こんにちは、ちゃむです。
「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

90話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 母親⑤
メロディはすぐに手紙を開いて読んだ。
その中には、公爵領で過ごすヒギンス家の執事の妻の話はもちろん、公爵自身の話も一緒に書かれていた。
多忙な中で時間を割いて書かれたのか、内容は多くなかったが、その丁寧な筆跡を見るだけで十分に心が落ち着く。
「何か良いことでも書かれていたんですか?」
「え?」
「お嬢様の表情がすごく明るくなったので。」
侍女の言葉に、メロディはふと微笑んだ。
「うん、ただこうしてお父様の字を見られただけでも嬉しいの。」
本当に困った事態が起こっていたなら、こうした簡単な手紙で連絡してくることも難しかっただろう。
「無事に過ごされているようで安心しました。」
「ごめんなさい。」
すると侍女がすぐに謝罪をしてきた。
「え?どうして?」
「お嬢様がご主人様のことをこんなにも心配していらっしゃるのに、手紙を遅れてお渡ししてしまって……。」
「そんなことないよ!」
メロディは急いで手を振った。
もちろん、手紙をもっと早く受け取っていたら良かったかもしれないが、侍女を責めるつもりはなかった。
「それでも、お父様の手紙が届いたのはよかった。少なくともお母様の心配の半分くらいは和らいだはず……。」
ため息をつきながら話していたメロディは、ふと動きを止めた。
『そういえば……。』
彼女はクロードと一緒に邸宅を出るとき、ヒギンス夫人に手紙を残していた。
いや、実際にはただのメモ書きにすぎなかったけれど。
「クリステンソンへ行ってきます。」
それ以来、メロディはお母様に叱られることがなくなった。
彼女がメロディを深く思っていたなどという考えは、彼女の中にはまったく浮かばなかった。
それもそのはず。
たった一度も、無事に移動しているとか、無事に到着したという知らせが届いたことはなかったのだ。
「……無神経な人。」
メロディは勢いよく立ち上がった。
足元に置いていた水差しが床に倒れたが、今はそんなこと気にしている場合ではなかった。
「どうしよう!」
罪悪感が押し寄せてくる。
メロディは思い出した。
あの夜、ヒギンス夫人が持っていた蝋燭がすっかり燃え尽きて、ほとんど消えかけていた光景を。
もしかしたら、彼女はメロディが帰ってくるのをずっと待ちながら、あの蝋燭を灯していたのかもしれない。
連絡もなしに、帰るという知らせもなく。
そして、その知らせを待ちながら、毎晩目を開けて眠れなかったのかもしれない——
『そういえば、お母様、少し疲れた顔をされてた……』
メロディはそのまま慌てて自分の部屋を飛び出した。
後ろから侍女が「お嬢様?」と不思議そうに声をかけたが、振り返ることもなく走り続けた。
彼女は靴も履かずに裸足のまま廊下を駆け抜けた。
ドタバタと足音を立てながら厨房にたどり着くと、ヒギンス夫人は周囲を片付けているところだった。
「お母様!」
慌てた声で呼びかけると、彼女はしかめっ面で顔を上げた。
「またあなたの大事な教えを忘れたようね。」
「私が悪かったんです!」
メロディは真っ先に大切な言葉を口にした。
深く頭を下げて謝罪し、夫人は何も言わずに聞いていた。
「許可もなく、勝手に……クリステンソンへ……。」
しかし、メロディがそこまで話したとき、夫人の手がそっと彼女の肩に触れた。
驚いて顔を上げると、夫人はスプーンを口にくわえたまま、静かに黙っているようにと合図していた。
『……なぜ?』
その意図を汲み取れず戸惑っていると、夫人は視線で周囲を指し示した。
気がつくと、いつの間にか侍女たちが近くに来ていたのだ。
『使用人たちは、私が母の親戚の家に行っていたことになっているから……』
「ついてきなさい」
通り過ぎながら夫人がささやいた。
メロディは凍りついたまま、その後に続いた。
だが、先を行っていた夫人は数歩進んだところで足を止め、振り返った。
「……?」
メロディは一瞬たじろぎながら、その間も、夫人はそばにいた侍女に何か指示を出し、まもなくメロディの前に室内用スリッパが置かれた。
「……あっ。」
意図を悟ったメロディは急いでスリッパを履く。
夫人はメロディが両足ともきちんと履いたのを確認して、ようやく再び体を向けた。
メロディはスリッパを持ってきてくれた侍女にそっとお辞儀をし、それからヒギンス夫人の後ろをついて行った。
到着したのは彼女の部屋だった。
「ドアを閉めて、中に入りなさい。」
ヒギンス夫人がそう言うと、メロディはすすめられたソファに腰を下ろした。
本当は叱られるために来た者が、気楽に座っていいのかと少し迷ったが、母のすすめを断る方がかえって不自然に思えた。
「………。」
夫人は今回も背を向けたまま、窓の外を見つめていた。
メロディはその背中と、自分の気持ちを重ねるように見つめていた――。
メロディはお気に入りの肘掛け椅子の側に行き、視線を落としたまま、物思いにふけりながら膝に手を置いた。
以前からメロディはこの部屋に入るのがとても好きだった。
もちろん……ある人たちはヒギンズ夫人を怖がっていた。
メロディも最初は彼女が怖かった。
でも、ヒギンズ夫人が思いやり深い人だと気づいてからは、彼女と過ごす時間が好きになった。
夫人が椅子で編み物をしていたり、本を読んでいたりする傍で、メロディはその足元に敷かれたふかふかのカーペットの上でまったりと過ごした。
ときには編み物を手伝いながら、毛糸を巻いていたこともあった。
『……でも、今は。』
今の時間は、ただ気まずく感じるだけだった。
そしてそれはすべて、自分のせいだった。
『謝らなくちゃ。』
メロディは固く決意した顔で口を開こうとしていた。
今回は本当に大事な話をしなければと心を固めて。
しかし、いつの間にか振り返っていたヒギンス夫人と目が合った瞬間、メロディの言葉は喉元で止まってしまった。
「ごめんなさいね。」
その一言、思いがけず聞こえてきたのは――ヒギンス夫人の口からこぼれた、穏やかな謝罪の言葉だった。
メロディは思わず立ち上がってしまった。
無理もない、それほど衝撃的な謝罪だったのだから。
「えっ、ええっ?!」
まさか、夫人が何か悪いことをしてメロディに謝罪するなんて。
悪いことをしたのはメロディの方だったのに。
「……たぶん、私が。」
動揺して何も言葉を返せないメロディとは対照的に、ヒギンス夫人は静かに言葉を続けた――。
「怖がらせてしまったね。」
「そ、それは……」
“そんなことないです”という言葉はうまく出てこず、メロディはただ小さな声を漏らすだけだった。
「……ごめんなさいね。」
そして再び謝るヒギンズ夫人の姿を見て、メロディはとても驚いた。
その夫人の表情から、深い悲しみが伝わってきたのだ。
メロディは、少しだけ心が痛んだ。
『……お母様も傷ついているんだ。』
そう考えてみれば、当然のことなのに、どこか思い至らなかった自分に気づくと、少し恥ずかしくなった。
以前の自分と今を比べて思った。
「親」という存在は、とても強い力を持っている。
それはメロディの人生すべてを不幸にしてしまうことも、一瞬にして幸せにすることもできるほどの力だ。
そんな思いを巡らせる中で、メロディは知らず知らずのうちに両親について、ものすごい思い込みを抱いていた。
何があっても傷つかない、絶対に揺るがない存在だと。
でも少し考え直してみれば、両親もただの人間だった。
子どもと同じように傷つき、疑念を抱いたりもする、平凡な……。









