こんにちは、ちゃむです。
「できるメイド様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

236話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 和平への道④
ラキは冷笑を浮かべた。
しかし、集会場に到着すると、彼の目は大きく見開かれた。
想像もしなかった事態が広がっていた。
「なぜためらっているんだ?」
ハメル男爵は剣を握りしめたままラエルを狙っていた。
ただ、圧倒的な数の部下を従え、攻撃命令を出せばすぐにでも首を討てる状況であったにもかかわらず。
「なぜ黙っているのですか? あの血の皇帝は王国の宿敵です。今すぐその首を落としなさい!」
だがハメル男爵は呆然としたままラエルを見つめ続けるだけだった。
「一体誰がそんなことをしたのか?お前の仕業か?」
「はい?」
ラキは問い返した。
「誰が陛下の体を傷つけるような真似をしたというのだ!」
「……!」
その時、ラキはハメル男爵が見ていたのがモリナであることに気づいた。
「騎士の中で小さな問題が発生しました。致命的な負傷ではありませんが……」
「小さな問題?陛下が傷を負われたのに、それが小さな問題だと言うのか?」
ラキは戸惑った。
何かが明らかにおかしな方向へ進んでいる。
彼は冷静さを取り戻し、慎重に話し始めた。
「今はあの悪魔、帝国の皇帝を討つことが最優先です。お忘れですか? あの悪魔がかつて王国にどれだけの血を流させたかを!」
ハメル男爵は口を固く結んだ。
この場面でラキの挑発に乗ってしまったのは確かだったが、彼自身もまた帝国の侵攻で全てを失った人物だった。
深い怨念が彼を支配し、皇帝を討つという言葉に前後の見境を失っていた。
しかし・・・。
『これは一体どういうことだ? 今、自分は何をしようとしている?』
ハメル男爵の瞳が揺れ、涙が溢れた。
そして、彼と共に行動していた騎士たちもまた動揺し、ラエルの腕の中で血を流しながら横たわる彼女の姿を見つめていた。
倒れているモリナの姿が彼の胸に深く刻まれた。
彼らは怨恨を晴らすために動いていたのであり、貴重な王を傷つけようとしたわけではない。
『目に何かが霞んでいたのか?俺は一体……』
血にまみれたモリナの姿を見た瞬間、夢から覚めるように彼の意識がはっきりした。
もし彼らがラエル皇帝を殺せば、彼女もまた命を落とすことになる。
それだけではない。
多くの王国民が血を流す結果となるだろう。
『陛下。』
ハメル男爵の頭の中に、これまで彼女が献身してきたことが思い浮かんだ。
彼女はただ王国のために犠牲を払ってきたのだ。
それなのに、彼らは彼女を裏切ったのだ。
ただ復讐のためだけに。
場の緊張が頂点に達していると感じたラキが、急に声を張り上げた。
「今、何をしているのですか? あの悪魔のせいで流された王国民の血と涙を思い出しなさい!」
ハメル男爵をはじめとする騎士たちは、拳を握り締めた。
復讐心とモリナに対する罪悪感が衝突していた。
その時だった。
ラエルの腕の中で、モリナが呻き声を漏らした。
彼女はまだ息をしていた。
細々と命を繋いでいるように見えた。
「マリ!」
ラエルの顔は青ざめていた。
できる限り早急に適切な治療をしなければならなかった。
『しかし、この状況でどうやって治療を……』
彼は一瞬考え込み、すぐに決断を下した。
ガチャリ!
全員が驚いて目を見開いた。
ラエルが剣を地面に投げ捨てたのだ。
「ただ俺を殺せ。」
「……?!?」
「こんな風に躊躇している時間はない! 俺の命より彼女の命の方がはるかに大事だ、早く彼女を治療しろ。早く!」
猛毒が使われたのか、マリの状態は急速に悪化していた。
時間との戦いであり、すでに手遅れになりつつある。
もしこの場で対応を間違えれば、最悪の事態になることは明白だった。
ラエルは、この状況を前にして、自らの命を投げ打ってでも彼女を救うことを選んだ。
「早く!」
しかし、なぜだろう?
ハメル男爵はむしろさらに動けなくなり、前に進むことができなかった。
夢にまで見た復讐の瞬間であるにもかかわらず、このまま彼を殺してしまってはならないような気がした。
彼が躊躇している間に、焦ったラキが口を開いた。
「モリナ陛下を案じているのであれば心配いりません! 毒の解毒剤は私が持っています。だから……!」
そこまで話したラキは急に言葉を飲み込んだ。
ハメル男爵がラキを振り返った。
男爵の目は冷たく鋭い光を放っていた。
「今、何を考えている……?」
「黙れ。この悪魔。」
ハメル男爵は静かにラキに言い放った。
その言葉にラキの瞳孔が縮み、男爵の攻撃を防ぐ間もなく矢を受けた。
ズガン!
矢がラキの頭を貫いた。
人形が壊れるように倒れ込んだラキ。
彼が抱えるストーン伯爵の陰謀の結末は、虚しい最期となった。
・
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「早く解毒剤を探して陛下に投与するのだ!」
「はい!」
兵士たちはラキの身体を調べて薬を見つけ出した。
幸いにも解毒剤はすぐに発見され、王国軍はラエルの腕からモリナを受け取り、解毒剤を飲ませた。
効果があったのか、モリナの容体はそれ以上悪化することはなかった。
追加の迅速な治療を施した後、ハメル男爵はラエルを見つめた。
「……」
ラエルは自分の命が脅かされていることに気づいていないのか、倒れたモリナだけを見つめていた。
不安げな眼差しで。
「私を殺すつもりか?」
ハメルの視線に気づいたラエルが問いかけた。
ハメルは歯を食いしばる。
その瞳には再び怒りの炎が宿った。
ラエルは寂しげに笑った。
全ての道が塞がれ、逃げ場がなくなった今、どうすることもできなかった。
ハメル男爵が彼を殺すというなら、それも仕方のないことだと思った。
しかし、ハメル男爵は意外にも涙を流した。
「死ぬのは怖くないのか? 私は今すぐにもお前を殺すことができるのだぞ。」
「怖くはない。今までに多くの血が流れたのだから、こうした罰を受けても仕方のないことだ。」
ラエルは静かに語った。
「ただ、彼女と一緒にいられないのが惜しいんだ。いや、私がいなくなって、彼女が苦しむ姿を思うと、それが心配なんだ。」
ラエルはそう言いながら彼女を見つめた。
その目は深い哀しみに満ちていた。
ハメル男爵は剣を構えた。
「あなたのせいで、我が王国でどれだけの血が流れたか、分かっているのか?私の周りの多くの人々が、あなたのせいで死んでいったんだ。」
「……」
「神は許しを強要されるが、私には到底無理だ。私は永遠にあなたを許すことはできない。」
ラエルは口を閉じたまま、じっと動かない。
それは彼の背負う血の重みだ。
後悔の念を抱えながら生きてきたが、それでも永遠にその罪から逃れることはできなかった。
ラエルは目の前のハメル男爵の瞳を見つめながら、自らの死を覚悟した。
彼女と永遠に共にいたいと願ったが、それを回避する方法はなかった。
その時、ハメル男爵は予想外の行動に出た。
ガシャーン!
岩の上に剣を振り下ろし、自分の剣を粉々にしたのだ!
ラエルはその突然の行動に目を見開いた。
ハメル男爵は心を引き裂かれるような表情で言った。
「もう一度申し上げますが、私はあなたを殺したい。ズタズタに裂かれて死んだ者たちの復讐をしたいのです。」
ラエルは無言でその言葉を聞いた。
ハメル男爵は両手で自分の顔を覆った。
その体には深い絶望が刻まれていた。
「本当に……本当にあなたを生かしておきたくない。しかし……どうして陛下を苦しめることができましょう?陛下は我々のために全てを犠牲にしてきた方なのに。」
ハメル男爵は王座にいる彼女の姿をじっと見つめた。
ただ国民のために犠牲を払ってきた彼女だ。
どれほど復讐を望んでも、彼女を裏切ることなど到底できなかった。
「……呪われろ。復讐も……復讐も……くそったれが。」
結局、復讐を諦めたハメル男爵は、吐息のような呟きを漏らした。
それはまるで涙を飲み込むかのような苦しげな言葉だった。
ラエルは口を固く結んだ。
この瞬間、どんな言葉も全て無力に過ぎないと感じられた。
室内には重苦しい沈黙が漂った。
ハメル男爵と、彼と共にいた騎士たちは歯を食いしばりながら悲しみに沈んだ。
しかし、その時だった。
震える声が彼らの耳に届いた。
「男爵……そして騎士たち……」
「陛下!」
それはマリだった。
解毒剤を服用し、かすかな意識を取り戻した彼女が、青白い顔で彼らを見つめていた。
「ご無事ですか?!」
マリは震える体を起こし、懸命に頭を下げた。
実際、指一本動かすのも困難な状態だったが、それでも彼女には伝えたい言葉があった。
「皆さんの気持ち、分かります。ですが……私が皆さんの心を裏切ったことをお詫びします。」
彼女は震えながらも力を振り絞って言葉を続けた。
「それでも少しだけ私を信じていただけませんか?私……最善を尽くします。皆さんの今日の決断が、復讐よりも遥かに価値のある結果へと繋がるように。いつか振り返ったとき、皆さんが後悔しないように……。」
マリはゆっくりとラエルに向かって手を差し出した。
「……必ずやり遂げます。一緒に……。」
ラエルは彼女に歩み寄り、差し出された手を握った。
そして周囲に向けてこう言った。
「何を言おうとも、あなたたちの心を完全に癒すことはできないかもしれない。だからこそ、無駄な約束はしない。ただ一つだけ誓う。」
「……。」
「クローヤン王国は、今後、国婚を通じて結ばれるあなたたちの王国に対し、常に真心を持って接します。だから遠い未来、両国の民が今のような恨みに囚われることなく、共に幸せになる日が来るよう努力します。」
ラエルの言葉に、彼らの心が少しずつ動かされていくのが見えた。
簡単な言葉で心が動くとは思えなかった。
深い深い恨みが根付いていたからだ。
それでも彼の言葉は真心からのものだった。
これまで帝国民に対して罪悪感を抱えながら生きてきたように、王国の人々にも同じ気持ちを抱えていた。
「……。」
二人の言葉を聞いたハメル男爵と騎士たちは静かに口を閉じた。
どれほどの時間が流れたのだろう?
ハメル男爵は涙を流していた。
彼だけではない。
それぞれの恨みを抱え剣を振るっていた騎士たちも、熱い涙を流していた。
「陛下、正直に申し上げます。私はまだ皇帝を許すことはできません。しかし!」
ハメル男爵は膝をついた。
「他のことは分かりません。ただ、陛下だけは信じます。」
他の騎士たちも一緒に膝をつき、頭を垂れた。
「陛下に従います。」
短いながらも誠意のこもった言葉だった。ラエルとマリは互いに目を合わせた。
ついに二人の間を隔てていた最後の障害も終わりを迎えたのだ。







