こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

106話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- デビナ・サーファス②
ライサンダーは散らばった花びらを見つめ、一瞬だけ表情を曇らせた後、苛立った様子でそれを床に投げ捨てた。
「それで、今日は何の日だ?今日は医者と会う日だったな、それとも居眠りに来ただけか?」
デビナは視線をそらさないようにするため、拳を固く握りしめてその場に踏みとどまった。
「グレジェカイア公爵の話をしに来ました。あの子が首都院に入学するという話を、なぜ私に教えてくださらなかったのですか?」
「そんな必要があるのか?」
「首都院に対する王室の支援を担当するのは私です。あの子についての話を私が聞くことになるのは、容易に予想できたはずではありませんか?」
相手は慎重に構えた受験生代表であることが行動を制限しているようだった。
もし高位侍従との会話の中でそのことを知っていたら、彼女が明らかに動揺していた事実を全て報告されていたかもしれない。
デビナは、自分が王宮で持つ微妙な地位を改めて意識せざるを得なかった。
侮辱を受けること自体はある程度我慢できた。
しかし、その事実が外部の誰かに知られることだけは、死ぬほど嫌だった。
彼女は完璧な王妃であるように見せたかったのだ。
相手が誰であろうと関係ない。
「私が恥をかくことになったのは、すべてあなたの無礼な行動のせいです!」
「これは驚きだね?」
ライサンダーはまるで大袈裟な演技をする俳優のように両手を横に広げて仰天した表情を作り、身を震わせた。
「高貴なるデビナ・サーファスがついに『憤り』という感情を覚えたというのか……!」
「……!」
「婚約者を裏切り、その弟と同じ寝床を共にするという約束を果たすと宣言する前に、少しは羞恥心というものを知るべきだと思うがね!文明を持つ者としての自覚がないのか!いやあ、驚きだ!」
「あなた……なんて……!」
ついにデビナは堪えきれず、彼に固定していた視線を落とさざるを得なかった。
この悪魔のような男に、これ以上向き合うことはできないように思えた。
「用件はそれだけかい?ふむ、さっきの侍女が遠くに行っていなければいいんだが。」
彼は鐘を鳴らし呼び寄せた召使に、つい先ほど出ていったあの侍女を探して連れてくるよう指示を与えた。
それはつまり、デビナに対して「ここからすぐに消えろ」という意味でもあった。
「失礼いたします、殿下。セリデン公爵がお越しになっています。」
「兄上が?事前の連絡はなかったと思うが。」
「王室の規則に従ってお伝えしなければならないことがあるとおっしゃっています。どれだけお待ちいただくかを伺っておいでですが、いかがいたしましょう?」
「ふぅ、まったく。」
ライサンダーは床を擦るようにバラを持つ手を少しばかり揺らし、運命を呪うように見下ろしたあと、片方の肩をわずかにすくめた。
「仕方ないな。今回はどんな話で私の気を害しようとしているのか、聞いてみるしかないか。ああ、一緒に会うとしよう。」
彼は軽やかな足取りでデビナに近づき、彼女の腰をそっと抱き寄せた。
「うん?もしかして君も兄上に頼みたいことがあるんじゃないのか?」
「な、何を……」
デビナは体をひねって彼の腕から抜け出そうとしたが、逆により強く抱きしめられるだけだった。
「最近、母上が変な目で見始めた気がするんだ。兄上に王室の代理を務められるよう手伝ってほしいと頼んでみたら?お、いいね!それ、面白そうだ。どう?」
「……っ!」
「このままだと追い出される危機だぞ。まさか王子やそれに類する男が貞淑な女性の困難を察するなんて思うか?簡単なことではないんだから。」
「ば、馬鹿げてる……!?どうしてそんなことを……!」
デビナは彼の肩を押して抵抗しようとしたが、その強引な腕は決して彼女を離そうとしなかった。
顔を無理やり彼女の前に近づけた彼の目は、狂気に満ちた人のようにギラついていた。
さらに……
(わ、笑ってる!)
この狂った男をどうすればいいのだろう。
彼は明らかにデビナが絶望の淵に立たされる姿を見たいと望んでいるようだった。
どうしてそんなことができるのか。
デビナは恐怖と羞恥心から涙が流れそうになった。
「お願い……やめてください。そんな……」
「なんだ、つまらないな。」
そう言って、彼はようやくデビナを放した。
ここにはもういたくないと思ったデビナは、最低限の挨拶すらまともにせず、身を翻してその場を立ち去った。
どうしてあんなことを言えるのか。
夫という立場にありながら、デビナの感情や尊厳を無視して、節度を知らない振る舞いをするだけではなく……
デビナは急いで溢れる涙を手の甲で拭いながら扉を開けた。
そしてそこで見たもの。
いや、「驚愕」という言葉が適しているのだろうか。
扉の前にはマキシミリアンが立っていた。
いつもと変わらない冷たい姿で。
「……」
彼女が近くで見上げると、彼はいつもより少しだけ驚いた表情を浮かべていた。
もしかすると、突然現れたデビナが涙を流しているのを見て、彼が戸惑っているのだろうか?
どうであれ、彼女はまだ自分がマキシミリアンに何らかの影響を与えていることに喜びを感じた。
ブリエル・セリデンが「逃げるように結婚した相手」だったなら、デビナ・セイファースは彼が「逃げたくなる相手」だった。
彼の心の中で、どちらがより重きを占めているかを考えるのは、それほど難しいことではなかった。
「大丈夫ですか?」
たとえデビナが与えた傷が深く、普段なら冷淡な対応をしていたとしても、この日ばかりはどうだっただろうか。
冷たくも優しくもなれないのか。
そんなマキシミリアンの態度を見ているだけで、デビナにとって自分の存在が彼の中でどれほど小さいかがわかる。
「……ごめんなさい。」
デビナは涙を再びぬぐい、無理に微笑みを浮かべた。
「どうぞ、お入りください。」
彼女が道を譲ると、マキシミリアンは軽く頭を下げ、その厚意を受け入れた。
「ありがとうございます。失礼します。」
冷ややかな足取りで彼女のそばを通り過ぎる際、マキシミリアンの衣が彼女の腕をほんのりとかすめた。
他の日であれば、何の感情も湧き上がらなかっただろう、ごくわずかな接触だったが…。
少し前の出来事のせいだろうか?
デビナは彼の通り過ぎた後の空間に目を落としながら、ふと奇妙な考えに取りつかれて、ぼんやりと立ち尽くしていた。
もしかして、彼がわざと自分の腕に触れたのではないかと考えたり、どこか悲しそうに見える彼女に対して気にしているのではないかと感じたりして。
『違う、勘違いだ。そんなはずは……』
必死にその考えを振り払おうとするも、彼女の心臓は異常なほど速く鼓動し始めた。
まるでマキシミリアンに何かを期待しているかのように。
デビナは自然と彼の方を振り返った。
しかし、彼女の視界に入ってきたのは、まるで面白くてたまらないと言わんばかりに笑っているライサンダーだった。
彼は口元だけで、少し前の嫌味な提案を持ち出していた。
マキシミリアンにお願いしてみたらどうかと。
『……ああ、それならいっそそうしてみようか。』
そんな気持ちが一瞬芽生えた瞬間、デビナは自分でも驚き、凍りつくような視線を下に向けた。
到底口にできないような考えを思いついてしまったことに。
『でも、王宮の一員であるという点は変わらないわ。……なんてこと、私、狂ってるわ。』
あの狂った男と夫婦でいるうちに、自分もどうにかおかしくなってしまったのだろう。
こうして精神が壊れていくのを自覚し始めるとは。
『でも、このまま……王妃の座から追い出されるよりはマシじゃない。』
たとえ彼女が追い出されなくても、子供のいない王妃という地位はただの空虚な称号に過ぎないのだから。
そんな状況で、新たに入ってきた後宮の妃が子供を授かった日には……。
『考えたくもないわ。』
デビナはいつの間にか、扉の取っ手を握りしめ、長い間茫然と立ち尽くしていた自分に気づいた。
彼女はマキシミリアンとライサンダーの方を向き直し、軽く頭を下げると執務室を後にした。
焦っているようには見せなかった。
逃げるような人間と思われたくはなかったのだ。
「それで、何の話?規則上、必ず報告しなければならないことなんて、実際にはそれほど多くはないだろう。」
ライサンダーがまず話の核心を求めた。
そういえば、何の話なのだろう?
デビナも少し興味を抱いた。
もしかして離婚?
そんな可能性が頭をよぎった瞬間、何故か心臓が二度鼓動した。
やがて、マキシミリアンの答えが聞こえてきた。
彼は時間を引き延ばすことなく、また無駄に取り繕うこともなく答えた。
「私の妻、ブリエル・セリデンが子供を授かりました。」
ガン!
驚いたデビナは思わず大きな音を立てて、目の前の扉を勢いよく閉めてしまった。
「おや、それでは王室に子供が生まれたということか?」
閉ざされた扉の向こうからライサンダーの大きな声が聞こえた。
外から漏れ聞こえてくる言葉に、彼女は耳を疑った。
「つまり、これは……」
それはデビナを傷つけるためだけに発せられた言葉であるのは明らかだった。
彼女は素早く自分の部屋に戻った。
侍女たちが何事かと声をかけてきたが、その声も彼女の耳には一切届かなかった。
「全員出て行け!出て行けって言ってるの!」
彼女はまるで子供のような声を上げて激しく叫び、侍女たちを追い払った。
王妃としてこのような状態を見せるのは本来許されないことだったが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
「嘘よ、あり得ない。」
マキシミリアンが本当にあの女と夫婦のように過ごしていたというのか?
二人が……夜を共にしていたというの?
到底信じられなかった。
あの女は確かに上品に見えるかもしれないが、少し前に執務室で見たときは、ただの大人しい女性としか思えなかった。
貴族の男たちに面白半分で連れ出されては遊ばれているだけの卑しい存在に過ぎないと思っていたのに……。
あの女が……王室の子供を身ごもるなんて。
それも自分よりも先に。
「どうせあの女は嘘をついているに違いない。でも、マックスがそんな軽率なことをするはずがない……。」
彼女がぼんやりと茫然自失したままソファに座り込むと、まだ部屋から退出していない侍女が、そっと何かを彼女の傍に置いていった。
デビナは自室に完全に一人残されてから、ようやく体を動かすことができた。
そして侍女が置いていったものに目を向けると……。
一通の手紙が置かれていた。
差出人の名前は記されていなかったが、その文面から送り主を察するのは難しくなかった。
それは間違いなく彼女の父、ベクスリー伯爵の筆跡だった。
どうやら先日彼女のもとを訪れた執事がこれを届けてきたようだ。
「……」
そこにはどんな内容が書かれているのだろうか。
デビナはしばらくためらった後、ゆっくりとそれを開けてみた。







