乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する【１３９話】ネタバレ

同じ時刻、ある伯爵家のタウンハウス。

タウンハウスのオーナーと思われる男は、かなりいらだたしそうに爪をかじっていた。

20代後半の若い青年。

「あらまあ、ブルーポート公爵も首都に来た記念舞踏会をするの？」

「そ、そうだそうです」

「わあ、公爵夫人の暴走のせいで首都の雰囲気があまりにも荒れていて来ないと思ったのに」

「聞いたところによると、皇室の人々も来ると聞きました」

「ダービーを守るブルーポート公爵だから。みん適当な礼遇はしてくれるつもりみたいだ」

一見普通に見える会話だったが、男の表情はよくなかった。

彼は振り向いてタウンハウスの執事を見る。

「だったら、ダリア・ペステローズも来るだろうね？」

「たぶんそうでしょう」

「はあ・・・仕事が多すぎる。今回はアルゲルとケルシオンまで処理しなければならないのに」

「・・・」

彼は神聖帝国がフレデリック帝国に密かに隠しておいたカードの一つ。

今まで何の活動もせずただフレデリック帝国に忠実だったので、彼の不正を疑う者は誰もいなかった。

それだけ大切にしておいたカードであり、本当に必要な状況でなければ最後まで使わない人物でもある。

しかし、今回は彼も命令を受けた。

元法王の聖下と別の信徒が彼を訪ねてきたのだ。

今度の法王に直接会ったのは初めてだったので、彼はやや感激した。

しかも、今回の法王は、まさに法王権を無所不為の境地にした偉大な人物。

貴族院が今度の法王の手中に入った今、牽制する勢力が消えた法王の狂信者たちはますます勢いに乗った。

彼らは神の名の下、神聖帝国で何をしても容認された。

彼らにはそのような権力を握らせた現法王が神であり、彼の言葉は聖殿だった。

それ以外の何物も重要ではない。

ただ、法王と一緒に来た他の信徒からは、なぜか分からない妙な気流が感じられた。

彼は何か不満そうな顔をしていた。

甚だしくは自分が前にいるにもかかわらず、露骨な不満を表現した。

「猊下、私には理解できません」

「反論は受け付けません」

「ただダリア・ペステローズを強制的に連れて来たらできることではないですか？四肢の一つを切れば、あの女も」

「今、神の言葉に不服しているのですか？＂

法王の声が鋭くなる。

その時になって、他の信徒は口を閉じて目を伏せた。

「あなたはあまりにも不遜です」

そう冷静に言った後も、失望した様子の青年に向かって微笑んだ。

内心では彼は城下の慈悲心に感心した。

「その代わり、ケルシオンとアルゲルは自分で探して殺してもいいです」

その時になってようやく青年の口元に笑みが浮かんだ。

そのように二人の話が整理され、猊下が自分に下した命令は2つ。

一つ目は。

「聖国を裏切った人々に代価を払わせなさい」

これまでは受け入れることができた。

彼も神聖帝国の人で、裏切り者はどうしても処理してしまわなければならないという考えだったからだ。

しかし、二つ目は。

「ダリア・ペステローズにこれを」

彼が受け取ったのは、ひもがヘラのような形をした半固形の物体。

なぜ与えるのか、どのように伝えろというのか、何も言わなかった。

しかし、内部からほのかな声力が感じられた。

（何か考えがあるのでしょう）

自分はただ従うだけでよい。

少女一人に近づくのは、そんなに難しいことでもないし

（とりあえずケルシオンから殺してしまおう）

彼も最近、皇帝のそばで長年の忠臣のふりをしあるケルシオンが気になりすぎた。

前もって準備しておいて、今度の舞踏会で一発で終えるつもりだ。

条約更新の日がいつの間にか3週間後に迫った。

アセラスがダービー・ガトラン条約締結のためにフレデリック帝国に正式に入国するまで残り少ない。

同時に、ルウェインの首都復帰記念舞踏会がすぐ明後日に迫った。

ほぼ同時期にペステローズ邸は思いがけない客を迎えた。

公爵家に突然訪れることができる身分の人は非常に限られている。

しかし、そのうち誰も今のようにダリアとヒーカンを当惑させた人はいなかった。

ダリアは知らせを聞いて応接室にあたふたと降りてきた。

ヒーカンはもう着いていたのに、本当にこの世で一番ここにいたくない人のような表情をしている。

彼は到着したダリアを見て、爪ほど顔色が明るくなった。

「・・・ダリア」

しかし、ダリアはあまりにも驚き、当惑し、彼の切ない呼びかけにも関わらず、彼を見る気にもなれなかった。

ダリアはぼんやりと客を呼んだ。

「皇太子殿下？」

ヒーカンの向かいに座って気楽にダリアに手を振る人は、いつの間にか20歳になったレナードだった。

彼は喜んでダリアを見て微笑む

相変わらず美男子ではなかったが、背がはるかに高くてそばかすが薄くなった彼はなかなか見る価値があった。

「ああ、ダリア。久しぷりだね。本当に大きくなった」

「そ、そうですか？」

ダリアは少し気分が良くなる。

久しぶりに彼女を見るやいなや背が高くなったと言ってくれた人は今までレナードだけだったからだ。

だが、彼は20オになった今も初めて会った時と全く変わらず、依然として皇室がどのように転がっても関係なく自分の幸せを探して生きていくのに忙しかった。

一例として、彼は驚いたことに、依然としてアドリーシャに片思いしている。

実に偉大な執念だ。

ダリアは彼が次の大皇帝になった時、この帝国の未来を思ってちょっと気が遠くなった。

レナードはダリアが何を考えているのか知らずにヒーカンに手を振る。

「ああ、ヒーカン。もう行ってもいいよ。私はダリアと話したいことがあるから」

ヒーカンは後ろのダリアを見つめ、歯を食いしばって首を横に振った。

「・・・いいえ、ダリアと一緒にいます」

「まあ、好きにすればいい」

レナードはどうでもいいと言っていた。

ダリアがヒーカンの隣の席に座りながら、いぶかしげな表情で首をかしげた。

「私に何かお話があるんですって？」

「ねえ」

レナードは真剣な表情で膝をつかみ、上半身を前に傾ける。

「あなた、最近お父さんの隣にいるあの、ケルシオンという人間についてちょっと知っていることがあるの？」

「うん？はい？」

全く予想外の質問にダリアは首をかしげた。

レナードは手を振った。

「ああ、よく分からないみたいだね。それなら大丈夫」

「どうしたんですか？」

そう言ったらまた気になるんだけど。

「あ、それが・・・」

口の軽いレナードは聞くや否やさらさらと打ち明ける。

「それがね、私は実はあいつが前からちょっと気になっていたんだ。なんだか目つきもぼやけているのが人のようではないし。あなたも知ってるでしょ？」

ケルシオンが皇帝のそばにいたのも半年。

ダリアも彼のことを気にしていたのだから、レナードも当然そうだろう。

「ところが、父が彼がまだ隠していることがあるという話を盗み聞きしたんだ。最後まで何か言わないって」

「ああ・・・」

そんな話は聞いたことがなかった。

（やっぱり、洗脳では胸の中にあるすべての話を全部出すことはできないのかな？）

精神をすべて掌握された後も隠している秘密なら、どれほど巨大なことだろうか？

ダリアはしばらく悩んだ末、不思議なことに気づく。

ところで、なぜ今その話を自分に？

その疑問を読んだのか、レナードは言った。

「ただ、私の周りを見ると、みんなあなたに本音をよく話していたから。君が何か方法がないかな？」

「申し訳ありませんが、ありません」

（そんな単純な理由だったんだ）

やはりレナードに何かすごい理由や動力があると思ったのが度が過ぎた。

レナードも期待していなかったのか、肩をすくめる。

「そうなんだ。残念だな」

「・・・」

「最近、私が夜の散歩をよくするんだけど、同じ人がしきりにその部屋の前で行ったり来たりするんだ。私の父も父だけど、あの人も本当に苦労していると思って、訳もなく気になったよ」

「・・・今、何とおっしゃいましたか？」

隣で額を突いて聞いていたヒーカンが、その言葉に反応する。

レナードはどうしたのだろうというようにぼんやりと彼を見た。

「誰かがしきりにその前をうろうろすると。でも、最近は他にないよ。なんで？大変なの？」

「知り合いですか？」

「いや、たぶん、お父さんが招いた人じゃないかな？」

「・・・」

「・・・」

「その話をなぜ今になって・・・」

ヒーカンは今にも爆発しそうなほど震える。

「顔は見ましたか？」

レナードは彼の反応が理解できないか首をかしげて言った。

「いや、何かをかぶっていて。ところで、何か問題でもあるの？」

レナードはやはり、時が経ってもレナードだった。．

ダリアは彼の本当の力を心から実感する。