こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

91話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 贈る花②
バレンタインは少し驚いた。
他の誰でもなく、クラリスが兄の恋愛にここまで傷ついたような表情を浮かべるとは思わなかったからだ。
どれほど彼の兄が立派な容姿を持っていたとしても、クラリスにとっては単なる三十路の男でしかないはずだ。
「怒ってなんかいません。」
そう言いながらも、なぜか口元が微かに震えていた。
まるで何かの感情を抑え込もうとしているかのように。
いったい、彼女は何を考えているのだろうか?
まさか、そんなことなのか?
庭園を惜しみなく世話するキダリおじさんへの恋愛感情とか?
『冗談じゃない。本当にくだらない。』
彼はクラリスの本心を聞き出そうと、肩をつかもうとした。
彼らは最も親しい友人なのだから、それくらいの干渉は許されるだろう。
もしクラリスが、本当にそんな報われない恋心を抱いているのだとしたら……。
『ああ、イライラする。いっそこれを摘み取ってしまおうか?』
こみ上げる苛立ちをどうすることもできないまま、無表情だったクラリスが、ふと……笑った。
しかも、それは彼の顔をじっと、じっくりと見つめながらのことだった。
『これは……何だ?』
どうしてこんなに美しい?
バレンタインは自分でも気づかぬうちに、彼女の顔をぼんやりと見つめ、さっきまで考えていた問題がすっかり頭から消えてしまった。
バレンタインはこの状況が信じられなかった。
彼は最近になって貴族の娘たちと少しずつ顔を合わせる機会が増えていた。
中には「非の打ちどころのない美貌で社交界を席巻している」と噂される少女たちもいた。
そんな評判の少女たちと会えることに、普通の男として多少の期待を抱いたことも否定はしない。
だが、いざ会ってみれば――彼女たちは「普通の人間」にしか見えなかった。
バレンタインは、彼女たちの何が他の少年たちを夢中にさせるのか理解できなかった。
ただ、目が二つ、鼻と口があるだけの普通の顔ではないか。
美しさを求めるなら、むしろ冬の湖に映る自分の顔を見た方が早いくらいだ。
『なのに、なぜ俺はクラリスなんかの顔を――彼女に心を奪われたって?』
クラリスは普通に綺麗だ。
確かに美しい。
だが、バレンタインの目には彼女は”女性”として映らない。
『せいぜい、石ころや葉っぱと同じようなものだろう。』
そんな女性の微笑みに心を奪われるなんて、自尊心が許せるはずがなかった。
『何よりも俺の方が美しい。』
だから、さっきのことは、ちょうど突進してくる馬車を避け損ねたようなもの。
「ご無事でよかったですね、王子。」
彼がなんとか結論を下した頃、クラリスがぼそぼそとつぶやくのが聞こえた。
気づけば、彼女は彼の美しい顔から視線を外し、ただ草むらを眺めていた。
『俺から視線を外した?この距離で俺の美貌を見てもなお、目を逸らすって?』
こう考えたからではないだろうが、クラリスの視線が再び彼を向いた。
「もう行かれたようですね。」
さっきの微笑みを少し残したままの顔で。
「……。」
「王子?」
「あー、また踏んづけたな、馬車の事故。」
バレンタインは、無意識にそうつぶやいていた。
・
・
・
「やっぱり、泥棒は良くないですよ。」
クラリスは道徳的な不安を抱えたくなかった。
だから王宮の温室で花を盗むことは断り、先に外へ出たのだ。
草むらの陰に隠れ、少し緊張していたのか、ふと長い息が漏れた。
「服が汚れちゃった。」
クラリスは自分の服をパンパンと払い落とした。
バレンタインは彼女より少し遅れて外に出た。
「お前、先に出るのはいいけど、俺のこと置いていく気か?俺の立場はどこに捨てたんだよ?」
彼はぶつぶつ言いながら不満を漏らしたが、クラリスはただ笑うだけだった。
彼の頭の上に乗った青い葉が妙におかしくて。
「本当に、たまに見てると王子は子供の頃と全く変わらないですね。」
クラリスはつま先を上げて、彼の頭の上に乗った青い葉を摘み取った。
「何を馬鹿なこと言ってるんだ。俺、子供の頃よりずっとイケメンになっただろ。」
クラリスがわざとらしくうなずくと、彼はなぜか満足げな笑みを浮かべた。
「そう、それだ。」
「それって何のことですか?」
「え? あー……いや、何でもない。ただ、お前をからかうのが楽しいってことだよ。」
「……」
それは、あえて言わなくてもよく知っていることだったので、クラリスはくるりと身を翻した。
「戻ります。今日は市内の花屋を探して、クノー侯爵夫人の家を訪ねるつもりなので忙しくなるでしょうから。」
「お前、馬鹿か?」
「そんなひどい言い方は……!」
言い終わる前に、クラリスはふと足を止めた。
彼女の前には春があった。
「……」
クラリスはゆっくり視線を下ろし、バレンタインが差し出したものを見た。
それは、真紅のバラだった。
春が深まると、濃厚な香りで庭園を支配する魅惑的なその花。
「王子……。」
「いいよ。お前まで馬車にひかれるように駆け回るのは見たくない。こんなに献身的な男が花を渡すことくらい許せよ。君がときめくのも当然だ……」
「他人のものを盗んではいけません。」
クラリスはきっぱりとした口調で答えた。
彼は納得しているようには見えなかったが、ともかく言葉を発した。
「これがどうして盗んだことになる?」
「許可なく摘んできたじゃないですか。」
「それなら兄上にも行って、盗んだのかと聞いてみたら?さっき見たけど、すごく見事に摘み取っていたぞ。」
「それは王宮の男性たちが求愛に使うためのものですよ。」
「……。」
「さっき王子が言っていたことを思い出すと、王族の男性の求愛活動はある意味で公的な行為とも言えますね。そう考えると、堂々と花を使ってもいいのでは…… え、王子?」
クラリスが話を続けているうちに、彼は赤い花をクラリスの鼻先にさらに近づけた。
「じゃあ、求愛だと思え。」
「……え?」
クラリスは花から一歩引いたが、彼は再び花を差し出した。
「求愛なら受け取るって言ったよな?!」
「いや……」
そういう意味ではなかった。
ただ王が花を摘むことに問題がないと説明しようとしただけだった。
「何だ? 無償でも渡さないとダメなのか? 目の前でひらひらしている髪飾りのリボンでも引きちぎって交換するか?」
無償で譲ってもらう代わりに、何かを差し出そうとするバレンタインとは……。
そんな光景を実際に見たら、一週間は笑いが止まらないに違いない。
……おかしすぎて。
今この瞬間も、彼の姿を想像するだけで笑いがこみ上げてきた。
「わかった、わかったよ。」
クラリスは彼の差し出した花を両手で受け取った。
「ひとまず受け取りますね。王子が詩を吟じる姿なんて、絶対に見たくないので。」
「何だと?!言いたいことはそれだけか?!」
彼の要求どおりにしたのに、なぜかまた怒り始めた。
こうなったら、クラリスも思っていることを全部言うことにした。
「詩を詠む姿なんて、もっと見たくないですよ。ああ、試験に出る範囲の詩なら別ですが。」
「おい、お前はどうして感謝の仕方を知らないんだ?俺の求愛がもったいない!」
「じゃあ、こうしますか?」
クラリスはふと、大きな花束に顔を近づけた。
綺麗で香りのよい花が目の前にあると、なぜか自然と笑みがこぼれた。
その微笑みをそのままに、クラリスはバレンタインを見上げながら言った。
「王子が私に……求愛してくださるなんて、本当に嬉しいです。」
これで彼の要求には応えたはずだと思ったのだが——。
「お前、……!」
違ったようだ。
バレンタインは突然怒ったように顔を真っ赤にした。
「もういい!」
彼はしばらくクラリスの周りを速足でぐるぐると歩き回ったが、やがてまた彼女の前に立ち、こう言い放った。
「お前には絶対に求愛なんてしない!」
「……?」
「これは王室とクノー侯爵家の友情が変わらず続いていることを象徴するバラだ。俺が貴様なんかに求愛すると思うか?」
「そりゃ、絶対にしませんよ。それは私も分かっています。」
クラリスは当然だと言わんばかりに答えた。
「……」
すると、バレンタインはなぜか突然口をぎゅっと引き結び、クラリスをじっと見つめ始めた。
何か…… 彼が望んだ答えではなかったのか?
「……とにかく、今すぐよこせ。」
彼はクラリスの手に握られていたバラをひったくるように奪い取った。
「俺が直接、侯爵夫人に渡す。」
彼は足早に先に立ち、ずんずんと前へ進んでいった。
「王子も一緒に行かれるんですか?」
「おう!そうだ!」
彼は振り返りもせず、大声で叫んだ。どうやら歩くスピードがどんどん速くなっているようだった。








