悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す

悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す【42話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。 ネタバレ...

 




 

42話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 神官の祝福②

エノク皇太子の険しい表情は、コンラッド子爵が提出した協議録を見てさらに険しくなった。

「神殿は今、帝国と戦おうとしているのか?」

「……私の力不足です。他の者が行っていれば……」

「いや、イバフネ教について一番よく知っているのはコンラッド子爵、君だ。」

エノク皇太子はコンラッド子爵の弁明を制した。

ユネットが出奔して以降、イバフネ教の影響力は弱まっていた。

その事実には意図があったとはいえ、まさかこれほど手際よく進むとは思わなかった。

「はあ……」

エノック皇太子は戦場の経験もあり、夏には不眠症にも悩まされた。

兵士たちの苦しみを誰よりもよく知っていた。

同時に帝国の行政にも関わる人物でもあった。

それはまさにコンラッド公爵が懸念していた部分であり、これから起こるすべての事態を即座に把握できる存在だった。

『帝国のために、人々のために献身してきた者たち同士が争うわけにはいかない。』

彼は深く抑えたため息をついた。

「はあ……」

イバフネ教とピアスト帝国が衝突するのは一度や二度のことではない。

しかし今回は、殺意を抑えるのが難しかった。

帝国騎士……いや、自分が全ての帝国民の健康と治療を神殿に依存しているわけではないとしても、神殿にこれほど侮辱される理由などまったくなかった。

『一体どう対応すればいいのか。』

交渉は無条件で進めなければならないが、その一方でピアスト帝国側の出血は最小限に抑えなければならない。

そんなとき、エノク皇太子の視線がダルレクに向けられた。

『重要な話があります。二人きりでお話しできますか?』

ユリアと会う約束の日が近づいていた。

ユネットに関するほとんどのことは他の人たちと一緒に聞いていた彼女が、そんな彼女が突然二人きりを求めてきたのだ。

ただ会って声をかけたくて……。

『前にレストランで食事した時は楽しかったのに。』

ルームスプレーを使ってからしばらくはよく眠れたが、イバフネ教のせいでまた厄介な事態が起きた。

『今回はちゃんと笑えるかな……。フリムローズ嬢がデートに誘ってきたわけじゃないけど。』

それでも。そうだとしても。

『彼女の前ではいい姿だけ見せたいのに。』

前回以降、再び二人きりになるとは思わず、今回も続けて意識していた日だった。

エノク皇太子はきつく結んだ唇をそっとかんだ。

だからこそ、帝国の皇太子であっても、ユリアの対話相手としても、資格不足だった。

 



 

私は口先だけで錬金術ギルドのギルド長になったわけではなかった。

最初にギルド長代理、実質ギルド長になった後、錬金術ギルドのメンバーたちが行っている研究を一つ一つ丁寧にチェックした。

『全面的な支援をすると口先だけで言ってはいけない。』

希少な薬草や必要な薬材、宿泊費や交通費までも責任を持つと伝えた。

しかし本当に必要としているわけではなく、この機に乗じて恩恵を得ようとする良心のない者もいるだろうし、逆にひどく遠慮がちな性格の者もいる。

うまく求めることができない人もいるだろう。

たとえそうでなくても、自分に必要なものが何かを把握できないこともある。

だから私は、前のギルド長と一緒に話し合いながら、ギルド員のための支援を整理していった。

現在副ギルド長になっている彼は、私の要請に快く応じてくれた。

「…ウケネのギルド員は鎮痛剤を作っていますが」

「研究日誌を見ると、この3ヶ月間は実験をしていないようですが」

「はい。実験をするたびにかかる費用が相当で、理論的な部分はすでに終えていたものの、仕上げることができなかったんです。」

研究室を与え、必要な材料を支給し、足りないものを補った。

既存のギルド員の性格をよく知っている彼だからこそ状況把握は容易だった。

そして普段から厳しい環境で研究をしていたため、今回を機に無理なお願いをするギルド員はほとんどいなかった。

「要望はすべて受け入れてください。あ、それと、地方に家族がいると書いてありますが、建物に家族を連れてきても構いませんよ。」

「…!そのように伝えておきます。」

家族思いのウケネのギルド員が喜ぶだろうと思いながら、ギルド長は書類を作成していった。

『最初の頃はかなり技術もあったけど、神殿が弾圧して衰えた部分もあるし。この人たちがずっと怠けていたわけじゃないんだよな。』

そして私は特定の研究をしていない研究者たちに方向性を提示した。

「大きな病気や外傷にばかり注目していたでしょう。でも、誰にとっても些細な痛みだってつらいことだと思うんです。」

軽い頭痛に効く薬がないと、近隣地域にある民間療法を基に薬を作り始めたウケネのギルド員のように。

咳がひどいとか、鼻炎・消化薬。

それ以外にも病院へ行くほどではないが、ちょっと不快な不調のことだ。

そんなふうに錬金術士たちを支援してから、ちょうど1ヶ月が経っていた。

『これくらいなら、人に紹介できるだけの研究成果だよね。』

私はエノク皇太子に会いたいと申し出た。

以前は皇太子が少し意識している感じがあって気まずかったけれど……

1週間前にレストランでエビアレルギーが出た件以降、少し意識するようにはなったけれど、以前のように気まずくはならなかった。

「思ったより早くまた来ることになりましたね。」

いずれにしても、エノク皇太子と静かに会うには、このあたりで適したレストランは一つしかなかった。

帝国皇室所有の他の建物や店舗は多くあったが、どうしても落ち着いて話せる場所がよかったため、そこを選んだのだった。

店員に注文を終えた私は、そっと笑った。

「今ではレストランで、最初に食べない料理を聞いてくるんですね。」

「エンヤに失礼をしたあと、いろいろ学びました。」

エノク皇太子は、いつもの柔らかな微笑みとともに、軽く顎を上げた。

今ではすべてのお客様に、よりパーソナライズされたサービスができるようになったと言い、静かに笑う声が続いた。

彼の話は聞いていて心地よかった。

『特別に感謝を伝えることでもない気がするけど……エビがあのメニューから消えると考えると、みんなにとっては幸運なことだったよね。』

私は控えめに肉を切り取った。

「むしろ私のほうこそ感謝しています。」

かすかに微笑むエノク皇太子と一緒に食事をするのは……悪い気はしなかった。

従業員たちと一緒の席ではなく、食卓の下で思わず指をいじってしまうような、そんな気持ちになるのも無理はなかった。

とりあえず忙しい人を呼び出したからには、そろそろ本題に入った方が良さそうだ。

私は最後に深呼吸を一つしてから、ようやく口を開いた。

「最近、錬金術ギルドを支援しています!」

そして――

「正確に言えば、私は錬金術ギルドで薬を作る仕事を支援しています。」

錬金術ギルドの表向きのギルド長は別にいたが、実際に仕事をこなしていたのはナラだった。

もっとも、肩書などはさほど重要なことではなかった。

「…『錬金術ギルド』ですか?」

一瞬驚いた表情を見せたエノク皇太子は、私の言葉に興味を抱き、もう一度たずねてきた。

『やっぱりこれがどれだけ重要な話か分かってるんだな。』

聡明なエノク皇太子は、私がなぜふたりきりで会いたいと言ったのかすぐに察したようだった。

不意に語られた重大な話に少し驚いたものの、エノク皇太子はすぐに真剣な表情で問い返してきた。

「どんな種類の薬なのですか?」

「頭痛薬、消化剤、咳止め薬など、生活全般において多くの人々に役立つ薬です。まだ完成はしていませんが、ほとんど最終段階にあると思います。」

簡単に言えることではなかった。

『錬金術に対する社会的な視線はよくない。』

それでも、これまで一緒に事業をしてきて私を信じてくれたエノク皇太子だったから、話すことができた。

彼はイバフネ教と関係が良くない皇族であり、神殿の勢力が弱まれば誰よりも利益を得る人物だった。

お互いにとって得になる戦略ではないか。

私は本格的に説明を始めた。

なぜ錬金術ギルドに支援することになったのか、薬の可能性について。

「錬金術ギルドではすでに麻酔薬も作りましたよ。もちろん、発明した本人は違法行為で追放されましたが、それ以降、薬の開発は滞ってしまいましたが——」

私は意図的に語尾を濁しながら、意味深長な雰囲気を漂わせた。

「支援さえあれば、十分に成果を出せる場所だと判断しました。ギルドを支援する中で、その思いはますます強くなったんです」

「成果というのは?」

「帝国の人々の命と健康がかかっている問題を、神殿だけに頼るわけにはいかないでしょう」

私は遠回しな言い方をやめて、はっきりと切り出した。

「殿下も化粧品の流通に関わっておられるのでご存じでしょうが、人に使うものの流通は公的な場で堂々と行われるべきです」

温かな緑の瞳が、私の真っ赤な瞳と真正面から向き合った。

「ですから、薬も正々堂々と流通できるよう、殿下にぜひご協力いただきたいのです」

「……」

エノク皇太子はしばらく沈黙した。

ついさっきまで柔らかな微笑を浮かべていた顔が、真剣に引き締まった。

予想していた反応だった。

『ここで即座に受け入れてはならない。』

提案が普通の提案なのか。

私には、双方に明確な利益があるように見えても……。

神殿がどこかの異端として名指しし、激しく非難した場所がひとつでもあるのか。

『むしろすぐに納得していたら、失望していたかも。』

だが、それが緊張を招かないという意味ではなかった。

私は口を湿らせ、準備していた説明を続けた。

「これまでイバプネ教会で言われてきたことは、殿下もよくご存じでしょう。薬は神の摂理に逆らうものであり、神がお与えになった神聖な力を通じてのみ人は癒やされるべきだ、と」

重病も、人の死さえもすべて神の意志として受け入れるようにと言っていました。

そして高位貴族でない人々の死には無関心でした。

彼らが神を求めながら死んでいくのに対して、神に平安を祈るだけの祈祷をしていたのです。

高位の神官がその気になれば、多くの人を救えるかもしれないのに、それをしようとはしなかったのです。

「とはいえ、高位貴族でも神殿の機嫌を損ねれば治療を受けられません。そのため、皆どうにかして金銭を積もうと必死でした」

そしてイバプネ教は心の安定こそが重要で、神の言葉に耳を傾けるべきだと言い、高位貴族たちが神殿に足しげく通うよう仕向けていました。

実際はほとんどスキンケア、つまり美容目的に近かったが。

私は口元が引きつるのをなんとか抑えた。

「でも、ユネットが作ったこの今は、上流貴族たちでさえ神殿にあまり行かないんです。」

信仰心が厚いとか。

信頼が深いとか。

そんな話を聞いても、寄付金の額はやはり負担になるだろうし、肌が少しでも荒れたら神殿に行くのも面倒になる。

貴族とはいえ、疲れ切った状態で神殿に行けるとは限らないのだから。

一方で、化粧品はほとんど顔に塗るだけで済む。

いくつかを混ぜて使わなければならないという手間はあるにせよ、どうせ肌の色と一つか二つを選ぶ程度なのだから彼らにとっては大したことではない。

神殿に行けない辺境の人々には言うまでもない。

単に上質なスキンケア製品だけでなく、生活必需品として定着させようと、さまざまな種類の化粧品を作ってきたのだ。

現在発売準備中のマッサージオイルも、その一つだ。

「これでもうユネトの化粧品は広く受け入れられて、いくらイバプネ教が異端だと非難しても、人々はなびかないでしょう。」

最初から薬を流通させようとしていたら、すぐに妨害されたに違いない。人々も協力しなかっただろう。

しかし今や、化粧品は人々にとっての必需品となった。

化粧品を愛用していた本人すら、自分が異端に加担しているとは受け入れられないだろう。

「人々の認識が大きく変わったんです。」

特にユネットは化粧品を高く売らなかったので、誰でも使っていた。

もし化粧品をプレミアム商品として一部の人だけに売っていたら、神殿の異端論争にある程度巻き込まれていたかもしれないが…。

「今、ユネットではアフターサンクリームのようなものや、“肌に良い鉱物”や“フンター鉱”みたいなものを化粧品と似た形で売っているじゃないですか。」

つまり一部の薬はすでに販売されているということだ。

「肌に塗る薬は良くて、口に入れる薬はダメだというのは、変じゃないですか?」

エノク皇太子は、私の言葉を一言一句逃さずに聞いていた。

話はだいぶ長くなってきたし、気を配ることも多く、頭の中はきっと混乱しているだろうに――彼の集中力は驚くほどだった。

「錬金術ギルドの薬の開発はどのくらい進んでいますか?」

「こちらに、薬の研究計画書があります。ただし、これは皇太子殿下にだけお見せできるもので、他ではお見せできない点、ご理解ください。」

「もちろんです。ビビアンにも話しません。」

「ご理解いただきありがとうございます。何しろ事業が事業ですから、慎重にならざるを得ません。」

資料を読んでいくエノク皇太子の目に、好奇心が一瞬よぎったのを見て。

「王室の協力があれば、もっと良いものが作れます。」

私は穏やかに笑いながら付け加えた。

「王室が望む特定の分野の薬があれば、ギルド員たちに伝えてみます。今後は開発の仕方によっては、さらにすごい薬が生まれるかもしれません。研究開発には常に力を注ぐつもりです。」

その言葉が口先だけでないことは、エノク皇太子が誰よりもよく分かっていた。

ユリアはユネットが成功した後も慢心せず、継続して新しい化粧品を出していたからだ。

「……本当にすごいですね。」

エノク皇太子は短く感嘆の声を漏らした。

神殿との交渉で混乱していた頭の中がはっきりとした。

ユリアはいつも彼を驚かせていた。

そして彼に新たな道を示してくれた。

『錬金術ギルドで薬を売れば、神殿との無理な交渉に応じなくてもよくなるのでは?』

商軍の長、帝国の騎士、いや、もはやすべての帝国民の健康と治療が神殿に依存していたとしても、神殿の横暴に屈する理由はまったくなかった。

ユリアの話がすべて本当だとしても……そうでなくても問題なかった。

書類に書かれた内容だけでも実行されれば、それは十分な成果だった。

地方に派遣される神官が少なくても、受け取れるだろう。

『イバプネ教でも神官を派遣しないのは難しいことだ。それは神殿の影響力が減り、収入も減るということだからな。』

そして神官の助けが切実でなくなる瞬間から、交渉は再び始まるのだ。

エノク皇太子の頭の中を考えが駆け巡った。

そして私も思わずにっこり笑いながら口を開いた。

「皇太子殿下?」

「…あぁ…ちょっと笑えてしまって。」

ユリアは少し気まずそうにしていたが、エノク皇太子は手を振って、その気持ちを口にすることはなかった。

わざわざ重苦しい過去を語る必要はなかった。

そして…ユリアの夢が自分にとって慰めになったと言うのは、あまりにも気恥ずかしいことだった。

『私は今まで、誰かを殺すか傷つけることだけが得意で…他人の役に立つことなんてできないと思っていた。』

ユリアは彼を見ながら、はっきりと口にした。

私の支援が必要だと。

薬を流通させるには私の力が必要だと。

なぜかその一言に、私はかつて戦場で消耗しきって魔物の供給に奔走していた日々が、少しは救われたような気がした。

以前に化粧品を作ったときから、人々が役に立つと言って笑ったそのときに感じた、じんわりとした感情が何なのか、ようやく分かった気がした。

妹のビビアンも顔の肌のせいで苦しんでいたが、ビビアンのような人たちが助けを受けられると思うと……ただの軽い満足感だと思っていたけれど。

思っていたよりも私はユリアに対して感情的な影響を多く受けていたようだ。

商談をしながら、皇太子としての仕事をしながら感じた最も大きなやりがいだった。

「最初に化粧品を作ったときからこのことを考えていらっしゃったのですか?」

ユリアは答えずに穏やかに微笑んだ。

エノク皇太子は、これが何よりも大切な機会だと悟った。

ユリアの言う通り、帝国民の健康のためにでも。

そして……

『神殿を弱体化させるためにも。』

このような危険性を知らずにイバプネ教にやられでもしたら、万が一慌てたらどうしよう。

「神殿はきっと気に入らないでしょう。どんな手段を使うかも分かりません。耐えられますか?」

クロスは微塵の迷いもない態度だった。

ユリアが持ってきたのがとても良い機会だと分かっていながらも、非常に率直かつ親切に答えてくれたのだ。

クロスは、知らないふりをして利用する方がよほど得になるにもかかわらず、そうしなかった。

『さて、エノクは何と言うだろう?』

エノク皇太子は、続くユリアの答えを待っていた。

「それが多くの人の助けになるなら、そうすべきじゃないですか?」

ユリアの返答は、淡々としていて自然に出てきたものだった。

少しのためらいもなかった。

そんな彼女の姿に、エノク皇太子は一瞬言葉を失った。

「……。」

ある時は消極的で内向的だったのに、今は堂々としていて大胆ささえある。

「取り越し苦労だったんですね。」

そのような危険まで予測していたとは思いもよらなかった。

しばらくして、エノク皇太子は冗談めかしながらも嬉しそうな表情で口を開いた。

「いつも…あなたは私の期待を超えてくれます。」

「皇室相談班と共に仕事をすると決めたとき、必要であれば神殿に対する盾になってくださると思っていました。」

ユリアは言葉に詰まりながらも、しっかりとした様子だった。

彼女の赤い瞳には揺らぎがなかった。

その目には不安や心配はなく、ただ未来への期待だけが光っていた。

「皇室と神殿の仲が悪いのは今に始まったことじゃありません。宮中でも政治に口出ししようとする神殿を遠ざける様子を見て……機会を待っていらっしゃるのではないかと思いました。」

「これは……令嬢には敵いませんね。」

エノク皇太子と会う中で、ある程度彼の性格を掴んでいたユリアだった。

『言い方はああだけど、本当は気に入ってるんじゃない?』

このように率直で、大胆に進む姿に、短い間でかなりの好感を持っているようだった。

彼の顔にはわずかに笑みが浮かんでいた。

「神殿が黙ってはいないでしょう。」

「それでもやるつもりです。」

ユリアは、今後化粧品から始めて、延いては薬へと人々に親しみを感じさせながら徐々に領域を広げていく計画を説明した。

「アフターサンクリームを通じて、人々が傷ついた肌に化粧品を塗るという概念を理解し始めたじゃないですか。だからユネットでは、化粧用の軟膏を追加的に出すつもりなんです。薬に自然に触れられるように。」

アフターサンクリームから少しグレードアップしたような感覚で受け入れられるように。

「薬局はまだ準備中ですが、そういった形でまずは下地作りをしていくつもりです。」

「すでにすべて計画されていたんですね。」

エノク皇太子はユリアの説明を聞いて感嘆した。

ユネット自体も魅力的で商業性に優れていたが、そこにこのような段階まで考えていたとは。

『先ほどは返答しなかったが……まさか予想もしないで化粧品事業を選んだわけではなかったんだな。』

神殿がとんでもない交渉を持ちかけてきて困っていた。

そんなとき、まさにタイミング良くユリアが打開策を示してくれるとは。

それも、全く思いつかなかった画期的で……最善の方法で。

「帝国民の健康問題を考えなかったわけではありません。しかし、適切な方法がなかったのです。」

「イバフネ教の横暴は今に始まったことではありませんから。」

「錬金術ギルドが令嬢の予想の半分でも支持してくれたら、神殿に引きずられる最大の理由がなくなるでしょうね。」

「予想の半分というのは…。」

「過信はいけません。この世には『もしも』というものがあるでしょう。すべてを備えて準備していても、予想外のことが起こることはあるのです。」

そしてその瞬間。

エノク皇太子は席を立ち、丁寧にユリアに手を差し出した。

大きく長い、節が太い手だった。

「そして、そうした状況が起こったときに役立てるように、皇室も錬金術ギルドの支援に参加します。」

もはや神殿に引きずられる理由はない。

「失望させません。これからもよろしくお願いします。私が全力を尽くします。」

ユリアの柔らかな手がエノク皇太子の手を握った。

貴族らしい手に鍛えられた手と、白く柔らかな手が触れ合った。

「錬金術ギルドに投資するお考えとは、本当に素晴らしいですね。」

「はは、他でもないあなたからそんな言葉を聞くと、なんだか照れますね。」

ユリアはすぐに答えた。その言葉が社交辞令とは思えなかった。

『普段、良い言葉を聞いたときの反応とは違う。』

エノク皇太子はそっと口を閉じた。

今、彼女に自分の本音を話したかった。

だが、世の中には言っても良いことがない言葉もあるのだ。

『会話が終わる雰囲気なのに、今さら何か言う必要があるだろうか?』

あまりに真剣すぎて戸惑わせてしまうか、重たく感じさせてしまうかも。

迷いはあったが、結局彼は勇気を出した。

『それでも言いたい。』

一瞬、心臓が速く打つのを感じた。

「軽い言葉ではありません。私はいつも令嬢を見るたび、素敵だと思っていました。」

「えっ……?」

ただの言葉ではないということを伝えたかった。

軽はずみな発言かもしれないが、この機会を逃すまいと思い、しっかりと伝わればと思った。

エノク皇太子は彼女の瞳をじっと見つめた。

そして言葉を続けた。

「“素晴らしい”という言葉では平凡で、素っ気なく感じてしまうくらいです。」

彼はここに来る前から多くの懸念を抱いており、ユリアに会ってその様子が出てしまわないか心配していた。

だが今日の彼女との出会いは予想とはまったく異なっていた。

ユリアは彼の不安をさりげなく包み込み、心配そのものを消し去ってくれたのだ。

『思いもよらず、慰められた気がする。』

葬儀で初めて出会ったあの瞬間から、今に至るまで。

彼女はいつも想像もしなかった形で、彼に安らぎを与えてきた。

「以前にも、令嬢の母上に似たようなことを言った覚えはありませんか?」

「“私を尊敬している”と言っていましたよね?」

「はい。」

時々彼女は、自分の言葉を「誰にでも見える親切さ」程度にしか感じていない傾向があった。

彼女の言葉や行動が自分の心に深く影響を与えていることを知らないことが、少し寂しくてもどかしかった。

他の人にはそうではないのに。

彼の気持ちはそうではないのに。

「私は、他の人にはこんなこと言いません。」

「そんなふうには思いませんでした。」

ユリアはさっきのように適切に返答しなかった。

気まずさと少しの戸惑い、傷ついた顔にさまざまな感情が浮かんでいるように感じられた。

「ありがとうございます。」

淡々とした返答。

だが、彼の真心が伝わったことは感じられた。

言ってしまって悪い言葉ではなかったかと心配だったが、口にしてよかったと思った。

「…ああ。」

きれいだ。

ユリアの大きく見開いていた目がすっと細められた。

『私の本心で令嬢を笑わせたんだな。』

仕事で疲れていたのはユリアも同じだった。

そしてその微笑みを見ていると、まるで洗い流されるような気がした。

エノク皇太子は自分が少し前まで感じていた緊張や不安をすっかり忘れてしまっていた。

この笑顔は、きっと一生忘れられないだろう——そんな気がした。

 



 

ユリアとの会話を終えて、王宮へと戻ったエノク皇太子は、行政官にきっぱりと言った。

「神官との交渉は、後回しにしろ。」

「え?」

コンラッド副官は戸惑っているように見えた。

しかしすぐに首をかしげると、その判断を実行に移した。

エノク皇太子が話さないのなら、それには理由があるはずだ。

「ふう。」

まだ神官と結んだ治療期間が残っている。

数ヶ月は問題ない。

『その期間が終わる前に薬を開発すれば、話にならない条件で交渉する必要もない。』

エノク皇太子の目が輝いた。

ユリアがここまでしてくれた以上、自分も責任を果たさなければならなかった。

それが、自分をパートナーとして選んでくれた人への応え方だった。

 



 

 

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