こんにちは、ちゃむです。
「乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

171話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 最後の計画④
セドリックとアセラスが消えた後、ダリアはもともと 「アセラスとセドリックが存在するはずの場所」 を見つめていた。
そこはまるで宇宙のブラックホールのようにぽっかりと空いていた。
影も光もない、ただの虚無。
二人はこの世界に存在しない、別の空間へと消えてしまったのだ。
皇帝はその虚無を見つめながら、顔色がまるで白紙のように真っ青になった。
その中にいるセドリックを思い浮かべたのだろう。
彼は苦しげに呻き、呪いの言葉をつぶやいた。
「ああ、くそ。到底、見ていられないな。すまない、少し後で戻るよ。」
皇帝は悪態をつきながら立ち去った。
アドリシャが隣で支えた。
ダリアは、まだ気を失ったままのようなルウェインを見つめた後、再び空虚な空間へと目を向けた。
今や結界もアセラスも消え、残るは魔法陣だけ。
その中央には、宙に浮かぶ日記だけが漂っていた。
ダリアは日記に手を伸ばした。
ルウェインがどれほどシミュレーションを繰り返したとしても決して動かせなかったこの物体が、彼女の手が触れた瞬間、まるで主を見つけたかのように自然に彼女の腕の中に収まった。
まるで生きているかのような、温かい感触があった。
『今、ベオルド様が結界を解除してくれたら、これを地面に置き、アセラスを浄化すればいい。』
しかし、もしベオルドが時間内に到着しなかったら?
『いや、来るはず。』
ダリアは唇を引き結び、会談場の正門を見た。
誰かが階段を急いで駆け上がっていた。
まばゆい銀色の髪を持つ男だった。
「お兄様!」
彼はダリアの声を聞くやいなや、二倍の速さで残りの階段を駆け上がり、会談場の中へと飛び込んできた。
「ダリア!」
彼は急いで彼女の体をくまなく調べた。
そして、彼女に傷一つないことを確認すると、安堵の息をつきながら彼女をそっと離した。
「心配した。お前に何かあったんじゃないかと……」
彼は消えた空間の痕跡を見て、目を細めた。
そして、その正体不明の空間からダリアを守るように自分の背をそちらへと向けた。
「これは一体、どういうことだ?」
揺るぎない青い瞳を見た瞬間、ダリアの目には自然と涙がにじんだ。
ずっと抑えてきたものが、今にも溢れそうだった。
彼女は彼の首にしがみつき、大声で泣き始めた。
ヒーカンは、彼女が楽なように片膝をついた。
そして、急かすことなく、ただ静かに彼女を抱きしめていた。
彼は静かに彼女の背中を優しく叩いた。
ダリアは長く泣かなかった。
泣いている時間もなかった。
少し冷静になったところで、ヒーカンはダリアの腕の中にある日記帳をじっと見下ろした。
あまり気に入らないという表情で。
「……本当にこれでうまくいくのか?」
「……っ。」
「うまくいく。絶対に。」
ヒーカンは言い直して、断言するように言った。
しかし、ダリアは彼の服の裾をきつく握りしめたまま、言葉を続けた。
「もし、うまくいかなかったらどうします?」
「………」
「セドリック様がまた魔法を使って、死ぬのを見守らなければならないのですか?」
ヒーカンは答えなかった。
代わりに、彼女の灰色の髪をそっと撫でながら、やさしくかき乱した。
そう言われたダリアは、彼もまた自分と同じように不安なのだと気づいた。
彼女は小さく謝った。
「ごめんなさい。」
「俺は平気だ。彼がどうなろうと、ただお前が傷つくのが嫌なだけだ。心配しているのは、お前が傷つくことだ。」
彼女は短く頷いた。
「ありがとう。」
「ダリア、いつだってお前が最優先だ。」
何気ないようでありながら、優しい言葉。
ダリアはようやく涙を完全に止めた。
彼女は涙を拭き、ヒーカンの体からゆっくりと離れた。
「……私に、成功できるかわかりません。でも、頑張ります。」
「そうだな。」
ヒーカンは片膝をついたまま、そっとダリアの頬に手を伸ばし、涙の跡を拭った。
だが、何か違和感を感じたのか、彼は目を細めて回廊の窓の外を見下ろした。
「……待っていた人は、誰だったか?」
「ベオルド様です。」
「ちょうど時間通りに来たようだな。」
そう言うと、王宮の正門を通る影が見えた。
その人物は、金色の短い髪にルビーのような瞳を持っていた。
馬に乗ったベオルドは手綱を引き、回廊の方向を見やった。
そして窓から外を覗き込むヒーカンと目が合った。
ヒーカンは周囲の魔力の波動を感じて驚いた。
彼は呆然と立っているダリアを素早く抱え、後ろへ飛び退いた。
ガシャン!
窓が砕け散った。
ベオルドが馬の上から直接、回廊へ飛び込んできたのだ。
ヒーカンがこちらに飛んできたガラスの破片を無造作に剣で払い除けたものの、そのやり方はあまりにも過激だった。
「ベオルド様!」
「……私情を捨てて急いで戻ってきたが、これは一体何の騒ぎだ?説明してくれ、小さなペステローズよ。」
ヒーカンの皮肉めいた言葉には何の反応もせず、ベオルドはポケットに手を突っ込んで、そわそわと指を動かした。
夜空を見上げ、短い金髪が微かに風に揺れた。
「……」
「急を要する事態だと思って来たが、大体片付いたようだな?」
彼女がダリアに近づいた。
そして襟を掴んで顔をあちこちと見回した後、ぽんっと手を離した。
「また何があったって泣いたの?」
ダリアは、自分がメルデンにきちんと説明していなかったことを悟った。
彼女は震える手で、セドリックが作り出した異空間の痕跡を覆った。
そして起こった出来事を簡単に話した。
ベオルドは腕を組んで話を聞いていたが、やがて溜め息をついた。
「……つまり、聖国の教皇が起こしたこの事件の責任をお前に押し付けるつもりだって?」
「そうじゃなくて……」
「いいよ。とにかく、あれを解除すれば終わるんだろ?」
ベオルドが勝手にそちらへ向かおうとした。
ダリアは彼の服の裾を掴んで止めた。
「ダメ、まだ解除しちゃいけません!」
「なぜ?」
「……首都全体をあなたのような人だけで支えることはできないからです、ベオルド様。」
その力のない声は、ダリアの背後から聞こえてきた。
彼女は驚いて振り返った。
気絶していたルウェインが、いつの間にか静かに起き上がり、こちらに歩いてきていた。
彼は疲れたように軽くこめかみを押さえた。
「念のため、結界を再構築する準備をしなければなりません。」
「……ルウェインさん、大丈夫ですか?」
「はい。皇帝陛下は?」
「ここにいるよ。」
皇帝も元の場所に戻っていた。
外で気持ちを整理したのか、今や昼は元の穏やかさを取り戻していた。
「私もいるわ。」
「公爵様!」
ダリアは口を覆い、低く悲鳴を上げた。
遅れて状況を整理したメアリー・ブルーポートもここに姿を現したのだ。
「何が起こったのか、何も分からないけれど……とにかく手伝えることがあれば手伝います。」
これで、全員が揃った。
ルウェインは周囲を見渡しながら、黙って襟を正した。
「この程度なら、セドリック皇太子殿下が十分に神聖力を消耗させたことで、一時的に暴走を抑えられるはずです。結界の範囲を狭めて再編成します。アセラスの神聖力が魔法陣の中心でダリア様に届かない程度の範囲に。」
ルウェインが空中に印を結んだ。
「じゃあ、もうこれを渡してもいいのか?」
ベオルドが、これ以上待てないというように苛立った様子で髪をかき乱し、透き通るようなため息をついた。
ルウェインは固くこぶしを握った。
「……わかった、それならやる。」
ベオルドはためらわずに、すぐにその異空間へ手を伸ばした。
皆が息を潜め、その様子を見守った。
ダリアも両手を固く握りしめた。
実のところ、ダリアもずっと不安だった。
しかし、不安だからといってどうにもならない。
世の中には、やらなければならないことがある。
逃げずに、立ち向かわなければならないことが。
その結果がどうなろうとも。
ダリアはセドリックを守ることを決心した。
今度こそ、誰も傷つかない未来へ進むために。
彼女は、懐の中の手帳をさらに強く握りしめた。







