こんにちは、ちゃむです。
「乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

172話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 最後の計画⑤
異空間が解かれ、アセラスが姿を現した瞬間、手帳を作動させるべき魔法陣の形状も確認された。
一瞬、緊張が解けたのか、めまいを感じた。
ふらつきそうになったところを、誰かが彼女の腕を掴んで支えた。
ヒーカンかと思い振り返ったが、違った。
彼女は、いつの間にか自分の背後に立っているルウェインに気づいた。
彼を見た瞬間、以前彼が言った言葉が脳裏に蘇った。
「ルウェインさん、以前私におっしゃいましたよね?みんなが幸せな未来なんて、自分の欲なのかもしれないって。」
「……ええ。そう言いました。」
「でも、それが欲になるわけがないですよね?」
ルウェインはかすかに顎を引き、静かに微笑んだ。
「ええ、ダリア嬢。」
「ルウェインさんがここにいてくれてよかったです。」
ダリアは明るく笑った。
ルウェインもそれにつられて笑った。
彼の笑顔は何度見ても、まだ見慣れなかった。
「もう ‘父上’ という呼び方にこだわる必要はないと思います。」
「……どうして?」
「呼び方だけでは伝わらない想いがあるからです。」
結局、気持ちは変わらないのだろう……
ダリアはそれ以上追及しないことにした。
ベオルドがちょうどその瞬間、セドリックの異空間があった場所を手でなぞったからだ。
空っぽだった空間の最も奥から、徐々に影が滲み出し始めた。
セドリックの異空間が崩れつつあった。
奥から再び光と影が少しずつ空間を侵食し、やがてその中にいた人々を元の位置へ戻していった。
「ベオルド様、お下がりください。結界を再形成いたします。」
ルウェインの声が響いた。
ベオルドはゆっくりと後ろに下がった。
ダリアが最初に見たのは、やはりセドリックだった。
彼は、押し寄せる頭痛のせいか、こめかみに手を当て、うずくまるように座っていた。
そして、非常に疲れた表情をしていた。
彼は振り返った。
その疲れ果てた視線がダリアに向けられると、一瞬にして輝きを取り戻した。
彼はゆっくりと魔法陣の中心に立つダリアの方へと歩み寄った。
彼女のすぐ目の前までたどり着いたその時、すでに魔力の消耗で限界に達していたセドリックの体がぐらりと揺れた。
驚いたダリアが反射的に彼を抱きとめた。
その瞬間、ダリアはまるで水のように自分の力がセドリックへと流れ込んでいくのを感じた。
まるで彼の限界を補うかのようだ。
アセラスの神聖力を抑え込むために過剰な魔力を消費してしまったのだろう。
耐えがたい頭痛に襲われ、彼は目を強く閉じた。
「……ダリア、本当にすまない。こんな時に……少しだけ休ませて。」
彼の膝が崩れ落ちた。
ダリアは倒れかけた彼を抱きかかえ、地面にそっと横たえた。
そして立ち上がろうとした瞬間、セドリックがダリアの手を掴んだ。
言葉を発する間もなく、彼は彼女の手を引き寄せ、その唇を奪った。
驚いたダリアの体がこわばった。
しかし、彼はさらに彼女の後ろ髪を優しく引き寄せ、彼女の額に自分の額を押し当てながら、そっと囁いた。
「こんな状況で言うことじゃないけど……もしすべてが崩壊して、永遠に生きることになったら、俺と一緒に生きよう。」
「………。」
「愛してる、ダリア。」
その言葉を最後に、セドリックの手が力なく床へと落ちた。
彼はそのまま意識を失った。
ダリアは倒れた彼をしばらくじっと見つめていた。
そしてついに最後の決意を固めた。
アセラスを浄化し、暴走を食い止め、すべてを終わらせなければならない。
彼女はそっと懐にしまっていた日記帳をしっかりと握りしめた。
彼女は振り返り、アセラスを見た。
床に倒れていたアセラスがゆっくりと体を起こした。
その姿は痛ましかった。
傷跡は無数に刻まれていたが、不思議とその体には一つの傷も残っていなかった。
髪もまた、治癒の力を受けたのか、かつての灰色が戻り、首元まで伸びていた。
暗闇に光る緑の瞳が、焦点のないまま、ゆっくりとダリアを見つめた。
「……ダリア・ペステローズ。」
乾いた声が唇からこぼれた。
(……待って、結界が完全に展開されているなら、声が聞こえるはずがないのに?)
ダリアは驚いて振り返った。
ルウェインは特に動揺した様子もなく、黙ってパンをかじっていた。
「結界の強度を少し下げました。最後に言いたいことがあれば、どうぞ。」
「………。」
「少しの間なら耐えられます。」
ダリアはゆっくりと振り返った。
アセラスの理性がほとんど残っていないことが、彼の揺れる視線から感じ取れた。
彼の目はダリアをじっと見つめていた。
震える手を伸ばしたが、結界の影響で届くことはなかった。
しかし、その目はダリアの心を揺さぶった。
彼は最後にこう言った。
「……俺があげた首飾りは……なくしたのか?」
「……それは、別の人にあげたわ。」
アセラスの唇がわずかに震えた。
「ダリア・ペステローズ、こっちへ来い。お前に話がある。」
「………。」
ダリアは結界の向こう側にいる彼をじっと見つめた。
近づくことはせず、ただ静かにパンをかじった。
そして、懐から日記帳を取り出した。
もう待つ理由はなかった。
アセラスはダリアが近づいてこないのを見て、歯を食いしばった。
彼は狂ったように口を動かした。
「ダリア、どうして俺を助けてくれなかった? 他の人たちにはそうしなかったじゃないか。通りすがりの子供にさえ微笑みかけていたのに、どうして俺だけ……?」
「………。」
「みんな幸せになったのに、俺だけがまだこの世界に取り残されている。お前が、お前が俺を救ってくれるべきだった。たった一度でも、たった一度でいいから……。」
彼の頭がゆっくりと床に傾いた。
ダリアに向けて伸ばした手が、力なく床を掻いた。
やがて彼の身体は震え始めた。
もはや破滅を迎えた魂は、進む道を失い、ただ死を待つのみだった。
──それでも、彼がまだ諦められないものがひとつだけあった。
「……。」
「聖国に帰ろう、ダリア。頼む。俺は……俺は……。お前がたった一言、俺に言ってくれれば、俺もこの呪縛から抜け出せる。俺も終わらせられる。このすべての苦しみを……。」
「………。」
ダリアは言葉を失い、彼を見下ろした。
最後の最後まで、彼はこうも自己中心的なのか?
ゆっくりと、しかし確実に怒りが湧き上がってきた。
心の奥底から、これまでずっと抑えていた感情が溢れ出した。
「もうその言葉は、あなたに言ったじゃない。」
「………。」
「あなたが信じなかっただけ。」
「………。」
「もう終わりよ。」
ダリアは、彼とアセラスが立っている回廊の床に、新たな無数の文字が刻まれているのを見た。
もう、進むべき道はひとつだけ。
彼女は胸に抱いた日記帳を開いた。
今、魔法陣の中心にこれを置けばすべてが終わる。
その後どうなるか、彼女にも分からなかった。
成功するのか、失敗するのか……。
「……本当に理解できない。」
ダリアは搾り出すように言った。
ずっと抑えてきたつもりだったが、声が震え、抑えきれずに溢れた。
「私が……私がどうしてあなたにそんなことをしなきゃいけないの?あなたは私に、何一つ返してくれたことなんてなかったじゃない。」
「………。」
「前ブルーポート公爵だって散々暴虐を振るったし、私も二度も殺されかけたし、今こうして私たちが平穏に暮らしているのに、あんたは突然押し入ってきて、王宮をめちゃくちゃにして、そして……。それでも私があなたを許して、救ってあげなきゃいけないって言うの?」
彼が何も答えられずにいると、ダリアの怒りはさらに膨れ上がった。
彼女は拳を固く握りしめた。
「……言い訳とか、運命とか、そんなのどうでもいい!あんたが引き起こしたこの混乱で、周りの人たちまで傷つけられたのよ!あんたのせいで私がどれだけ苦しんだか分かる? ただの沈黙で許されると思ってるの?」
声は次第に大きくなった。
ダリアは自分が泣きそうになっていることに気づいた。
彼女は知っていた。
この男一人のせいで、彼女がどれほど苦しんできたか、どれほど辛かったか。
最後の最後まで彼女を苦しめ、彼を憎むことすらさせず、大切な人々を奪っていった。
それなのに、彼はずっとダリアに助けを求め、彼女の心を乱し続ける。
それでも、これしか方法がないのだ。
「知らない! これがダメなら、もう世界なんて滅びればいい! いいわよ、ほんとに…… ねえ、ねえ、これすら通じないなら、本当に……!」
不思議なことに、涙が溢れた。
まだ泣ける感情が残っていることが意外だった。
魔法陣の中心は、彼女のすぐ目の前にあった。
彼女はありったけの力を込めて日記帳を持ち上げると、その場に強く押しつけた。
その瞬間、淡い光が日記帳を包んだように見えた。
だが、それが何を意味するか考える暇などなかった。
彼女はさらに力を込めて、日記帳を地面に叩きつけた。
瞬く間に光が爆発した。
目が開けられないほどの、凄まじい青白い光だった。
その光は、瞬時に周囲へと広がっていった。
「ダリア!」
背後からヒーカンが駆け寄り、彼女を抱きとめた。
それでも彼女は、決して日記帳を手放さなかった。
『これで、これでどうなるのか……』
ダリアは光の奔流の中で一瞬意識を失った。
再び目を開けたとき、床に刻まれた文字はすべて消え去っていた。
彼女は荒い息を整えながら、倒れ込んだアセラスを見つめた。
「……うっ……」
成功したのか、失敗したのか?
結果がどうなろうと、これで全てが終わる。
彼女は拳を握りしめ、床にぽたりぽたりと涙を落とした。
ヒーカンは彼女の手が傷つかないよう、両手を包み込むようにして抱きしめた。
皇帝が近づき、アセラスの脈を確かめた。
「……そうか。」
「………」
「これで終わったな。」
何とも言えない、虚しい結末だった。
だが、それがすべての終わりだった。
ダリアは、ただ呆然とするしかなかった。








