残された余命を楽しんでいただけなのに

残された余命を楽しんでいただけなのに【64話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【残された余命を楽しんでいただけなのに】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。 ネタバレ満...

 




 

64話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 人間ビタミン

地震被害の復旧区域が一面に広がる現場。

「お方を見るたび、なんだか気持ちがとても良くなるって話だ。」

「彼女は――」

そこには「人間ビタミン」と呼ばれる少女がいた。

10代前半の令嬢だったが、その令嬢はいつも最善を尽くし、いつも明るく笑っていた。

毎日、汗だくになりながらも楽しそうにしており、それが作業現場に活力をもたらしていた。

「貴族だって?」

「事情が厳しいのに、どうやったらあんなに明るくなれるの?」

そんな中、イサベルは結構有名人になっていた。

ただ、イサベル本人はその事実をよく知らなかった。

ただ毎日、感謝と喜びでいっぱいで過ごしていた。

「今日も大変だった。」

全身がだるかった。

ビルロティアンの肉体を持っていなかったら、もう何度も倒れていたほどの作業量だ。

「えへへ、筋肉痛だ。」

今日は腰と腕をすごく使った。

イサベルは不思議な鼻歌を口ずさんだ。

「腰がズキズキするし、腕がうまく上がらないね。」

前世では想像すらできなかった新しい経験が彼女をいっぱいにした。

たくさん体を動かしたせいで腰が痛いだなんて。

重いものをたくさん持ったせいで腕が動かないだなんて。

こんなに幸せな痛みがあるなんて。

『私の魔法も結構役に立った!』

気分が良くなって、布団の中にすっぽりもぐりこんだ。

目だけ少し開けて天井を見上げた。

聞いてくれる人は誰もいなかったけれど、それでも自慢してみた。

「私、結構すごい人なんですよ。あっちこっちでも役に立つ人間って、こんなにいい気分なんだな。」

しばらく時間が経った後、席から立ち上がり窓の方へ歩いて行った。

午後9時、キムボルコリが窓に現れる時間だった。

『あれ?』

9時1分になってもキムボルコリは現れなかった。

『何かあったのかな?』

あのときに体が良くなってから、キムボルコリは毎日のようにイサベルの部屋に来ていた。

イサベルはキムボルコリを必ず抱きしめて寝るのが習慣になっていたので、キムボルコリがいないととても落ち着かなかった。

『何かあったんじゃないかな?』

9時30分。

10時00分。

どれだけ時間が過ぎてもキム・ボルコルは現れなかった。

『いや、大丈夫なはずだ。ボルコルは勇敢で強いから。私のそばにずっといてくれるって約束してくれたじゃない。ボルコルは約束をちゃんと守る子だ。』

そして考えてみれば、9時に必ず来るなんて約束は一度もしていなかった。

ただ今日は遅れているわけじゃない。

夜が更け、夜明けが過ぎ、朝が来た。

朝7時になるとビアトンがイサベルの部屋のドアをノックした。

ビアトンはイサベルの顔を見た瞬間、彼女の状態に気づいた。

「眠れなかったのですか?」

「……はい。」

イサベルは何も言わなかったが、ビアトンにはすべてがわかっていた。

「キムボルコリが横にいなかったのを見ましたか?」

「……はい。何かあったんでしょうか?とてもとても心配です。」

ビアトンはにっこり笑った。

「私はキムボルコリのような勇敢なものを見たことがありません。」

ビアトンはイサベルが大きな不安を感じていることをすぐに理解した。

イサベルの頭の上に手を置いた。

大きくて温かい手がイサベルの頭を撫で、その手から生まれた温かいマナがイサベルの体を温かく包み込んだ。

「心配しないでください。もし今夜も見つからなければ、私が探しに行きます。」

「先生がですか?」

「ええ、今休暇中で遊んでいるんですよ。」

「え?先生、休暇中だったんですか?」

イサベルも初めて聞く事実だった。

イサベルは自分を補佐する役割だけに配置されたのだと思っていた。

「休暇中なのにどうしてここにいらっしゃるんですか?」

「休暇中だからここにいるんですよ?」

他の人にイサベルを任せられなかったビアトンは、休暇中でもイサベルについてきていた。

「休暇地のようなところでゆっくり休まないといけないでしょう。」

「皇女様がいらっしゃるところが休養地ですよ。」

「い、言葉はとてもありがたいですが……。」

休暇中のビアトンにラーちゃんを探してくれと頼むのは、あまりにも図々しいことだとイサベルは思った。

そんなイサベルを見て、ビアトンはこっそりため息をついた。

『やっぱり子供っぽいな。』

イサベルはまた大人たちの事情に巻き込まれていた。

ビアトンは、イサベルがあまりにも早く大人びてしまったようで、少し寂しく感じていた。

人生を走るスピードが、他の人よりもずっと早いように感じられたからだ。

彼は静かに、しかし愉快に言った。

「わあ、蜂蜜の声を探す遊び、めちゃくちゃ面白そう。絶対見つけ出さなきゃ。ふふ。」

ところが、ビアトンはキムボルコリを探す必要がなくなった。

誰かがキムボルコリの首根っこをつかんでいたからだ。

騒がしい作業現場。

ビアトンは剣を手にしたまま、一人の女性に近づいていった。

ビアトンの表情はとても真剣だった。

「その子を離すほうがいいと思います。」

「はい、大公。」

北部大公ロベナ。

皇帝ロンと剣で対等に渡り合える唯一の魔剣士であり、ビアトンの師匠である彼女が、10年ぶりに姿を現した。

ロベナとビアトンは互いに向き合って立った。

ボランティアたちはその二人をぐるりと囲んだ。

「今、あれってどういう状況?」

「よくわからない。」

よくわからないが、ただならぬ気配が感じられた。

ビアトンとロベナ級の剣士たちは非常に稀で、一般市民が彼らのような武人に出会う機会はめったにない。

「これが剣士たちの気迫?」

皆、息を呑んだ。

誰かに押されたわけでもないのに、じわじわと後ずさりした。

「話には聞いてたけど、こんなのが本当にあるとは思わなかった。」

「そ、そうだよな。」

ただ立っているだけなのに、無視され、冷たくあしらわれるような気分がした。

目の前に抗うことのできない大きな力が迫ってきているようだった。

「戦うのか?」

「まさか本当に戦うの?」

ロベナが小さく笑った。

「久しぶりだな、弟子よ。」

魔法で顔を変えていたにも関わらず、ロベナはビアトンの顔を正確に読み取った。

「ビアトン」という名前が出るやいなや、人々はざわめき始めた。

「ビ、ビアトンだって?」

「帝国首席補佐官ビアトン卿?」

帝国内で十本の指に入る偉大な剣士の姿が現れた。

最初のざわめきと恐れは、やがて驚嘆に変わった。

「でもビアトン卿にタメ口をきいているあの女性は誰だ?」

「ちょ、ちょっと待って。」

誰かがロベナの顔を認識した。

青白く冷たい氷を思わせる髪と、獣のような青い瞳。

ビアトンにタメ口をきけるほど高い地位にある者。

そして、体が震えるほどの強烈な寒気をまとう女性。

「ま、まさか!」

ビアトンは顔をしかめた。

「ハチミツアナグマを解放したほうが良いとお話ししました、師匠。」

北部大公ロベナは大陸北部、エルベ山脈の上を飛び回る天空の島々を治める大公だった。

天空の島は帝国領とはいえ、中立国に近かった。

500年前、初代皇帝と盟約を結び、初代大公が誕生し、その歴史は500年間続いてきた。

だが、北部大公ロベナが10年前、姿を消した後、交流は断たれ、再び途絶えてしまった。

「嫌だと言ったら?」

ロベナは腕をまくり上げた。

腕にはハチミツアナグマの歯型の傷痕が残っていた。

「噛まれたのよ。」

その瞬間、冷たい風が吹き抜けた。

壁のあちこちに霜が張り付くほど冷たい風。

その冷風に、ロベナ大公の髪がふわりと揺れた。

「ビアトン。10年間で実力がずいぶん伸びたみたいね?10年前、私に手を出したら死ぬって警告したのを忘れたようね。」

「もう一度言います。そのハチミツアナグマを放してください。」

ロベナの目が細められ、鋭い光を放った。

『面白いわね。』

彼女が見るビアトンは、非常に政治的で計算高い子だった。

一見無邪気で気楽そうに見えるが、実際はすべてのことを綿密に計算して行動する子。

でも今日の彼は少し違った。

『ビアトンがこれほどまでに大きな感情の揺れを見せるなんて。』

彼女が覚えているビアトンなら、あんな反応は見せないはずだ。

ビアトンなら本来、こう反応しなければならなかった。

「500ルーデン差し上げますので、見逃してください。ふふ。え?嫌だって?それなら600ルーデン差し上げます。それ以上は無理です。腹を決めてください。」

こんな風に、まともじゃない取引を持ちかけたはずなのに、今のビアトンは違った。

10年前、ビアトンを死の淵に追い詰めたことがあった。

その時もビアトンは、にこにこと笑っていた。

「死の恐怖よりも、アロンがどうなるかがもっと怖いってこと?」

ロベナは自分の手に持っているジョーカーを見つめた。

彼らの勇敢な子供は何も見分けもせずに無謀に突っ込んできたので、どうしようもなくたじろいだ。

「まあね。しゃべれない動物に何の罪があるっていうの?」

「……。」

ロベナは少し疑わしげにした。

このタイミングでまた突っ込んでこなきゃいけないのに。

『そうね、罪はないわ。やはり師匠のことを知っている人だから、ふふ。』

彼女の知っているビアトンと、今目の前のビアトンはずいぶん違っていた。

「この未熟者に主人がいるでしょう?」

そろそろゆっくり姿を現す時が来たのに。

もし私の計算が正確なら、あと約5秒後。

彼女は心の中で時間を数えた。

「5、4、3、2、1。」

そのとき、人々を押しのけて誰かが慌てた様子で駆け込んできた。

「ラーちゃん!」

ロベナがまたクスッと笑った。

「来たな、イサベル。」

 



 

最初に目に入ったのは、剣を持っているビアトン卿だった。

次に目に入ったのはある女性で、その女性の手には必死で握りしめられたラーちゃんが。

その女性からはとても強い気迫が感じられた。

あの堂々たるビアトン卿が、むしろ緊張している様子だった。

『落ち着こう、落ち着こう、落ち着こう。』

こういう状況はとても危険だった。

私の肉体が理性の統制を抜け出し、一度暴走したら制御できない。

私は今もあの女性に飛びかかってわんわん泣きたい衝動を必死に抑えていた。

『落ち着け、落ち着け、落ち着け、お願い、イサベル。』

幸い、衝動を抑えるのはとても長い間練習してきた。

前世でもそうだったし、現世でもそうだ。

私は激しく鼓動する心臓を押さえ、状況をできるだけ理性的に見ようと努めた。

『青い髪と青い目の者。』

そしてさっき走ってきた時に「師匠」という言葉が聞こえた。

ビアトン卿が師匠と呼ぶ人は作品の中でのたった一つの役割だった。

「ロベナ大公に隙はない。」

ロベナは作品の中で特に重要な役割を持っていなかった。

後半のシーンでは、南主アロンと新たな盟約を結び、しれっと去っていく役割の助演だった。

私はロベナ大公についての情報をできる限り早く思い出した。

『冷徹で冷静な性格。誰かに情をかけることは珍しい。情をかけた人間は、ビアトン卿ただ一人。作品内で姿を見せたことはほとんどない。』

ビアトン卿が私を後ろにかばってくれた。

「後ろに下がってください。危険かもしれません。」

ビアトン卿の手つきは相変わらず丁寧だったが、いつもより少しだけ荒っぽく感じた。

それはつまり、ビアトン卿も緊張しているという意味だ。

ロベナ大公が言った。

「お前がこの騒ぎの主人か?」

ビアトン卿が素早く言った。

「答えないでください。」

理由は簡単に推測できた。

ラーちゃんが大公の手首を噛んだようなもので、その責任を主人に問おうとしているのだった。

歯には歯、目には目。

恨みは10倍で返し、恩は100倍で返すのがロベナ大公の信条だったからだ。

「違います、ビアトン卿。」

私は重たい足取りを動かした。気分がそうなのではなく、本当に足が全然動かなくなったのだ。

『足がなんでこんなに重いの?』

まるで誰かがものすごく重たいおもりを私の足首にくくりつけたようだった。

しかしながら、必死に足を前に出した。

「私はビロティアンの皇女であり、この子は私が直接名付けた子です。」

人々のざわめきが聞こえてきたが、何を言っているのかはひとつも理解できなかった。

私にとって大事なことは、ラーちゃんを無事に連れて戻ること。

「だから私はビアトン卿の背後に隠れません。この子の名前はラーちゃんであり、私が名付けたのです。もし間違いがあるなら、私が謝ります。」

ロベナ大公が口元を押さえ、笑みを浮かべた。

視線がひんやりと冷たくなり、私は思わず目をそらした。

『違う、違うんだ。』

怖いからといって逃げてはいけない。

私は勇気を出して、再びロベナ大公の目を見た。

『う、だめだ。』

やはり見えなかった。

普通の人ならともかく、私はマナを感知できる魔法使いだったので、ロベナ大公のあの強大な気配がむしろよく感じられた。

「言葉だけで謝ってすべてが解決するなら、この世はもう少し美しかっただろうな、姫君。」

「すみません。」

私はもう一歩勇気を出して前に進んだ。

ビアトン卿が私を守ろうと手を伸ばしたが、私はその手を慎重に振り払った。

「謝るというなら?私がこの小動物を傷つけない条件で、姫君は私に何をしてくれる?」

「ちゃんと許しを乞うのなら、ラーちゃんを返してくれますか?」

「それはあなたが決めることだ。」

私はしばらく考えた。

実は、答えはもう決まっていた。

この世界では、正当な理由もなく人を襲った動物は殺される。

だから大公がラーちゃんを殺すと言っても、私は反論できなかった。

私はラーちゃんの命の価値を代価として差し出さなければならなかった。

「命の価値は命で償うのが正しいと学びました。」

「皇女様!」とビアトン卿が叫んだが、私は話を続けた。

「私の最後の1年を、大公に捧げます。」

「皇女の1年?どういう意味です?」

私は手首をまくり、ナルビダルの印章を見せた。

「神殿に行けば、ナルビダルの印章を持つ者の寿命を神聖力で奪えると聞きました。」

普通の人には不可能な術式だ。

ただし『ナルビダルの刻印』を持つ者にのみ適用可能だった。

『ナルビダルの刻印』を持つ者は寿命が正確に定められており、その寿命は『羊毛』として名付けられているのだから。

「まだ落ちていない羊毛を抜き取れるそうです。そうすれば奇跡を起こす力が生まれるんだとか。」

それが『ナルビダルの刻印』が呪いと呼ばれる正真正銘の理由だ。

私は皇女として生まれたからそんなことは滅多にないが、普通は『ナルビダルの刻印』を持って生まれればすぐさま人身売買の対象になる。

裕福な権力者階級の『奇跡』のための犠牲羊として消費され、捨てられるのだ。

それがナルビダルの刻印を持って生まれた者の運命。

だが、ロベナ大公は簡単に納得できない性格だった。

「たかが皇女の1年で、命を償えると思っているのか?もしかして、その1年が他の人々の1年より価値があると言いたいわけじゃないだろうな?」

「………」

私は一瞬、言葉を失った。

私は限られた時間を生きていて、私に与えられた時間は正確に21年だ。

平均的な人々よりもずっと短い寿命を持つのは事実だ。

だからといって、私の1年が他の人々の1年より大切だと言うのもまたおかしな話だった。

みんなにとって、時間は大切なものだから。

「5年。」

ロベナ大公は無表情のまま、髪の毛をくるくると指で巻いていた。

「あなたの5年を私にくれたら、この小さな獣を助けてあげるわ。どう?」

イサベルは少しの躊躇もなく答えた。

「はい。いいです。」

少なくとも見た目だけではイサベルはまったく怯んでいないように見えた。

だがロベナ大公の目には正確に見えていた。

『脚がプルプル震えてるじゃない。』

必死に平然を装おうとしていたが、震えが出ていた。

それが可愛くて笑いそうになったが、こらえた。

「5年だ。」

「わかりました、5年です。」

「じゃあ神殿に行こう。ここから一番近い神殿はどこだ?」

「でも、今は無理です。」

「なに?」

ロベナが不敵に笑った。その時、ひとしきり強い風が吹いてきた。

「儀式は破られないのが筋だろう、皇女。」

「儀式を破るつもりはありません。」

イサベルは恐ろしくて仕方なかったが、それでも唇をぎゅっと噛んで、何とか言葉を絞り出した。

「今は……。」

「なんだって?」

「今は奉仕中なので無理です。この場には制約が必要です。」

「どういう意味だ?」

イサベルにはまだやらなければならないことが残っていた。

「ヘクトルおじさんと約束したんです。毎日ドレアに魔法をかけるって言ったし、厨房のシベロン魔石の風が止まらないようにするって約束したんです。」

イサベルがいないと作業がひどく大変になる。

毎日のように厨房で汗だくになっているボランティアたちはさらに暑さに苦しむことになる。

「だから、私に少しだけ時間をください。約束は必ず守ります。」

「ふーん、私はあなたの何を信じて約束を守らなきゃいけないの?」

耐えきれなかったビアトンが叫んだ。

「師匠!それはやりすぎじゃないですか!」

「やりすぎだったらこのハチミツアナグマをとっくに殺してたでしょう?」

「……」

その言葉にビアトンが口をつぐんだ。

ロベナは密かに楽しんでいた。

「なるほど、その厳しい口を閉ざさせる方法があったのか。」

普段のビアトンは一言も発しない。

剣術や魔法など、武力で屈服させようとしても絶対に口を開こうとしなかった。

しかし今日は、ビアトンの反応がこれまでとは違っていた。

「弟子の弱点がイサベル皇女であることを知ったとは…なかなか興味深い。」

「師匠、それは……。」

イサベルが手を伸ばし、ビアトンの前に立ちはだかり、その言葉を止めた。

「先生。これは私が責任を負うべきことです。あの子の命を救うためには、私自身の命を差し出すのが当然です。今の私の立場は、助けを請う者であって、威張る立場ではありません。だから……だから、私に話させてください。」

「……お嬢様。」

ビアトンは拳をぎゅっと握った。

過去10年間、彼はものすごい成長を遂げてきたが、ロベナ大公の前に立った瞬間、それを痛感した。

彼は師匠の前ではまだまだ弱かった。

『俺はまだ、こんなにも弱いのか。』

かつて、自分は強くなったと思ったこともあった。

ロンやロベナなどの絶対者を除けば、敵と呼べる者もほとんどいなかったのも事実だ。

だからビアトンは、強さに対する渇望がほとんど消えかけていた。

『強くならなきゃ。』

もしもっと強ければ。

そうすればロベナと対峙して、あの怪物を討ち取って、ハチミツアナグマの命の代価を別の方法で支払うことができただろうに。

彼は唇を固く閉ざした。

『その間、あまりにも不安だった。』

ビアトンの心の中で、小さな炎が次第に大きく燃え上がり始めた。

その時、ロベナが再び尋ねた。

「何でその約束を証明できるの?」

「これを差し上げます。」

イサベルは懐に手を入れた。

懐には小さな空間袋があり、その中から氷の結晶のような小さな花冠を取り出した。

「それは何?」

「ラーちゃんと一緒に作った花冠です。私にとってはとても大切なものです。」

「それを約束の証として渡すのか?」

ロベナは思わず笑みがこみ上げてくるのを必死で抑えた。

『足がまだ震えているな。』

彼女の目はイサベルのすべてを観察していた。

龍眼は、すべてを直感的に見抜き、真実に近いものを感じ取る能力を持っていた。

『本当に大事に思っているじゃないか?』

あんなちっぽけな花冠ごときが。

どうしてあんなものをそこまで大切に思うのか、理由は分からなかった。

『理由は分からないが、悪い気分ではないな。』

そろそろ、ハチミツアナグマの姿をアロンが知る時が来た。

この状況をそろそろ片付けなければならない。

「よし、お前にとってとても大事なものだから、約束の証としてそれを預かろう。時間はどれくらいくれる?」

イサベルが周囲を見回し、誰かを探した。

人々の中に混じっていた一人の人物、作業班長のヘクトルを見つけた。

「作業班長さん、私がしばらくの間、作業を続けてもいいですか?」

「そ、そ、それは……」

ヘクトルの体が小さく震えた。

作業班長である彼が責任を負うには、この出来事はあまりにも大きすぎたのだ。

一言一言がとても慎重で、すぐには口を開けなかった。

正式に「皇女様」として認められた以上、イサベルは皇女として再び言った。

「ヘクトル。私がもっと働かなければいけないのかと聞いているのです。」

「本来なら1か月ほどかかる作業ですが、皇女様がお手伝いくだされば、5日、5日ほどで済むと思います!」

「ありがとう。」

イサベルはロベナの方を見た。

「5日。5日だけ猶予をください。」

「いいわ、そうしよう。」

ロベナは手に持っていたハチミツアナグマをぱっと投げた。

イサベルは地面に身を投げ出し、キムボルクを受け取った。

彼女の服はボロボロになり、膝や腕に擦り傷ができたが、そんなことは一切気にしなかった。

『よかった。本当に、よかった。』

キムボルクはただ眠っているようだった。

安らかに呼吸をしていた。

イサベルの目から赤い涙がぽろぽろとこぼれた。

キムボルクが無事であることが、今はただただ嬉しかった。

イサベルの涙が、キムボルコルの体にポタポタと落ちた。

その様子を見て、ビアトンは血が出ないように口元をきつく結び、ロベナ大公はぼんやりとした様子で見守った。

 



 

 

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