた。
「こ、先ほどいらっしゃいましたよね。」
小声で囁くように言うと、彼はくすりと笑った。
それでも、相変わらず彼女のうなじに腕を回し、ぴったりと体を密着させたままだった。
「だから言っただろう。ここは王族の男たちが、愛人のための花を育てる場所だと。」
耳元で囁かれたその言葉に、クラリスは顔を曇らせた。
「ひどい……。」
王にはすでに美しい妃がいた。
この世界で、誰もが配偶者を持ちながら他の相手に求愛することなどあり得ない……。
『……違うのか。』
改めて考えてみると、王は一部の例外として、世の常識から外れる特権を持つ存在だった。
今ではほとんど気にすることもなくなったが、クラリスの父もまた、その一人だった。
王妃の権勢があまりにも強かったため、クラリスの母は正妃の座に昇ることすら叶わず、王宮の侍女として命を終えたが……。
それでも彼女が学んだ歴史では、王は常に少なくとも二人以上の女性を妃として迎えていた。
その理由はいくつかあった。
権力の均衡を保つため、多くの王族をもうけるため、外交を円滑に進めるため。
だからこそ、クラリスがライサンダーの求愛行為を非難することはできなかった。
そもそも、彼の恩恵によって命を拾った身であり、その恩を仇で返すような真似は許されないのだから。
「ミカンの皮みたいな、ひどい顔してるぞ。」
バレンタインは、クラリスの顔を片手でしっかりと掴んだまま、しつこく尋ねた。
「兄上の恋愛に、なぜお前が文句を言うんだ?」
彼が苛立ちを滲ませながら投げかけた質問に、クラリスも負けじと真顔で応じた。
「文句なんて言ってません。」
「……。」
彼はそれ以上何も言わなかった。
ずっと執拗に押していたミカンの皮(顔)も、ついに手を離し、ただ間近な距離からじっと彼女の顔を見つめるだけになった。
『それにしても、こんなにも近い距離で王子と向かい合っているなんて、なんだか……。』
幼い頃を思い出した。
暗い水路の中で、向かい合って膝を抱えていた、あの頃のことを。
思い返せば、バレンタインはあの時もふざけていた。
大半はそんな風に無表情を保っていた。
『本当に、あの頃とまったく同じだ。』
どこか面白くもあり、懐かしさも感じられるその雰囲気に、クラリスは自分でも気づかぬうちに微笑んでいた。







