できるメイド様【２３８話】ネタバレ

「元気にしているだろうか？」

ラエルを思い浮かべたマリは、切ない気持ちになった。

「もう半年か。」

終戦後、それぞれの国に戻った彼らはまだ再会していなかった。

戦後処理に忙殺されていたのもあるし、彼らが動くということは簡単なことではなかったからだ。

「会いたい。」

彼女はため息をついた。

すべてがうまくいったにもかかわらず、彼のことを依然として恋しく思い続けるとは思いもしなかった。

マリは机の引き出しから封筒を取り出した。

封筒の中には何度も読み返したかのような手紙が入っていた。

「一体いつ会えるのだろう？」

彼女は彼が手紙に書いた言葉を見て微笑んだ。

恋しいのは自分だけではない。

彼も自分を恋しく思っているという事実が嬉しかった。

「私も会いたいです。」

マリはすでに何度も読んだ内容をもう一度丁寧に読み返した。

こうしてでも彼を感じていたかった。

「さて、充電もしたし、また仕事をしよう。」

マリは大きく伸びをして、再び書類に目を向ける。

その時、補佐官のサミュエルが彼女に尋ねた。

「殿下、何か問題でもおありですか？」

「え？」

「最近、より無理をされているように見えるので、気になりまして。」

「そう見えますか？」

「はい。そして……。」

サミュエルは彼女をじっと見つめながら言った。

「普段より気分が少し良さそうに見えますね。」

その言葉にマリは微笑んだ。

「ええ、実は素敵なことがあるんです。それが理由で無理しているんですよ。」

「どんなことですか？」

サミュエルは目を大きく開けた。

「素敵なこと」とは一体何だろうか？

マリは答えず、再び手紙に目を向けた。

手紙の最後にはこんな一文が記されていた。

「今回の帝国の誕生記念祭に貴女を招待します。必ずご出席ください。」

間もなく帝国の誕生記念祭に参加する予定だ。

つまり、ついにラエルと再会できるのだ。

それで彼女は記念祭が来る前にすべての仕事を終わらせようと、いつも以上に頑張っているのだった。

「ラン。」

マリは窓の外を眺めながら、遠く離れた彼のことを思い浮かべた。

「早く会いたいです。」

そう思いながら時は流れ、ついに誕生記念祭に参加する日が近づいてきた。

一方、その頃、東帝国の皇宮ではラエルも彼女を恋しく思っていた。

「一体いつ会えるのだろう、マリ。」

彼はもう鉄仮面をかぶっていなかった。

その美しい顔立ちはまるで彫刻のようで、視線を送る侍女たちは密かに彼を見つめ、顔を赤らめた。

マリへの愛のためか、彼の雰囲気は以前とは大きく変わり、穏やかで優しさに満ちていた。

その美しい顔には強いカリスマと同時に柔らかな雰囲気が漂っていた。

かつて恐怖の対象であった彼が、今ではすべての人々に尊敬され、従われる理想の君主としての姿を見せていた。

特に、さらに魅力的に変わった皇帝の姿に胸をときめかせる侍女たちがいることは秘密だった。

しかし、彼が視線を向けるのはマリだけ。

彼はマリ以外の誰にも興味を示さず、視線を与えないため、侍女たちが彼の気持ちを悟ることはほとんどなかった。

帝国全土で尊敬される皇帝ラエルは、今、彼女のことを考え込みながら頭を抱えていた。

「今でさえ会うのが難しいのに、まさか結婚後もこうなるなんてことはないだろうな？」

ラエルは瞬間的に湧き上がった不安に顔をしかめた。

「新婚生活はどこで過ごすべきなんだ？いや、新婚生活そのものが可能なのか？」

根拠のない心配ではなかった。

二人は皇帝と女王だ。

それぞれの国を離れることができない。

いったいどこで一緒に過ごしながら結婚生活を送ればいいのだろうか？

「冗談じゃない。結婚したら一瞬たりともそばを離れないつもりだったのに、戦争が終わってからのほうが前よりも会うのが難しくなるなんて。」

彼は不安に駆られながら考えた。

「今こうして会いたくてたまらないのに、結婚しても会えなかったら？無理だ。絶対に無理だ。」

ラエルは強く拳を握りしめた。

どうしても彼女と共に結婚生活を送りたいと固く決意していた。

そのとき、執務室の外から来客を告げる声が聞こえてきた。

扉の音と共に一人の人物が入ってきた。

快活な人柄の美男、オルンだった。

「陛下、お目にかかります。良い一日ですね。昨夜は安らかにお休みになれましたか？」

オルンは明るい声でラエルに挨拶した。

以前まで心配や不安を抱えた様子だったが、それらがなくなったせいか、彼の顔は随分と明るくなっていた。

「調子が良さそうだな。」

「え？」

「その顔だよ。昨日はまたどんな令嬢を誘惑していたんだ？」

オルンは困惑した表情を浮かべた。

「誘惑だなんて。私はいつも真実の愛だけを求めているんですよ。」

「真実の愛が随分と頻繁に変わるようだな。一ヶ月に一度は変わるんじゃないか？」

もともとオルンは社交界の花形だった。

マリがいた頃は、彼のそんな行動が度を越すことはなかったが、最近では特に制限なく自由奔放に振る舞っていた。

「決裁する書類を出してくれ。」

「こちらです。」

オルンは行政部から持ってきた書類を提出しながら、慎重に言った。

「ところで陛下、私の辞表はいつ処理していただけるのでしょうか？」

ラエルはその言葉に眉をひそめた。

戦後の処理が終わると、オルンは財相職を辞退する意向を示していた。

自分にできることはすべてやり終え、これからはもっと有能な人材が新たな帝国の建設に力を注ぐべきだという理由で。

「……結局、遊びたいってことだろう。」

ラエルは即座にその辞表を火にくべて焼き捨てた。

彼の目にかなわない内容だったのだ。

これほど忙しい時にオルンだけが楽をしようとしているのが許せなかった。

「辞表なんてくだらない話はやめて、南部地方に送られた書類でも処理してくれ。」

何だかんだ言っても、オルンの能力は帝国には必要だった。

オルンは西帝国のヨハネフ3世やストーン伯爵のように抜群の機知と卓越した行動力を持っていたのだ。

オルンの本当の強みは統治（内治）にあった。

民衆の生活を見守り、安定した国家運営に卓越した能力を持っていた。

オルンは辞表を受理してほしいと何度も頼み込んだが、ラエルは耳を貸さなかった。

ラエルは大きくため息をつきながら考えた。

「辞表を出したいのは、きっと私自身だ。」

ふとそんな考えがよぎった。

もし辞表を出せば、彼女とずっと一緒にいられるのではないかと。

このように思うほど彼女に会いたくて恋しかった。

「誕生記念祭の準備はうまく進んでいるか？」

「はい、順調に進行しております。」

「モリナ国王はもう出発したのか？」

オルンはうなずいた。

「はい、先ほど出発したという伝令が届きました。」

ラエルは窓の外を見つめた。

彼女がやってくる方向はクローアン方面だった。

早く彼女に会いたかった。

もうすぐ会えるはずだが、その待ち時間さえも切なかった。

こうしてラエルは彼女が到着する日を待ち望んでいた。

一日、二日。

数日が過ぎる前に、待ちきれなさと焦りが極限に達した彼は席を立ち上がった。

「もう駄目だ。私が先に迎えに行く。」

「え？まだ国境も越えていないと思いますが。」

近衛騎士団長アルモンドが控えめに言った。

「国境で会おう。今すぐ出発すれば、ほぼ同じくらいのタイミングで国境に到着できるだろう。」

アルモンドは困惑した表情を浮かべた。

「国境はかなり遠いです。あと数日待てばここでお会いできますので、少しお待ちになられては……。」

「こんなに待ったのに、もう半年だぞ。これ以上は待てない。このままだと私は死んでしまう。」

ラエルは強い声で断言した。

皇帝の決断を誰が止められるというのか。

二人が互いに恋しく思っていることをよく知っているアルモンドは、それ以上反対できなかった。

「わかりました。それでは準備を整えます。」

「準備に何が必要か。すぐに出発できるようにしろ。」

「……陛下。」

アルモンドは止められないと悟ったように、深くうなずいた。

彼の主君がかつて“血の皇太子”と呼ばれた人物だということを思い出した。

「出発する！」

こうしてラエルと彼を護衛する騎士たちは国境の駐屯地へ向けて出発した。

彼女を迎えるために。

「マリ、マリ。」

ラエルは馬を走らせながら何度も彼女の名前を呼んだ。

ついに彼女に会えるという事実に胸が張り裂けるように高鳴る。

しかし、国境の駐屯地に到着する直前、彼は信じられない知らせを耳にした。

「今、何と言った？」

ラエルの表情が険しくなった。

「モリナ国王が拉致されたと？」

伝令としてやって来た騎士は動揺した様子で答えた。

「はい、陛下。そして犯人が書簡を残していきました。」

書簡の内容を見たラエルは、顔をしかめた。

「数日だけ猶予をいただきます。彼女だけを見つめる向日葵が。」

文面からも感じられる嘲弄的な調子。

ラエルはすぐに犯人が誰なのか察した。

彼はその犯人の名前を噛みつくように叫んだ。

「ヨハネフ3世、あの野郎……！」