こんにちは、ちゃむです。
「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

103話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 動揺②
玄関で待っていた馬車に戻ると、メロディはまずクロードに一番気になっていたことを尋ねた。
どうやって自分がそこにいると知ったのかと。
「馬丁に尋ねたら、1時間後に戻ると言ってたって聞いたんです。長居はしないだろうと思って。」
彼は馬車のドアを閉めたあと、向かい側の席に座って、肩をすくめた。
「もしかして、余計なことでしたか?」
メロディは軽く首を振った。
「いえ、坊ちゃんのご判断は正しかったです。息が詰まりそうだと感じていたので。」
メロディは、もしかして彼が他の貴族について失礼にならないように、メロディは慎重に言葉を付け加えた。
「もちろん、皆さんとても親切にしてくださいました。行き過ぎた関心を除けば、本当に素敵な方々でした。」
「行き過ぎた関心というのも、ある意味貴族たちの美徳ですよ。どこでも互いの注目を引きたくて競争するくらいですから。皆、メロディさんを主役にしてあげたくて一生懸命だったんですよ。」
「でも、私は主役の座なんて望んでいないんです。」
「分かっています。」
彼は馬車を走らせながら、もう一度メロディを見つめた。
「だから僕が来たんです。」
「助けていただいて、本当にありがとうございます。」
「僕の喜びですよ。」
彼がそう笑うと、メロディはいつの間にか彼と以前のように自然に話している自分に気づいた。
しばらくの間、なぜか恥ずかしくて目を合わせられなかったのに。
「それで一体、彼らはどんな言葉でメロディ嬢を困らせたのですか?」
彼が軽い口調で尋ねると、メロディは恥ずかしそうに視線を落とした。
「言わないでください。全部、前回の冗談のせいなんです。」
「冗談って、ミルトン家の?」
「そうなの!私がものすごくロマンチックなプロポーズを受けたって噂が広まってるんですって!」
「……まさか、本当ですか?」
「まさか!」
メロディは両手をぎゅっと握りしめて、力強く言った。
「スチューがデマを流してるんです。絶対にこのままにはしません!」
「……スチュー?」
「スチュアート・ミルトンをそう呼んでるんです。あだ名ですよ。とにかく今はそれが重要じゃなくて――」
「え……?メロディ嬢、それって……彼のことをあだ名で……?」
クロードは衝撃を受けた顔で問い返したが、メロディは動じることなく話を続けた。
「実は、スチュアートと話していたのは、私刑的な賭博をやめさせるにはどうしたらいいかという話だったんです!もちろん彼はその話をしたわずか一日でギャンブルに舞い戻ってしまいましたけど!どうしてそんなのがロマンスになるんですか?!」
「……」
「ひどいでしょ?そうですよね?なのに私にロマンチックなプロポーズをされたとか噂を流してるんですよ。ひどすぎます!みんな私がどんな言葉をかけられたのか気になってるのに、説明しなきゃいけないじゃないですか!」
メロディは抑えきれない不満を吐き出した。
こうして思っていることを全部話して、胸のつかえが取れたような気もした。
……でもクロードの反応は、どこかおかしかった。
彼は何かを考えているようで、目だけがキラキラと揺れていたのだ。
もしかして私の話に、変なところでもあったのかな?
「……坊ちゃま?」
彼は一瞬目を細めたが、すぐに微笑みながら首を振った。
「大丈夫です。ただ、ちょっと驚いただけです。」
「驚いた、って?」
「メロディ嬢が誰かをそんなふうに親しげに……呼ぶのを初めて見たものですから。」
そう言われて、メロディは少しの間、自分が周囲の人たちをどう呼んでいたかを思い返してみた。
多少の違いはあったが、確かに愛称で呼んでいた人はいなかった。
「言われてみれば、そうですね。初めて知りました。」
「まさか、その人もメロディ嬢のことを遠慮なく呼び捨てにしているわけではないでしょう? そ……そんなに距離が近い感じで。」
どこか寂しさを帯びたその問いに、メロディは「まさかです」と言いながら目をそらした。
「そんなふうに気安く呼ばれるのは、おそらくイサヤ様だけでしょう。たぶんこれからもずっと。」
「うん。」
彼は少し視線を逸らし、窓辺に寄りかけて腕を組んだ。
道が悪かったのか、馬車がガタガタと揺れ始めた。
そしてしばらくして、空中に浮かんでいた車輪が床にドンと落ちたとき——
「……いいですね。」
メロディの耳に、彼のかすかなつぶやきが届いた。
だが彼女は、はっきり返事を返すことはできなかった。
そのつぶやきが、たまたま耳に入ったものか確信が持てなかったし、仮にそうだとしても、独り言に返事を返すのは変ではないかと思ったのだ。
メロディはただ、手袋を外して膝の上に置いた手を見下ろした。
『そういえば。』
ようやく気づいたのだが、彼らは今、メロディが普段使っている小さな馬車に乗っていた。
『この馬車、坊ちゃまにはちょっと窮屈かも。』
メロディは普段、他の男性と身長を比べることなどなかったが、彼は他の平均的な成人男性よりも頭ひとつ分ほど背が高かった。
以前、ロゼッタが「私がどこにいるかわからなかったら、お兄ちゃんのキラキラした髪の毛を探せばいいのよ!」と言っていたことを思い出すくらいだ。
そのため、メロディの心配は的中し、二人の膝はほぼ触れそうな距離にまで近づいていた。
さらにクロードは、なんとかメロディに窮屈な思いをさせないよう、背もたれにぴったりと寄りかかるような姿勢で座っていた。
『だいぶ窮屈そう……どうしよう。』
メロディは、自分の足をもう片方に少しずらして、彼が楽に足を伸ばせるようにしようかと考えた。
しかし、その不快感を表に出さないように努力している彼の気遣いを無視するような気がして、どうしてもそのままにしておくしかなかった。
考えが少し長引き、彼女がふんわりとしたドレスの裾を指先でいじっていたそのとき——ひらひら揺れるレースの端が彼の膝元にふわりと触れてしまった。
薄暗い車内で、窓辺にもたれた彼の服の上に、真っ白なレースの端がくっきりと映っていた。
メロディはすぐにドレスの裾を引き戻したかったが、窓の外をじっと見つめているクロードの姿に圧倒され、動けなかった。
もし彼が「何かあったのか」と尋ねて、視線を向けてきたら、とても気まずくなりそうだった。
たかがレースが触れたというだけで騒ぎ立てていたら……。
どうしたらいいか考えを巡らせたメロディは、彼の服にかかったレースから目を逸らし、「こんなこと、何でもない」と自分に言い聞かせた。
顔を上げると、依然として窓の外を見つめている彼の横顔が目に入った。
無表情ではあるが、どこか深く何かを考えているように見えた。
もしかすると、サミュエル公爵に関することを考えているのかもしれない。
あの件については誰よりも真剣だったのだから。
そんなとき、ふと彼の耳元にきらりと光るものが目に留まった。
小さな緑色のイヤリングだった。
『きれい。』
その瞬間、メロディは確信した。
あれは間違いなく、宮廷の一流職人たちが欲しがるほどのものだ、と。
彼の横顔を見た人なら誰でも、同じものが欲しいと思うだろう。
『でも、あんなに似合うのは公爵様だけかもしれない。』
最初はただのシンプルなイヤリングがきれいに見えたのは、クロードの耳から首にかけてのラインがすらりと長く、美しかったからだ。
『……ちょっとときめくくらいね。』
今日は曇り空で日差しの少ない日だったが、それでも彼のまわりにはなぜか光が差しているように見えた。
きっとそれは、彼の明るい金髪のせいだろう。
いや、もしかしたらその澄んだ青い目のせいかもしれない。
そのあまりに気品ある色合いは、誰もが彼に目を奪われるほどだった。
おかげでメロディをうらやむ者もいた。
クロード・ボルドウィンがどこにいても彼女を気遣い、大切にしている姿を見せてきたからだ。
それは夢のようで、メロディも思わず胸が高鳴るほどだった。
――だが、彼女はヒギンズである。
だからそんなことで心をときめかせてはいけないのだ。
彼女は少し前に聞いた言葉を思い出した。
私の手を特別に大切にして気遣うのは当然のことなのです。
その当たり前の言葉に、どうしてか妙な気持ちを抱いたのは、きっとメロディがほんの少し――
『……違う想いを抱いてしまったから、なのかな。』
しかし、彼女はすぐに「違うわ」と唇をきゅっと結んだ。
『あの美しい主従関係に他の感情を持ち込むことは、二つの家門に対する侮辱と変わりない!』
それはあまりにも極端な考えだった。
彼と彼女の間には、長い年月を経て築かれた二つの家門の厚い信頼と堅固な主従関係があった。
その特別な親しみや、過度に近しい関係を勘違いして、別の想いを抱くなどというのは明らかな過ちだ。
さらに、その過ちは、自分を引き取ってくれた両親を裏切るのと同じだと思った。
そんな感情を無理にでも育てる……ことはできなかった。
「……」
メロディはそっと視線を彼から外し、窓の外を見るふりをした。
屋敷に着くまでは、このままの態度でいる方がよい。
彼の目に映らなければ、少なくともこの奇妙な考えからは逃れられるかもしれないから。
…だろうというのは、完全な思い込みだった。
彼を視界に入れないようにしても、このように狭い空間で一緒にいるという事実から意識を逸らすことはできなかった。
さらに妙なことに、静かな馬車の中では、二人の衣擦れの音がずっと聞こえていた。
異なる質感の布地が擦れ合うようなかすかな音に、メロディは思わず耳を澄ませてしまった。
そしてうなじのあたりをくすぐるような、わずかなむずがゆさが込み上げてきた。
どうしてこんなことに?
本当にたいした音でもないのに。
普通なら気にも留めないような、極めて小さくささいなことだったのに……。
ついにメロディはそれに耐えきれず、自分の脚を馬車の座席ごとくるっと回してしまった。
彼がこちらを見て尋ねると、メロディは少し照れくさそうに笑いながら答えた。
「坊ちゃんが窮屈そうだったので。」
「気を使わせてしまいましたね、ごめんなさい。」
幸いにも彼は、ドレスの裾がこすれた音のようなものには気づいていなかったようだ。
とても丁寧に謝ってくる様子を見るに、それは確かだった。
メロディはなぜか申し訳ない気持ちになり、そっと目を伏せた。
「いえ、私の馬車がちょっと狭いだけです。」
「僕は可愛いと思いますよ。メロディさんの馬車。」
馬車が可愛いだなんて。
その妙な言葉のおかげで、メロディは以前に彼からかけられた
「可愛くて仕方ないですね」という言葉を、別の観点から考えることができるようになった。
馬車とメロディに対する彼の感情が同じである、ということだ。
『まあ、馬車は足となり、私は手となるってことかな。』
同じような役割分担のようなことを彼は考えていたのかもしれない。
「……」
「僕は大丈夫ですから、どうかメロディ嬢が楽にしていてください。」
「私も大丈夫です。どうせ屋敷まではもうあまり時間もかかりませんし。」
彼女が再び窓の外に目を向けようとしたそのとき、クロードが少しためらった末に、慎重に質問を投げかけた。
「メロディ嬢、もしかしてお忙しいですか?お時間……ないですか?」
メロディは少し驚いた目で彼を見つめた。
これまで彼は、メロディに対して真剣に時間を求めるようなことをほとんどしたことがなかった。
彼女が“ヒギンス”である以上、それは当然のことだった。
たまに時間について言及しても、それはあくまで確認のために尋ねる程度。
しかし今は、それとはまるで違っていた。
どこか遠慮がちで……彼女に断られないかを気にしているようにさえ見えた。
「時間は大丈夫です。でも……どうしてですか?」
「もしよければ、少しだけ時間をいただけませんか?」
「えっと、坊ちゃん。もしかして……私、何か失礼なことしましたか?」
メロディは、そうでないとすれば、普段とどこか違う彼の態度の理由を説明できないと思った。
「……私、普段からそんなに無礼だったでしょうか?」
彼の悲しそうな問いかけに、メロディはそっと目を伏せた。
実のところ「少し無礼かも」と思ったこともあったけれど……それをそのまま正直に言ったところで、どうにもならない。
それはまるで、自ら弱点を彼に差し出すようなものではないか。
『傷つけても構いませんよ?どうせ私は無礼な人間ですから。』
――そんなふうにひねくれて見せるわけにはいかなかった。
「そんな風に探るような質問をされても、私は気にしませんよ。ヒギンスとして当然の答えをするつもりですし、坊ちゃんはボルドウィンとして私の時間について尋ねる権利があります。」
彼女がはっきりと返した答えは模範的な正解だった。
けれど、クロードが望んでいた答えとはかなりかけ離れていたようだ。
彼はしばらく襟元をもぞもぞと触りながら、小さな声で謝罪した。
「すみません……。」
「どうしてですか?」
純粋な好奇心での質問に、クロードはすぐに答える言葉がなかった。
ヒギンスである彼女をヒギンスとして扱ったことについて謝るとは、どこかおかしくないだろうか。
「僕がもう少し、うーん……事前に時間をお願いしておくべきだったと思います。あまりにも急にお時間を取ってしまって……。」
「それなら、改めて謝らなくても大丈夫ですよ。」
メロディは、今日は特に彼の態度がどこか変だと思い、もう少し話をしてみようとした。
「どうせ坊ちゃんが来てくださらなかったら、今もあの音楽室でどうやって逃げ出すか悩んでいたところだったと思います。」
「そう言ってくれてありがとう。」
「いえ……でも、どこに行かれるのですか?」
メロディはもう一度馬車の外を見た。いつの間にか、公爵家へ向かう道からは少し外れていた。
「ジェレミアの土地へです。」
「えっ、魔塔ですか?」
「いいえ、本当にあの子の土地に行くんです。外郭に私と権利を分けて借りていた、空き地があるんですよ。」
「えっと、そこで私に何か仕事でもさせようと……?」
恐る恐る尋ねたその質問に、彼はなぜかメロディの手のひらに顔を深く埋めた。
今回もまた何かを後悔しているような様子ではあったが、メロディは彼の真意を少しも読み取ることができなかった。
「坊ちゃん?」
「僕は本当にたくさん罪を犯してきました。なぜいつも……」
「ええ。でも、それはまったく新しい事実というわけでもないですよ。」
冷静に返されたその言葉に、すっかり意気消沈したクロードは、目的地に着くまでほとんど何も話さなかった。









