こんにちは、ちゃむです。
「偽の聖女なのに神々が執着してきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

117話ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- レイハスIF②
「レイハス様!」
私は、まるで死んだようにベッドに横たわる彼を見た。
「いったい何が……!」
白いシャツは半ば開かれ、たくましい胸がのぞいていた。
ズボンの裾には血がついていたが、それはレイハス自身の血ではなく、おそらく敵のものだろう。
[芸術の神モンドが、蒼白な顔でベラトリクスに抗議します。]
[運命の神ベラトリクスは、これもまた運命の一環であるゆえ、あまり気を落とさぬようにとモンドを慰めます。]
[死の神カイロスは、この痛ましい事故に悲しみを表しています。]
建国祭の祝賀を終えて帰る途中、馬車が襲撃を受けたという。
どうすることもできない突然の攻撃で、レイハスが負傷してしまったのだ。
「命に別状はありません。」
ドウェインが後ろから冷静な表情で報告した。
「審問の結果は?」
「大神官様が辺境出身であることはご存じでしょう。今は帝国に併合されていますが、かつて併合される前に一人の将軍に捕らえられたことがありまして……。」
ドウェインはレイハスの過去について私に語ってくれた。
「その将軍という男は、奴隷を虐げ殺すことを好む変態のような貴族で……レイハスは相当な苦難を味わったそうです。結局は部下の手で殺されたものの、数年後には大司祭様がその一族を根絶やしにされました。」
詳しい話は初めてだったので、私は耳を傾け、集中して聞いた。
その将軍という人物の死体すら辱めたほど、深い恨みを抱いていたのだろう。
――レイハス、辛い過去があったのね。
その蒼白な顔を見て、胸が痛んだ。
悲劇はさらなる悲劇を生むというが、心の奥に苦悩を抱え込んできた彼の寡黙さの理由が見えた気がして、胸にやるせない思いが広がった。
[芸術の神モンドは、ハンカチで涙をぬぐいます。]
[知識の神ヘセドは、モンドの肩に手を置き慰めます。]
[破壊の神シエルは、新しいハンカチを差し出します。]
――彼がただ一人でこの地位に上り詰めるまで、どれほど孤独で厳しい道のりだっただろうか。
そこまで揺るぎなく、完璧な存在となるまでに、多くの困難を乗り越えてきたに違いない。
そんな彼を「教化しよう」などと一瞬でも考えてしまった自分が、少し恥ずかしく思えた。
何も知らないくせに、どうしてあんなに狭量な考えをしてしまったのだろう。
「だから……レイハス様をこんなふうにしたのは……」
聞いたところでは、その将軍の子孫たちだという。
「どうやら、大司祭様が将軍の財産を没収し、遺体を冒涜した件で恨みを抱いていたようです。彼らは来世を重んじる異教徒でもありましたから。宗門の中でも自決してこれ以上被害を広げないというのは、まことに痛ましいことです。」
正当な行為であったとしても、復讐はさらなる復讐を生む――。
私は複雑な思いでレイハスを見つめた。
彼の首には、私が贈ったチョーカーがかかっていた。
「神力すら通じぬほど強力な黒魔法の呪詛の力で襲われたため、神官たちも治療に苦労しております。」
[死の神 カイロスが、サレリウムにいるレイハスを治療すべきか否かを真剣に悩み、足先をせわしなく動かしています。]
対話窓に映るカイロスの葛藤を見た私は、ドウェインに声をかけた。
「……あなたが診てください、ドウェイン。」
「はい?」
「私が神力で治療してみます。」
私の言葉に、ドウェインは慌てて立ち上がり、深く頭を下げた。
「承知いたしました、聖女様。どうか……よろしくお願いいたします。」
ドウェインが部屋を出て行くと、私は自らの体に流れる気の流れを手に集中させた。
「はぁ……。」
私は深いため息をついた。
やはりどれほど神聖力を注いでも、効果はほとんどなかった。
ベラトリクスは「これもまた運命の過程だ」と言っていた。
だが、ベラトリクスの言う運命が必ずしも幸福な結末だという保証など、どこにもなかった。
その運命の果てが、彼の死だというのなら……。
――駄目だ。
結局、私は部屋へ戻り、少し前に手に入れた水晶球を通してディエゴに連絡を取った。
「今日は夢見が良いですね。懐かしい顔が私を訪ねてくださるとは。」
淡い紫の瞳が私を捉えた。
[正義の神ヘトゥスが、盃を傾けながらも瞳だけを動かしてディエゴの顔をじっと見つめます。]
「本題に入ります。黒魔法にかかった……人がいるのです。治療が必要な状況です。」
ディエゴが眉をぴくりと動かした。
「黒魔法にかかった者が、あなたのすぐそばにいるのですね。相手は金髪の娘じゃないですよね? 最近、大司祭様がある貴族と親しくしているって噂を耳にしましたが。」
「はぁ……。どうして私の話が魔界にまで広まっているのか分かりませんね。」
私は小さく息をつき、こう答えた。
「デイジーです。私の後継の神女ですよ。」
もちろん嘘だ。
だが、レイハスが傷ついたと正直に話せば、ディエゴはきっと助けてはくれないだろうと思った。
[芸術の神モンドは、あなたの善意からの嘘を気に入っています。]
「なるほど、その神女ですか。以前もあなたが神力で救ったことがありましたね。以前も同じようなことがあったのではありませんか?」
「はい。しかし、今回は神力がまったく効かないのです。」
ディエゴは私の言葉を信じているのか、杯を強く握りしめながら問い返した。
「症状はどうなのですか?」
「顔は蒼白で、唇と頬は赤いです。左胸にはクローバー模様のような刻印が浮かんでいます。」
その刻印の周囲を詳しく見たとき、そこから強烈な黒魔法の気配が感じられた。
「クローバー模様の刻印とは……。」
私の言葉に、ディエゴは眉をひそめ、杯を置いた。
「それは……まずいですね。」
その言葉に心臓がドクンと鳴った。
恐怖が脳裏をよぎったが、必死に平静を保とうとした。
「……どういう意味ですか?」
ディエゴは淡々と答えた。
「呪詛です。程なくして肉体が炎に焼かれて死に至ります。インキュバス出身の前々代魔王が使っていた呪詛ですが、まさか今になって使う者がいるとは。レトの呪詛よりは下級ですが、効果は同じです。」
「そんな……駄目です!」
私は慌てて水晶球を掴み上げた。手が震えていた。
[芸術の神モンドが額に手を当て、悲嘆に暮れています。]
カミーラがレトの呪術にかかったとき、偽りの神であったベラトリクスさえ、その呪術を解くことはできなかった。
魔王の力によって生じた呪術はあまりにも強烈で、神の力とも相反するものだった。
今にも泣き出しそうな私の表情を見て、ディエゴが小さくため息をついた。
「方法はないのですか?何でもいいから……教えてください。」
このままレイハスを失うわけにはいかなかった。
「おそらく、その呪術は魔王が遺した媒介物と、術者の魂を代償にして発動したもの。解呪は不可能に近いのです。魔族の中でも最強の神体を持つ者なら耐えられるかもしれませんが、人間の体では……ほとんど不可能です。死を待つしかないでしょう。」
もし私が皇宮に行っていたら、彼が道中で襲撃を受けることはなかっただろう。
「ディエゴ、お願いです。」
私が彼の名を呼ぶと、ディエゴはわずかに眉をひそめた。
「泣かないでください。あなたがそんなふうでは……。」
少し考え込んだ後、ディエゴが再び口を開いた。
「……あまり勧められる方法ではありませんが、デイジーという子に、もし好意を寄せている者がいれば?」
思いがけない言葉に私は茫然とし、水晶球を抱きしめたまま喉を詰まらせた。
「私の部下を通じて薬をひとつ送ります。それを飲ませて、デイジーを目覚めさせなさい。」
私は「薬」という言葉に思わず顔色を変えて彼に尋ねた。
「薬……あるんですか?」
「もちろん呪術そのものには効きません。ただ、意識不明の状態から目覚めさせるための薬にすぎません。」
その言葉に、一瞬だけ抱いた期待が音を立てて崩れ落ち、大きな失望が押し寄せてきた。
「とにかく目覚めさせた後は、デイジーが愛する人と一夜を過ごすようにしてください。そうすれば呪術は相手の男へと移ります。」
[慈愛の神オーマヌが、ディエゴの言葉に思わず耳をそばだてます。]
私は硬い表情で水晶球を見つめた。
「まさか……その方法というのは……?」
「はい、呪詛を解く方法はありません。抑える方法しかないのです。」
「…………」
「愛する者との、深い結びつきを必要とします。快楽を覚えるほどでなければ効果はありません。呪詛に新たな生命力を十分に食わせることで、ようやく抑え込めるのです。」
[愛の神 オディセイが、ディエゴの語った方法の本質を理解し、思わず顔を覆います。]
複雑な思考が胸に押し寄せ、こみ上げる感情で喉がつまった。
深く息をついた私は、しばらくしてからディエゴに言った。
「そうですね……方法を教えてくださってありがとう。」
複雑な表情のまま私を見ていたディエゴは、眉をかすかに動かした。
「ところで、その呪術は本当にデイジーという少女にかけられたものなのですか? 幼い娘の魂を売ってまで呪術を使う人間など……。」
「さようなら、ディエゴ。」
私は水晶球を閉じた。そして軽く咳払いをして声を整えた。
「神々よ。」
魔王の力を宿した呪術には、神から授かった神力でさえ有効な方法とはならないことを知っていた。
だが私は、神々の弱点を知っていた。
ディエゴの言葉を思い出す。
「私のような魔族ならともかく、人間の身体では不可能に近いでしょう。」
私の体も所詮は人間のものだ。
だが確かなのは、私の神託窓を通して見守る超越的な存在たちが、どうにかして私の命をつなぎ止めてくれるという確信だった。
私は神々に助けを求めた。
「このままでは、レイハスを救おうとして、私が死んでしまうかもしれません。」
[神々は会議に入ります。]
[正義の神ヘトゥスは、無駄を嫌うと言います。]
[芸術の神モンドは、ヘトゥスの肩を軽く叩いて励まします。]
[破壊の神シエルは、知識の神ヘセドとともにモンドを慰めます。]
[慈愛の神オマヌは、それぞれの袋から供物を取り出すことを提案します。]
[神々は「生命力」と関わりのあるさまざまな聖なる供物を、祭壇の上に並べました。]
[芸術の神モンドは、希望に満ちた未来を信じ、鼻をすすります。]
――絶対的な愛情を受けるということは、だからこそ良いのだ。
やがて会議は終わった。
[運命の神 ベラトリクスは、人間の限界に応じた制約を課しつつ方法を提示しました。]
神々の助けを借りて、どうにかレイハスにかけられた呪詛を解くこと。
それがアリエルにとって最も最善の手段であった。
しかし、かつて呪詛に囚われたカミーラを救うため、自らの神格すら削ってしまった過去のベラトリクスを思い出すと、それは神々にとっても過剰な負担となる道だった。
因果律と均衡、そして摂理――。
それは束縛から抜け出す唯一の方法。
だからこそ、アリエルはその邪悪な「薬」を選ばざるを得なかった。
[聖物『呪術の殺し手』を購入しました。]
少し前にアリエルに届いたメッセージには、彼女が二万フランの値がつく高価なハイヒールを履いていると記されていた。
オーマヌが99%割引価格で市場に出してはいたが、それでもなお高価だった。
さらに、オーマヌの聖物であるこの鋭いハイヒールを履いていれば、呪術を移された存在を捕らえて食らうことができた。
強力な浄化の属性を備えていたからだ。
そして、それに似た効果を持ち、靴の効力を補強する聖物の首飾りや腕輪も、彼女の首や足首にかけられていた。
これで、たとえ呪詛が再び押し寄せても、彼女の身体に取り憑くことはないだろう。
「……っ」
片膝をつき、頬を赤らめながらも顔を上げたレイハスの、その凛々しい表情を私は見上げた。
[慈愛の神オーマンが「今日は自分が神になった甲斐があった」と感激しながらインタビューを行います。]
[愛の神オディセイが、愛のさまざまな形に深く共感し、あなたを応援しています。]
[芸術の神モンドが「呪詛ですら一種の芸術的価値があるのでは」と考えを改めます。]
[破壊の神シエルは、頬を赤らめながらあなたを――]
[死の神カイロスもまた、レイハスが呪術に囚われていることを確認します。]
彼の命を救うためには……どうしてもその呪術を、アリエル自身が引き受けるしかなかった。
アリエルの表情は、決意と緊張で固く引き締まっていた。
「神託、終了。」
[神々はもう少しだけ見せてほしいと嘆願する……]
赤いドレスをまとったアリエルは、ポニーテールのスタイルで髪を高く結い上げていた。
レイハスの目には、その姿すら目が眩むほど美しく映った。
「……主よ」
レイハスは両手に嵌めた枷でアリエルの脚を掴んだ。
冷たい彼女の視線が自分に注がれ、背筋が痺れる。
「は……」
アリエルは片足で彼を蹴り、後ろへ大きく跳んだかと思うと、そのまま彼の胸にもう片方の足を押し当てた。
――夢に違いない。
現実のはずがない、とレイハスは思いながらも、高い天井に反射する自分の白い祭服を見上げていた。
『このまま死んでも構わない』
険しい表情を浮かべるアリエルが、一瞬だけレイハスの視界を覆った。
アリエルはレイハスの上に身を重ねた。
そして優雅にその手を伸ばし、彼の柔らかな金髪をかき上げて後ろへ流した。
ディエゴの言ったとおり、愛する者との深い関係こそが呪術を解く鍵だった。
たとえ一晩だけであったとしても、きっと彼に最高の喜びを与えるだろう。
さらにアリエルは、モンドとオーマヌの助言を受け、レイハスにとって最も「深い関係」とは何かを必死に学び取っていた。
だからこそ、鞭や鎖といった少々大胆で過激なアイテムを使用したのだ。
「……どう?気持ちいい?」
「……狂おしいほどです、主よ。」
「うるさい!黙って!」
レイハスは、自分を打とうとしたアリエルの手首を掴み、言葉を放った。
「主のおっしゃるとおり、私は狂った者です。」
レイハスの美しい金の瞳が、強い光を放つ。
「だから……どうか私を■■に■■してください。」
アリエルの息が荒くなる。
見下ろすその顔は、これ以上赤くなれないほどに頬を染めていた。
「分かってる……分かってるのに……」
その呟きに揺れる青い瞳があまりにも美しく、アリエルは震える声で続けた。
「あなたがただ顔だけで、神々すら嫉妬させるほど美しい天使のような人だってことは分かってる……。なのに、私は……」
今にも泣き出しそうな瞳で、彼女はレイハスを見つめていた。
アリエルは彼の乱れた祭服の上着を払いのけた。
そしてその手でレイハスの頬をやさしく包み込んだ。
彼女の赤い唇が近づくと、どこか非現実的に甘く感じられた。
「はぁ……」
美しい眉間をわずかにひそめ、切なげな瞳で彼を見つめる。あまりにも魅惑的だった。
「どうしても、私はあなたがいないと生きていけない……レイハス。」
彼女の震える声が胸の奥を突き刺し、レイハスの心臓を締め付ける。
「だから……死んではだめ。」
彼の美しいまつげがかすかに震え、揺れた。
「愛しています、主よ。」
美しい瞳も、すっと通った鋭い鼻梁も、白い肌も、赤い唇も、顎のラインまでも……。
レイハスには美しくない部分などひとつもなかった。
けれどアリエルの心を真に捉えて離さないのは、その美貌以上に、いつも自分の後ろで静かに待っていてくれた彼の確かな存在感だった。
もし今後、神殿で二度と彼を見られなくなるのだとしたら、その喪失感と寂しさをどう受け止めればいいのだろう。
欲望を秘めた瞳を輝かせながらも、ずっと自制し続けてきた忠実な彼。
今日は――その彼を救うのは、彼女自身の役目だった。
アリエルはそっと彼の唇に口づけを落とした。
赤い唇は、見ているだけでも甘美だったが、触れるとさらに甘く感じられた。
「……っ」
一度唇を離した彼女は、茫然とレイハスを見つめた。
彼の喉元を狙い、唇でぎゅっと噛みついた。
レイハスが「ッ……」と息をのむ音が聞こえた。










