こんにちは、ちゃむです。
「乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

189話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- やり直し
深夜の邸宅の一角。
使用人たちも皆退勤し、静まり返っていた。
ダリアとアドリシャは小さな灯火の前で向かい合った。
二人の唇にいたずらな笑みが広がる。
「ダリア、おめでとうございます。ついに成功しましたね。」
「うん。失くしたかと思ったけど、見つけたのは奇跡みたいだったよ。」
二人は笑いながら、目の前のクッキーの山を見下ろした。
ずっと昔、アドリシャを幼い子供に変えた魔法の粉末。
少し前に本棚を整理していたダリアが、それを偶然見つけたのだ。
『これさえあれば、誰でも子供にできるんでしょ?』
ダリアの目がキラキラと輝いた。
もちろん、興奮しているのは彼女だけだった。
アドリシャはただ、ダリアを手伝うために来ただけなのに……。
ダリアは他の男性主人公候補たちとぎこちなくなり、彼らには全く関心がなくなったかのように、残りの言葉さえ小さくなった。
「ありがとう、アドリシャ。」
「いいえ。一緒にクッキーを作るのはとても楽しかったです。」
アドリシャは燃え上がる焚き火の下で眩しく笑った。
まるで昼間になったかのように彼女の目が輝いた。
いくら時が過ぎても、どうしてこんなに完璧な天使のように見えるのだろう?
ダリアは信じられなかった。
アドリシャはさらに明るく笑った。
ダリアはまだ知らない。
アドリシャが好んでいるのは、ただダリアの前にいるときだけだということを。
おかげで、アドリシャは以前メルドンが軽く話した「副作用」については触れずに済んだ。
「それも一応、有効期限があって、時間が少し経つとどう成分が変化するか分からないのよね。まあ、魔力が強くないから大事にはならないと思うけど。」
そう言いながら、メルドンは肩をすくめた。
アドリシャは穏やかに微笑みながらも、内心の感情を隠した。
他の人々がどうなろうと、彼女には関係のないことだった。
「まず、お兄様に先にお渡ししなきゃ。」
ダリアは綺麗な箱にクッキーを詰めながらそう言った。
そして翌日。
「クッキー?」
「はい、美味しいはずですよ。」
ヒーカンは、ダリアが持ってきた色とりどりのリボンできれいに包装されたクッキーの箱を見つめた。
この気分を説明するなら、まるで世界を救った勇者になったかのようでありながら、同時に、教科書を破り窓から投げ捨てたいような気分だった。
しかし、そんな態度を露骨に見せることは、彼のプライドが許さなかった。
そこで彼は、黙って箱を開けた。
中には、部屋のクッキー型で押し出されたような人形型のクッキーが、ぎっしりと詰められていた。
目や鼻、口まで描かれていた。まるで手書きのようだった。
ヒーカンは、何とも言えない気持ちで、その自由奔放な異形のクッキーを見つめていた。
そして、無意識に舌打ちをしそうになりながら、視線をダリアへと移した。
「一緒に食べよう。」
「あっ、私は大丈夫です!アドリシャと遊ぶ約束があるので。」
ダリアは、自分の言葉に驚いたように困惑した表情を浮かべ、しどろもどろになったかと思うと、パッと笑った。
そしてヒーカンがさらに彼女の手を掴み、何も言わずに慌ただしく執務室を後にした。
普通の人なら、何か違和感を覚えたはず。
だが、ヒーカンは今、理性が働いていなかった。
だから何も考えず、ダリアがくれたクッキーを静かに口に運んだ。
気づけば、眠気が急に襲ってきた。
彼は、まばたきを繰り返しながら、ソファにもたれかかると、静かに目を閉じた。
・
・
・
ヒーカンは、言葉を失うほど響く、床を踏み鳴らす足音に目を覚ました。
何かが明らかにおかしいと感じた瞬間だった。
確かにソファで目を閉じたはずなのに、目を開けると目の前には見慣れない執事が立っていた。
どこか見覚えのある顔だったが、なぜか彼は座らずに直立していた。
その姿に違和感を覚えたヒーカンは、思わず眉をひそめ、その執事を見上げた。
その視線に執事は震えたように小さく身をすくめた。
「ひっ、目覚められましたか、坊ちゃま!」
「……坊ちゃま?」
聞き慣れない呼び名だった。
まるで知らない人間にされてしまったような気分だった。
すると、執事は死罪を言い渡されたかのように慌てふためいた。
「申し訳ございません!公爵様に私はなんという失言を……!」
‘公爵?’
奇妙な響きだった。
ヒーカンは相変わらず状況を理解できないまま、混乱する執事に向かって手を差し出した。
「鏡はあるか?」
「え?か、鏡…… ございます!」
執事は衣服の中を探り、小さな青銅の鏡を取り出して彼に手渡した。
ヒーカンは自分の顔を確認した。
「……これは。」
目に映ったのは見覚えのある顔だった。
12、3歳くらいだろうか?
彼はようやく、この執事を思い出した。
昔、遠縁の家にいた頃、彼の世話をしてくれた執事だった。
父が亡くなった後、実家に戻ったことで自然と離れてしまったが……。
最後に彼を見た記憶をたどると、ヒーカンはまるで頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
「こんな馬鹿なことが……。今、私たちはどこへ向かっている?」
「本家の邸宅へ向かっています。ペステローズ公爵様がお亡くなりになりましたので、これから坊ちゃま…… いえ、正式な後継者として、公爵の座を継がれなければなりません。」
「……。」
そうなると、そこで出会うことになる人々の中に……彼をまったく知らない12歳のダリアがいることになる。
ヒーカンは頭を抱えた。
何が起きたのか分からないが、ヒーカン・ペステローズは過去に戻ってしまった。
それも、彼が最も後悔していた時代へ。
ひたすら走り続けるかのように進んでいた馬車が、ペステローズ邸の前で止まった。
ヒーカンは馬車から降りようとせず、しばらく戸惑っていた。見慣れない光景に驚いたわけではない。
ほんの数時間前まで、彼はここにいたのだから。
彼にとって唯一の家族だったダリアと共に、この屋敷で5年間を過ごした。
彼の人生で最も幸せだった時間だった。
しかし、再びこの場所に戻ってくると、呼吸が詰まりそうになった。
それは、後悔のせいだった。
執事は戸惑った表情で彼を見つめたが、何も言わずに馬車の扉を開けた。
ヒーカンは足を踏み出すしかなかった。
この時代の彼は、自らをペステローズ家の後継者として確立させるために、家門に忠誠を誓う道を選んだ。
そして、それは同時に「正常」な弟を選ぶ という決断でもあった。
つまり、彼はダリアをも手放そうとしていたのだ。
あの幼い子に「もうお前を守る者はいない」そう伝えるために、今まさに彼女の元へ向かおうとしていた……。
なぜそうしたのか?
遅すぎる後悔が、彼の心を揺さぶった。
しかし、彼の足はいつの間にか弟の部屋へと向かっていた。
妹の部屋の前で、顔をこわばらせた執事が彼を引き止めた。
「お、お若い方です。心の準備もできておらず、どうか……」
ヒーカンは執事を冷たく見つめた。
そして次の瞬間、彼は執事を力強く押しのけ、部屋へと踏み込んだ。
そして、ダリアに言った。
「父上は死んだ。この家で、お前の味方は誰もいない。」
彼は複雑な感情に飲み込まれ、しばし言葉を失った。
しかし、次の瞬間、深く息を吸い込んで口を開いた。
「……わかった。」
「え……?」
「言いたいことは理解した。だからどいてくれ。俺の妹に会わなければならない。」
執事は目を丸くして混乱した様子だった。
しかし、彼を止める理由も見つからず、慎重に横へと身を引いた。
ヒーカンは迷うことなく扉を開けた。
床に座り込んだまま、宿題をしていた12歳のダリアが、驚いて顔を上げた。
ヒーカンは彼女を見つめた。
記憶よりも短い髪、幼い顔。
そして、成長が遅く、痩せた体。
周囲がどうなろうと関心がないかのような、無表情なまなざし。
これまで気づかなかったことが、ようやく目に入った。
彼女は愛され、幸せに育った子どもではなく、母を亡くして以来、一族の中で放置されていた子どもだったのだ。
ダリアが12歳くらいのころだっただろうか?
ヒーカンは一度、そのことを考えたことがあった。
この年になれば、家庭教師もつき、友人もできるものだ。
それなのに、なぜ彼女には友達の一人もいなかったのか?
なぜ、同情心の強いメアリー・ブルーポートが彼女のそばにいることを申し出たのか?
その理由が一つ一つ理解できるようになるにつれ、胸が締め付けられるほど、彼の心は痛んだ。
ダリアは課題を片付け、席についた。
彼女の瞳に宿る悩みの影が、すっと消えたのがわかった。
そして、過去と同じように、彼女はヒーカンに食べかけのパンを押し出した。
視線をそらしながら、転がるように目を動かし、やがて微笑み、ためらいがちに問いかける。
「お兄さま……?」
ヒーカンは、その小さな少女の前に片膝をついた。
そして、静かに口を開いた。
「ダリア・ペステローズ。」
予想外に優しい声に驚いたのか、彼女は大きく目を見開いた。
ヒーカンはそっと彼女の肩に手を置き、じっと見つめた。
何を言っても無意味な気がした。
言葉が頭の中で混ざり合う。
しかし、彼は動揺を隠し、静かに語った。
「俺はヒーカン・ペステローズだ。事情があって、これまで会えなかったお前の兄だ。」
「………」
ダリアは驚きのあまり、目を瞬いた。
ヒーカンは乾いた唇を噛みしめた後、言葉を続けた。
「お前は……俺の妹だ。これから何があっても、俺が必ず守る。」
彼はふと思った。
もしかすると、この言葉を伝えるためにこの時間に戻ってきたのかもしれない、と。
ダリアはしばらく驚いた表情を浮かべていたが、やがて、微笑むと彼の胸に飛び込んだ。
その腕の中で、小さく震えながら──。
彼は再び心が痛んだ。
抱きしめた彼女が、思ったよりも小さく感じられたから。
彼の胸の中のダリアが、聞こえるか聞こえないかほどの声で小さくつぶやいた。
「はい、お兄さま。」







