こんにちは、ちゃむです。
「乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

180話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 記憶喪失⑦
しばらくして、ダリアが過去の出来事を話し始めると、メルドンは腹を抱えて笑い、抱えていたクッションを投げつけた。
おかげで応接室は混乱状態に。
騒がしくなる室内で、ダリアはそっと息をついた——。
「二、二番目の恋人……!」
「皇太子殿下の二番目の恋人になられた気分はいかがですか、お嬢様?」
「……最悪です。」
「ああ、これは本当に歴史に残る出来事ですね。」
アドリシャは隣で口をぽかんと開けたまま、笑いをこらえていた。
彼女が呆然としながら袖口をぎゅっと握る前に、ダリアはそっと彼女の手を取った。
すると、アドリシャも両手で顔を覆いながら笑い出した。
唯一、ダリアだけが深刻だった。
彼女は考えるのを諦めた。
「もう……死にたい。」
「恋人が二人もいるのに?」
「お兄様、メルドンさんをどうにかしてもらえませんか?」
「……黙れ。」
ヒーカンが即座に言い放った。
彼は、ダリアがどういうわけかまたセドリックと関わることになったことに、かなり不満を抱いていた。
しかし、これは深刻な問題だ。
これほど長い時間が経ったのに、セドリックはまだ記憶を取り戻していない。
セドリックが記憶を失っても、再び彼女を好きになったのは確かに喜ばしいことだった。
しかし、もし記憶を取り戻せないのだとしたら……二人が共に過ごした時間や物語は、ただ彼女だけのものになってしまう。
どれだけセドリックがそばにいたとしても、それは寂しいことだった。
『それにしても、今のセドリック様は少しおかしい。』
ダリアは、以前のセドリックを思い出した。
彼は優雅に微笑みながら、冗談めいた口説きをして、彼女の目の前に顔を寄せてきた。
その姿が、目に浮かぶようだった。
しかし今のセドリックは、まるで自分の道を見失い、どうすればいいのか分からない子どものようだった。
彼は確かにダリアを愛していた。
けれども、ダリアは彼をかつての姿へと戻したかった。
何も失っていなかった、あの頃の彼に。
『でも、どうすれば……』
手を握ることも効果はなかった。
ただ時間が経つのを待ったが、記憶は戻らなかった。
もう、どんな方法を使えば彼が記憶を取り戻せるのかも分からなかった。
その時、ヒーカンの補佐官が急いで執務室へと飛び込んできた。
ダリアもよく知る人物だったが、これまでに見たことがないほど険しい表情をしていた。
補佐官がヒーカンに何かを耳打ちすると、彼の目が大きく見開かれた。
驚愕と、信じられないという気持ちが入り混じった表情だった。
補佐官の話を聞き終えると、彼は素早く軍服の外套を肩に羽織った。
「何があったのですか、お兄様?」
ヒーカンの表情は、ダリアを見て一瞬ためらったようだった。
この話をすべきかどうか迷っているような顔をしていた。
しかし、すぐに決意したように息を吐き、髪をかき上げながら言った。
「誰かがアセラスのいる監獄に毒を持ち込んだ。」
「……え?」
「治癒能力を持つ者でも耐えられないほど、体内を破壊し続ける毒だ。今のところ、余命はあと四時間も持たないらしい。」
「………」
「おそらく最後になるだろう。お前も一緒に来てもいい。もちろん、そうしなくても構わない。」
ダリアは迷わず答えた。
「一緒に行きます。」
彼の最期を見届けたいという思いだけではなかった。
最後にセドリックと共にいることで、彼がなぜ記憶を失ったのか、その手がかりを得られるかもしれないと考えていた。
少しばかり打算的な考えもあったのだ。
しかし、それ以上に、彼女が始めたこの物語がどのような結末を迎えるのかを見届けたかった。
彼は最後にダリアに向かって何を言うのだろうか?
・
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ヒーカンはアセラスが囚われている監獄の正門前でダリアを待たせた。
アセラスの様子があまりにひどければ、彼女には見せないつもりだったのだろう。
だが、それほどの状態ではなかったのか、しばらくすると彼は監獄の扉を開き、ダリアを中へと案内した。
牢獄の最も奥の部屋に囚われていた。
首には鎖が繋がれ、手のひらほどの小さな窓から格子越しに微かな陽光が差し込んでいた。
ベッドに横たわる人物の白い額に、閉じられた瞳が影を落としていた。
灰色の髪が額の上に乱れて広がっていた。
誰かがそれを整えてやったのか、髪の長さは本来の短さに戻っていた。
終わりなく内臓を蝕む毒だと言っていたから、相当な苦痛があるはずなのに、アセラスは微動だにせず、ただ目を閉じていた。
だが、生理的な現象だけは抑えられないのか、汗にまみれていた。
ヒーカンは万が一の事態に備えて、壁際に寄りかかるようにして二人を見守っていた。
そのとき、アセラスの唇がわずかに動いた。
「ダリア・フェステロース?」
「……うん、そうよ。どうしてこうなったの?」
「彼は……私のせいで家族を失ったそうだ。それなのに、こうして親切に訪れて、私の残りの寿命を告げてくれるとはね……知らないふりをするわけにはいかなかった。」
「……。」
「私の罪だから、私が償わなければならない。むしろ幸いだと思っていた。死をもって贖罪するのが一番の方法じゃないか。」
アセラスは依然として目を閉じたまま、しばらく口を閉じていたが、再びゆっくりと口を開いた。
「でも、どんな罪も死んだところで清算されるわけじゃない。あまりにも多くの人が死んでしまった。」
「後悔してる?」
「君が私の魂を浄化してくれたおかげで、やっと理性が戻ったんだ。だから、君を責めるつもりはない。むしろ、今こうして気づけたことが幸運だったと思う。」
アセラスは言葉では冷静を装っていたが、その声には罪の意識が深く刻まれていた。
すべてを悟った彼にとって、残された人生が苦しいものになるかどうかも分からない。
だからこそ、本当に死を喜んで受け入れようとしているように見えた。
「君に伝えたいことがある。もし許してくれるなら、話したい。」
「……話して。」
「セドリックは、私の神聖力のせいで記憶を失ったんだ。魔力に神聖力が毒のように作用するから、身体は防御したけれど魂までは守れなかったんだろう。だから、一番大切な記憶を一時的に封じてしまい、その衝撃で忘れてしまったんだ。」
「……それで?」
「彼の記憶を取り戻したいなら、一つだけ方法がある。俺のせいでこんなことになったんだから、教えてやるよ。ただ、ちょっと面倒な方法だけどな……近くに来い。」
アセラスは目を開け、横たわったまま上体を起こした。
それだけでも苦痛なのか、彼の表情には疲労が滲んでいた。
ダリアはヒーカンを見た。
彼は何とも言えない表情でアセラスを見つめていた。
「無茶は許さない。」
「分かってる。安全な距離は保つさ。どうせ俺の力じゃ誰かを傷つけることなんてできないって知ってるだろ?」
アセラスは淡々とした口調でそう言い、ダリアに向かって手を差し出した。
「二歩、近づけ。」
ダリアは少し戸惑いながらも、彼の言葉通り二歩近づいた。
それでもまだ距離はあった。
その程度の距離で満足したのか、アセラスは口元を手で覆い、ダリアにだけ聞こえるように低く囁いた。
「他者の記憶は、肉体と心が共に共有する。つまり、身体的な接触を通じて、ある程度は記憶を呼び覚ますことができるってことだ。」
「………」
「馬鹿げたおとぎ話みたいで恥ずかしいけど、お前が彼にキスをしろ。彼が再びお前を愛すれば、自然に記憶が戻るはずだ。」
アセラスは自嘲するように小さく笑った。
そして、再びダリアに手を振って退くように促した。
その後、彼はお腹に手を当て、再び横になった。
少し動いただけでも、彼はより疲れてしまったようだった。
虹彩の色も、さっきまでよりも鮮やかな光から鈍い暗色へと変わっていた。
「もう行っていい。これが知りたくて来たんだろ?」
ダリアは考え込んだ。
本当に自分はここに何をしに来たのだろう?
彼と、まだ話すべきことがあるのだろうか?
彼女には言いたいことがあった。
しかし、この言葉を今ここで口にするのが適切なのかは分からなかった。
彼女は結局、何も言わずに背を向けた。
もうすぐ彼は死ぬ。
これで全ての話が終わる。
背後から、アセラスが静かに言葉をかけた。
「すまない、ダリア。俺が犯したすべての罪を……。」
「………」
「こんなことを言ったところで、許されるわけじゃないと分かってる。」
ダリアの心に小さな波紋が広がった。
本当は彼にこう言いたかった。
“あなたを助けられなくて、ごめんなさい” と。
それがダリア自身の罪ではなく、全てアセラス自身が招いた結果であると分かっていても。
でも、そう言えば少しは心の重みが軽くなる気がした。
だからこそ、それが適切な言葉かどうかは分からなかった。
しかし、今なら何を言うべきか、彼女には分かっていた。
ダリアは静かに、小さな声で言った。
「許すわ。」
「………」
「他の人に対する罪まで許せるわけじゃないけど、私に向けられたものだけは……。」
「ありがとう。」
アセラスは静かに言った。
彼は死の間際まで他の罪に囚われながら、最後の時間を過ごし、やがて息を引き取るだろう。
しかし、ダリアとアセラスの物語はこれで完全に終わった。
彼女はヒーカンとともに牢を後にした。







