こんにちは、ちゃむです。
「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

89話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 母親④
メロディはクリステンソンから戻る途中で買ったヒギンス夫人への贈り物を取り出す。
旅先で買った品のほとんどは後で上段から配送する予定だったが、夫人へのプレゼントだけは事前に受け取って別に保管しておいた。
メロディは机に座り、贈り物用の美容クリームが入った箱に可愛い緑色のリボンを結びつけた。
『こんなものでお母様の怒りが解けるとは思っていないけれど……』
それでも贈り物を選びながら、メロディはヒギンス夫人が少しでも喜んでくれたらと、心から願った。
『ほんの少しでもいいから、笑ってくれたら嬉しいのに。』
包みを終えると、メロディはヒギンス夫人の部屋の前に到着し、しっかり閉じられた扉をノックした。
しかし、どれだけ待っても返事は返ってこなかった。
どうやら部屋にはいないようだ。
「お嬢様、何か御用ですか?」
ちょうど通りかかった使用人が声をかけてくれたので、メロディはすぐさまヒギンス夫人の居場所を尋ねた。
「ああ、ご夫人でしたら厨房にいらっしゃいます。何かお料理をされているようですよ。」
料理をされてるって?
夫人が自ら料理をする日はかなり珍しいと聞いていたため、メロディは疑わしそうに眉をひそめた。
「もしかして、今日はお客様でもいらっしゃるんでしょうか……?」
「そのようなお話は聞いておりませんが。」
「とにかく教えてくださってありがとうございます。」
メロディは急いで台所へ向かった。
普段は料理人や使用人で賑わっていた場所だが、今は静かだった。
どうやら「奥様が台所にいる」という使用人の話は事実ではなかったようだ。
すべての使用人は彼女(=奥様)を警戒していた。
だが、彼女が何かを始めると、その仕事を手伝うどころか、できる限り距離を取ろうとする傾向がある。
今日は使用人の多くがあえて距離を取っているようだった。
そのため、台所で彼女が人気者ではないことは明らかだ。
メロディは台所の中へと足を踏み入れた。
目の前には、夫人の後ろ姿が見えた。
彼女は普段とあまり変わらぬ姿だった。
すっきりとまとめられた白い髪、深い色合いの上品なワンピース、そして洗練された動き。
台所仕事をしている最中でも、彼女の姿勢にはまったく乱れがなかった。
『いったい何をしているのかしら?』
メロディはその後ろ姿を見つめながら、興味深く思った。
トントン、トントン──規則的な音が聞こえてきた。
「……あの、お母様。」
震える声で呼びかけると、一瞬だけ手の動きが止まった。
しかしすぐにまた、トントントンという音を立てながら作業を再開した。
返事すらもらえず、メロディは少し気まずくなった。
『どうしよう。』
悩んだ末に、彼女はまず母の手伝いをすることにした。
一緒にいれば、ヒギンス夫人の気持ちも少しは和らぐかもしれないし、もしかしたら謝るタイミングがつかめるかもしれない。
決意を固めたメロディは、慎重に一歩前に踏み出した。
しかし、その足が完全に前へ出るよりも早く──
「来ないで!」
鋭く冷たい声が、彼女の足を止めた。
驚いたメロディは、思わず手に持っていたクリームの缶を足の甲に「コトン」と落としてしまった。
「きゃっ!」
しかもその缶が不運にも足の親指に当たってしまい、メロディはその場にしゃがみこんでしまった。
片手では痛む足の甲を押さえ、もう一方の手では落ちたクリームの缶をつかみながら、顔をしかめた。
「うぅ……。」
ちょうどその時、彼女の頭上に影が差した。
目線を上げると、そこにはいつの間にか近づいていたヒギンズ夫人がいて、驚いた表情でメロディを見下ろしていた。
どうやら、何かが落ちる音を聞いて駆けつけてきたようだった。
「なんてこと、あなた……」
夫人がそう言いながら身をかがめて、メロディの足を確認しようとしたそのとき――
「大丈夫ですか?!」
悲鳴を聞いて駆けつけた侍女たちがやってきた。
同じ瞬間、メロディを心配していたヒギンス夫人は、何かを思い出したように表情を引き締め、すっと体を背けた。
「お母……さま?」
メロディが呼びかけても、夫人が再びあの優しいまなざしを向けることはなかった。
彼女はただ黙って調理台の前に戻り、再び材料を刻む手を止めなかった。
「………」
「メロディを部屋に連れていきなさい。」
冷たく厳しい命令が下され、侍女たちはメロディの両脇を支えて付き添った。
メロディは何度かヒギンス夫人の方を見つめた。
まだ伝えたい言葉が残っていたからだ。
けれど、彼女の目に映るのは、夫人の背中だけだった。
「お嬢様、お部屋に戻りましょう。おみ足の具合も見させてください。」
そっと差し伸べられた侍女の優しい手に、メロディは仕方なく包帯を巻いた。
メロディは最後の瞬間、彼女がつまずいた原因が“夏ジャガイモ”だったという、どうでもいい事実だけを知りながら、厨房から離れることになった。
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メロディが部屋に戻って靴と靴下を脱ぐと、クリームの缶の縁とぶつけた箇所が赤く腫れていた。
侍女たちがすぐに冷たい水を入れた袋を持ってきて、それを上に当ててくれた。
メロディは再び部屋で身動きも取れない状態になったことがとても悲しかった。
これでは母に謝りに行くことすらできないのだ。
「どうすればいいの……。」
メロディはソファの背もたれに深く身体を預け、大きく息をついた。
「お嬢様、少々お待ちください。」
すると侍女のひとりが、何かを思い出したかのように手を叩き、慌ててどこかへ出て行った。
戻ってきた彼女の手には、小さな銀の皿が乗せられており、その上には数通の手紙があった。
「お嬢様が不在の間に届いたお手紙です。他にもありますが、それはヒギンス夫人の許可を得てからお渡しするようにとのことでした。」
「私に手紙が届いたって?」
驚いたメロディが尋ねると、侍女の一人がお盆を差し出した。
「私に手紙を送ってくる人なんて、いるはずがないのに……」
そう思うのも無理はなかった。
ヒギンス家の令嬢として貴族階級の一員となったとはいえ、メロディは他の名家と深く交流しているわけではなかった。
首都の貴族たちは通常とは異なり、メロディほどの身分であれば、婚約者がいたとしてもそれほど驚くようなことではない。
もちろん、メロディはそういう方面では少しも期待したことがなかった。
「もしかして、前に受けた試験のことかしら?」
メロディがただ推測ばかりしているので、侍女は銀のトレーをさらに近づけた。
「早く開けてみてください」と言うように。
侍女の顔には嬉しそうな微笑みが満ちていた。
まるでメロディがこの手紙を受け取ればきっと喜ぶだろうと知っているかのように。
メロディは三通もある手紙をすべて手に取った。
封筒を確認してみると、すべて同じ人物からのものだった。
「お父様から、私に……?」
驚いたメロディが侍女を見上げると、侍女はうなずきながら言った。
「はい、ご主人様が送られたんです。うれしいでしょう?」
その言葉に、メロディは一生懸命うなずいた。
数週間会っていないお父様が、自分のことを気にかけてくれていたことが嬉しかった。









