こんにちは、ちゃむです。
「オオカミ屋敷の愛され花嫁」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

46話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 処罰
「……だから何?」
イベリンは深刻でもない空気の中で指先だけをいじりながらつぶやいた。
確かにパパが言ってた。
ケンドリック様は「新しい一族の女の子」が大嫌いだって。
だからちょっとからかってみただけ。
だけど。
あの子がいなくなったことで、エクハルト家の雰囲気は一変した。
宴は当然中断され、すべての使用人がリンシー・ラニエルを探し回っていた。
そして――
「イヴェリン様、ケンドリック様がお呼びです。」
丸い眼鏡をかけたエクハルト家の執事が、イヴェリンをケンドリックの執務室へと連れて行き、すぐに姿を消した。
イヴェリンは執務室にひとり残され、ドレスの裾をいじっていた。
『こんなはずじゃ……』
ただ、あの子が泣く姿を見たかっただけなのに。
新種族の主にして、狼族の首長家門であるエクハルト家の一員になるのが嫌で。
そのとき。
バタンと扉が開き、イライジャ侯爵と侯爵夫人が蒼白な顔で慌てて入ってきた。
「お母さま!」
イベリンは侯爵夫人の姿を見るなり、「うわーん!」と泣き出した。
侯爵夫人は自分のわがままな娘を抱きしめたまま、慌てて尋ねた。
「どうしたの、イベリン?ん?何があったの?」
「ちがうの、私は、ただ……」
バタン。
扉が再び開き、ケンドリック・エクハルトが姿を現した。
イライジャ侯爵夫妻とイヴェリンは、じっとケンドリックの顔を見つめていた。
ケンドリックは泣いているイヴェリンとイライジャ夫妻の様子を見て、ゆっくりと口を開いた。
「みっともないな。」
すると泣いていたイヴェリンとイライジャ夫妻の口は、強制的に閉じられた。
一族の首長の権限で行使できる「言令」だった。
ケンドリックはその言令を滅多に使わなかった。
言令を使ったということは、それだけ今回の状況に激怒しているという意味でもあった。
彼は彼らの口をすべて強制的に閉じたのだ。
ゆっくりとソファに腰を下ろした。
そして――
「この出来事を、私がどう受け止めるべきか、イライジャ侯爵のご令嬢、説明してもらおうか。」
ケンドリックの言葉が落ちると、固く閉じていた侯爵の口がゆっくりと開いた。
ようやく話せる状況になったのだ。
「え?いえ私は、これは一体どういう状況なのか……」
「やめなさい。」
再び、イライジャ侯爵の口が強く閉じられた。
「それじゃあ君が言ってみなさい。イライジャ嬢。」
「え?いえ、あの、私はただ……」
「お前が使用人の姿で現れてリンシーを脅かしたと聞いたが、私が聞いたのは本当か?」
ケンドリックの口から出たその言葉に、イライジャ侯爵夫妻の顔色は真っ青になった。
「え?いえ……脅かしたわけでは……」
「アンシア嬢がそう言っていた。お前が現れて、リンシーに向かって牙を剥いたと。」
乾いた声には、どんな感情も同情も含まれていなかった。
まるで小鹿のようにぶるぶる震えていたイヴェリンが、ようやく口を開いた。
「は、はい……。わ、私がやったのは本当です。でも……」
「それで?」
「……でも、その、ただ。私はちょっとからかっただけで……」
イベリンは、自分のドレスの裾を握って友達ごっこをしようとしただけのいたずらだったと、しどろもどろに弁明した。
黙って聞いていたケンドリックが口を開いた。
「最近は友達に噛みつこうとして脅すのが流行りなのか。」
イベリンはすぐに口をぎゅっと閉じた。
はあ。
その様子をただ見ていたケンドリックはため息をついた。
イベリン・イライジャは、自分の知る限りでは今年で十歳だった。
それなのに、まだこんなにも分別がつかないとは。
いくらイライジャ家で甘やかされて育った一人娘とはいえ、ここまで分別がないとは。
ケンドリックは、ぽろぽろと涙をこぼしているイヴェリンを冷たく見つめながら言った。
「4か月間、邸宅で雑用をすること。そして心から謝るように。」
“雑用”という言葉に、イヴェリンは目を丸く見開いた。
4か月間雑用をするというのは、4か月間イヴェリンが下働きとして扱われるという意味だ。
パーティーにも行けず、誰かを邸宅に招くこともできない。
10歳の少女には、かなり厳しい罰だった。
「や、やめてよ……ひっぐ!パパがケンドリック様が、新しい一族の子どもを嫌っているって言ってたんです!」
堪えていた涙を飲み込んでいたイベリンが、ついに泣き出した。
「だから、だからちょっとからかっただけなのに、どうしてそんな大ごとに!!」
イベリンはその場にうずくまり、わんわん泣き始めた。
その様子を見つめていたケンドリックの眉がぴくりと動いた。
「これはどういう意味だ?」
「え?いや、イベリン。パパがいつそんなことを言ったんだ!」
「言った!言ったもん!!うぅ、パパが書斎で話してるの全部聞こえたんだから……」
イヴェリンの爆弾発言に、イライジャ侯爵夫妻の顔色が青ざめた。
「い、イヴェリン。その話は何?聞き間違いでしょ?」
「違うの、聞き間違いじゃないよ……。本当にパパがそう言ったの!それにママも言ってたよ、新しい一族とは、ひっく、うう、遊んじゃダメだって……。」
イライジャ侯爵夫人は慌ててイヴェリンの口を塞ごうとしたが、間に合わなかった。
その言葉を静かに聞いていたケンドリックが口を開いた。
「私が見るに、イライジャ侯爵、あなたの子供に問題があるようですね。」
ケンドリックの視線が蒼白になったイライジャ侯爵の顔に鋭く突き刺さった。
「自分がエクハルトの子女であることを軽んじているから……だからあのように分別もなくこんなことをやらかすのだ。」
「ケンドリック様!そういうわけでは……」
「イライジャ侯爵、そなたも当面は謹慎せよ。処分は後ほど決める。」
ケンドリックは外に控えていた騎士たちを呼び入れた。
「連れて行け。」
騎士たちはイライジャ侯爵夫妻とイベリンを執務室から連れ出した。
イベリンは「ごめんなさい」とわんわん泣いて謝ったが、どうにもならなかった。
ケンドリックはその光景を見つめながら、冷静さを保っていた。
『新しい一族の子リンシーを、狼族の貴族たちが敵視するだろうとは思っていたが……』
一時的に用事があって宴会場を空けたことが、大きな失敗だった。
まさかリンシーを紹介する宴の場で、その子を誘拐するとは。
ケンドリックはため息をついた。
だが少しおかしい点があった。
『あの倉庫にはどうやって入ったんだ?』
エクハルトの地下室には使われていない空間のほうが多かった。
その倉庫もまた然りだった。
『明らかに使われていない場所だ。』
地下室の奥深くにあるその倉庫は鍵をかけておくよう指示したことがあった。
どうせ他にも倉庫は多く、そんな奥まった場所まで使うことはないだろうから。
だから使用人たちが宴会の準備をしながら開けておいたはずがない。
倉庫の鍵をかけて必要な物はすべて取り出しておいたので、中にあるものといえば雑用品が数個あるだけだった。
なのに、リンシーはどうやって入ったのだろうか。
地下室の倉庫には換気口のようなものもなく、必ず扉を通らなければ入れない。
ということは、扉が開いていたということか。
一体なぜ?
どれだけ考えてもおかしかった。
加えて、ケンドリックとアルセンが到着したときには扉が閉まっていた。
だとしたら、誰があの子を連れて行ったのか?
そこまで考えたケンドリックの眉間が深く寄った。
理解できない矛盾だ。
さらに。
『異能もちゃんと使われていなかった。』
エクハルトの異能は「影絵師」。
つまり、影絵師が自由に活動できる暗い場所であればすべてケンドリックの掌中という意味だ。
──それなのに、リンシーを見つけるのが思ったより遅れてしまった。
地下室にいたなら、異能を使ってあの邸宅全体を調べたその瞬間に、すぐに発見されていたはず。
暗い地下室ほどケンドリックの異能を使うのに適した場所はないのだから。
『でも見つけられなかった。』
ケンドリックの異能が、リンシーがいる倉庫まで届かなかったわけではない。
何らかの理由でリンシーが閉じ込められていた倉庫が一時的に遮られていたと見るべきだった。
ケンドリックは自分の膝を指先で軽く叩いた。
そして、扉の前で倒れていたリンシーを思い浮かべた。
『もう少し遅れていたら。』
本当に大変なことになるところだった。
自分とアルセンがすぐに見つけたからよかったものの……。
──待てよ。
『アルセン?』
ケンドリックが細めた目を見開いた。
アルセンはどうやってリンシーがいる場所を見つけたのだろうか。
リンシーが閉じ込められていたのは、長らく使われていなかった深い地下の倉庫だった。
エクハルトの地下室は広くて深く、まるで迷路のようで、使用者たちですら道に迷うことがしばしばある場所だった。
それなのに、そんな広くて深くて暗い地下室で、リンシーが閉じ込められている部屋を正確に見つけたというのか?
そこまで考えたケンドリックの口元に笑みが浮かんだ。
見つけたんだな。
ケンドリックはゆっくりと体を起こした。
「ストレスのせいで倒れられたようです。異能が不安定です。」
ヘロンは心配そうな視線でリンシーを見つめながら言った。
小さなひな鳥は巨大なベッドに横たわりながら、静かに呼吸していた。
ヘロンの目には、リンシーの小さな体の中で微かに動いている異能が見えた。
薄い光を放つ能力。
いつもリンシーの周囲を温かく包み込んでいたその能力は、今やリンシーを飲み込もうとするかのように動いていた。
『ただ驚いたからそうなったにしては、少しおかしい……』
能力の流れが正常ではなかった。
つまり、何かがこの能力を無理やりリンシーの体内に閉じ込めたようにも思えた。
そのとき、アルセンがヘロンを見上げながら尋ねた。
「それで、いつ目を覚ますの?」
「え?それは私にも……、わかりません。一応、健康上の問題はないので、待ってみるしかないでしょう。」
ヘロンは眉をひそめたまま、死んだように眠るリンシーを見ながら言った。
「……まさか目を覚まさないわけじゃないよね?」
アルセンが慎重に尋ねた。
演習のためにきちんと整えられていた髪の毛が、いつの間にか乱れていた。
ヘロンは心配しないでと言わんばかりに微笑んだ。
「心配しないでください、すぐに目を覚まされるはずです。私はこれで失礼します。坊ちゃまももうお帰りください。無理すると倒れてしまいますよ……あれ?」
荷物を片付けながら穏やかに話していたヘロンの目が大きく見開かれた。
驚いた視線がアレセンの膝に止まり、それが下に落ちて胸元に止まった。
「……坊ちゃま?」
「なぜ。」
アルセンが淡々と答えた。
ヘロンはカバンをぽんと落としたまま、指先で自分の目をこすった。
『夢か?』
少し前に見たときまでは、アルセンはまだ能力を発現していなかった。
そして……これからも発現しないだろうと考えていた。
アルセンには、か弱くて繊細なご令嬢の身体の中に、何の力もなかったから。
なのに。
アルセンの身体の中でうごめくあの力は、いったい何なのか。
「能力を、発現されたのですか?」
ヘロンはぶるぶると震えながら尋ねた。
アレセンの体の中で黒い異能がうごめくのが見えた。
かすかで弱々しいが、
明らかに異能だった。
ヘロンの問いかけにアレセンが「あ」と口を少し開けて喉を鳴らした。
「うん。」
アレセンが手を開いた。
すると手のひらの中で黒い光が揺らめいたのが見えた。
ヘロンは信じられないというようにもう一度目をこすってアレセンを見つめた。
そのとき、
バタン。
部屋のドアが開くと、アルセンとヘロンが同時にドアの方へ首を向けた。
ドアのところにケンドリックが立っていた。
「アルセン。」
穏やかに息子の名前を呼んだケンドリックは、アルセンの手の中でゆらめく光を見て微笑んだ。
「ご当主様!ご当主様、坊ちゃまが……!」
「能力を発現したのか?」
ヘロンが興奮した様子で首をかしげた。
そんなことが、あり得るのか?
いや、ほとんど不可能に近いことだった。
アルセンは本当に命をつなぎとめているだけの子だったのだから。
古代の呪いを全身に抱いているか弱き坊ちゃま。
あがいて生き延びることがすべてだと思っていた。
そのとき、ケンドリックがそっと近づき、アレセンをそっと抱き上げた。
「いつ発現した?」
「……さっき、リンシーを見つけた時に……。」
アレセンがうつむいたまま答えた。
アレセンの手のひらの上にあった黒い光がうごめいていたが、すぐに止まった。
「リンシーを見つけたいと思ったから……。」
アレセンの言葉が終わるか終わらないうちに、黒い光が再び動き出し、再び狼の姿をとった。
少しだけ狼に変身した影は、自然とアルセンの手を離れ、横たわっているリンシーの隣に行って座り、しっぽを振った。
「だからああいうのが、生まれたんだ。」
ケンドリックはその様子をじっと見つめた。
ヘロンとケンドリックは一瞬、意味深な視線を交わした。
だが、アルセンの前では表情に出さなかった。
「よくやったよ、アルセン。もう休んでいいよ。」
「やだ、リンシーといたい。」
「リンシーにも休む時間が必要だよ。すぐにまた会えるから心配せずに、行って休んでおいで。」
ケンドリックがクロエを呼ぶよう命じると、ほどなくしてクロエがドアをノックした。
「坊ちゃま、もう行きましょう。お嬢様にご挨拶なさってください。」
心痛に耐えるように唇を固く結んでいたアレセンが、ついにおずおずとリンシーの方へ歩み寄った。
そして眠っている雛鳥をじっと見つめながらささやいた。
「早く起きなきゃ。」
アレセンは未練を残すように横たわっているリンシーをしばらく見ていたが、やがてとぼとぼと歩き出した。
そのとき、リンシーの尻尾がほんの少し動いた。









