こんにちは、ちゃむです。
「偽の聖女なのに神々が執着してきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

105話ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 告白
広くて空っぽの廊下を歩きながら、カッシュは塔の一番上の部屋に向かって歩いて行った。
扉を開けると、薄暗い部屋の病床に横たわっている父と、傍らで父を看病する少女が見えた。
カッシュを見ると、その少女は慌てて頭を下げて挨拶し、部屋の外に出て行く。
「来たのか。」
年老いた父の口から、かすれた声が聞こえた。
ルータス・ロイド。
ロイド商団の団主であり、カッシュの父。
そして今は、ロイド家に代々伝わる呪いの発現により、少しずつ命の灯が消えかかっている。
「お体の具合はいかがですか?」
「そうだな。もうサレリウムが目の前に見える気がする。先祖たちが歩んだ道だ、恐れることはない。」
カッシュは杯をそっと傾けた。
ロイド家の血族なら皆、避けられぬ道であった。
聖力も、神力も通じない絶対的な病が、ある瞬間に発現する。
それは先祖代々が背負った罪の代償。
父はついにその時を迎えて病を発症し、しばらく前から副団主であるカッシュが商団のすべての業務を引き継いでいた。
「死ぬときになると、いろんな雑念が頭の中をよぎるものだ。」
「………」
「さっき出ていった子のことだ。気を楽にしろって、何でも言ってみろって言ったら、私がかつて片思いしていた侍女の話をし始めてな。」
十六歳くらいに見える少女だった。
「胸が高鳴って、ぼんやりする気持ちだったと言っていたよ。おそらく、お前の母も私にそんな気持ちを抱いたのだろうな。」
カッシュは母親について、あまり良い記憶がなかい。
しかし、母が父を置いて去ったことを恨んではいなかった。
「ただ生きるだけで精一杯だったせいで、世の中をちゃんと見られなかった気がするよ。死ぬときになってようやく血が口惜しいな。」
ロイド家に代々伝わるもう一つの呪い、それは普通の人が感じるような感情を感じられなくなることだった。
愛や裏切り、同情といった、人間の本質的な感情の層に触れることができないということだ。
ロイド家はただ実利だけを追い求め、帝国でも最も裕福な家門の地位を維持していた。
しかしロイド家の婦人たちは愛情に飢えていた。
彼女たちには家門の後継ぎを産むこと以外には何の役割もなかったからだ。
能力ある者のみが認められ、実権を持つロイド家の空気は、常に冷たく厳しかった。
「父らしくないお言葉ですね。」
「ふふ。身体が弱るほど、心も同じように弱くなるものさ。お前も年を取れば分かるだろう。」
カッシュの母は父を愛し、妊娠までしたが、結局父と結婚せず、ロクポート公爵を選んだ。
カッシュにとっては良くない出来事だったが、母にとっては合理的な選択だった。
「お父さん。」
カッシュは父を見ながら言った。
「私です。」
そんなはずがないと思った。
何の音沙汰もなく消えたあの子が再び現れた瞬間、そして冷ややかな非難の目で自分を見つめる美しい女性を目にした瞬間、心臓がドクンと音を立てた。
それは純粋な偶然だった。
そう思った。
「許されることもありますか?」
カッシュは神を信じていなかった。
おそらく、これまで神殿に登録されていたすべてのロイド家の人々も神を信じていなかっただろう。
「信心」ですらロイドにとっては束縛の一つに過ぎなかった。
聖女だった母の影響で神力が発現はしたが、それも特にありがたいものとは思えなかった。
他人を癒やす力など、ロイド家には似つかわしくなかったのだ。
だから神力を使うことは生涯ないだろうと思っていた。
しかし彼は何度も神力を使った。
鉱山で、そして彼女を守るために、さらには彼女のネズミを癒やすためにまで。
「キュ」と奇妙な音を立てるネズミを見て、彼は自分の本質が揺らいでいるのを感じて戸惑った。
ロイドとしてのアイデンティティが変わろうとしていたのだ。
「もし私が誰かを心から好きになったら、この呪いは………許されることもあるのでしょうか?」
深い沈黙の後、父は寂しげな微笑を浮かべた。
「そうだな。そんな奇跡が起こるはずがない。」
・
・
・
夕食を済ませた後だった。
『黄金の王国』
タイトルが面白そうだったので借りてきて読んでいなかった本を広げてみた。
根拠は乏しい古い説話のようだった。
『さて、見てみようか。』
[ある神に選ばれた偉大な王国があった。黄金が溢れ、葡萄酒と蜜が水路を流れていた豊かな王国である。]
しかしその文を読んでいた私は、文章の下にある壁画を見て目を細めた。
『残酷で傲慢だ。』
全身に貴重な宝石をまとった者たちが奴隷と思われる者たちを迫害していた。
富と豊かさが極まった結果、王族たちは傲慢になり、人々を残酷に殺し始めたという文字が壁画の下にあった。
黄金の王国は周辺の国々を征服し、搾取し、人々を殺していた。
非常に残酷な方法で。
『なんだかアステカ文明が思い浮かぶな。』
ついに神の怒りを買い滅亡し、王族たちは大多数が呪いを受けたという内容が最後に記されていた。
『権選契約の結末なのか。』
そのとき、窓からトントンと音がした。
窓に近づいてみると、ブルーウィングがいた。
「え?」
そして下を見下ろすと、カッシュの姿が見えた。
『なんだよ!いつ来たんだ?』
私は驚いて振り返り、しばらく胸に手を当てていた。
[知識の神ヘセドが喜んでいます。]
[慈愛の神オーマンが、早くも鞭を下ろしてあなたの部屋に引きずり込めと言っています。]
「……」
私は着ていた聖女のドレスに引っかかった紐をほどいた後、鏡を見た。
そして急いで部屋を出た。
階段を下りるとき、胸がドキドキしていた。
数人の神女たちを通り過ぎて外に出て、さっきカッシュが立っていた場所まで駆けて行ったとき、カッシュの姿が見えず、私は呆然と立ち尽くした。
『確かにいたのに……』
杯を持ち周囲を見渡していると、誰かの手が肩に触れた。
驚いて目を大きく見開いて振り向くと、そこにはカッシュがいた。
「……」
私はしばらくの間ぼんやりと彼を見つめた後、口を開いた。
「……こんにちは。」
こんにちはだなんて、なぜかバカみたいだ。
『さっき人前ではあんなに言葉がすらすら出たのに、カッシュの前ではどうしてこうなの?』
一言を発するのも難しく、心の中には様々な思いが巡る。
私を見たカッシュが口を開いた。
「先ほどおっしゃろうとしていた言葉を聞きに来ました。」
「……あ。」
「まず、私を避ける理由から。」
私たちの間に涼やかな風が吹いた。
誰にも邪魔されない二人きりの時間のために。
「神託、終了。」
[神々が大騒ぎしている……]
カッシュが眉をピクリと動かした。
「だから私は……」
私は彼を見つめながら言った。
「後継様を見ると……」
この一言が、どうしてこんなに難しいのだろう。
私はもう一度息を整え、しばらくしてから言った。
「心臓がドキドキします。」
私の言葉に、彼の青い瞳がわずかに揺れるのが見えた。
『ああ、言ってしまった。』
原作で酷評されていたその預言の中で、カッシュ・ロイドは文字通り誤解されていた。
他人の感情や痛みに共感できず、すべてを実利的な目的のために利用する男。
私が彼に何かを期待してしまえば、きっと応えてくれずにがっかりさせられるだろうと思った。
だから彼との間に線を引こうとし、彼の行動すべてを疑っていたのだ。
『違う、彼はロイドだ。そんなはずない。』と、心の中でつぶやいた。
自分に少しの感情も持たない男に関心を持つことは嫌だった。
そして、傷つくのが目に見えているから。
しかし、彼のすべての行動は私をひどく混乱させた。
彼は私の心を揺さぶった。
彼の目を見ると、知らず知らず胸が高鳴り、一人になると頭の中が冷たくなった。
彼と接点を持つたびに、それは繰り返された。
そして、リエと親しげにしていたあの日、私はずっと否定していたある感情をはっきりと感じてしまった。
『嫉妬。』
かつて計略的に利用していた女性への冷淡な態度を見て、彼がその女性に心を奪われたのではと、私もそうなるのではと怖くなった。
そして一方では……彼の元恋人に出会ったことが、妙に寂しく、苛立ちが込み上げて落ち着かなかった。
『朝、私の服を着せてやったと平然と話していたけど、それほどまでに遠慮のない関係なら、どれほど深い仲だったの?』
『こんなに上手にダンスをリードできるってことは、彼女とはたくさん踊ってきたんだろうな? リアと恋愛もしたかもしれないし……。』
正直に言うと、少し恥ずかしい嫉妬心だ。
彼が灯りの下で私を見つめていたとき、私は彼の胸を押し返した。
彼の過去の女性たちと同じ存在になりたくなかった。
自然に流れるように彼の恋人になるのも嫌だった。
彼の気持ち、あるいは私の気持ちがもっとはっきりするまで待ってみたかった。
でも、今はもうそんな防御的な考えすら曖昧になっていた。
あの夜のキスのあと、彼のことを考えるだけで心臓が高鳴り、頬が熱くなっていたのだから。
少しして彼が視線をそらした。
彼は遠くを見つめていた。
すぐに後悔の念が押し寄せたが、すでに口から出た言葉は取り戻せなかった。
『それでも正直に言った。恥ずかしすぎて死にそうだったけど……いい人生だった。』
そのとき、彼の声が聞こえた。
「聖女様。」
普段のカッシュとは違う、少しかすれた硬い声色。
私を呼ぶその声に肩がぴくっと反応したが、顔を上げることはできなかった。
『ああ、逃げたい。』
「私を見ていただけますか?」
でもまた彼の声が聞こえた。
私は泣き出しそうな気持ちでやっと頭を持ち上げる。
そして、私を見つめているカッシュと目が合った。
『……カッシュってもともと耳の先があんなに赤かったっけ?』
「だから私は……」
澄んだ光を宿していた明るい青の瞳には、真剣で重たい感情が宿っていた。
私は胸がドキドキするのを感じながら彼の唇を見つめた。
「はあ……」
彼はさらに何かを言おうとして、一瞬視線をそらし、手で私の頬の片側をそっと包んだ。
「嫌われたと思っていました。キスをしてみて期待外れだったんじゃないかって。」
さっきよりも耳が赤くなったようだった。
彼は一瞬控えめな目線を上げて、再び私を見つめた。
「期待外れだなんて……期待をはるかに超えて……いや。」
私はむやみに口にした自分の言葉に、唇を押さえた。
期待をはるかに超えていたなんて……一体何を言ってるのよ!
顔の熱はさらに上がり、心臓の鼓動はより激しくなっていた。
しばらく黙っていた彼の唇から声が漏れた。
「気が狂いそうです。」
どういう意味なのか、理解しにくかった。
彼はしばらくして手を伸ばし、私の手を取った。
自分を見上げる私に向かって、彼は低い声で言った。
「少しだけ、失礼します。」
彼の手が私の肩に触れる。
背中にしっかりとした腕が回され、彼の切ない視線がこちらへと迫ってきた。
驚いた表情で彼を見つめる私に、カッシュが言った。
「もう我慢できません。」
その危うい声に反応して動いた私の頬を、カッシュの手が優しく包んだ。
そして彼の唇が、私の唇を飲み込むように触れた。
切ない感覚が頭の中を波のように押し寄せ、彼の吐息が私の喉の奥深くに触れた。
もう何も考えられなかった。
ただ、胸を高鳴らせるこの男性とキスしているということだけ。
私たちの不器用な口づけは、互いを求め合うようにどんどん深まっていった。
指先や足先が痺れるようにジリジリして、心臓はまるで壊れたみたいに跳ねていた。
私がほんの少しでも動くたびに、彼は私の首筋を優しく撫でて、まるで離さないとでも言うかのように、硬くて温かい胸で私を包み込んだ。
呼吸を抑えられず、次第に荒くなる私の息遣いが、時折すすり泣くようにも聞こえた。
でも彼は気にする様子もなく、さらに深くキスをした。
まるでその声が彼に快感を与えているようにすら思えた。
「はあ……はあ……」
そうしてしばらくキスを交わし、彼が唇を離した。
私はまるで走った後のように荒い息をついた。
カッシュの赤く染まった唇は濡れていた。
私はその様子が妙に甘美に見えて、思わず見とれてしまった。
「……そんなはずないと思っていたのに。」
彼は切なげな目つきで私を見ながら言った。
「好きです。」
その優しい声が私の胸に深く染み込んだ。
彼は再び言った。
「あなたが好きです、聖女様。」
その真っ直ぐな声が心を震わせた。
どう答えればいいのか分からず、私はしばらく彼を見つめた。
見つめ合っていると、まるで時間が私たち二人だけの中心を軸に流れているかのようだった。
彼に何を言えばよかったのだろうか。
頭の中が真っ白で、空っぽになったような気がした。
ただ胸の奥からあふれる温もりが、私がこの瞬間に感謝しているのだと実感させてくれた。
そしてそのとき、体の中で何かが「ジイィィン」と音を立てるように震えた。









