こんにちは、ちゃむです。
「継母だけど娘が可愛すぎる」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

382話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 記憶の色⑧
「……ランタナ?」
ブランシュの呼びかけでランタナはハッと我に返った。
心配そうな視線が目の前にあった。
その視線に、一瞬息が詰まった。
どうして?
その理由も分からないまま、ランタナは無意識にその場を逃げ出した。
背後から足音が追ってくることはなかった。
しばらく全速力で駆け抜けたランタナは、ついに無人の構造物の裏へとたどり着き、ようやく立ち止まった。
荒い息をつきながらランタナは呟いた。
「……おかしな女だ。」
奇妙な女だった。
黒い魔力は素晴らしい才能だとされているのに、それが自分を苦しめる原因になるとは。
許せない。
おかしいのはブランシュだけではない。
王妃から始まったこの国の人々は皆、奇妙だった。
自分は重罪人だ。
しかし、それにもかかわらず待遇は悪くなかった。
むしろ良かった。
宮殿の外に出ることはできないが、宮殿内ならどこへでも行けた。
そう考えると、王妃という人物も奇妙だった。
彼女はランタナを見るたびに、何故か申し訳なさそうな顔をした。
その姿を見るのが嫌で、怒りをぶつけることもあった。
【なぜあのような目で私を見る?私はあなたの娘を殺そうとした人間だ!】
【そうだ。それは間違いない。それでこそお前が鬱陶しい。でも……】
その悔恨の表情。
どうしてあの女はあんなに痛ましげな顔をしているのか?
【私も誰かに罪を犯した。いつか謝罪できるといいのだが。】
そのように言って王は去っていった。
言葉を理解できなかった。
「変な奴だ。」
そう呟きながらランタナは深呼吸をした。
何も考えず、無意識のうちに前を見た。
どこか見慣れない場所に来ていた。
そこは静かで心地よかった。
小さな森のような場所で、その中に温かな火が燃えていた。
周りには誰もいなくて、温かさが感じられた。
「ここなら王妃も見つけられないだろう。」
女児は静かに火の中に入っていった。
その中の空気は春のように暖かく、心地よい香りが広がった。
花の香りと色と香り。
まるで美しい公園を見るようだった。
くるくると周りを見渡していると、ランタナは不意に言った。
そこに美しい花があった。
それはたった一つの花だった。
他の花もよく手入れされていたが、ここは特別にもっと丁寧に手入れされたようだった。
香りが異なり、より深い印象を与えた。
この美しい花の名前は一体何だろうか?
ランタナは小さく花を摘んだ。
その花がほんの少しこぼれるのを見ながら、近くで聞こえてきた声が耳に入った。
「近づかないで。」
ランタナが少し動いて振り返った。
背が高く、腰まで伸びた髪を持つ男が、無表情で自分を見ていた。
初めて見る男だったが、誰なのか分からなかった。
セイブリアンと似たような顔立ちで、金色の瞳を持つ眼差し。
「……あなたはレイブン?」
レイブンは無表情のままでランタナを見つめた。
どこか無関心な様子だった。
自分が誰か分かっていないことを感じ取ったランタナがレイブンを見つめ返したとき、レイブンが口を開いた。
「私はもう王族ではないけれど、王族のために受けるべき苦しみを受ける程度にはまだ残っていると思う。」
無関心だと考えながら、視線の先に一種の香りが漂っているのを感じた。
ランタナは思わずその香りに引き寄せられるように動いた。
数年の間、行き来していた道を歩いていた。この道は危険な山道だった。
ランタナは知らず知らずのうちに足を進めた。
幸せではなく、不安が一気に広がった。
道を歩いていると突然その道を外れて、先に見える道を歩いていく姿を見つけた。
「どうせ死ぬじゃないか。」
「緑の魔力を持つ人に回復を頼めばいいんだ。」
責任を押し付けられている感じはしなかった。
冷たい言葉に気を許すと、ランタナは少し離れた場所に座り、レイヴンを観察した。
部屋は暖かく、良い香りが漂っていた。
自分を大事に扱うあの女性よりも、レイヴンのほうが安心感を与えてくれるような気もした。
レイヴンは黙々と華やかな花瓶を飾ることに熱中していた。
自分を無視しているようにも見えず、ランタナは不意に尋ねた。
「その花の名前は?」
「……ユリ。」
ユリ(Lily)? 王妃のお気に入りもユリだった。
レイヴンが王妃に一度冷たくされたという話が思い浮かんだ。
「まだあの女性のことが好きなの?」
レイヴンは沈黙を保ちながら、ランタナをじっと見つめた。
ランタナは微笑んだ。
「邪魔しないで、どいてよ。」
「君も犯罪者だろ。少し隠れさせてくれないか。」
さっきまでは怖かったが、レイヴンの弱点を掴んだと感じると、少し余裕が出てきた。
緊張が解けると、ぺらぺらと話し始めた。
「その女、本当に変だよね。なんで自分を裏切った人を許したの? 実は君のことが好きなんじゃない?」
「消えろと言った。」
「君も変だよ。なんで好きになっても、そんな女を選ぶの? あんな醜い女……。」
その瞬間、バンという音がして、ランタナの体が宙に浮いた。
「三度も警告しないと理解できないのか?」
気がつくと、レイヴンに首を掴まれ、壁に押し付けられていた。
咳き込みながら足をばたつかせても、レイヴンは微動だにしなかった。
「彼女は優しい人だから、君にも情けをかけた。でも……。」
鋭い刃がランタナの首に当てられた。
ランタナの全身に震えが走った。
「俺は優しくない。彼女に嫌われるのには慣れている。もし彼女について軽々しく話すなら覚悟したほうがいい。」
「ご、ごめん。謝るよ。取り消す!本当に!」
遅れて理性が戻ってきた。
レイヴンの金色の瞳はまるで刃物のようだった。
彼は少し考えた後、ランタナを解放した。
ランタナは自分の首をそっと触れてみた。
「この男、完全に狂ってるんじゃない?」
レイヴンは何事もなかったかのように再び花瓶を眺めていた。
自分の首に当てられていた刃を花瓶の整理に使い、視線は穏やかだった。
「それでも、まだこのほうがマシだ。あの威圧的な支配者よりも、こうして露骨に敵意を見せてくれるほうが。」
ランタナはレイヴンの瞳を見つめて、再び考え直した。
彼女はその場に座り込んだ。
怖さはあったが、この場所が気に入っており、レイヴンに聞きたいこともあった。
カリカリと庭を手入れする刃物の音が聞こえた。
ランタナはレイヴンの怒りが収まるのを待ってから、そっと質問を投げかけた。
「えっと……。」
「……。」
「一つだけ聞いてもいい?」
「答えたら出ていくか?」
ランタナが喉を鳴らすと、レイヴンは深呼吸をしながら手を止めた。
そして、何か気になったように返事をした。
「君も、俺も、王妃に許されたじゃないか。」
「だから?」
「うーん……。なんで許されたのか気になる。」
それは憐れみだったのか、慈悲だったのか。
この男なら答えを知っているような気がした。
レイヴンの目に一瞬温かみが宿った。
それはさっきまでとは全く異なる目の輝きだった。
どういうわけか、セイブリアンを思わせるような視線だった。
「……王妃様は他人の苦しみを理解しようとする人だ。俺たちの苦しみも理解して、許してくださったんだろう。」
苦しみを理解すると?
あの女も自分と同じような苦しみを経験したのだろうか?
魔力の色だけで命を奪われかけたことはあるのか?
外見のせいで差別されたことは?
分からない。
見た目からしてリリィはただ幸せそうに見えた。
何の困難も経験しなかったような人に見えた。
そして……。
「どうしてあなたがまだあの女を好きなのか気になる。正直、美人じゃないじゃない。」
「どうしてあんなに多くの人がリリィを好きになるんだろう?それほど美しくないのに。結局、人が見るのは表面的な部分だけなのに。」
皮肉を込めた二つの質問を投げかけたが、レイヴンは曖昧に受け流すことはせず、ゆっくりと口を開いた。
「俺を救ってくれたのは、王妃様の顔だった。違う、それが答えだった。」
ランタナはそれがどういう意味か理解できず、レイヴンを見た。
王と似た顔がそこにあった。
「俺は自分の顔が嫌いだった。不愉快だった。でも、王妃様は俺の顔ではなく、俺という人間を見てくれた。」
彼の口元にかすかな笑みが浮かんだように見えた。
レイヴンはゆっくりと喉を鳴らしてランタナを見つめた。
「君もそれを感じたんじゃないか?」
その質問にランタナは答えることができなかった。
驚きと戸惑いのあまり、言葉が出てこなかった。
彼の言葉通りだった。
王妃は自分を相手にするとき、表面的な傷ではなく、その奥の目を見ていた。
「質問には答えた。」
それは「去れ」という意味だった。
ランタナは呆然としたまま庭園を後にした。
侵入者が去った後、レイヴンは再び花に向き合い始めた。
窓ガラスに霜がついていた。
まるで氷の結晶が広がるような模様が浮かび上がっていた。
外の気温はどんどん寒くなっていた。
最も寒い時期を過ぎ、春に近づいているのに、冷え込みが戻ってきたようだ。
幸いなことに、室内は暖かかった。
眠気と戦っていたイヴェルは新しい服を着て、楽しげに動き回っていた。
「ブランシュ、今日は寒いですね。風邪をひかないように気をつけてください。」
私はブランシュに柔らかなケープをそっと掛けながら声をかけた。
それはベリテのようなデザインで作られたものだった。
ケープの中に収まった細長い黒髪を整えながら、ブランシュは頬を赤らめて照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます、お母様!」
「ありがとう、お母様。今回の服も素敵ですね! ところで、この服は誰のものですか?」
ベリテが私の腕に掛かったケープを指しながら尋ねた。
私は少しぎこちなく笑った。
「ああ、これは……ランタナに渡そうと思って。」
予想通り、ベリテの表情は曇った。
彼女はランタナを嫌っているので仕方がない。
私はなんとなく弁解するように言った。
「でも、渡せないかもしれない。最近彼女を見かけないんだ。」
それは事実だった。
ランタナはほとんど部屋にいなかった。
まるで他の場所で寝ているように思えた。
どこへ行ったのだろうか。
室内にいるなら安心だが、外に出てしまったのではないかと心配になった。
しかし、ベリテの前でそれを口にするわけにはいかなかった。
ベリテは唇を尖らせてから、視線を鋭くさせて言った。
「……さっき見たら、庭にいたよ。」
「え? 何が?」
「ランタナのこと。探してたんじゃない?」
私は目をぱちくりさせた後、笑って答えた。
声の調子はそっけなかったが、結局ランタナを探すことになったのだ。
私が笑うと、ベリテが苛立ちを見せた。
「ブランシュが許してやれって言うから、努力してるだけ!」
その言葉にブランシュがくすくす笑い、ベリテの頬にキスをした。
ベリテの耳が少し動いた。
「ありがとう、ベリー。」
「……シューが望むことなら、私は何でもするから。」
ああ、ああ。また今日も甘い雰囲気のカップルだわ。
二人が仲良くしている間に、私は席を外すことにした。
ランタナを探しに行く必要もあるし。
私は少しお菓子を持って部屋を出た。
出口のほうに向かって歩いていると、遠くからセイブルが近づいてくるのが見えた。
「セイブル、セイブル!」
「ああ、リリィ。どちらへ行かれるんですか?」
「ランタナを探しに行くところです。服と一緒に食べ物も少し持って行こうと思って。」
「まだランタナは食事を拒否しているみたいですね。」
「ええ。以前は食堂で食材を盗んで食べていたと聞きましたが、最近はそれすら手をつけていないようです。」
ランタナが盗みやすいように、入口付近にパイのようなものを置いておくよう料理人たちに指示したことを思い出した。
以前はそのわずかな食事も消えると言っていたが、今では手をつけた形跡すらないと料理人たちが嘆いていた。
なぜランタナは食事を拒否しているのだろうか?
毒が入っているとでも勘違いしているのだろうか?
セイブルは私をじっと見つめた後、口を開いた。
「リリィはブランシュの時もそうでしたが、子供が飢えているのを見るのが嫌いなんですね。」
「当然です!」
子どもたちはよく食べて、元気に育たなければならない!
私が医務室に隠れて暮らしている間、飢えて苦しむ子どもたちを何度も見てきた。
子どもたちを見るたびにブランシュを思い出し、袋を開けてどうにかして美味しいものを少しずつ与えてきた。
子どもたちが幸せそうな顔で食事をしている姿を見ると、私も自然と笑顔になれた。
その姿に、私自身も癒された。
子どもたちがよく食べてよく遊ぶのが一番だ。
そして、ランタナも同じだった。
「そういえばセイブル、どこに行っていたの?」
「リリィを探していました。魔法館から連絡が来たので。」
そう言いながら、セイブルは慎重に書類を差し出した。
ああ、魔力検査の結果だろう。
魔法館には、私とランタナの魔力について知らせずに検査を依頼していたのだ。
私たちは人目を避けて部屋に入り、深呼吸して書簡を開いて読み始めた。
「二つの種類の魔力が一致することを確認。同一人物の魔力。」
やはり予想通りだった。
セイブルが書簡の内容を一緒に確認すると、彼の表情は曇った。
「……そうなると、ランタナがアビゲイルの生まれ変わりということですね。やはり復讐のために来たのではないでしょうか。」
「いいえ、それは違うと思います!」
私は慌ててセイブルの言葉を遮った。
この人は、ブランシュの死がただの偶然ではなく、自分に責任があると未だに考えているようだった。
「誕生日の宴会の時、ランタナが抱えていた瓶を覚えていますか?」
「はい、覚えています。」
「あの時、ランタナが使おうとしていた魔法薬。ベリテがその中身を確認していたのですが……。」
なんだか口が乾き、私はごくりと唾を飲み込んだ。
そして震える唇を動かしながら慎重に言葉を絞り出した。
「……使用者を焼き尽くしてしまう薬でした。」
「え?」
セイブルもまた驚きの表情を浮かべた。
人を炎で焼き尽くす薬。
ランタナはそれを自分に浴びせようとしていたのだ。
私は小さく息を吐き、言葉を続けた。
「命を縮めて呪いをかけた後に自ら命を絶つなんて、普通ではありません。ただ自殺するほうが、まだ簡単でしょう。」
それならば、なぜランタナはそんな手の込んだ方法を選んだのだろうか。
セイブルが険しい顔で口を開いた。
「……通常、口封じのために暗殺者に自殺を命じるものです。」
私もその結論以外にたどり着けなかった。
誰かがランタナに暗殺を依頼し、その後で彼女が自分の命を絶つよう仕向けたのだ。
ランタナ自身もその事実を知らなかった可能性が高い。
私は手にしていた書簡をぎゅっと握り締めた。
一体誰がこんなことを……。
一体誰がブランシュを、そしてランタナを殺そうとしたのだろうか?
「まずはランタナと話をしないといけませんね。服と食べ物も持っていきます……。」
「一緒に行きましょうか?」
「大丈夫ですよ。大勢で行くと余計に怖がらせてしまいそうですから。」
セイブルは喉を鳴らしながら考え込み、私にコートを整えて渡しながら言った。
「リリィも体を気をつけてください。子どもたちの服を作るのも良いですが、リリィ自身の冬服も気をつけてくださいね。」
「去年作った服がありますから……。」
「それでも、リリィのドレスルームを新しい服でいっぱいにするまで、私が全て準備します。」
セイブルは微笑みながら真剣な眼差しで言った。
ああ、これは駄目だ。
私は慌てて彼を宥めるように言った。
「わかりました。私も新しい冬服を作りますから。」
そう約束した後、セイブルはようやく私を送り出してくれた。
ふう、もし約束しなかったら、またセイブルが手を出してきただろう。
私は庭に出て周囲を見回した。
しかしランタナの姿は見えなかった。
痩せた体つきや服の色が目立つはずの彼女がいない……。
そう考えながらあちこち探していたとき、背後からぶっきらぼうな声が聞こえた。
「ぼんやりして、何してるの?」
振り返るとそこにはランタナが立っていた。
片方の目で私をじろりと睨みながら。
「探してたのよ。こっちに来て。」
まあ、来いと言っても逃げるつもりだろうと予想していたが、意外にもランタナは素直に私に近づいてきた。
「どうしたの?」と聞く間もなく、彼女は突然酒瓶を私に差し出した。
その冷たい瓶が私の手に触れ、ひんやりとした感覚が広がった。
「……なんでそんなに幸せそうなの?」
やはり攻撃的にならないランタナではない。
彼女は思いがけない辛辣な言葉を投げかけてきた。
私はそんな彼女を見つめながら、少し迷ってから答えた。
「幸せでいちゃダメなの?」
「君は黒い魔力を持っているから。」
「それが理由なの?」
「それに君は……美しくないから。」
傷つけるには十分すぎる言葉だったが、私はまったく気にならなかった。
むしろその言葉は、私ではなくランタナが自分自身に言っているように聞こえた。
自分は黒い魔力を持っているから、自分は美しくないから、幸せになってはいけないと。
そして、私が何も知らなかった頃のアビゲイルも、きっと自らにその呪いをかけていたのだろう。
なんてことだ。
前世でも、今世でも、アビゲイルは自分の外見によって苦しめられている。
「魔力の色も、外見も、非難の理由にはなり得ない。」
「……やっぱり君は特別なんだ。君にはわからないよ。生まれた瞬間から地獄に放り込まれた人の気持ちは。」
「地獄に放り込まれた」とはどういうこと?
驚きすぎて言葉を失っている間に、ランタナが続けた。
冷たく、憎悪に満ちていた。
私を見つめる紫色の瞳は、私とあまりにも似ていた。
「結局そんな酷いことを言うけれど、君もきっと私の傷を哀れんでいるんだろう? 私を惨めだと思っているんだろう?」
ランタナの手はぶるぶると震えていた。
私は息を止めたままその姿を見つめた。
私はランタナの傷が事故によるものだと思っていた。
しかし、事故にしてはあまりにも悲惨だった。
だが、それが事故ではなく、誰かによる故意だったとは。
私はさらに震えながら言葉を絞り出した。
「誰が……誰が君を地獄に落としたの?」
「私の義理の母親。」
「義理の母親」という言葉はまるで呪いのように響いた。
私はただ凍りついたままだった。
幼いランタナからは奇妙な冷たさと同時に、燃え上がるような熱が伝わってくる気がした。
それはまるで、抑えきれない怒りのようだった。
それはランタナが実際に生きてきた中で感じてきた温度なのだろう。
私はしばらくしてから、慎重に口を開いた。
「……私はランタナが惨めだなんて思わない。」
やっと出た声は、どこまでも穏やかで揺るぎないものだった。
私はそっとランタナに手を差し出した。
ランタナは震えながらも引き下がることなく、その場に留まっていた。
顔を覆っていたスカーフをゆっくりと外すと、赤くただれた傷跡が露わになった。
「醜いでしょう?自分でも醜いと思う。」
「違う。私はランタナが醜いなんて思わない。君にこんな傷を負わせた人間だけが醜いんだ。」
なぜ傷ついた人を恐れるのか。
なぜ血を流している人にまで石を投げつけるのか。
醜いのは傷を負わせた者だけだ。
私は唇を引き結び、強く言葉を続けた。
「ランタナ、君は少しも醜くなんかない。」
私と同じ紫色の瞳が揺れていた。
私はその瞳に応えるように口を開いた。
「ランタナが望むなら、その顔の傷を消すことができるよ。」
その言葉にランタナの目が揺れ動いた。
今まで見た中で最も子どもらしい表情だった。
「本当……本当なの?」
食事すら拒否していた子が、こんなにも切実な目で私を見つめている。
私は喉を鳴らした後、片手を持ち上げた。
指先から紫色の魔力が流れ始める。
変化の魔法がランタナの顔に触れると、赤い傷跡が少しずつ薄れていった。
「さあ、もう終わったよ。」
しばらくして、左の顔から傷が完全に消えた。
私は手鏡を差し出し、ランタナは慌てて布を取り、自分の顔を確認した。
まるで初めて自分の顔を見る人のようだった。
鏡の中の自分を信じられないような表情。
ランタナは震える手で自分の顔をそっと触れていた。
「治療ではなく外見を変えただけだよ……痛みはそのまま残るだろう。ちゃんとした治療は少しずつ受けていこう。」
一時的なごまかしに過ぎないが、これでランタナが少しでも安心できるなら……。
幸い、ランタナは自分の顔に満足しているようだった。
しかし、彼女はすぐに少し突っかかるように言った。
「どうせ、私が協力しなければ元に戻すつもりなんでしょ?」
「何?そんなことするわけないじゃない。一生このままってわけにはいかないから、定期的に魔法をかけ直す必要はあるけど。」
「そんなことだろうと思った。」
言葉はまだとげとげしかったが、その声のトーンにはどこか柔らかさが感じられた。
ランタナはちらりと私を見てから、手鏡を戻してまた冷静になった。
「……君はこんな魔法を持っているのに、なぜ姿を変えないの?」
「え?」
「どんな姿にも変われるんでしょ。昔は美しい姿だったって聞いたことがあるよ。それなのに、なぜ今この姿のままで生きているの?」
何度も聞かれてきた質問なので、答えるのに戸惑いはなかった。
ただ、ランタナが理解するかどうかはわからなかった。
「うーん……ただこの姿が楽だから?私はこの姿に不満はないよ。」
やはりランタナは納得できないような表情を浮かべた。
「みんなが君を見下したりしないの?」
「まあ、たまに外見だけ見て何か言う人はいたけどね。怠け者だとか、努力しないとか。痩せたいなら食べなければいいじゃないか、って……。」
私は肩をすくめた。
「それでも、私が間違ったことをしているわけじゃないから、気にしていないよ。見た目だけで批判する人こそ悪いんだよ。」
今でこそ簡単にそう言えるけど、そう思えるようになるまでにはすごく長い時間がかかった。
前世の私は、自分の外見のせいでたくさん非難された。
「どうして痩せないの? 痩せれば非難されることもなくなるのに」と言われ続けた。
私も当時は、それが自分の責任だと思っていた。
自分が非難されるのは当然だと思い込んでいた。
そして、無理なダイエットを繰り返し、命を落とした。
「ねえ、私が何を間違えたっていうの? 他人の外見がどうであれ、それが非難の理由になるわけないでしょ。」
前世の私は、その事実を受け入れることができなかった。
でも、死んだ後、いろいろな人に出会うことで、ようやく心から笑えるようになった。
ランタナはコップを持ちながら、私の話を聞いていた。
ずっと長い間静かにしていた後、やっと口元に笑みを浮かべた。
子どもは笑っていた。
どこか不思議そうに。
笑っているわけではないようだった。
「……変だね。本当に。君も変だし、皇帝も変、この国の人たちはみんな変だよ。」
そうだ、理解するのは難しいだろう。
でも、そんな中で、私は誰かが自分の袖口を掴むのを感じた。
ランタナが私の袖をぎゅっと握りしめていた。
まるで助けを求めるように、切実に。
「僕も……この変な国で生きてもいいのかな?」
ランタナの言葉通り、ここは確かに変わった場所かもしれない。
でも、特別な役割を背負った私たちにとっては、むしろこの変わった国が似合うのかもしれない。
アビゲイルの過去を変えることはできないが、ランタナがこれから生きていく世界は変えられるかもしれない。
私はランタナの髪をそっと撫でた。
その紫色の瞳を見つめながら、私は微笑んだ。
「もちろんさ。一緒に生きていこう、ランタナ。」







